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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
32/116

第三十二話 探索

 洞窟の中を歩いていく。中に入った後で試したが、ここに入るとすぐに外部との通信が取れなくなった。そういう防護壁が貼られているのだろう。


 原点の小林ダンジョンのフィールドは、殆どが森の迷路である。このような地下迷宮のフィールドはかなり少ない。

 だが森の中にモンスターを放てば、確かにゲームチャレンジなんて事態ではなくなるだろうが。


『おっ、早速来たぜ。……この生体反応は?』


 奥のT字路からの横から、例のモンスター=カヤネズミ兵がぴょこぴょこと歩いて姿を現した。

 そしてブルーの時と全く同じ動作で、剣を突きつけこちらに突進してきた。


 ドゴッ!


 勝負は一瞬で決まった。ブルーの鉄鬼では見きれなかった、カヤネズミの踏み込みだが、レベル8の鋼鯱の強化感覚には、いともたやすく見切れる。

 カヤネズミが剣撃を食らわす前に、海太が剣撃の筋から身を外し、カヤネズミの顔面に手加減なしの拳打を食らわせた。


 カヤネズミはその一撃で倒される。顔面が鉄仮面ごと粉々に砕けた。そしてその肉片から大量の血と脳汁が……飛び出はしなかった。


「何だ!?」


 生体反応があるというから、てっきり脊椎動物かと思い込んでいた海太。だが砕けた頭部の中身を見て驚く。

 中から出てきたのは、グチャグチャになった大量の紐状の物体と、それにくっついてる葉っぱだった。少し水気があるのか、透明な汁が僅かに飛び散る。


 カヤネズミはそのまま活動を停止し、洞窟の中に仰向けに倒れる。死後直後だというのに、痙攣などの症状は起こらない。まるでロボットを壊したようだ。

 海太は今一度砕けた頭部を覗いてみる。この紐状の物体は緑色で、巻き固められたロープのように、内部に無理やり詰められたらしい。


「これは……植物の蔓か?」

『そうだな。さっき解析した時に気づいたんだが、こいつの生体反応は、動物じゃなくて植物のものだった。多分植物タイプのモンスターが、このヌイグルミの中に詰まって、内部から動かしていたんだろう』


 要するに植物が着ぐるみで、ネズミ型モンスターに仮装していたというのだ。見てみると、このネズミの毛皮は確かに人口の毛で作られているように見える。


「植物が動物のふり? 何のためだってんだよ?」

『演出じゃね? こいつはお前の持ってた、ゲームのモンスターを真似てたんだろ』


 何だか妙な感じの敵キャラクターだ。二手に分かれた道の、どちらを探すべきか考えるが、とりあえずカヤネズミが出てきた道を通ってみる。

 ゲームと違ってBGMなどない静かなダンジョン。だがすぐに彼らの耳に、自分たちのものでない足音が聞こえてきた。


「「チュゥウウウウウウッ!」」


 今度の敵は三匹いた。カヤネズミ兵二匹に、もう一匹は少し姿が違うモンスターが一匹。

 着ている鎧はカヤネズミと同じだったが、毛皮や顔の形はネズミではない。同じ齧歯類でも、こっちはシマリスに似ていた。胸当てには“トロ”と書かれている。

 手に持っている武器は、ロングソードではなく、彼の身長ほどありそうな長弓だ。このモンスターは、遠距離攻撃型の敵キャラ・シマリス兵だ。これもゲームに出てきたのと、同じ姿のモンスターである。


 シマリス兵が海に向けて弓矢を放った。その直後にカヤネズミ兵が、勢いよく飛び込んで、海に切りつけてくる。

 これに海太はどうしたかというと、何もしようとしない。腰の刀に手を置いているが、それ以上は構える様子もなく、ただ呆然と突っ立っている。


 ガン! バキィイイイン!


 三つの硬い金属音が聞こえる。彼らの攻撃は、全て海太に命中した。だがそれは海太の鋼鯱の装甲を破る音ではない。むしろその逆である。

 放たれた矢は、命中と同時に矢じりが砕けて弾き返される。二本の剣は、命中と同時に竹のようにポッキリ折れて、刃がブーメランのように回って何処かへと飛んでいく。


 当然ながら海太の身体はノーダメージ。彼らの攻撃力では、鋼鯱に傷一つ追わせられなかった。

 例えて言うならば、レベル50のプレイヤーが、レベル10段階の敵と戦うようなものだろう。それほどまでに鋼鯱と、ここの敵とのスペックはかけ離れていた。


「随分脆い武器だな。武装も手抜きか?」


 海太は手を置いていた腰の刀を、即座に抜刀した。その刃は横薙ぎに振るわれ、二匹のカヤネズミ兵を同時に斬る。

 二匹同時に胴体を真っ二つにされて、切断面からサラダのように斬られた植物の蔓の塊が、外に露出する。


 二匹が倒れた同時に、海太は残りのシマリス兵に突進した。シマリス兵は逃げる様子はなく、即座に次の矢を相手に放つ。

 だが当然ながら、そんな攻撃は彼には効かない。よけたり防いだりといった動作は必要なく、海太はそのまま突進して、あっとうまにシマリス兵との間合いに入る。


 ズバッ!

 あっけなく斬首された倒されるシマリス兵、首の切断面からは、前者と同じ植物の蔓・葉の塊が見える。

 敵を倒した海太は更に歩を進める。すると今まで歩いていた廊下より、ずっと広いホールのような空間に出た。面積は高校の体育館より少し広いくらい。


「「「チュゥウウウウウウウウウウッ!」」」


 そこにはまた敵がいた。総数20数匹のシマリス兵・カヤネズミ兵が、その広間でこっちを待ち構えていた。

 海太は別段驚かない。ゲームではこのぐらいの集団で現れることぐらい珍しくない。このダンジョンが、あのゲームを忠実に真似ていると言うならば、それない良い再現度だろう。


 一体多数の戦闘が始まる。敵は全て海太に向かっており、ブロックジャックには一切目を向けない。

 戦況は勝負にすらならないものだった。海太が刀で、襲い来る敵をスパスパと容易く切り裂いていく。仲間がどんどんやられても、ネズミたちは退却しようとはせず、特攻のごとく海太に向かっていく。

 あっとうまに敵の軍勢は全滅した。


『すげえな、おい。俺が見たところじゃ、こいつらはレベル3鉄鬼並みの戦闘力があるってのに』

「うん。でももっと奥に行けば敵が強くなるかも……」


 その後海太たちは、出てくる敵を作業的に薙ぎ払いながら、洞窟内を歩き回る。ある場所で歩いた時に、突如異変が起きた。


『ぬわっ! 何だ!?』


 海太の足元に、突然魔法陣のようなマークが出現した。中心には雷のようなマークが記されている。海太はこれにも見覚えがあった。

 ゲームのダンジョンの各地に仕掛けてある、魔法陣トラップだ。


(確かこのタイプは……)


 魔法陣のもの凄い光を放ち、スタンガンなどの比にならない莫大なエネルギーの電撃が、海太の身体に流れ込んだ。


 バチバチバチバチ!


 電流を注ぎ込まれて、身体が電球のように光り、無数の電光が飛び散る。電撃でダメージを与えるトラップだ。

 だが海太はそれほど動じない。身体に多少の痺れはあるが、ダメージはほぼゼロに近い。やがて電撃は収まり、足元の魔法陣が消失する。


『大丈夫かおい?』

「ああ、大丈夫だ。でもこれお前がかかったりしたら厄介だ。今度からは俺の後ろをついていったほうがいいかも」

『ああ、そうさせてもらう』


 言われてすぐに、海太の後ろに回り込むブロックジャック。


「罠まで再現してるのか……。だったら注意したほうがいいな。あのゲームの罠って、結構色々あってさ、踏むとすぐにダンジョンの外に戻されるのもあるから」

『それを踏んじまったら、俺はどうなるんだ? 置いてけぼりか?』

「さあ……どうなるんだろ?」


 更に前進する二人。内部は結構入り組んでおり、一度来た場所に戻ってくることもあった。また行き止まりなどもあり、そこには何か妙なものが置いてあったりもする。


『何だこの箱は? 異物か?』

「宝箱だよ。中はガラクタだったり化物だったりすることもあるけど。開けてみるか?」


 それは明らかにゲーム的なデザインの宝箱。鍵穴らしきものがあるが、鍵はついていないので開けられそうだ。


『どうぞご自由に。でも俺はちょっと離れてるな。開けていきなりドカン!とかは勘弁だ』

「ああ、それはありえるな」


 特に警戒心を持たずに、箱を開ける海太。幸い中は罠やモンスターではなかった。

 それは手にちょうど乗るくらいの大きさの、小さな袋だった。中に何かがいっぱいに入っているようだ。

 海太はこれを拾い上げ、中身を見てみる。中には黒色の小さい粒上の物体が詰められていた。


「何だこれ? ダイズに似てるけど? ジャックは判るか?」

『ああ、もう判った。似てるんじゃなくて、これは本当に大豆だよ。しかもまだ栽培可能なレベルの新しさだ』


 妙なものが出てきた。ゲームにはこんなアイテムはなかったはずだ。まあ現段階では、自分たちの農耕に都合が良いものであるが。


「なんか俺たち、遠まわしに誰かから援助されてる気がする……」

『かもしれないな……』


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