第二十三話 開墾
フェイ達の部隊と合流した海太達。そこには驚くべきものを目にした。
「田を返せ~」「田を返せ~」「田を返せ~」「田を返せ~」「畑もちょっと返せ~」
あの泥肌怪人が増えていた。
フェイ達がどうしようか検討している内に、人の存在に気付いたのか、森林の奥から次々とこちらにやってきたのだ。現在5匹の泥肌怪人がいる。
言語を喋ってはいるものの、こちらか何か質問しても、全く同じ言葉しか喋らない。そのため彼らとの意思疎通は不可能と判断された。
『まだまだ増えるぞ。500m範囲内に、まだ3匹ほどこっち近づいてきている』
これには皆困った。彼らはただ呻くだけで、こちらに何かしようとしているわけではない。だからといって放置して良いものかどうか・・・・・・。
とりあえず渡辺艦長が、さっき見たもののことを映像も含めて全て見せた。
【20年ほど前まで、ここは田園だったというのか? しかし日本国の名前があるのは何故だ? この世界はリョクジンという異種族の物だったのでは?】
【そんなこと私に聞かれてもしょうがないだろうが・・・・・・】
英語で会話をしている艦長とフェイ。英語が分からない海太と陽子には、会話の内容がさっぱりである。
さすがは若くして艦長になった逸材。自分とは格が違うと、海太は感心した。だがやがて飽きてきたのか、海太が勝手に泥肌怪人の方へと近づいていく。
「お前ら誰? 俺は高橋海太だけど、そっちの名前は?」
「・・・・・・忘れた。ただ田が返ってきて欲しい。それしか思い出せない・・・・・・」
「え?」
今まで同じ事を、うわごとのように言うだけだった泥肌怪人が、初めて違う言語を口にした。
側で会話中だった艦長達も、これが聞こえた途端、会話を中断してそっちに振り向く。
「ここは昔田んぼだったらしいな? ・・・新郷農場」
「「「!?」」」
この言葉に泥肌怪人達が、一斉に固まる。そして何かを思い出そうとしているのか、悩むような仕草をし始める。
「何か思い出したか?」
「いや、思い出せないべ。でもその名前は知ってる」
『お前らはきっと、その農場で働いていた農業員だろうな。数百年も続けば、この土地に骨を埋めた奴なんて、無数にいるはずだ』
ブロックジャックの推測に、泥肌怪人達は一斉に頷いた。それだけは確信できたらしい。
「しかし田を返せっていってもなあ~。田を作り直しても、種籾がないんじゃなんにもならないぞ?」
「・・・・・・種ならある。少し待っててけろ」
泥肌怪人が一斉に消えた。地面から生えるように出ていた身体が、泥沼に沈むようにズブズブと沈んで消えていく。騒がしかったその場が、あっとうまに静かになる。
フェイが渡辺艦長に静かに問いかける。
【私達の問いかけは全く通じなかったのに、どうして彼の問いには反応したんだ?】
【ああ、あいつは霊感が強いからな。そのおかげだろ】
【そういうものなのか?】
時間にして2分も立たずに、泥肌怪人達は戻ってきた。地面からびっくり箱のように、ヌッと全身を生やしてくる。
そして現在数は20人にまで増えている。何だかまだまだ増えそうな予感だ。
そしてその内の数人は、手に大きな袋を持っている。見た限り麻製だろうか?
「それはさっき言ってた種籾ですか?」
ジェリーが質問してみるが、彼らはその問いかけに反応せず、海太の方に話しかけてきた。
「種籾持ってきた。これで田が返れる?」
どうやら彼らは海太としか対話が出来ないらしい。海太は戸惑いながらも頷き、袋の一個を受け取った。
そしてその中身を見てみる。中には種籾と思われる種子が、大量に積まれていた。こんな物いったい何処に保存していたのだろうか?
「ブロックジャック、悪いがこれを解析してくれないか?」
『了解した』
ブロックジャックが腕のついた機械触手で、そのうち数粒を掬い上げる。そしてその種子の成分を解析し始めた。
『解析完了した。これは温帯ジャポニカ米の種子だな。日本の稲に近い種類だ』
「まだ生きてるのか?」
『ああ、大丈夫だ。何処に入れていたのか、かなり保存状態がいい。これなら栽培も可能だろうな』
他の袋も見てみると、米の他に小麦の種籾も発見された。これらがこの農場跡で保存されていた物だとすると、ここでは小麦も栽培されていたのだろう。
成り行きを見守っていた艦長が、初めて口を出す。
「海太、お前はこれをどうする気だ?」
「何ってここまで話が進んだら決まってますよ。育てるんですよ。この前に、鶯から貰った種もあるし。これで食糧問題を改善できるじゃん」
「私も賛成。米作りなら実家でやったことがある!」
陽子もかなり乗り気だ。
【意図が判らないんだが? 完全に任務から外れた行動だぞ?】
【そうでしょうか? 今後のことを考えれば、順当な判断かと?】
この会話を通訳で聞いていたフェイが、海太たちの突拍子のない発案に、呆然としていた。
そんなことは気にかけずに、艦長はこの旨を自分の母艦に連絡している。ここにて新郷農場の再開発という、艦隊最初の大型計画が発動した。
大艦隊総司令が乗船している主力艦・リヴァイアサンに、ある報告が届けられた。
この日は、危険生物に警戒して、各艦隊は探索を自主規制していた。ところが突然第8・16艦隊が、それに続いて第20艦隊が、その規制を解禁して大勢の兵士達を湖前の平地に集めているというのだ。
【農場の開墾だと? 気でも触れたか?】
リアーナはあまりに滑稽な報告に戸惑っている。それは隣にいるコープ少将、及び通信で話を聞いていた各艦提督達も同様だった。
【・・・・・・はい。何でもあそこは20年前まで田園だったという話で・・・・・・】
【今、現地の映像が届きました!】
通信士の報告と共に、司令室のメインスクリーンに、その問題の平地の映像が流れていた。
その映像には大勢の鉄鬼に変身した兵士達が映っている。彼は平地に生い茂っていた木を切り倒し、切り株を根っこから引き抜いてどこかに持ち去っている。
武装の剣を抜いた鉄鬼が、下の草を刈り取っていた。 既にその場所は数千の木々が伐採され、大地が丸裸になっていた。
『【あいつらは何をしているのだ!? 勝手にあれほどの伐採を行うなど!】』
『なんという環境破壊を! 総司令の言うとおり、ここにきて気が触れたのか!?』
提督達が喚き立てる。故郷世界では環境保全の法律が、前時代とは比べものにならないくらい厳しく定められている。
その方を遵守して生きていた彼らには、この映像はあまりに理解しいえない行動だった。
【何でもある経路で、米の種を入手したそうで。あの裸女が差し出した種も含めて、それをここで栽培し、今後の食糧にしようという話です】
『【意図は分からなくもないが・・・・・・このようなことをしてリョクジンがどんな反応を示すか】』
ブラック・ホッパー大将が、この世界の本来の土地主であろう者達に関して、不安がっている。環境保全の道徳論は別にしても、これはかなり危ない行動に思えた。
【その話なのですが・・・・・・何か現地人の許可はもらっていると・・・・・・】
【【!?】】
映し出された映像には、兵士達の他にあの泥肌怪人達の姿も映っている。彼らは盆踊りのように舞い上がりながら、こう叫んでいた。
『田が返る~、田が返る~』
泥田坊:フィクションでは人型泥スライムとして描かれることが多い妖怪。まあ元々創作妖怪なので、設定なんて何でもいいんですけど。
本作では、泥製の手では農作業がしにくいだろうと、泥をかぶった幽霊という設定です。




