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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第三十九話 蛇と猫

 異世界来訪45日目。最初に家を建てた海太の所属艦にちなんで、真河豚村と名付けられた集落。


 村の家屋地域を両断して通る用水路がある。その用水路には現在、直径五メートルの大きな木造の水車が設置されている。

 用水路の水の流れに身を任せ、プロペラのようにカラカラと回転している、大型の木造車輪。


 これは昨日完成したばかりの物だ。制作者は真河豚三番整備班長・小田切明率いる技術チームだ。

 現在ここだけでなく、各地の用水路にも同じような物を制作中だ。他の艦の技術者達も、これに参加して農場一帯の水路に大小多くの水車が設置されるだろう。いずれは湖から流れる河の本流にも建てられる予定だ。


 これは作ったのは小麦を引くためではない。発電の為だ。

 真河豚村の人口はどんどん増えている。真河豚村以外にも、各地で新しい集落が建てられようとしている。

 彼らの家の夜の明かりは、現在様々な物が使用されているが、そのうち電球を自力で作って設置する運動が起きた。


 だがここで問題なのが電力である。

 艦から電気を引いてくるのは、少し無理がある。だが電灯を付ける程度の明かりならば、この程度の規模の水力発電でも供給は十分可能なはずだ。ちなみ伝導素材に必要な銅は、あの巨人腕との物々交換で入手した。


 完成した日の夜に、既に電灯が設置された各家では、故郷世界の家屋と同じ明るい光を照らしていた。試みは大成功である。

 これを更に他の物の家にも増やすために、技術班チームは常に活動&拡大中だ。ゆくゆくは冷蔵・冷凍庫などの食糧保管庫の製作も検討しているが、いかんせん必要な素材が特殊な物で、これには四苦八苦している。


 ちなみに現在この農場には、以前海太達がダンジョンで手に入れた、大豆とメロンの種も植えられた。表向きは、泥田坊達がどこからか見つけてきた、ということになっている。


 またそれとは別に、山林に生えている雑草の中に、セイヨウアブラナに近い種の植物が発見された。

 これに関しては、元々野菜として育てられていたものが野生化したものではないか?という見解が出ている。現在調理研究班が、これから食用油を作れないか研究中だ。


 そんなふうに色々あって、先行きが(視覚的な意味で)明るくなった農場。この日は二つの場所で、ある発見がなされていた。






 農場周辺の山林には、日夜警備隊が巡回している。この農場はあまりに広大だ。そのために巡回面積はあまりに広い。

 しかも例の一本だたらの戦闘力を考えれば、半端な戦力では逆に犠牲を増やしかねない。そのため農業をしている兵士達と同じぐらい、警備にも多くの人員が費やされている。


 この日は総勢三万人もの兵士達が、警備に参加していた。最もその多くは暇している様子である。

 この世界の環境を考えれば、危険が多いのは判っている。だが一本だたらの死以降、ここに危険な生物が出現した事例はない。


 兵士達は半ば長めの散歩をしているような感覚で、山林を歩き回っていた。

 暇を持て余した者達には、戦闘訓練を行っている者・警備をさぼって昼寝をしている者・トカゲなど動物を捕まえて遊んでいる者、などの様々な行動が見られた。


 だがこの日は、そんな悠長さをぶち壊すことが起きた。警備隊が結成されてから、初の敵の出現である。


 山林の一角を歩いていた全兵35人の警備部隊。彼らが虫を捕まえたり、雑談したりしながら歩いていたところ、鉄鬼の探索機能が不審な生体反応をキャッチした。


「・・・・・・何だこれは? 何だかでかいのが、どんどん近づいてくる・・・・・・。ウサギじゃない。それに速すぎる。みんな、大変だ! 何か来るぞ!」


 1人の兵士が叫ぶと、他の者達にも一斉に緊張が走って、次々と戦闘態勢を取り始めた。


 謎の生体反応が向かってくる林の奥を、緊張しながら待ち続ける。そして奴らは現れた。


「「ジャァアアアアアアアッ!」」


 それは十匹ほどの蛇の群れだった。

 当然だがただの蛇ではない。その大きさは牛ほどもある、黒い鱗で全身が覆われた大蛇である。裂けた口から生えてくる長い牙には、いかにも猛毒がありそうだ。


 驚くべきはその動きの速さ。これより小さい故郷世界のアナコンダは、身体がでかい分、動きがスローモーションのようにとろい。

 だがこの蛇達は、小型の蛇にも匹敵するほどの敏捷性がある。こんな者がただの動物であるはずがない。蛇が変異して生まれたマジックモンスターだろう。


 姿を現した大蛇達は、兵士達を得物として見て、牙を向けてこちらに突進してくる。それに対して、鉄鬼に変身中の兵士達は、喰われてなるものかと攻撃を放った。


「撃て、撃てぇえええええっ!」


 次々と発射される、番犬シリーズ鉄鬼の銃砲攻撃。無数の銃弾が大蛇に向かって飛び、その長く大きな胴体に傷を付ける。

 この攻撃に大蛇達は怯んで、動きを一旦止めた。すかさず攻撃を続ける兵士達。大蛇は銃弾の嵐に苦しみ、鱗がいくつか剥げ落ちるが、中々絶命する様子がない。


 これでは拉致があかないと、兵下達は一旦銃撃を止め、剣を抜いて直接斬りつけることにした。たちまち起こる乱戦。蛇達は幾太刀もの斬撃を受けながらも、何度も胴体や頭を動かして反撃する。

 何人かが大蛇の頭突きや尻尾のムチを受けて吹き飛んだ。双方かなりタフで中々勝負はつかない。そんな時ある凶報と吉報が同時にやってきた。


「林の奥から同じ生体反応が複数近づいてくる! 他にも群れがいたんだ!」

「こっちからは緊急信号を受け取った、他の部隊がやってくるぞ!」


 間もなくして双方の軍勢は二倍に増えて、乱戦は更に激化した。その戦いの余波で、林の木々がいくつも倒れ、地面が何度も打ち付けられて削れていく。


 中々終わらない鉄鬼と大蛇の戦闘。だがそれに終止符を打つものが現れた。


「ふははははっ! とうとう我らの力を見せる時が来たか!」

「我々が来たからには、もう貴様らの好きにはさせんぞ!」


 古典的ヒーローのような、あまりにベタなセリフがそこに響く。皆がその声を無視して戦闘を継続する中、その声の主がその場に飛び込んできた。


 現れたのは、少々コメントに困る姿の、二人の怪人物だった。

 全身がフワフワの毛で覆われて、尻には長い尻尾がフリフリと動いている。顔はヌイグルミのような可愛いらしい猫のマスクが、素顔を覆い隠していた。


 そのふっくらした全身の姿はまさに・・・・・・遊園地や動物園の職員が着ているような、可愛らしい猫の着ぐるみを着た方々だった。

 つぶらな瞳と、着ている人の絶妙な猫っぽい動作が、子供相手なら結構受けそうだ。


 緊迫した雰囲気を台無しにしてしまいそうな、その虎猫と三毛猫の着ぐるみ野郎達。

 一応彼らも地球連合軍の兵士である。そしてこの着ぐるみは、仮装ではなく、何と鉄鬼の鎧である。その証拠に、腰には鉄鬼起動装置のベルトが巻かれている。


 数ある鉄鬼の中でも異色のデザインをしたこれらは、それぞれレベル6“トラニャン”“ブチニャン”である。

 姿もおかしければ、名前もどこぞのゆるキャラのようなヘンテコぶりだ。とても軍の兵器とは思えない。


 着ぐるみ野郎達は、そのまま戦陣に突入した。見た目だけだと、こんな奴ら役に立つのか?と疑ってしまいそうだ。


「ウニャニャニャニャニャ~!」

「フンニャ~!」


 奇声とも言える掛け声を上げながら、2人は見事な連係プレイの格闘戦で、大蛇達を次々と蹴り飛ばしていく。この2人は見た目はあれだが、実は強かった・・・・・・

 彼らの攻撃で大きく不意を作った大蛇達が、兵士達のパワーチャージした必殺剣に、次々と首や腹を斬られて倒れてゆく。


 一匹の大蛇が後ろからトラニャンに噛みつこうと襲い来る。だがその牙が届くことはなかった。

 気配を察知したトラニャンが、瞬時防護バリアを展開した。彼の全身を、シャボン玉のような球状のバリアが覆い尽くす。そのバリアに噛みついた大蛇の牙は、枯れ枝のようにポッキリと折れてしまった。


 圧倒的に鉄鬼に優勢になった戦場。何匹か、事態を警戒して後退した者がおり、それらはこの着ぐるみ野郎が対決した。


「ひっさ~~つ」

「猫ぱ~~~ち!」


 エネルギーチャージした必殺パンチが、次々と大蛇の頭を殴りつけ、頭蓋ごと砕いていく。飛び散る血と脳汁を浴びる彼らの姿は、その姿と相まってちょっと怖い印象を受ける。


 この珍妙な鉄鬼は何なのか? これらはかつて軍の固いイメージを払拭しようという案から、半分悪ふざけに近い形で作られたものである。

 悪ふざけにしては随分と予算がつぎ込まれ、レベル6の高性能鉄鬼が2体も製造された。


 西洋甲冑に近いデザインの多い鉄鬼で、あまりに異端極まるデザイン。そして装着者に選ばれた者達の、悪のりしまくった演技。

 それらが大きく記事に取り上げられ、子供を始めとした多くの人々に人気を出した、何ともおかしなタイプの鉄鬼であった。


 ちなみ装着者は、トラニャン=山本 雄一(やまもと ゆういち)大佐 49歳。ブチニャン=山本 雄二(やまもと ゆうじ)少佐 47歳。

 どちらも筋肉隆々脂ぎった体格と顔立ちの中年男性で、素顔を見せれば子供の夢ぶち壊しは確定であった。


 とりあえず勝利を収めた兵士達。負傷者は多少出たが、幸い死人は出なかった。すぐに検視の部隊が送り込まれる。

 この大蛇達の死体は艦隊群に運ばれ分析にかけられる。そして大蛇達の出現は、すぐに艦隊群全体に報じられた。


 今までは一本だたらの独占によって、この辺りには肉食動物が極端に少なかった。だが縄張りの主がいなくなったことで、外界から縄張りを求めたモンスターが侵入してきたようだ。

 少し前にも、象ほどの大きさがある巨大猪が、この地に住み始めている。だがこちらは積極的に人を襲うようなことはなく、むしろ今後の食糧に利用できそうと放置されている。だがこの大蛇は全く要領が違う。


 大蛇達の出現により、警備隊は今まで以上に、緊迫した巡回を迫られることになった。


蟒蛇(うわばみ):蟒蛇とは大蛇のこと。都合上作中で名前は出なかったけど。某海賊マンガで、初めてこの単語を見たときは、何故こんな難しい漢字が出るのはさっぱり判らなかったのが、記憶に強く残っています。

 なおこれは私の前作「不死の女神」からの再登場妖怪でもあります。

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