第三十三話 青大将
(何だかあまり面白くないな・・・・・・)
ダンジョンの中を進む上で、海太が抱いた感想がそれだった。
ゲームの時には、敵を倒し、アイテムを取りながら進んでいく行程に、様々な種類の臨場感や達成感があった。だがこのダンジョンにはそれがまるで感じられない。
敵が弱すぎるという以外にも、戦いや探索に心躍るような感覚が微塵もなく、ただ黙々と作業をこなしながら歩いているという感覚である。
所詮これがゲームと現実との格差なのか、それともここの設計者の作り方に問題があったのかは不明であるが・・・・・・
やがて二人はこの迷路の最新部に辿りついた。何故それが判るかというと、そこの風景がゲームと同じような場面だからだ。
あからさまに向こうに何かいそうな巨大な門。門にはイタチのような生き物が描かれている。海太は期待と不安を混じらせながら、高さ三メートルはありそうなその石の門を、押し開けた。
ギギギギギギ!
常人なら十人以上の協力が必要な扉も、鉄鬼なら軽々と押し開けられる。
その門の向こうには、さっきの大広間よりも更に広めの空間があった。そしてその中心に、人のような形の物が立っている。
「ミルク姫か。最初のボスキャラだな」
そこにいたのは時代劇のお姫様のような服装をした獣人だった。体型は人だが、肌は名前の通り白い毛むくじゃらで、顔はイタチ(フェレットという設定らしい)のような動物の顔だ。
これはミルク姫、ゲームキャラのボスモンスターである。
ゲームでならばここは「お~ほっほっほっ! よくここまで来れましたものね!」と悪のりした悪姫口調で、主人公を出迎える。だがここで実体を持って出迎えたミルク姫は、そうはしなかった。
こちらに掌を向けると、そこが燃えるように赤く発光した。いや、ようにではなく本当に燃えている。
直後にミルク姫の掌から、強大な火炎熱線が海を襲った。前置き無しでの、速攻での魔法攻撃である。
「演出でもいいから、セリフぐらい用意しろよ!」
光線のように直線的に飛んでくる熱線を、海太は刀で受け止めた。刀身と激突したことで、大量の熱と分散した炎が周囲に飛び散る。
海太はそのまま突進する。熱線の威力が途切れると、ミルク姫は防護姿勢をとった。半透明の白い壁=バリアが、ミルク姫の前方に現れて、突進してくる海を迎え撃つ。
海太は構わず、そのバリアを斬りつける。
バキン!
ミルク姫を守っていたバリアは、ガラスのように簡単に叩き割られた。海太はそれで攻撃を終わらせず、奥のミルク姫本体を斬りつける。
ザシュ!
振り下ろされた刃が、敵の服と毛皮を切り裂いた。内部からギュウギュウ詰めに詰まった植物の塊が露出し、傷ついた部分から植物の体液が溢れ出る。
ボスキャラというだけあってか、これまでの雑魚と違い一撃では倒せなかった。
ならば何回も攻撃を加えればいい。一撃目の衝撃で怯んだミルク姫を、二擊目三擊目と攻撃を加え続ける。
四発目で敵の胴体が砕け、完全に動きを停止した。一段階のボスクリアである。
ミルク姫が倒れると同時に、この広間に突如として床に下向きの階段が現れた。
床の壁は横にスライドされており、ボスを倒すと同時に出現する仕組みのようだ。
「さて次の敵はどんなのかな?」
階段を下りていく二人。階下には一階と同様の地下迷路が広がっていた。それと同時に出現するモンスターの顔ぶれが変わっている。
巨大なイモリのような姿をした“脱走イモリ”に、マサカリを持った二足歩行のカエル“タゴガエル大将”などと両生類系である。
それぞれの身体には“マヤ”“タゴ”という文字化が書かれている。
一階と同じように、海太はそれらを全て一撃で倒していった。だが……
(やっぱり、一階の敵よりも少し強くなってる)
斬ったときの手応えや、敵の動きなどは、確実に上の階の敵を上回っている。やはり奥へ進むごとに、敵が強くなっていくシステムらしい。
ちなみにこの階の敵も、中には植物が詰まった着ぐるみだった。
途中で宝箱を二つ見つけた。
一つ目は30センチ程の高さの麒麟だったの黄金像。麒麟とはアフリカの動物ではなく、伝説上の生物の麒麟である。像の台座には“ウドン”という文字が掘られている。これは何かの伝統工芸品だろうか? とりあえず何かの素材に使えそうなので持っていった。
もう一つは……女性物の下着とブラジャーである。結構使い古されたもののようで、“緑天丸”という聞き覚えのある名前が書かれている。
名前からして男のようだが、これは男が履いていたものなのだろうか? なんとなくやな感じなので、これは箱に残していった。
罠は三回ほどかかった。雷の床・モンスター大量召喚・階内テレポーテーション、どれもそれほど深刻な事態になる罠ではない。あくまで今のところは、だが……
更に奥に行って、敵の強さが上がると、モンスター大量召喚はどのぐらいの驚異になるのだろう?
やがて一階と同様に、ボスキャラのいる石の門の前に到着。ここには大きな蛇の姿が刻まれている。この時点で、海太は奥にいる者の招待がわかった。
『奥にいるのは蛇か?』
「ああ、巨大アオダイショウの“アオ親方”だろうな」
門を開けると、ミルク姫がいたのと代わり映えしない広間に、一匹の大蛇がいた。アナコンダなどよりは比べ物にならない大きさだ。
目算で体重は三トン程。もしかしたら牛だって飲み込めるかもしれない。
元々蛇というのは不気味なイメージの姿だ。それがここまで大きくなると、それなりに恐ろしみがあるはず。だがこの大蛇には、頭についているチョンマゲのような装飾(カツラ?)のおかげで、ちょっと威厳が低い。
この大蛇のモチーフの蛇は、アオダイショウ(漢字書き青大将)という種類。名前の一部の大将=将軍という連想からのデザインだろうか?
「ジャァアアアアアアアアッ!」
こちらも前置きなしで、一気に海太に襲い掛かってきた。長い胴体を突き出し、ロケットのような勢いで、その巨大な口と牙を海に向ける。
海太はそれを難なくかわす。巨体ゆえに動きが少し鈍く(あくまで超人的な鉄鬼の感覚。常人からすると、とんでもない速さの動きである)よけるのは難しくない。
攻撃を躱されて隙ができたアオの胴体に、海太が斬りつける。刀身はアオの鱗を深く切り裂いたが、胴体切断には至らず、アオもこの程度では倒れない。
全身を鞭のようにしなやかに動かして、次々と攻撃を繰り出すアオ。海はそれをギリギリの線で躱し、その巨大な体を何度も斬りつける。
十回程斬ったところで、アオの体も限界が来たのか、動きが以前以上に鈍くなってきた。海太は一旦後方ジャンプして距離をとり、刀身に必殺技用のエネルギーを溜め込んでいった。
アオはこちらに向き直り、再びこっちに突進してきた。だがすでに十分なエネルギーを溜め込んだ鋼鯱の必殺剣が、アオを襲う。
ザクッ!
振り下ろされた剣撃に、アオの巨大な頭が真っ二つに割れた。内部から植物のかけらが飛び散り、そのまま動かなくなる。これで第二面はクリアだ。
直後に以前と同様、床から階段が現れた。位置は一階とは別の場所だ。
そのまま三階へと降りていく一同。
(これ何階まであるんだ? 何かこっちに手が負えなくなるくらい敵が強くなったら……逃げようかな?)
不安が再び起きてきた海太。だがここはあの盗まれたゲームを取り返す唯一の手がかりだ。
それにああいうことを言って別れた艦長に、ちゃんとした成果を上げて褒めてもらいたい気持ちもある。不安な気持ちを押し込め、海太は更なる未知の領域に足を踏み入れた。
三階にいた敵は、一階の敵の色変えバージョンだった。シマリス兵2とアカネズミ兵である。一階の敵とは鎧の色が少し違う。
またシマリス兵2の胸当てには“リラ”、アカネズミ兵の胸当てには“ミミ”と書かれている。
二匹同時に現れ襲いかかってくるシマリスとアカネズミ。海太は今までと同じように、刀で彼らを斬りつける。
今までは、必殺攻撃でなくても一撃で倒せた敵。だが今回は違った。剣撃をそれぞれ一発ずつ喰らった二匹は、身体に大きな損壊を起こしたものの、それだけでは死なない。
ダメージで少し動きがぎこちなくなりながらも、再び攻撃を繰り出す二匹。海太がもう一発斬りつけると、ようやく倒れた。
『面倒な敵になったな。こいつらレベル4の鉄鬼と同じぐらいのスペックだぞ』
「ああ、でも行くしかないよ」
そういって先に進む海太。だが残念ながら、その先に進むことはできなかった。
「『あっ!?』」
ある場所に足を踏み入れた途端、そこに設置されていた魔法陣トラップが動き出した。今まではこんなものに動じなかった海太だが、今回はそうもいかなかった
。魔法陣に描かれたマークは、非常口の標識のような、人がドアから外に出るポーズの絵だ。これはダンジョン強制帰還の罠だ。
海太の身体が光の粒子に包まれて見えなくなる。それは後ろにいるブロックジャックにも影響した。光の粒子とともに、二人の姿はこのダンジョンの中から、手品のように消失した。




