第三十四話 地図
気がついたら二人はダンジョンの外、洞窟入口前に転送されていた。
その現象は、前回にブルーたちが洞窟内で死んだ時と同じ現象である。そのため外で待機していた艦長と陽子は、突然頭上に現れた二人に、さほど驚かなかった。
「何だ? やられちまったのか?」
「いや、ダンジョンの強制帰還トラップに引っかかった。この洞窟、やっぱりあのゲームの設定を色々と真似てます」
『俺としてはほっとしたよ。あの系統の罠にかかったら、俺だけ置いてけぼりかと……』
艦長の前でこんな形で顔を見合わせることになって、ちょっと恥ずかしい気持ちになる海太。ちなみに内部の宝箱で見つけた品は、ブロックジャックが持っている。
海太は、空中落下から寝そべっていたところを、再び立ち上がって洞窟の前に立つ。
「おい、まさかもう一回行くのか?」
「ええ、ここまでいったら引けないですよ」
最初に感じた臆病風などどうでもいい。ここはどうしてもクリアしてみせたい気持ちでいっぱいだった。
「悪いがダメだ。後二時間もすれば明るくなってくる。あまり時間をかけて、行方不明扱いされたら後が面倒だ」
家には夢を置いてきている。朝になれば自分たちの外出など、すぐにばれるだろう。ここは致し方なく、帰還の途につくことになった。
家に戻り、遅すぎる就寝に入ったとき、ふと艦長はあることを思いついた。
「おいジャック。お前、あいつのの記憶映像を撮れるか?」
翌日の夜、異世界来訪39日目。
再び一行はあの洞窟の前に来た。面子は前と変わらず、ただここにきた名目は変わっていた。
海太は昨日の件の後、夜間警備隊への参加を申し出た。これは自由参加なので、何の問題もなく参加が許可される。
二日連続で“忘れ物を取りに来た”という口実はあまりに不自然だが、これなら問題ない。
「じゃあ行ってきます!」
「おう、地図のデータはきちんと開いておけよ!」
海太は昨日と違って、随分と自信満々にダンジョン入りする。
ダンジョンの内部に入ると、突然目の前の空間に、投影スクリーンが映し出された。どこから照射されているのか、周りには投影機らしきものは見当たらない。
『これは魔法の力で映し出されているイリュージョンだな』
そのスクリーンにはこう書かれていた。
《どの階層から行きますか? 1.最初から 2.二階層から 3.三階層から》
それぞれの選択肢の下には、スイッチのようなマークがついている。
「これは……一度通った道はスキップできるってことか?」
取り敢えず《3.三階層から》のスイッチを押して見る。
するとスクリーンは一瞬で消失し、それがあった真下の床に、転送用魔法陣が出現する。
「これ大丈夫だと思うか?」
『さあ? 踏んでみれば判るんじゃね?』
考えても仕方がないと、その魔法陣に二人で乗ってみる。すると光に包まれ、二人はこの場所から消えた。
気がつけば、最初とあまり印象が変わらないダンジョンのどこかに、二人はいた。
ここはどこかと見てみると、こっちに近づいてくるアカネズミ兵の姿を見て、前に飛ばされた三階層だと気づく。
「さて、再チャレンジといくか!」
敵を薙ぎ払いながら洞窟内を進む海太とブロックジャック。
海太はこの間、鉄鬼の視界カメラに表示された、ある図面を頼りに行動していた。ブロックジャックも、自身の内蔵コンピュータで、その図面を見ている。
ある場所に近づくと、ブロックジャックが警告してきた。
『おい、この場所には灼熱トラップがあるぞ』
「判ってるって。俺も見てる」
何故かその場所に、魔法陣トラップがあると確信している二人。言ったとおりにその位置を避けて歩く。
この階で、二人は一度も罠にかからなかった。罠が張ってある場所や、モンスターが多くいる場所などを、まるで最初から知っているかのように進む。
宝箱なども、何の迷いもなく見つけられた。
「本?」
ある宝箱の中にあったのは、一冊の辞典のような本だった。
『これは……この辺りの植物の図鑑だ』
本の中には、この辺りの森の食べられる植物・薬にできる植物の種類や、その調理法・調合法などが書かれていた。著者は躑躅と書かれている。
その後に開けた宝箱には、スイカの種子が詰まった袋・前と同じ、高さ三十センチ程の麒麟の像(ヤキソバという文字が掘られている)・鞘に銀色の装飾がされた日本刀、などがある。
特に日本刀の方には関心が強かった。これはかなり強大な力を秘めた霊刀であるらしい。
『これは退魔用の刀だな。亡霊などのアンデット系によく効く。海太にはあまり健康的に良くないものだ』
「マジかよ。置いていこうかな?」
色々と検討した結果、値打ちモノっぽいので持っていくことになった。
こうしている間に、何のトラブルも起こらず、二人はボスの門へと辿りついた。
門には小太りの鳥の姿が刻まれている。やがてその奥の広間に足を踏み入れた。
中にいたのは超巨大な鳩だった。
町の公園にいる物とは比べものにならない、その化け物鳩が、その場で佇んでいる。いつもと違って、こちらはすぐに攻撃を仕掛けてくる様子はない。
海太達も最初から判っていたので、その姿を見ても全く驚かない。
すると鳩の方から、人の声が聞こえてきた。
『問題です! 498+195=なんでしょう!?』
機械音声のような、単調な声で喋る鳩。このダンジョンのモンスターが、初めて言語を発した瞬間である。
発せられた言葉は何故か暗算問題だった。このボスモンスターは“ホバ師匠”という。
ゲームではこのモンスターは、最初に計算問題を出題してくる。それを制限時間以内に10門クリアできなかった場合、敵となって襲いかかってくるというもの。
言葉を発したあと、ホバはジッと佇んで、海太たちが答えを言うのを待っている。その様子は、エジプトのスフィンクスのよう。それに対して海太たちはどうしたかというと。
『おい、答えは言わないのか?』
「……必要ないよ」
海太は待っているホバを無視して、広間の中のある一点に向けて歩き出す。そこに到着すると……
ガキン!
刀で床を突き刺した。
刺された床の一点を中心にヒビが入る。その後、同じように何度も突き刺し続けると、その床が崩れた。欠片が空洞になっていた下の部分へと、ガラガラと落下していく。
床石が崩れた穴は、下へ通じる階段があった。そう、これは本来ボスを倒した時に開くシステムになっている、次の階層への下り階段である。
だがそれを、海太たちはまだ戦わないうちから開けてしまった。
「よし問題ない。いこう」
そういって階段を降りて、次の階層に向かう海太たち。後には問題の答えをすっぽかされて、取り残されたホバだけがいた。
何故海太達は、今回の探索では一階も罠にかからず、しかも毎回位置が変わる下り階段の隠し場所が判ったのか?
それは事前にある者達に頼んで、このダンジョン内部の全てを探索し尽くしたからだ。
彼らの報告のおかげで、ダンジョン迷路の正確な地図が完成した。罠や宝箱がどこにあるのかも、全て図面に記録して判っているのだ。ようするに海太達は、攻略情報を見ながら、このゲームをプレイしていたのだ。
何とも反則的なやり方だが、海太の目的はゲームを楽しむことではないので問題ない。
では海太は、誰に頼んでこのダンジョンを調べてもらったのか? このダンジョンの内部を知れるのは、このダンジョンに挑んだプレイヤーだけの筈である。だが実は一つだけ例外がいた。
海太達が探索を頼んだ相手。その答えは目目連である。
以前艦隊群の半数の艦に侵入し、艦内を覗き見しまくった、あの謎の霊体モンスターだ。ちなみに彼らは現在も、海太との約束通り、一日十艦ずつ代わる代わる覗き見を実行中だ。
自分たちの番に当たってしまった艦の者は、胃が痛みそうなストレスを味わいながら一日を過ごすことになる。
目目連は霊体であるため、物理的な障害を飛び越えられる。そして壁のある所ならば、何処にだって出現できるのだ。
彼らがその気になれば、数百メートル地下の、密閉された地下室にだって入り込むことが出来る。当然この不思議なダンジョンも例外ではない。
海太から要請を受けた目目連達は、それを承諾して早速このダンジョン内部を覗き見しまくった。
人が見れば、ダンジョンの壁という壁に、大量の目が張り付いている光景を見ることが出来ただろう。
ダンジョンに張られている魔法陣トラップは、指定位置の上を“動く物”が通ったら発動する仕組みらしい。
そして一定時間経過すると、既に踏み終えられたトラップは、また再起動するようになっている。
これらの特徴を利用して、目目連達が天井に張り付いて、各地の床の上に出現し、眼球や瞼を動かしてみる。するとその動きに反応して、魔法陣は上に誰もいないにも関わらず発動してしまうのだ。
これで罠の位置を一つ一つ確認していった。
目目連がダンジョン内部で見たものは、後からブロックジャックが記録映像機能を使って記録した。これでダンジョン内の、ありとあらゆる場所を映像として見ることが可能になった。
ダンジョンの構造・モンスターの種類などが、手に取るように全て判る。
本来ならばこういう霊体の記憶という物は、映像にしにくいものだ。だがこの目目連に関しては、何故か生きた人間以上に、鮮明に記録に残すことが出来た。
ブロックジャック曰く・・・・・・『こいつらは自然に生まれたんじゃなくて、都市の管理システムとして、意図的に造り出されたのかもな』、とのこと。
ただしこの目目連達は、古い記憶は曖昧で、約十年以上前の記憶は映像にできなかった。
ちなみに敵モンスター達は、壁に張り付いた明らかに怪しい目の大群には、一切興味を示さず攻撃もしなかった。
ブロックジャックに対しても無関心だったが、こいつらは人以外には危害を加えないらしい。
ちなみにドバのいる広間の階段の位置は、下の階層から階段のある位置を見て、おおよそ計算して打ち出した。
こうしてこのダンジョンの全ての構造を記録した、完璧な攻略図面が完成したわけだ。




