第二十八話 拠点
異世界来訪27日目。
兵士達と泥田坊の尽力のおかげで、伐採した土地の8割以上の土地に、田畑を完了させていた。
多くの人員と、鉄鬼のパワーを一部借りたとはいえ、この広大な土地をこの短期間で開墾し終えるのは、なんとも凄まじいエネルギーだ。
だがここにきて植える種の数が不足し、現在使える土地は全体の半分ぐらいであった。後は成長した野菜から種を取るしかない。
現在兵士達の仕事は、畑の仕事をする農業部隊と、一帯の安全の為に武装巡回している警備部隊に分けられるようになった。
だがこのころになって、農地に農作業・警備以外の行動を取るものが現れ始めた。
田畑にしていない一部の土地に、小屋を建て始めたのだ。艦のデータベースにあった、臨時用の拠点製作方法を検索し、多くの木材・切り出した石材・金属素材で、山小屋のような二階建ての建物をトントンと造っている。
作業をしているのは、何と海太・陽子・夢・ブロックジャックだった。この四人の他に、泥田坊達が五十人程協力している。
仕事に余裕ができたのか、彼らは田畑以外の仕事にも協力してくるようになった。
人手が多いおかげで、建築速度はかなり速い。だが突然の彼らの行動に、奇異に思う物も多い。渡辺艦長が彼らに問いただす。
「お前ら何やってんだ? 物置でも作るのか?」
「物置も建てる予定です。でもいちいち艦とここを行き来するのも面倒なので、ここに拠点を作ろうと思ってるんです」
「ほう・・・・・・」
確かに一理ある。ここと艦隊群は結構な距離だ。鉄鬼の力を使えば、そう時間をかけずに移動できるが、手間であることに変わりはない。それに数人と同室する艦の寮室よりも、こういう個人の家に住んだ方が、住み心地が良さそうだ。
「じゃあ私も・・・」
「艦長は駄目です! 艦長が艦の管理を放棄して、別の所に住むつもりですか!」
「あう・・・・・・」
有無を言わさぬ強い口調で陽子が言う。艦長は若干仲間外れ感を味わいながらも、渋々折れることになった。
ちなみにこの日を境に、何人もの兵士が各自自分の家を建てることを試み始めた。
まあ短期間でありあわせの材料で作るため、家と言うより山小屋のような簡素な構造だが。居住建築物用に新たな伐採も行われ、徐々にこの農地は、一つの村のような形態を取り始める。
成果を上げ始めたのは、農業地区だけではない。ウサギの養殖を試みている者達の報告で、飼育しているウサギたちが、次々と出産し始めたというのだ。
出産数は平均五羽。彼らの成長速度から考えると、今後肉の供給量の増加・安定化は可能との推論が出た。
異世界来訪30日目。
家々が次々と完成に近づき始める。一方の畑仕事では、手持ちの種をほとんど植え終わり、後は草取り・水やり・動物警護が主な任務となった。
最初に植えられた場所には、この日追肥作業が行われた。生育速度が故郷世界とは違う、ここの作物は、どの時期で追肥をすればいいのかちょっと判らない。
だがいつまでも天然の腐葉土の栄養に頼り切れない。そのため実験がてらに、一部の畑に追肥作業が行われた。
順調に育っている野菜の根本一帯に、兵士達が細かい砂状の物体を、一つ一つ丁寧に振りかけていく。この追肥に使っている物体は、以前陽子が提案した物を素材にしている。
汚水処理タンクに溜まっていた物や、ウサギ牧場から貰った物を乾燥させ、そこに魚の骨など調理室から出た生ゴミを混ぜ合わせ、細かく砕いた混合肥料だ。
最初に言った主原料が何なのかは、ある理由で伏せておく。とりあえず言っておけば、湿った状態だとあまり良くない臭いと感触がする物体、と言っておこう。
ちなみに今作業をしている兵士達は、皆これの主原料を知らない。特に深くは考えず、それらを手で掴んで、野菜の土に振りかけていく。
またこのころになって、苗床畑に植えられていたネギの苗を、それぞれ別の畑に植え替える作業が行われた。
ネギは植え方が特殊で、一度かなり深く掘った溝に、まだ小さい苗を、浅く植えておくのだ。そして苗が育ち大きく長くなっていくごとに、少しずつ土をかぶせていく。そうしていくと、地中深く伸びたとても太くて長い長ネギに成長していくのだ。
大分農作業に慣れてきた兵士達、今日もまたいつも通りに作業を続けている。そんな時のこと。
パン!
地味だがとても深刻な音が一つ、農地に鳴り響いた。これに作業中に兵士達が、どよめき始める。
「何だ!? まさか今の音は!?」
「銃声だ! 誰かが発砲したんだ!」
「まさか、もう“敵”が出たのか!?」
たった一発の銃声で、騒然となる農場。ここで言われている敵とは、リョクジンのことではない。自然界のモンスターのことである。
先述の通り、この大地は地脈のエネルギーが強く、生物の生命力が活発化している。そのため農産物の育成が良いが、モンスターもまた同じく大量に繁殖していると言われている。
そのためそういった危険生物の来週に具え、農業兵部隊と同じぐらいの人員をかけて、警備部隊が周囲を巡回している。
【ちょっと! 何があった!】
発砲が行われた場所=森林の近くの水田には、フェイ・キャントレル少佐がいた。
彼女は即座に発砲音が聞こえた場所に走り出す。そこには水田の畔の上に立ち、森の木々のある方向に銃を向ける1人の鉄鬼がいた。
【ウサギの奴が、俺たちの稲を食おうとしやがった!】
敵はモンスターではなく動物だった・・・・・・
犯人の大ウサギは、すでに森の中に逃げ込んだらしい。まあ害獣被害はかなり深刻な問題になりえるので、用心が必要なのは確かだが・・・・・・。いきなりの発砲は、少々オーバーだろう。
一時騒ぎになった農場だが、フェイが送った通信が各自に送られて、すぐに静かになった。
とりあえず今後は、非常時の連絡法を取り決めようという議題が、その夜に行われることになる。
動物の被害も考えて、警備は夜間にも厳重に行われることが決定した。
広大すぎる農場と、周辺の林を、夜の闇の中を警備するのは結構勇気がいる。ただ闇が怖いと言うだけでなく、ホラー映画のモンスターが出てきそうな雰囲気だからだ。
この土地の環境を考えれば、十分有り得る話なだけに、志願者は昼間より少なかった。
だがこんな時にも、新たな発見があった。夜間の暗がりを、ライトで照らしながら農場を歩き回る五人の兵士達。
このライトの光だけでも、十分動物を追い払う威嚇行動になる。そんな時、彼らは警戒していた動物よりもずっとサイズが小さい生き物に遭遇した。
ただし“小さい”とは、ウサギのような大型動物と対比しての形容である。
「俺疲れてるのかな、虫がすげえでかく見える」
「別に疲れてはいないだろうね。私にもでかく見えるよ」
兵士達に目に映ったのは、ライトの光の中を飛び回っている一匹の蛾だった。
ただその蛾は、とてつもなく大きい。羽も含めた全体の大きさは、猫にも匹敵するものだった。ウサギやカルガモを始めとして、この世界はどんなビッグサイズの生き物がいてもおかしくない。
これだけならそこまで驚く必要もないと、兵士達は割と冷静だった。だがその次の瞬間、冷静ではいられない事件が起きた。
「てめえ! そこから離れろ!」
あやうく発砲しそうになりながらも、すんでの所で正気を保ち、畑に走り出して手で巨大蛾を追い散らす兵士達。
蛾が畑のキャベツの葉に舞い降り、卵を産み付けようとしたのだ。
「話には聞いていたが、巨大卵の正体はこれか・・・・・・。夜の警備強化は、本当に正解だったな」
こうして夜間警備隊は、この日から害虫駆除の仕事も兼任するようになった。
異世界来訪32日目。
作物には花が咲き始め、実りの時期までの成長が半分までいったと思われる。キャベツには虫食いの被害が少ない状態で結球が出来はじめ、農作業の成果が確実に出ていた。
ちなみにいま働いている警備以外の人員は、兵士二万七千人・泥田坊三千人・煙羅煙羅八十体。
泥田坊の数はここら辺がピークなのか、これ以上数が増える様子はない。
陽子の指示で、ジャガイモに咲いた花は全部摘まれていた。花は無駄に栄養を取って、イモの成長を遅くすることが考えられる。
ジャガイモは二度目の周期は種芋から育てる予定なので、花から種を作らせる必要もない。
このころになって海太達の家がほぼ完成していた。協力してくれた泥田坊が多かったおかげで、かなり早い完成となった。
「部屋割りを決めよう。二階の二部屋が私と遠藤さん。海太は一階の部屋の一つを使って」
「ああ、判った」
「陽子さん、質問です!」
家には艦から持ち出した、布団や生活物資が持ち込まれている。製作途中からおおよそ決まっていたことなので、海太は特に何も言わなかったが、夢は大きく手を上げた。
「何です?」
「ずっと前から気になってたんですけど! ここにお風呂場はないんですか!?」
風呂場らしきスペースは、設計段階からどこにもなかった。
陽子も自分と同じ女性と言うことで、勝手に何か考えているだろうと思っていた夢だが、そう言う様子もないので今初めて問いかける。
「風呂場? 別に必要ないじゃん。身体を洗いたければ、その辺の川や池を使えばいいし」
「いや・・・・・・それはちょっと」
海太のあっさりとした返答に、夢だけでなく、陽子も難しい顔になる。確かにこの辺りの森林には、綺麗な川や泉はいくらでも見つけられる。
だが塀も柵もなく、かなり冷たい水で身体を洗うのは、どうにも躊躇われた。
だが陽子もやがて、海太に賛同の言葉を出した。
「軍人なんだから、そのぐらいの忍耐力は持たないとね。水を温める木材の消費も半端じゃないし、下手に火を使いすぎたら火事になりかねないよ。私達は観光旅行に来たんじゃないんだよ」
「はい・・・・・・」
ちょっと落ち込む夢。そんなときに海太があることを思いついた。
「この辺りの地面に、温泉とか流れてないのか? この平地にはないにしても、周りにこれだけ山があるんだ。結構ありそうな気がするけど」
「それは・・・・・・どうなんだろ? 調べてもらえるよう、司令部に請願してみようかな?」
温泉に関しては、陽子も乗り気だった。彼女も本音では、風呂場を所望していたからだ。
彼女だけでなく、各自家を制作中の兵士達も同じような請願が、各艦隊司令部に届けられた。そのその請願の発案者は、全て女性兵士だったという。
一方のブロックジャックは何をしているかというと、現在調理場で夕食の準備中だ。
石材から作った、旧式の竈に薪で火をつけて、フライパンの上に肉らしき物体を焼いている。
身体から生やした機械触手を使ってフライパンを掴み、焼いている肉をアームに掴んだ箸を使って裏返していく。
ちなみに今焼いている肉は、森の中に生息していた蛇(無毒)である。彼がそれを自身の医療メスを使って捌き、ウナギの蒲焼きに似せた料理を作っている。
『燃焼状態・基準値に到達。そろそろいいかな?』
高性能カメラで肉の焼き具合と、人体への栄養付加の善し悪しを解析する。出来上がった料理の成分が、味覚・栄養共に人間に適していると判断し、更に盛りつけていく。
調理場の上には小型の煙羅煙らがいて、彼はフライパンから出る煙を吸収している。ここには煙突や排煙装置がないので、彼のような存在はありがたい。
やや忘れられがちだが、ブロックジャックは医療用ロボットである。だが最近では、本人も自分の存在定義を、時々忘れるようになっていた。




