第三十五話 魔王
四階層の敵もまた上よりも強くなっている。レベル8の鋼鯱の戦闘力を持っても、敵を倒すには三発、もしくは重めの攻撃を二発、当てなければ倒せないくらい。
最初の階層では、作業的にサクサクと始末をつけることが出来たが、今は的確に敵の急所を狙い撃って効率性のある戦闘を意識するようなる。
この階層の宝箱は、メロンの種子・タンタンメンという名前の麒麟の黄金像・原始的農業機械の設計図が載った書物、だった。
この黄金像の意味はいったい何だろうか?
やがてボスのいる門の前に辿り着く。その門には亀の姿が刻まれている。この先に何がいるのかなど、とうに判っているので、特に緊張した様子もなく門を開ける海太。
その奥にいたのは二足歩行で立っている巨大な亀だった。外見からしてクサガメがモチーフだろう。
背中に大きな筒・・・・・・いや、大砲がある。その大砲は甲羅の一部としてくっついており、甲羅そのものが戦車のような造りになっているのだ。
一部の特撮マニアでは有名な、カ〇バズーカを連想させるこのモンスターは“タマゴ将軍”という。
タマゴは腰を曲げるような姿勢(甲羅で曲がる腰がないので、足を曲げている)で、背中の大砲を海太達に向けてきた。
ズン!という重い発砲音と共に、強力なエネルギー砲弾が海太に襲いかかる。
海太は一発目は右に逸れて砲弾を避ける。標的を外した砲弾は、後ろの門の先を通り、壁に型でくり抜いたかのような丸い穴を開けた。
タマゴはその後も、西部劇のガンマンのように、砲弾を次々と連発した。海太はそれらを刀で受け止めた・・・・・・というより斬りはらった。
砲弾が高速の斬撃により、スイカのように両断され、海太の左横右横にそれて飛んでいく。
いくら鋼鯱の強化感覚があるとはいえ、音速を超える速度で飛ぶ砲弾を、正確に剣撃を当てる反応・技術は並ではない。
海太は砲弾を斬りながら走り出し、どんどんタマゴの間合いに近づいていく。
そして海太の刀が、砲弾ではなくタマゴ本体を斬りつけた。部位は背中の甲羅についている大砲。
ガスッ! ボムッ!
大砲は一部を損壊しただけで、暴発を起こして粉々に砕け散る。その爆破・衝撃で海太は一旦後ろへと吹き飛ばされた。
だがそれで敵に隙を作ることはなかった。衝撃で一番怯んだのは、タマゴの方だったから。
フラフラと体を揺らしながら昏倒するタマゴ。その隙に海太は、鉄鬼起動装置ディスプレイに手をかけ、ある番号コードを入力する。最終必殺技発動の番号コードだ。
今までの精神集中だけで放った必殺剣よりも、遥かに強いエネルギーが刀身に流れ込み始める。
ゲームでのタマゴは、重武装&重装甲タイプの敵キャラだった。HP・防御力がかなり高く、倒すにはかなりの回数攻撃を当てる必要がある。
これと同じ条件だった場合、かなり重い一撃を当てる必要があると、海太は判断したのだ。
未だ昏倒から立ち直れないタマゴに、既にチャージを終えた剣撃が襲う。通常攻撃の六倍(アオを斬った技は三倍)の斬撃が、タマゴの頭から尻尾の先までの前進を、さっきの砲弾と同じように一刀両断した。
二つに分断されたタマゴの身体が、床に倒れ落ちる。身体の断面を見てみると、内部は植物の塊だけでなく、あの砲弾を発射するための機械が埋め込まれていたのが判る。
こうして四階層をクリアした海太は、早速次の五階層=このダンジョンの最終階層へと足を踏み入れた。
五階層の敵はまた一段と強大になっていた。2~3匹ならば苦もなく倒せるが、群れをなして現れると結構手間取るレベルだ。
ブロックジャック曰く、この階層の敵はレベル5鉄鬼と同じぐらいの能力値だという。これはワールドビーストの中の上のレベルにも匹敵する戦力だ。
海太は面倒な戦闘はなるべく避け、宝箱の入手に道草を食うのは止めることにした。敵の少ないところを遠回りに通りながら、この階のボスの門へと辿り着く。
『ようやくラスボス戦か。意外と呆気なかったな』
「ああ、でも俺の予想だと、ここのボスは二連戦になるよ。あのゲームの本来のラスボスが、目目連の映像になかった」
門の向こうに踏み込む。
その中にいる敵は、今までのボス敵と比べると、小ぶりな体格だった。それは剣道着のような物を着た、二本足で立っている白ヤギだった。
鉄鬼の解析装置の計算では、身長は165センチ、海太と同じぐらいの体格だ。
手に蹄はなく、人間の手と同じ5本の指がある。白い毛が生えているから、猿の手に近い感じだ。そのヤギ獣人は、武器として自分の身長ほどもある長さの薙刀を持っている。
このヤギ獣人の名は“シバコ”といって、ゲームでは主人公ヤギコの親友という設定だ。ストーリーでは度々ヤギコの前に敵として現れ、話が進むごとに強くなり、最後にはラスボスの前哨戦で出てくる。
シバコは薙刀を棒術のようにブンブンと振り回し、海太たちに攻撃態勢をとる。本来薙刀の振り方はあんなものではないのだが、ここは気にするようなことではないだろう。
シバコが薙刀を構えて突っ込んでくる。海太も刀で応戦した。無数の金属音が機関銃のように高速連続で鳴り響く剣戟が行われる。
戦況は海太が優勢だった。刀と薙刀のリーチの差があるとはいえ、身体能力・攻撃能力・防御能力、あらゆる能力値では、海太の鋼鯱の方が上である。
徐々に追い詰められていくシバコ。二十合ほど打ち合ったところで、呆気なくシバコの薙刀が弾き飛ばされる。
海太は攻撃をやめず、丸腰になったシバコの身体に、何発も斬撃を加えた。シバコの服と毛皮が次々と斬り裂かれ、各所に中身の蔓の塊が露出する。
身体のバランスを崩して倒れたところを、海太は力を溜め込んだ必殺剣を繰り出した。前のタマゴと同様に、シバコは頭から尻までを一刀両断にされて倒された。
シバコを倒した後、海太はすぐに辺りを見回して声を上げる。
「まだ次があるだろ。出てこいよ魔王トモミチ!」
このダンジョンに入ろうとする直後では、様々な不安を抱えたりしていたが、今は何の不安もない。ここまで楽勝で来れたのだ。どうせラスボスも大したことはないだろう。
そして海太が言った通りに、その部屋に変化が起きた。部屋の最奥の位置の床に、トラップが発動するのと同じような魔法陣が出現した。
その床には誰も通っていない。自動で魔法陣が起動したのだ。その魔法陣は転送用トラップと同じものである。
光が発せられ、その光の中から何かがここに転送されてきた。そして現れたそれは、大きな高笑いを上げてこう言った。
「フハハハハハハハハハハハハハッ! よくぞここまで辿りついた! 褒めてやろう! 吾輩は魔王トモミチ! さて貴様にこの我輩を倒せるかな!」
王道すぎるベタなセリフを上げる謎の人物。それは吸血鬼のような黒いマントを羽織っていた。顔は細身の中年男性で、眼鏡をかけている。両手には大きな宝石がついたガントレットを装備している。
一見人間のように見えるが、ブロックジャック曰く、これも植物の塊が詰まった人形らしい。本人が名乗ったのだから間違えるはずもない。これが小林ダンジョンのラスボス・魔王トモミチである。
「よし! こっちも受けて立つぜ魔王!」
トモミチが両掌を向かい合わせ、祈るような姿勢で何らかの力を溜め始める。すると掌の間から、緑色に輝く光球が出現した。必殺攻撃魔法の充填である。
エネルギーを溜め込んでいる間のトモミチは、見るからに無防備であり、普通ならこの隙に攻撃をしてしまいそうだ。
だが海太はそうしない。ジッと様子を見て、敵が攻撃するのを待っている。このトモミチという敵は、ゲームでは戦闘が始まってしばらくの間は、バリアで全身を覆っている。それによって、こっちの攻撃で与えられるダメージは極めて少ない。
何とか十分なダメージを与えようと踏ん張っている間に、敵の極大魔法を受けてこっちはあっとうまにゲームオーバーだ。
鉄鬼の解析装置で見ると、案の定トモミチの周囲には見えないシールドで覆われていた。ならばこっちもゲームの設定通りの攻略法で行くことにする。
しばらく攻撃を避け続けていれば、やがてパワー切れでバリアはなくなり、こっちの攻撃も効くようになるはずだ。
「くたばれぇ! トモミチ波!」
ゴォオオオオオオオオオオオオッ!
昔の漫画の宇宙戦闘種族の必殺技のような体勢で、トモミチの両掌から、極太の緑色の光線が放たれた。
巨大でとてつもない速さで襲い来る光線。だが既に回避体制を準備し終えていた海太は、光線が放たれる直前に右横に飛んで、この光線の弾道から外れる。
標的を外した光線は、後ろの門をブチ抜き、さらに後ろのダンジョンの壁を貫いた。その穴は前のタマゴの砲弾より更に大きい。直径五メートルもの巨大な空洞穴がポッカリと空いた。
「すごいパワーだな。どのぐらいのエネルギーだ?」
一言嘆いた海太の言葉に、外野で離れた位置にいるブロックジャックが答える。
『今の光線の総エネルギーは十億ギルだな。とんでもない奴だ』
「ギル? 何だよそれ?」
『戦闘の際、破壊力に換算される攻撃エネルギーの単位だよ。習ってないのか?』
生憎そんな単語は知らない。海太は軍学校に入っていないので、致し方ないが。
「悪いが知らない。こっちにも判る単位で言ってくれ」
『人型質量単体に対する破壊力は一メガトン、TNT火薬百万トン分だ』
「百万トン!?」
とんでもない数値が出てきた。これは戦術核兵器並みである。ちなみに第二次世界大戦で日本に投下された、広島型原爆の爆発力はTNT一万五千トン。
あのビームの直撃を受けると言うことは、原爆の七十倍の爆発を、爆破中心核で受けるのと同じぐらいのダメージを受けるというのだ。
これはレベル6の鉄鬼でも即死できる。レベル8でもただでは済まない。
「おいおい、これはハイスペックすぎだろ!」
そうこう言っている間に、次のビームが飛んできた。海太は大慌てでそれを避ける。今までの余裕はもはやはない。文字通り命がけの戦いである。
最も以前のブルーの件を考えると、このダンジョンで死んでも、無傷で外に転送される可能性が高い。だが絶対にそうだと言える保証はない。そもそもこのダンジョンを作ったのが何者なのかも不明なのだ。
さらに三発目が飛び、広間の壁に三つ目の大穴が空く。これもどうにか避けることができた。ブロックジャックは巻き添えを避けるため、なるべく海太から離れた位置に移動している。
四発目が放たれようとしている。手に溜まったエネルギー光球は、以前と違う形をなしてきた。球の周りに太陽絵のようなヒゲがついてきた。
(拡散攻撃が来るか!)
これもゲームに出てきた技だ。直線上の攻撃ではなく、無数の光の誘導弾が発生し、それが雨嵐となって周囲に降り注ぐ技だ。
動きの速さと、降り注ぐ位置が読み取りづらいため、回避が非常に難しい技だ。だが威力が分断しているため、一撃一撃の威力は、先程のビームよりは低い。
海太は少しでも避けようと、攻撃が降り注いでくるだろう天井を見上げ、意識を集中させる。やがて四発目が放たれた。
ボン!
短い小さな爆音が聞こえ、四発目が爆発した。トモミチの手の中で……
「『えっ!?』」
予想外のできごとに、海太たちは動揺する。発射されようとした瞬間、トモミチのビーム攻撃が、針を刺された風船のごとく破裂したのだ。
強いエネルギーの奔流が、円形に発生してトモミチを飲み込む。それは範囲数メートルを光の球で覆い尽くし、やがて消失した。
後には丸い型でくり抜いたような、ボウルのような綺麗な円形の穴が出来上がっていた。トモミチの姿はどこにもない。
恐らくさっきのエネルギーの奔流に呑み込まれた時に、消滅してしまったのだろう。
「………勝ったのか?」
自身がない声でそうつぶやく海太。その仮面の裏は、大層呆然としていたことだろう。




