第三十二話 探索
洞窟の中を歩いていく。中に入った後で試したが、ここに入るとすぐに外部との通信が取れなくなった。そういう防護壁が貼られているのだろう。
原点の小林ダンジョンのフィールドは、殆どが森の迷路である。このような地下迷宮のフィールドはかなり少ない。
だが森の中にモンスターを放てば、確かにゲームチャレンジなんて事態ではなくなるだろうが。
『おっ、早速来たぜ。……この生体反応は?』
奥のT字路からの横から、例のモンスター=カヤネズミ兵がぴょこぴょこと歩いて姿を現した。
そしてブルーの時と全く同じ動作で、剣を突きつけこちらに突進してきた。
ドゴッ!
勝負は一瞬で決まった。ブルーの鉄鬼では見きれなかった、カヤネズミの踏み込みだが、レベル8の鋼鯱の強化感覚には、いともたやすく見切れる。
カヤネズミが剣撃を食らわす前に、海太が剣撃の筋から身を外し、カヤネズミの顔面に手加減なしの拳打を食らわせた。
カヤネズミはその一撃で倒される。顔面が鉄仮面ごと粉々に砕けた。そしてその肉片から大量の血と脳汁が……飛び出はしなかった。
「何だ!?」
生体反応があるというから、てっきり脊椎動物かと思い込んでいた海太。だが砕けた頭部の中身を見て驚く。
中から出てきたのは、グチャグチャになった大量の紐状の物体と、それにくっついてる葉っぱだった。少し水気があるのか、透明な汁が僅かに飛び散る。
カヤネズミはそのまま活動を停止し、洞窟の中に仰向けに倒れる。死後直後だというのに、痙攣などの症状は起こらない。まるでロボットを壊したようだ。
海太は今一度砕けた頭部を覗いてみる。この紐状の物体は緑色で、巻き固められたロープのように、内部に無理やり詰められたらしい。
「これは……植物の蔓か?」
『そうだな。さっき解析した時に気づいたんだが、こいつの生体反応は、動物じゃなくて植物のものだった。多分植物タイプのモンスターが、このヌイグルミの中に詰まって、内部から動かしていたんだろう』
要するに植物が着ぐるみで、ネズミ型モンスターに仮装していたというのだ。見てみると、このネズミの毛皮は確かに人口の毛で作られているように見える。
「植物が動物のふり? 何のためだってんだよ?」
『演出じゃね? こいつはお前の持ってた、ゲームのモンスターを真似てたんだろ』
何だか妙な感じの敵キャラクターだ。二手に分かれた道の、どちらを探すべきか考えるが、とりあえずカヤネズミが出てきた道を通ってみる。
ゲームと違ってBGMなどない静かなダンジョン。だがすぐに彼らの耳に、自分たちのものでない足音が聞こえてきた。
「「チュゥウウウウウウッ!」」
今度の敵は三匹いた。カヤネズミ兵二匹に、もう一匹は少し姿が違うモンスターが一匹。
着ている鎧はカヤネズミと同じだったが、毛皮や顔の形はネズミではない。同じ齧歯類でも、こっちはシマリスに似ていた。胸当てには“トロ”と書かれている。
手に持っている武器は、ロングソードではなく、彼の身長ほどありそうな長弓だ。このモンスターは、遠距離攻撃型の敵キャラ・シマリス兵だ。これもゲームに出てきたのと、同じ姿のモンスターである。
シマリス兵が海に向けて弓矢を放った。その直後にカヤネズミ兵が、勢いよく飛び込んで、海に切りつけてくる。
これに海太はどうしたかというと、何もしようとしない。腰の刀に手を置いているが、それ以上は構える様子もなく、ただ呆然と突っ立っている。
ガン! バキィイイイン!
三つの硬い金属音が聞こえる。彼らの攻撃は、全て海太に命中した。だがそれは海太の鋼鯱の装甲を破る音ではない。むしろその逆である。
放たれた矢は、命中と同時に矢じりが砕けて弾き返される。二本の剣は、命中と同時に竹のようにポッキリ折れて、刃がブーメランのように回って何処かへと飛んでいく。
当然ながら海太の身体はノーダメージ。彼らの攻撃力では、鋼鯱に傷一つ追わせられなかった。
例えて言うならば、レベル50のプレイヤーが、レベル10段階の敵と戦うようなものだろう。それほどまでに鋼鯱と、ここの敵とのスペックはかけ離れていた。
「随分脆い武器だな。武装も手抜きか?」
海太は手を置いていた腰の刀を、即座に抜刀した。その刃は横薙ぎに振るわれ、二匹のカヤネズミ兵を同時に斬る。
二匹同時に胴体を真っ二つにされて、切断面からサラダのように斬られた植物の蔓の塊が、外に露出する。
二匹が倒れた同時に、海太は残りのシマリス兵に突進した。シマリス兵は逃げる様子はなく、即座に次の矢を相手に放つ。
だが当然ながら、そんな攻撃は彼には効かない。よけたり防いだりといった動作は必要なく、海太はそのまま突進して、あっとうまにシマリス兵との間合いに入る。
ズバッ!
あっけなく斬首された倒されるシマリス兵、首の切断面からは、前者と同じ植物の蔓・葉の塊が見える。
敵を倒した海太は更に歩を進める。すると今まで歩いていた廊下より、ずっと広いホールのような空間に出た。面積は高校の体育館より少し広いくらい。
「「「チュゥウウウウウウウウウウッ!」」」
そこにはまた敵がいた。総数20数匹のシマリス兵・カヤネズミ兵が、その広間でこっちを待ち構えていた。
海太は別段驚かない。ゲームではこのぐらいの集団で現れることぐらい珍しくない。このダンジョンが、あのゲームを忠実に真似ていると言うならば、それない良い再現度だろう。
一体多数の戦闘が始まる。敵は全て海太に向かっており、ブロックジャックには一切目を向けない。
戦況は勝負にすらならないものだった。海太が刀で、襲い来る敵をスパスパと容易く切り裂いていく。仲間がどんどんやられても、ネズミたちは退却しようとはせず、特攻のごとく海太に向かっていく。
あっとうまに敵の軍勢は全滅した。
『すげえな、おい。俺が見たところじゃ、こいつらはレベル3鉄鬼並みの戦闘力があるってのに』
「うん。でももっと奥に行けば敵が強くなるかも……」
その後海太たちは、出てくる敵を作業的に薙ぎ払いながら、洞窟内を歩き回る。ある場所で歩いた時に、突如異変が起きた。
『ぬわっ! 何だ!?』
海太の足元に、突然魔法陣のようなマークが出現した。中心には雷のようなマークが記されている。海太はこれにも見覚えがあった。
ゲームのダンジョンの各地に仕掛けてある、魔法陣トラップだ。
(確かこのタイプは……)
魔法陣のもの凄い光を放ち、スタンガンなどの比にならない莫大なエネルギーの電撃が、海太の身体に流れ込んだ。
バチバチバチバチ!
電流を注ぎ込まれて、身体が電球のように光り、無数の電光が飛び散る。電撃でダメージを与えるトラップだ。
だが海太はそれほど動じない。身体に多少の痺れはあるが、ダメージはほぼゼロに近い。やがて電撃は収まり、足元の魔法陣が消失する。
『大丈夫かおい?』
「ああ、大丈夫だ。でもこれお前がかかったりしたら厄介だ。今度からは俺の後ろをついていったほうがいいかも」
『ああ、そうさせてもらう』
言われてすぐに、海太の後ろに回り込むブロックジャック。
「罠まで再現してるのか……。だったら注意したほうがいいな。あのゲームの罠って、結構色々あってさ、踏むとすぐにダンジョンの外に戻されるのもあるから」
『それを踏んじまったら、俺はどうなるんだ? 置いてけぼりか?』
「さあ……どうなるんだろ?」
更に前進する二人。内部は結構入り組んでおり、一度来た場所に戻ってくることもあった。また行き止まりなどもあり、そこには何か妙なものが置いてあったりもする。
『何だこの箱は? 異物か?』
「宝箱だよ。中はガラクタだったり化物だったりすることもあるけど。開けてみるか?」
それは明らかにゲーム的なデザインの宝箱。鍵穴らしきものがあるが、鍵はついていないので開けられそうだ。
『どうぞご自由に。でも俺はちょっと離れてるな。開けていきなりドカン!とかは勘弁だ』
「ああ、それはありえるな」
特に警戒心を持たずに、箱を開ける海太。幸い中は罠やモンスターではなかった。
それは手にちょうど乗るくらいの大きさの、小さな袋だった。中に何かがいっぱいに入っているようだ。
海太はこれを拾い上げ、中身を見てみる。中には黒色の小さい粒上の物体が詰められていた。
「何だこれ? ダイズに似てるけど? ジャックは判るか?」
『ああ、もう判った。似てるんじゃなくて、これは本当に大豆だよ。しかもまだ栽培可能なレベルの新しさだ』
妙なものが出てきた。ゲームにはこんなアイテムはなかったはずだ。まあ現段階では、自分たちの農耕に都合が良いものであるが。
「なんか俺たち、遠まわしに誰かから援助されてる気がする……」
『かもしれないな……』




