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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第二十九話 ダンジョン

 異世界来訪35日目。季節は春から夏に移り始め、日中の気温が徐々に上がり始める。


 そんな時に、農地の一角に何だかおかしな物が建てられていた。それは一本の立て札だ。農地の淵の森林の間にある地面に、ある日突然建てられていた。

 かなり大きく人の背丈を確実に超える。かなり上質の木材が使われており、まるで観光案内の看板のようだ。


【これは何だ? 司令部からの指示か?】

【まさか。しかし悪ふざけにしては、何か変な感じだ】


 その看板には日本語と英語の二カ国語で、こう書かれていた。


『この先、新規ダンジョン完成。挑戦無料。勇気ある方はどんどんおこしください by 緑天丸』


 看板についている矢印の先には森がある。この先の森に何かあるというのか? まるでアトラクションの標識だが、この世界にそんな施設などありえない。

 話を聞かされてブルー・ジョンソン大尉が、この立て札の前にやってきた。以前一本だたらにやられた怪我は、おおよそ完治しており、現在彼も農作業の警備部隊に参加中である。


【大尉、これって誰かの悪戯でしょうか?】


 兵士達に問われるが、こんなものブルーにだって判るはずがない。見たところこちらに攻撃意思のある文面には見えないが。


【まあ、見ていけば判るさ。この矢印の先だな?】


 ブルーを始めとした数人の兵士が、矢印の先の森の中に入っていった。悪戯で何もなければそれでいいのだ。十中八九そうだろうと、軽い気持ちで矢印の先へと足を進める。

 この先は平地から外れ場所、山地があるはずだ。


 鉄鬼に変身し、それの探索装置を使って迷わずにまっすぐ前進する。やがて500メートル程歩いたところで、何か発見があった。


 山の麓、崖のように土が盛り上がっている場所に、一つの洞窟があった 。

 それは明らかに天然の洞窟ではない。入り口の部分が、レンガのような石材で丈夫に組み立てられているのだから。

 入り口は縦横3メートルの正方形になっており、中を覗いてみると、石の壁に覆われた長い廊下が、奥の方までずっと続いている。


【これまでの探索部隊の報告では、こんなものはなかったはずだ。見落としか?】

【中佐、この石材、随分新しいですよ。何だかつい最近作られたように見えます】


 確かに壁には傷や風化した跡などはなく、草や蔓が浸食した様子もない。何だか面倒ごとの匂いがしてきた。


【どこかの隊が、独自で人工洞窟を作ったというのか? まあ、中を見れば判るか】


 この時ブルーは、以前と同じ失態を犯していた。このような明らかに怪しい物を見つければ、すぐに上に報告して経過を待つべきであった。

 しかも彼の鉄鬼レベルでは、本当に危険な敵に出くわしたとき、対応しきれないはずだ。


 ブルーに続いて三人の兵士達が、好奇心に駆られたのか、この奇怪なトンネルに独自で入っていった。

 入り口から進んで20メートル程進むと、廊下の横幅が一気に広がった。おおよそ6メートルあるだろう。天井にはランタンのような光量の電灯がついており、洞窟内をオレンジ色に薄暗く照らしている。


【明かりがつけられているって事は、まだ人の手の管理にあるということだが。本当にここは何なんだ?】

【鉱山・・・・・・にも見えませんよね?】


 壁・天井・床には、かなり綺麗な造りの石材で固められている。その様子は映画に登場するピラミッドなどの、古代遺跡の内部イメージに似ていた。だが石材には傷一つついておらず、ここはつい最近出来た新築のように見える。


 更に足を進めると、道が二手に分かれていた。正面は壁になっており、右と左に通路が通っていた。


【ここはアトラクションの迷路か?】


 さてどこを進もうかと思い悩んだ矢先、鉄鬼の探索装置があるものを探知した。


【生体反応? 右の通路からこっちに近づいてきます】


 鉄鬼を装着した人間の、強化された聴覚が、近づいてくるその個体の足音を聞き捉えていた。ガチャガチャと硬い金属音も聞こえてくる。


【気をつけろ。化け物かもしれない・・・・・・】


 確実に近づいてくる怪しげな気配。全員が少し緊迫しながらも、武器を構えてそれが姿を現すのを待つ。

 やがてついにそれがブルー達の前に姿を現した。


「チュウ?」


 緊迫した雰囲気とは裏腹の、何だか可愛らしい声が聞こえた。

 それはネズミだった。しかもただのネズミではない。大きさは人ほどもある巨大ネズミだ。

 これに関しては驚くこともない。この世界には巨大なウサギやカルガモが生息しているのだ。だが現れたそれは、ただ動物を大きくしただけではない特徴がある。


 そのネズミは2本の足で立っていた。例がない二足歩行の齧歯類だ。

 体型は普通のネズミと変わらず、ずんぐりむっくりした体格である。そのネズミは全身に鎧を着ていた。西洋の騎士の甲冑を、少し軽装にした感じの黒い鎧だ。鎧の所々の一部分から、ネズミの赤い毛が漏れ出ている。


 胸当ての部分には“カヤ”という、下手くそなカタカナ二文字が書かれていた。

 鉄仮面のような兜の面は開かれており、つぶらな瞳のネズミの顔が露わになっている。手にはロングソードと思われる剣を装備していた。


 あまりに微妙な姿に、ブルーたちは反応に困る。少し毒気が抜けたのか、武器を握る手が緩んだ気がした。


【何だこいつは? 遊園地のキャラクターか?】


 するとこの鎧ネズミは、彼らに向けて剣の切っ先を向けてきた。大分迫力にかける光景だが、武器を向けたということは、こちらに敵意があるということである。

 見たところあの得物は玩具には見えない。本物の刀剣だ。


(来るか!?)


 そう思って身構えたときには、鎧ネズミはすでにこちらの間合いに入り込んでいた。

 あの鈍重に見える体型で、この移動速度は並じゃない。鎧ネズミの剣が、ブルーの防御の型の剣に衝突する。


 ガキン!


 たやすく弾き返されるブルーの武器。ネズミのパワーは尋常ではなく、レベル2鉄鬼の力では抑えきれなかった。更に追撃してネズミの剣撃がブルーに襲いかかる。


【ぐがぁああっ!】


 素早く繰り出される剣の乱撃が、ブルーの鎧を何度も叩きつけ、彼の身体にダメージを蓄積させていく。

 後ろにいた兵士達が、すぐに援護しようと鎧ネズミに斬りかかる。だが鎧ネズミは即座に後方に飛んで、彼らの攻撃をかわす。踏み込んで斬りつけてくる兵士達の剣撃の嵐を、まるで舞踏家のような軽やかな動きで、次々とかわす。あの太った体型には、似合わなすぎる動きだ。


【油断するな! 見た目通りの奴じゃない!】


 皆手加減なしで攻撃したにもかかわらず、攻撃は全く当たらない。ネズミは剣撃を紙一重で交わしたと同時に、返し技で彼らの一人一人に斬りつけた。


【がぁ!】

【ぐわぁああ!】


 鎧ネズミの攻撃は止まない。ブルーを含めた四人に数十発の剣撃をぶつける。


【ぐぅううう……ぬう!?】


 ダメージで膝をついたブルーの視界に、鎧ネズミの武器の剣身が発光している姿が映し出された。


(まさか、パワーチャージもできるのか!?)


 エネルギーを溜め込んだ鎧ネズミの必殺剣が、ブルー達に襲いかかる。瞬く間に四人はその剣に斬り裂かれ、この洞窟から消滅した。






 洞窟前にはブルーについていかなった兵士たちが、待機して様子を見ていた。突入してからそう時間がかからず、ブルーたちは帰ってきた。というか転送されてきた。


【何だ!?】


 突如彼らの頭上の空間が歪み始めた。そしてそこから緑色の光が発生する。それが空間転移の波動であることに気づいた瞬間に、そこから手品のようにブルー達が転送されてきた。


【うおっ!?】


 高さ四メートルの距離から落下して、ブルー達は尻餅をつく。ブルーたちの鉄鬼変身は既に解除され、生身での落下だ。


【大尉、これは・・・・・・?】


 周りの兵士たちは、ちょっと事情が分からず困惑した。


【うん? これは……生きている?】


 彼らは全員無傷であった。斬られたときの痛みはジンジンと残っているものの、その身に傷などは一切ついていない。

 後で確認し合ったところ、最初に仲間が斬られたところを目撃した兵士は、身体が両断されると同時に、彼が光に包まれて転送されたところを見たという。


 どうやらあのダンジョンで致命傷を追っても、外に無傷で送り返される仕様のようだ。どういうシステムなのかは不明だが、とんでもない技術である。

 さすがにここまで怪しさを見せ付けられると、誰も入ろうとはしなかった。この洞窟は総司令部に報告される。その他、兵士たちの伝聞によって、艦隊郡に物凄い速さで、このダンジョンの存在が広まっていった。






 異世界来訪38日目。あの看板はまだ畑の隅に立っている。奥の洞窟には、あの日以降何人もの兵士が訪れたが、誰も中に入ろうとはしなかった。


「入ってみようかな? 中でやられても死なないんだろ?」

「やめなさい! 安全と見せかけて、どんな罠が仕掛けてあるか判らないでしょ!」


 数人の兵士が、洞窟入口前で右往左往した後、結局中には入らず帰っていった。


 この謎の洞窟の存在には、何故か総司令部は無関心だった。これをどうしようとかいう命令は一切出てこない。

 以前に一度だけ侵入を試みた者がいたが、例のT字路についた辺りで、勇気が途切れて引き返した。この時判ったことだが、あの洞窟の中では通信が効かないようだ。


 あの立看板といい、高技術の転送システムといい、これは明らかに文明者の産物。この世界の情報を得る上で、かなり重大な存在であるはずだ。

 だがそのあまりに怪しすぎる姿に、皆警戒してそこを探索しようとはしなかった。


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