第三十六話 緑の女
ちょっと事態がよく判らない。海太はただ避けているだけで、攻撃も何もしていないというのに。
『ゲームでもこういうイベントが?』
「いや、ない。何が起こったんだ?」
ラスボスがいなくなってしまったが、この場合どうなるのか? ゲームクリアで良いのか? 頭を悩ましているところに、ある点の床に、トモミチが出てきたのと同じような転送魔法陣が出現した。
そして同じように光を放ちながら、そこから何かが転送されてくる。
「ゲームクリアでいいよ。こっちの不手際でね、作ったモンスターが自分のエネルギー反動に耐えられなかったみたいだ」
現れたのは20歳ぐらいの一人の女だった。容姿は結構な美人に見える。片手には四角形の黒い箱を抱えている。
服装は植物の葉のような刺繍がされた、緑色の浴衣を着ている。顔つきや肌は黄色系で、髪の色はあまりに異色な緑だった。そして頭の天辺には、装飾なのか、それともそういう種族なのか、葉っぱのような物が生えていた。
この世界で三人目の文明生物との接触。しかもその内二人の第一接触は、海太が両方こなしてしまった。
「・・・・・・お前、なんだ?」
唐突に現れた怪人物に、当然の疑問をぶつける海太。ブロックジャックも同じ疑問を抱き、解析カメラで彼女の生体反応を調べてみる。
『高い魔力を感じる以外は、生体反応は人間と同じだが・・・・・・何だろうな? 植物に近い反応がやや混じっているような・・・・・・』
この言葉を聞いたとき、十中八九この女は人間ではないと、海太は判断する。そして女が答えを返してきた。
「私は緑天丸だ。初めましてだな鋼鯱、高橋 海太」
聞き覚えのある名前だ。確かこのダンジョンの立て札と、あの宝箱のパンツに書かれていた名前だ。
「(女だったのか・・・・・・)お前がこのダンジョンの作り主か?」
「ああ、そうだ。私がこのダンジョンを作った」
鶯やあの裸女とは別人だったが、服装や非人間的な特徴からして、間違いなく仲間だろうと当たりをつける。言いたいことは山ほどあるが、それをいっぺんには言い尽くせない。
とりあえずこいつの正体は後回しにして、動機を問いただすことにする。
「何故こんなゲームもどきのダンジョンを作ったんだ?」
「理由は二つある。一つは私の暇つぶしのお遊びだ。もう一つは、お前らの生活に、少し手助けしてやろうと思ってな」
「手助け? あの種とか本とかか?」
あっさりと答える緑天丸。その回答は納得できるようなできないような微妙な物だ。確かに生活に役立ちそうな物が、このダンジョンにはあった。黄金像は意味不明だが。
「一応お前らは、この世界の侵略者だからな。こっちの掟で、直接手を貸したりは出来ないんだよ。だから試練の景品って事で、物をくれてやったのさ」
「それはありがたいけどさ・・・・・・それだとお前らはリョクジンなのか?」
「ああ、そうだ。正確にはリョクジンの眷属だけど」
どうやら細々しい事情が向こうにはあるらしい。それにも興味がないわけではないが、海太にとって一番重要なのはそこではない。
「俺、お前の仲間にゲーム取られたんだけどさ、それ返すよう言ってくれない? それとこのグールの身体、元に戻せないか?」
「一気に二つの頼み事か? まあ、一つはいいぞ。というか、ここに持ってきてる」
片手に抱えていた黒い箱を差し出す緑天丸。映画に出てくるような爆弾入りバッグに似ていたため、海太は受け取るのを少し躊躇した。
「別に罠とかそんなんじゃねーよ」
その様子に気付いたのか、緑天丸は呆れ顔で、自分でその箱の蓋を開けた。
内部には取られたあのゲーム機&ソフト・見覚えのないゲームソフトのパッケージ・長さ40センチの黒い筒のような物体、等が入っていた。
念願の物が返ってきたが、それより後者の筒に注目が出てしまう。
「これは何だ?」
筒を指さして問う海太。何となく卒業証書を入れる筒を連想させる形で、縦横に切り込むように赤い線が走っている。
怪しすぎて、また最初の爆弾疑惑が出てきそうだ。すると隣で見ていたブロックジャックが、緑天丸より先に答えてきた。
『これは転移石を加工した物だな。しかもかなり上質な物だ』
「ああ、そうだ。これはこのダンジョンを攻略した報酬だよ。とりあえず持って行け」
「持っていけって・・・・・・具体的にどう使うんだこれ?」
「悪いがそこまでは教えられない。親切にしすぎると掟に引っ掛かるんでな。とりあえずそれを自力で探ってみるのも、一つのゲームだろ?」
別にゲームを楽しむ意思はないのだが、何だか価値のありそうな物なので貰っておくことにした。
「このゲーム箱は何だ? とられたソフトは一個だけなんだけど」
「それは鶯が作った私作ゲームだ。よく判らんが、後でやってみたらどうだ」
何とあの鶯という女、この短期間でゲームを自作したらしい。しかも市販のゲームソフトに対応する機種で。
個人製作の同人・フリーゲームなどは、豊富にやってきた。だがどんな短編ゲームにしろ、たった一月程度でゲーム一作が作れる物だろうか? まあこれの中身を見てみないと判らないが。
そもそもなんでこんな物を作ってよこすのか謎だが、渡している本人も判らないと言っているのでどうしようもない。
蓋を閉めた箱を受け取ると、緑天丸はさっき自分が出てきた魔法陣の方へと足を進める。
軍の職務としては、まだ他に聞くべきことはあるだろうと、海太は彼女を呼び止めようとするが・・・・・・
「最後に一つ。私がいなくなったら、五分以内にこのダンジョンは崩落するので、気をつけな。ラストダンジョンは最後は崩れるのが、ゲームの掟らしいからな」
「はあっ!? ちょっと!」
海太が何か言おうとする前に、緑天丸はそう言って魔法陣と共に転移して消えてしまった。そして・・・・・・
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
地震のようにダンジョン全体が揺れ始めた。このパターンは、確かに大昔からのRPGで見かけるパターン・・・・・・
『洞窟が崩落してるぞ。早く脱出しないと生き埋めになるな』
「ああ、判ってる」
別に生き埋めになっても、鉄鬼のパワーを使えば土を掻き出して地上に脱出することなど分けない。だがそれだと作業が面倒だ。
海太はベルトのディスプレイに、また何かの番号コードを入力し始めた。前回と同じ必殺技コードであるが、パワーを送るの剣ではない。
海太の兜=鋼鯱の仮面の口の辺りに、エネルギーが溜め込まれ始める。海太は天井に顔を向け、そして気合いを込めて大声を上げた。
「はあぁああああああああっ!」
その途端、鋼鯱の口部位から、凄まじい超音波が波動砲のように勢いよく発射された。
音波の波が天井の石材を細かく分解し、天井に円形の巨大な穴を開ける。それはこの階だけでなく、更に上の階の天井もぶち抜いて、動物サーカスのような円形多重の通り道を造り出す。
鋼鯱の必殺音波砲は、このダンジョンのボス広間のある部屋の、全ての階層を貫通した。
天井には、ここから一階層まで続く、大きな穴が空いてしまっている。これでは折角迷路上に作られたダンジョンも形無しだ。
『これ、わざわざ探索した意味なくね?』
「そういうことは考えない。行くぞ!」
ブロックジャックを抱えて、空へと飛び上がる鋼鯱。天井の穴を潜り抜け一気に一階まで飛び越えた。そして大急ぎでダンジョン入り口まで走る。
ここの構造は図面で全部知っているので、迷うことはない。道中でクリアされたためか、動かなくなった敵モンスターの姿をいくつか見た。
「あっ、帰ってきた」
外で待機していた陽子達が、転送ではなく徒歩で入り口から出てきた海太に、喜びの声を上げた。だが当の海太は少し焦った様子だ。
「このダンジョンは崩落する! とりあえずここから離れよう!」
「「!?」」
言われたとおりにその場から退避する一同。しばらくしてズゴン!という爆音が聞こえる。戻ってみるとあのダンジョンの入り口は、崩れた土砂で完全に埋まってしまっていた。
「クリアしたのか?」
「ああ、一応ね」
「・・・・・・そうか、よくやった」
よく判っていないが、とりあえず海太の頭を撫でて褒めてやる艦長。海太はこれに嬉し恥ずかしで、それを受け入れていた。
自宅に帰還後、あの筒状の転移石をもっと詳しく解析してみた。
結果、これは故郷世界で使われている物よりも、遙かに高度な技術が使われていることが判ったが、使用できる媒体機器がないとのこと。現在艦隊群も含めて、地球連合のデータにあるどの機械にも、この転移石は対応しないらしい。
正直、これにどんな使い道があるのか不明だ。
なお、ある日突然崩落したダンジョンの存在は、何も知らない兵士達の間に、大きな疑問を残すことになった。




