第三十八話 渡辺 紺
大量のビーストの骨で埋まった大地に、黒鉄鯱が着地した。足の踏み場もないほど、骨だらけの地面を歩き、そこにいるある人物の方へと向く。
着陸前に上空から解析し、この大地には現在、人型の生命体が二体在住していることがわかった。
ガチャガチャと骨がぶつかり合う音を出しながら、その人物の方へと近づいていく。向こうの方も、こちらにとっくに気づいているようだ。物を食べながら、こっちを見ている。
その人物は二人の女性だった。
頭に葉っぱを生やした、二十歳前後の緑髪の女性。もう一人は、頭に鬼のような角が生えた、色黒肌の十代後半ぐらいの少女であった。
最初の一人は、先日海太たちが遭遇した緑天丸なのだが、総隊長は彼女のことは知らない。ただし、もう一人の方は知っている。彼女こそが鶯だ。
二人は骨が転がっていない地面(恐らく、そこの骨を払ったものと思われる)に、広めのシートを敷いて座っている。
そして二人で弁当箱をつついて食べていた。こんな遺骸だらけの不気味な場所で、遠足のような行為をしているのだ。よく食欲が沸くものだ。
近くを見ると、まだ血肉が残っている新鮮なビーストの死骸が転がっている。さっき死んだばかりらしく、何やらカラスらしき鳥がたかり始めている。
前にここで会った着物女の姿はない。目の前の二人も着物を着ているので、かなり呼び分けがややこしいが。総隊長は彼女たちの姿を見ても、特に驚いたり恐れたりする様子はない。
お互いの顔がよく見える位置につくと、変身を解いて恭しく頭を下げた。
そして日本で見た、時代劇を真似たような呼びかけをしてみる。
「初めまして、私は地球連合艦隊・鉄鬼部隊総隊長の高橋テイラー准将であります。そちらは鶯ですね? 以前の高橋少尉……私の息子を助けてくれたことに関して、先に感謝の言葉を送ります」
総隊長=高橋テイラーは、彼らに最初にそう言葉をかけた。この様子に2人は、何とも微妙な表情である。
「ええと、どういたしまして・・・・・・。でもあれは、カナが無理矢理交換をさせようとしたせいですけれど・・・・・・」
「何だ? また喧嘩腰で来られると思ってたが、随分と顕著だな?」
あの裸女はカナというらしい。この言い方からすると、やはりあの着物女はこいつらの仲間のようだ。
「あの時は・・・・・・こちらが一方的に仕掛けたものでした。敵陣に入ったと思って、皆緊張しすぎていたのだと思います。本当に申し訳なかった」
再度頭を下げて、謝罪を口にするテイラー。だがその次の言葉が続かない。彼自身も、本当は聞きたいことが山ほどある。
だがあまりに多すぎて、どれから先に聞けばいいのか、かなり悩む物だ。
「何だ? 話しにくいのか? こっちに色々と聞きたいんだろ? こっちは別に話しても良いんだぜ。本当は馴れ合っちゃ駄目なんだけど、1人でここまできた男にちょっとは敬意をくれてやるさ」
「うむ・・・・・・」
「じゃあ、言いますね。最近人と話すことが少なくて、退屈だったんですから」
向こうがそう言ってくれているのありがたいことだ。だがまずは何を聞けばいいのか、少し思い悩む。
「それでね。今から三十二年前のことなんですけど・・・・・・」
そうしたら彼が何か口にする前に、向こうが先に喋り始めた。テイラーは静かにそれを聞き続ける。
やがて太陽が下がりきって夜になり、海太の家ではあることが一段落していた。
「おっしゃ! 全クリ達成だ!」
あの謎のゲームソフト“不死の女神”をやり終えたことだ。プレイ時間おおよそ10時間。
昼飯を挟んでのぶっつけプレイであった。用が終わった海太は、横で待っていた陽子にゲーム機を貸す。
「どうだった? 面白かったか?」
家には現在、渡辺艦長もやってきている。これはもういつものことだ。夢は現在調理当番中。彼らのしているゲームには、あまり興味がない様子。
「ええと、まあそれなりに・・・・・・」
艦長に言われた途端に、ちょっと言いづらそうな様子の海太。
このゲーム“不死の女神”は、王道的なRPGゲームだった。 ストーリーはありがちな異世界召喚物である。
不老不死の力を強引に与えられた地球の女子高生が、異世界に放り投げられ、その世界で仲間と出会いながら旅をしていくという物。
ボイス無しであることを除けば、グラフィック・アニメーション共に、かなり高度な出来の作品である。これが個人制作のゲームなどと、ちょっと信じられないところがある。
ただ海太が言いづらそうにしているのは、そういうゲームの出来の話ではない。このゲームの主人公の名前とビジュアルにあった。
異世界に召喚される女子高生の名前は“渡辺 紺”。何と今目の前にいる、渡辺艦長と同姓同名なのだ。
同じなのは名前だけではない。この主人公のイラストの姿は、結構目つきの鋭いタイプの少女で、容貌も艦長とよく似ているのだ。ちょうど今の艦長を若くしたようなキャラデザインである。
状況から言って、おそらくは艦長をモデルにして描いたのだろう。
このことを説明すると、艦長は「へー・・・」と一言だけのコメントを残した。
「うわっ、本当だ似てる。これって洒落のつもりなのかな?」
横でプレイを開始していた陽子も、これに驚くコメントを出した。
「まあ、盗んだゲームを真似て、本物のダンジョンを作るような奴らだ。このぐらいの洒落はするだろうな」
「まあ、そうですね」
ぶっつけプレイの疲れからか、多く背伸びをした後、海太は今の自分の席に移ろうとする。
ふと見ると、自分の通信機の着信ランプが点滅していることに気がついた。見てみると、着信が来たのは朝方、自分たちがまだ遅い就寝に入った頃だ。ゲームに集中していたため、今までこれに気づけなかった。
「父さんからだ。珍しいな・・・・・・」
「テイラーがか? 何て言ってきてる?」
内容はおおよそこう、“自分は今日、海太の家に行ったことになってるから、人に聞かれたら口裏を合わせて欲しい”と言った感じである。
明らかに誰かに隠し事をしている雰囲気バリバリである。
「・・・・・・父さん、何やってんだ? 浮気でもしてんの?」
「あいつがそういうことするタイプじゃないと思うが・・・・・・確かにあいつらしくない頼み事だな」
まあそんなことは正直どうでもいい。あちらにも何かと大人の事情があるのかもしれない。
そんなことよりも海太の中には、いくつもの疑問が沸いてきていた。奴らの正体の他に、このゲームを渡してきた意図である。
(あのゲームで俺たちに何か伝えたかったのか? でも判るところが何もないんだが?)
このゲームのストーリーを見ても、現状のビーストの問題と何か繋がりがあるようには思えない。正直謎だらけのゲームプレイであった。
この日、テイラーは夕方頃には艦に帰還していた。だが彼は何も言おうとせず“ちょっと具合が悪い”と言って、部屋に引き籠もってしまっている。
ウィノナもいくつか問いかけたが、彼がそれに答えることはなかった。
一方の息子の海太の方では、何だか色々と実に多くの疑惑が流れながら、今日この日は平和に過ごして終わった・・・・・・




