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26、停戦

 アルマゲストの会談の要綱がまとまった。

 ケネディは「停戦」を強く議会に訴え続けた。

 当初は反発もあったが、いくつかの条件が提示され、おおむねケネディの意見に賛同するようになった。

 条件とは「停戦の間に、螺旋を中心とする軍隊を再編成すること」「停戦は最長で1年とすること」「地球側に有利な合意にすること」の3つ。

 ケネディはひとまずその条件を呑んだ。

 次の会談は停戦に向けた交渉を行うことで決まった。

 アルマゲスト陣営も停戦を望んでいることが伝えられ、うまく停戦できるだろうと多くの者が考えていた。

 しかし、ケネディはそれでも苦しい表情を崩さなかった。

「停戦。ただの時間稼ぎだ。根本的には何も解決できない」

 ケネディがそう言うと、秘書の男は頷いて立ち上がった。

「大統領、1つ意見させたいただくと、問題の根本的解決など望むべきではありません。先ほど、うちの家内から電話がありまして、このまま地球に帰還できないなら、離婚だとはっきり言われてしまいました。私はまもなく帰還できる、ボーナスを持ってとごまかし事なきを得ました」

 秘書はそのように言って苦笑いした。

「そうだな。根本的な解決にこだわってはならない。政治の基本理念だ」

「その通りです。問題は抱えたまま死の世界に持っていくもの」

「ああ、とすれば……」

 ケネディは書類を取り上げた。

「陸も地球に戻りたがっているかもしれない。もう長い間地球に戻っていないからな」

「関係者はみな同じです。大統領だって」

「うん……中間選挙に向けて一度は地球に戻らなければならない。このような状況でも、休暇は必要だ」

「では、大統領?」

「会談を終えたら、休暇を設けよう。問題は……休暇の後に考えよう」

 ケネディは久々に笑顔を見せた。


 アルマゲストとの会談は火星で行われることになった。

 火星の歴史は複雑だ。

 火星のテラフォーミングプロジェクトは108年前にアメリカで興った。

 当時のプロジェクトに参加した者たちは英雄と称えられた。

 しかし、その後アメリカで経済危機が発生した。

 アフリカ諸国でロシアが支持する武装勢力が資源地を占拠したことで世界的なインフレが勃発し、それを機にダウ平均株価が15分の1まで暴落。

「火星の開発? 我が家が白アリに侵されている状況で、上級国民の優雅な宇宙飛行のために、税金を差し出せだと?」

 インフルエンサーがそのような掛け声を上げると、アメリカでデモが発生した。

 結果として、火星開発はロシアが実権を握るようになった。

 しかし、ロシアも火星開発から撤退した。

 火星資源は活用が難しかった。地底ドライアイスを空気中に放出する計画は想定以上に効率が悪く、汚染物質も拡散した。

 結果、火星開発は日本に委託された。

 ロシアは北方領土を交渉カードに、火星開発の負担を日本に押し付ける形になった。

 日本は従来のテラフォーミング計画をあきらめて、地底に基地を作る案を取り、国家予算から450兆円をねん出させ財務省を泣かせた。

 しかし、地下基地が完成すると、アメリカが漁夫の利を求めて基地の共同管理を申し出た。

 アルマゲストとの宇宙戦争が始まるころには火星は死に体。ろくに活用されないまま、地下施設は兵器実験が行われる実験室と化していた。


 そんな火星の基地でアルマゲストとの会談が行われた。

 アーマード元帥はケネディ大統領と同席する形で宇宙船に乗り込んだ。

 アーマード元帥は火星を目前にすると嬉しそうにした。

「私は火星が好きですよ。我々の銀河にも火の星「ベーロン」があります。長らく我々の子孫は第二のテラとして開発することを夢見ていたのです」

「ベーロンですか。私も一度訪れたいものです」

「次の機会があれば検討しましょう」

 火星基地は何度も改装が行われ、兵器実験施設として立派なものとなっていた。

 巨大な炉が地下深くに設置され、莫大なエネルギーを半永久的に生み出すことができるようになっている。

 民間企業がいくつも入って、宇宙船の製造工場がいくつかある。

 部屋の前に「三菱」のマークがあった。

 スローペースであったが、基地は拡大を続けている。人口も増え、学校やショッピングモールまで誕生した。

 いつかは地球にとって代わる星になるかもしれない。

 地球は多くの環境問題を抱えている。ある専門家によると「100年以内に地球は人類の住める星ではなくなる」という話をしていて、100年前も同じ話をしていた。


 会談は厳かに行われ、アルマゲストは地球の条件をおおむね了承する形で1年の停戦合意となった。

 アルマゲストからの要求は「螺旋を変換すること」「アイルを変換すること」の2つだったが、当然地球としては呑める話ではなかった。

 アーマードはケネディと私的な場でこのように訴えた。

「螺旋の変換ができないことは理解しています。しかしアイルはまだ20に満たない子供です。母親もアイルと会いたがっているのです」

「申し訳ありません、私の権限では。しかし悪いようにはしていません。彼女のために年間15億円の予算を拠出しています。お母さんとの面会に向けて、私もできる限りのことをします」

「そうですか、礼を言います」

 アーマードとケネディは悪手を交わした。


 アルマゲストとの会談が終わると、ケネディが宣言したようにアルマゲスト計画に携わる要人たちに休暇が与えられた。

 コロニー運営に関わる者たちにも交代番で同様に休暇が与えられる。

 休暇は5日間。情勢が大きく動いている最中であることを考えると、十分な期間と言えた。

 陸のもとにも休暇の知らせが届いた。

 ただし、螺旋の搭乗員という地球を背負う立場ということもあり、制限がいくつか課せられた。

 行く先は毎回管理者に通達しなければならない。友香に伝え、それが螺旋管理のために設けられた庁に伝えられる。


 陸は「故郷に戻る」ということを友香に伝えた。

「友香さんも地球に戻ったら故郷に戻るといいよ。お母さんも……きっと故郷に戻って来ると思うから」

「私に故郷はないので」

 友香はそう言うと、管理庁に通達した。

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