第十三話 食糧調査
一方こちらは第20番艦隊の巡洋艦=ビッグウォーラス。量産型の艦で、こちらは三番機。牙のように突き出た2本の主砲が特徴的な艦だ。
【パスカル少佐! まだ安静にしていた方が!】
【大丈夫だ。この程度の怪我なんともない】
先日の戦闘で負傷した鉄鬼のホワイトカリブーの装着者、ダラス・パスカル少佐 30歳。
彼はウサギの件を聞いて、怪我など何のそのと医務室を飛び出してきた。
【こいつはでかいな。こんな大きな獲物を捌くのは初めてだ。だがだがまだ足りないな・・・・・・ルイーズ、ダリル、悪いが山菜を採ってきてくれないか?】
ダラスは近くにいた2人の兵士に、そう命令した。
【この環境の山菜の種類なんて知らないんだが?】
【鉄鬼に検索機能があっただろう? それを使えばすぐ判るはずだ】
言われて早速2人は森林の中へ入っていた。ルイーズ・クラーク少尉とダリル・ディオン少尉。彼らはダラスと共に、若い頃からサバイバルを趣味に遊んでいた仲だ。
立ち入り禁止の自然公園に十日ほどキャンプし、通報を受けて捕まった後は自制するようになったが、今回のことで昔の思い出が蘇ったようだ。
【これからウサギを捌く。かなり気色悪い物を見るだろうから、嫌な奴は早く退散した方がいいぞ】
ダラスの言葉に、皆一斉に艦の中へ逃げるように戻っていく。しばらくして彼らが様子を見に行った頃には、巨大な煮込み鍋に美味しそうな肉スープが出来上がっていた。
一方で、海太がいる真河豚・三番でも、同じような試みが行われていた。
各艦で行われようとしている、巨大ウサギの噂を聞きつけた渡辺艦長が、早速自分たちでもやってみようと言い出したのだ。
司令部から狩りの許可をもらい、早速森林へと突入した。巨大ウサギはいともたやすく発見でき、簡単に仕留められた。
巨大ウサギはこの森林にウヨウヨいるようで、見つけるのは苦にならない。むしろウサギ以外の生き物を見つける方が難しい。
そして彼らはビーストではなく、解析上では普通の動物なので、鉄鬼に対抗するような戦闘能力・逃走能力はない。そのため鉄鬼の力を使えば、簡単に捕まえられた。
青鮫の所と同じように、樹木を取っ払われてできた広間に、2羽の巨大ウサギの死骸がある。これの1羽は、渡辺艦長自ら捕まえたものだ。
「おし! これで全部いいか!?」
「はい艦長! 後は焼くだけです!」
それらは両方とも血抜き・内臓抜き・皮剥が全て完了していた。すごい手際の良さであるが、これは兵士達がやったわけではない。やったのはブロックジャックだ。
捕まえるのはいいが、いざ解体となると艦長含め皆やや躊躇した。そんな中で、海太の幼馴染みが、問題なく解体作業をしているという情報が入り、同郷の彼が指名された。
そうしたら海太は「俺よりもこういうのがもっと上手そうな奴を知っている」と言い出して、何故か艦に戻っていった。そしてなんとあのブロックジャックを連れてきたのだ。
無断で彼を起動させたことに眉をひそめる者も多かったが、艦長は問題ないとこれを許可した。
『俺の医療メスもレーザーも、こんな使い方じゃないんだけどな・・・・・・。動物の身体なんて、切り刻んでも全然楽しくねえよ』
自分の扱いにかなりご不満のブロックジャック。ちなみに彼の解体現場に立ち会ったのは、渡辺艦長・佐藤副艦長・海太の3人だけ。後はみな見学を拒否した。
ウサギは口から尻を、焼き鳥のように一本の棒が貫通している。それを地面に突き刺した2本の棒で両端を支え、空中に浮かばせている。
その真下には石を積み上げて作った石竈が作られており、燃やすための木材が積まれている。
このやり方を提案したのは渡辺艦長。昔見た漫画の場面を真似したそうだ。パワーバーナーで木材を燃やし、ウサギの胴体が炎に包まれて焼け始める。
ちなみに艦長は最初、木の板と棒を擦り合わせる火溝式の発火方を行おうとしたが、海太から不毛だからやめてくれと頼まれて結局断念した。
「つまんねえな。折角ここまで来たんだから、もっと本格的にやればいいじゃん?」
「艦長・・・・・・現状を娯楽キャンプかツアーと勘違いしてません? これ一応食用実験ですよね?」
やがて兵士達が彼らを囲い、やいのやいのと宴らしきものを始めた。
周りに適当に踊り出す兵士達。気分はキャンプファイヤー、もしくは漫画的表現の原始人の真似。
勿論原始人の踊りなど誰も知らないのだが。どうせなら夜にやった方がよかったと、多くの兵士が愚痴ったりもしている。
青鮫と違って真河豚では、とても楽しい野外食事が行われた。丸焼きになったウサギの肉は切り分けられ、参加した兵士達に分配された。
それは野生動物であるためか、家畜の肉よりも硬くて食べづらかったが、悪い味ではなかったとのこと。
その後検査の結果、ウサギたちの肉には毒性などはなく、栄養学的にも食糧として問題ないという結論が発表された。
検査結果が出る前に、ウサギを食べたり狩猟を許可したりする将兵達には、迂闊な行為だと非難する者も多かった。
だがこれで食糧の幾分かが、現地で採集できることが判った。パスカル少佐らの行動を真似て、山菜採りに熱中し始める者も現れる。
またこのウサギを飼育・繁殖させられないかと、ウサギ牧場の建設を試みる者もいた。
ウサギの試食が終わった次の日には、各艦から食糧関連の調査許可を求める声が、司令部に多く寄せられる。許可が出ると、皆思い思いに外へと飛び出した。
ちなみに調査範囲は、半径40㎞と大幅に上がった。
以前出現が報告された一本だたらのことは、既に情報が行き渡っていたが、これを深刻に受け止めている者は少なかった。何せ最初に攻撃された被害者が、今でも五体満足で生きていることもあって。
むしろ彼らの興味を引いたのは、あの心を読む力を持った裸女である。現時点、この世界で最初に確認された文明人だ。
彼女から聞き出したいことは山のようにある。食糧調査に向かった兵士達には、許可が下りる際、あの裸女を発見したら、ただちに報告する命令が課せられていた。
艦隊群のある森から、7㎞程離れた所に結構大きな湖がある。大きさは琵琶湖の半分ほど。結構な遠出であったが、鉄鬼の力があればそれほど苦になる距離ではない。
周囲を山地で取り囲まれており、そこから流れるいくつかの河川の水が、平野に貯まってできた湖のようだ。
ただそれとは別の面で、この湖は何処かおかしな所があった。上空から見ると判るのだが、この湖はカードのような角張った長方形をしているのだ。
この湖からは一本の河が流れているのだが、その河の流れる先の大地は、山地などが全くない平坦な土地の森になっている。
水辺と言ったら探すのは魚だ。司令部からは、過度の乱獲を行わなければ魚介類の捕獲が許可されている。
科学大最盛期以降、環境保護が厳しく定められたせいで、自然の川で魚を釣れる場所はめっきり少なくなった。人口の釣り堀ならば沢山作られたのだが・・・・・・
大勢の兵士達が、初めての自然の釣りをしようと、湖や周辺の河川に渡っていた。第6艦隊からは、地元で魚釣りの経験がある金野曹長が先頭に立っていた。
全く知らない未知の領域に、置いてけぼりにされたのに、このお気楽ぶり。
皆1年後には確実に帰れるという既定事実が頭にあって、危機感という物が欠如しすぎていたのかもしれない。この後すぐに起きる事件も、それによる気の抜きすぎが原因だったのかもしれない。
【たりゃあ!】
誰かが水の中に何かを勢いよく突き刺し、高い水しぶきが上がる。
湖の源流になる河の一本を、数人の兵士達が魚を捕まえようと奮闘している。長い木の枝の先に軍用ナイフを縛り付けた手製の槍だ。
それで昔テレビで見た原始人の狩りシーンを真似て、魚を串刺しにして捕まえようとする。
釣りをしようと息巻いていたが、肝心の釣り竿を作るのは難しかった。木の枝や植物の蔓で作ろうとしたが、中々上手くいかない。垂らしても魚が寄ってくる様子はなし。
無理に難しい道具に頼るよりも、この原始的な手段が一番いいと言い出したのだ。
最初は全く捕まえられなかったが、徐々にコツを覚えると結構な数捕らえられるようになった。
彼らは鉄鬼の力を使いこなせるよう、本格的な戦闘訓練を積んだ軍人達。科学大最盛期によって軍人のサバイバル能力は低下したが、鉄鬼の力の肉体適応もあって、彼らの平均的身体能力は、前時代よりも遙かに上がっているという。このぐらい造作もない。
【やったぞ! 4匹目のチャーだ!】
ナイフに串刺しになったチャー=日本名でイワナ、を勝利のトロフィーのように掲げて喜ぶ兵士。
このイワナ、故郷世界の物と比べると、異常なまでに大きいのだが、別に誰も気にしていない。巨大ウサギの件で既に免疫ができている。
そんな風に魚狩りに熱中している中、周囲で鉄鬼に変身した状態で周囲を見回していた兵士が、突然声を上げた。
【近くで奇怪な生体エネルギーを確認! この反応は・・・・・・一本だたらだ!】
以前海太の番犬侍が記録した生体エネルギーと同じ物を、彼の鉄鬼が感知したのだ。
これを聞いた兵士達は驚き、大慌て岸に上がって次々と鉄鬼に変身していった。
【そいつは何処にいる?】
【この森の奥です・・・・・・】
兵士達は続々と、指さされた方向の森の中に入っていった。彼らは何をしているのだろうか? 普通こういう時は、即座に司令部に報告するのが当然の職務の筈だ。
森の中へ進んでいくと、やがてバリバリと木を砕くような音が聞こえてくる。やがてその音源が確認できた。そこには確かに一本だたらがいた。
この猪巨人の周りには、数頭の巨大ウサギが、身体の一部を潰されるように損壊されて死んでいた。
そしてその死体を、一本だたらは生のまま食べていた。骨も皮も肉も、まるごと口に入れて噛み砕いて腹の中に入れていく。さっきの音は骨が砕ける音だったようだ。
相手は食べるのに夢中で、後ろにいる大勢の兵士達に気付いていない。見かけ通りに鈍感な奴のようだ。
そんな一本だたらの姿を見て、彼らのリーダー格であるブルー・ジョンソン大尉は思った。
(相手は1匹。こっちは25人。これなら殺れるか?)
数秒後、兵士達は一斉に、一本だたらを背後から襲いかかった。




