第十四話 危機
一本だたらが発見された場所から、そう遠く離れていない位置。ある湖の対岸にて。
そこには綺麗に畳まれた女性兵士の服が4点、近くの岩場に置かれていた。この服の主達は、現在湖の中を潜ったり上がったりを繰り返している。別に水遊びをしている訳ではない。
「金野さん! 新しい種類の貝がいっぱい見つかりました! どのくらい拾いますか!?」
「いっぱいあるなら半分ぐらい持って行っていいでしょう! でも拾った場所は覚えておいて。後で食べられないと判ったら、すぐ元の場所に戻すから」
金野陽子が数種類の水草を手にして、少し離れた自ら顔を出している仲間に答える。現在彼女たちは、素潜りで湖の浅瀬の食糧調査だ。
とにかく色んな物を採集して、何が食べれるのかを調査中だ。
この場所に水着など持ってきていないので、皆シャツ・パンツ・鉄鬼起動装置のベルトだけの姿。
このチームには男性も6人いたのだが、こういった理由でこの場所から離れた場所で各自別の仕事をしている。湖の浄水実験と、河の水源の調査だ
この湖の水は汚れてはいないが、成分的に人間が飲むのは、健康上よくないものだった。そこで艦にある浄水装置で、この湖の水を飲用可能な蒸留水に出来るか実験中。
輸送艦の方に水は十分ある。あの食い逃げ犯は水には興味を示さなかったのだ。だがそれでも用心して、水の確保は必要だろう。
またさらに最悪の事態、浄水装置が使えなくなった場合を想定して、この湖に流れ込む、川の水源も探し出すことにした。そこならば動物の排泄物や、枯葉などの不純物などない綺麗な水になっているはずだ。
そして湖側に残った女性陣は、最初は鉄鬼に変身して潜っていた。だがしばらくして、それでは面白くないと、生身で潜るようになっていた。調査と同時に水遊びの真っ最中である。
「あそこの深いところに沢山いたよ~」
1人の女兵士がバケツいっぱいに何かを運んできた。中からガサガサと、何かが動く音が聞こえてくる。
(カニかしら?)
その中を覗き込むと、バケツの底が見えなくなるくらい大量に詰め込まれた生きたザリガニだった。ガサガサと積み重なった状態で動き回る姿は、かなり気持ち悪い。
「え~と、このザリガニも食べるの?」
「はい? ずっと前にテレビでザリガニ食べてるの見ましたけど?」
兵士達のほとんどは、アウトドアに関してはテレビからの知識しかない。確かにザリガニは食べられるらしいという話は、陽子も知っていたが、少なくとも彼女の村では食べるようなことはなかった。
小学校の飼育係が、毎日教室の後ろに置かれた水槽に、餌をやっている姿が強く記憶に残っている。それを食べ物という認識を持ったことは一度もなかった。
「え~と、まあいいか。うん?」
近くの岸近くの水面に、おかしな物が見えた。水面の一点に、何か筒の先のような物が浮いているのだ。
そして少しずつ水面を移動している。寄ってみると、それは中が空洞の金属棒=鉄パイプの先っちょだとわかった。
「・・・・・・・・・(何してんの?)」
何となく全容が見えた陽子。だがこれ見ていた他の仲間は判らなかったようだ。
「何これ?」
1人が岸辺から身体を乗り出し、そのパイプの穴を手で捕まえた。その際に穴が掌で塞がれる。そのパイプは動きを止め、そして数秒後。
「ぶはぁああああああ!? 何すんのよ!?」
「うわぁああああああ!? そっちこそ何してんの!?」
突然水面から、鉄パイプを持って息苦しそうに飛び上がる女兵士と、それに動転して叫ぶ仲間。
「いや実際問題として・・・・・・あなた何してたの?」
「いや・・・・・・潜水時間を少しでも伸ばす手として、昔テレビでやってた技を・・・・・・」
どこの番組かはあえて聞かなかった。そもそもその泳法じゃ、湖底の獲物を見つけられないだろうに・・・・・・。
銛での魚取りといい、皆何でもかんでもテレビの知識に頼りすぎているような気がしてきた。
プルルルルルルッ!
陽子が再び潜ろうと、水に足を入れると、何やら携帯電話のような音が聞こえた。音源は腰のベルト=鉄鬼の起動装置だ。
「司令部から通信!? 何で?」
これは第6艦隊司令部からの着信音だ。ディスプレイのスイッチを押し、通信を受け取る。
『金野曹長か、突然済まないね。実は第2艦隊からの連絡で、ブルー・ジョンソン大尉の調査隊から救急信号が出たんだそうだ』
「救急信号? 何かあったんですか?」
『判らない。だが一番近くにいるのはお前達だ。悪いが様子を見に行ってくれないか? 何があるか判らないから、偵察は上空から。常時こちらの通信を行ってだ』
「はあ・・・・・・」
何嫌な予感をしながらも、陽子達10人の兵士達は鉄鬼に再度変身して、信号の出た方角へと飛んでいった。
上空を、陽子(番犬侍)を初めとした、10人の鉄鬼が目的地まで飛行する。
ちなみにこの面子で一番くらいが高いのは中尉(番犬侍)なのだが、場の成り行きから陽子が先頭に立っている。
救急信号が発せられた目的地に到着した。その場所は結構判りやすかった。森林の中で、その場所だけ複数の樹木が倒れていたからだ。
「近くに一本だたらの生体エネルギーを感知しました。現時点目視ではその姿は見えませんが」
『何だと!? ジョンソン大尉らはどうなってる!?』
鉄鬼の遠視カメラで、上空からその場所を観察する。
「嘘だろ、おい!」
「みんなやられてんじゃないのか!?」
そこには20人程の鉄鬼が、血みどろで倒れていた。中には海太の時のように地面に陥没した物もいれば、身体がありえない方向に曲がっている者もいる。
そして倒木広場から外れた森の中から、この惨状の下手人と思われる者が現れた。一本だたらである。
一本足でジャンプして、ホッピングのように地面を移動しながら、空の見晴らしの良い倒木広場の真ん中に立つ。
そして上空の陽子達を、その一個しかない目で凝視していた。この映像は司令部の方にも届いている。
『全員即座に退避しろ。お前達の戦力で排除は無理だ!』
「はい! 全員退避!」
司令部からの命令に従い、鉄鬼達が即座にそこから逃げだそうと方向転換したところ・・・・・・
ピギャァアアアアアアアアアアアアアッ!
耳にいかれるかと思うほどのすさまじい鳴き声を、一本だたらが陽子達に向かって叫んだ。
「くっ!?」
思わず耳を閉じてしまう鉄鬼達。だがこれはただうるさいだけではなかった。
鳴き声が届いた同時に、空中にいた鉄鬼達の身体のバランスが次々と崩れていく。
「じゅっ、重力装置が故障! 落下します!」
次々と虫のように落下していく鉄鬼達。一本だたらの鳴き声は、機械を狂わせる力があるのだろうか? この時故障を起こしたのは、重力装置だけではなかった。司令部と交信する通信装置もである。
ドサドサと地面に叩きつけられる鉄鬼達。このぐらいの落下衝撃は、鉄鬼の身体強度なら大したことない。問題はその先にいる者だ。
一本だたらが罠にかかった獲物を見るように、こっちに近づいてきている。
「うわぁあああっ!」
数人が我武者羅になってそれに発砲した。身体の大きさは当てやすい的になって、全弾が敵に命中した。
だが一本だたらは全く怯まない。彼の毛皮はとても厚く、そして頑丈にできており、弾丸を全く通さない。
「こいつは勝てないわ! 全員各自ばらけて逃げて!」
鉄鬼達が蜘蛛の子のように、森林の奥へ逃走していった。一本だたらが目線を追う先は、今しがた仲間に指示を送っていた女=陽子のほうへと向いていた。
通信が効かなくなったことで、この時ブルーの部隊に続いて、金野曹長らの部隊も消息を絶った。




