24、新たな秩序から
螺旋計画は大幅な路線変更を余儀なくされた。
螺旋2機を地球圏が手にすることは、誰も想定していないことだった。
ただちに螺旋計画を先導してきた議会の議員たちが集まった。
彼らはケネディ大統領以上の力を持っている。
螺旋計画の要綱を決めたのも議会だった。
集まった議員たちはみなエリートばかりだったが、みな顔に似合わずそわそわしていた。
螺旋2機を地球が手にしたことにより、彼らはみな世界最強の支配者にでもなったかのようだった。
人間はみな潜在的には支配者になりたい者たちばかり。しかし、支配者の権限を手にすることができる者の数は少ない。
そんな中でも懸命な勉強を積み、アメリカ上院議員に出世する者がいる。
それでも権限はたいしたことがない。
アメリカ大統領になる者もいるが、それでも地球を飛び出すと無力。
その点、螺旋はただ持っているだけで宇宙の支配者になれる。
しかも螺旋のパイロットである狭間陸は従順な性格で、議会が決めた要綱にこれまでずっと従ってきた。
おそらくこれからも従い続けてくれるだろう。
つまり、螺旋は螺旋計画を先導する議員たちの手中にある。
その螺旋の力に抵抗しうるのはアルマゲストの敵螺旋だけ。その敵螺旋もついに掌握した。
事実上、議員たちはいま宇宙の絶対的な支配者となっていた。
螺旋を使ってどのように宇宙を支配しようか、そんな願望を妄想に落とし込んでいる議員たちはみな興奮気味で、卑しい顔だった。
「さて……諸君」
会議が始まると、委員長の男が微笑んでそう言った。
議会に集まった11人の中にはケネディ大統領の姿もあった。
螺旋計画の要綱では、螺旋の搭乗員である陸はこの会議には参加できないことになっていた。
それはトップシークレットである。
螺旋計画の要綱は分厚い資料に小さな文字でまとめられていて、その資料には初期メンバーとして12名の名前が書かれている。
そのリストの中に日本の総理大臣である恵梨香の姿があった。
しかし、その恵梨香は消息不明となった。
螺旋との衝突の後、捜索に参加していた宇宙船は近くのコロニーに帰還したという記録が残っている。
搭乗員もある一人を除いて全員無事が確認されている。
その一人が恵梨香だった。
恵梨香の娘である友香は恵梨香と共に同じ宇宙船に乗っていた。
しかし友香は螺旋と共にM25コロニーに帰還している。恵梨香だけが行方不明になった事実は今回の議会の論題の1つでもあった。
しかし、それは優先事項ではない。
恵梨香が螺旋に関するあらゆる秘密を知っていると言う事実を知っているのは、この議会のメンバーの中ではケネディ大統領だけ。
ケネディはそのことを周りに伝えていなかった。
ゆえに、議会の連中は恵梨香をあまり重要視していなかった。
せいぜい愛人候補として見ていた程度であり、2つの螺旋を手にしたという目先のビッグイベントの中にその存在感は消えてしまった。
「これからの螺旋計画をどのように変更していくか、地球の未来ならびに宇宙の秩序に関わる最重要課題です。そうですね、ひとまず自由に意見を伺おう。リチャード君」
委員長はリチャードなる男に話を振った。
リチャードは笑みを浮かべながら立ち上がった。彼はマサチューセッツ工科大学を首席で卒業しているエリートだった。
「螺旋の力は驚異的である。その力は宇宙のすべてを揺るがすものである。では、その力、何に使うか? 戦争? いいえ、発電? いいえ、理想は宇宙開発です。我々のまだ見ぬ遠い宇宙を開拓する。SFの世界の扉と現実がつながったのです。螺旋はそのためにあるべきでしょう」
リチャードは子供のように夢を語った。
それを聞いている議会の連中はみな退屈そうだった。
彼らにとって、リチャードの夢は理解できない境地のものだったようだ。
「ありがとう、リチャード君。ではゴンザレス君」
委員長はゴンザレスなる男に話を振った。彼は学歴のない成り上がりだった。ビジネスで成功し、大人の野心にあふれた男だった。
「アルマゲストは停戦を求めてくるでしょう。しかし、それを受け入れてはなりません。螺旋の力を持つ我々が有利にすべての物事を進めることができるのです。軍事的圧力を強めるべきです。そしてアルマゲストの再開発には、ぜひ我がゴンザレス社に」
ゴンザレスは抜け目なく語った。
「では次、スミス君」
スミスなる男が立ち上がった。彼は極左の平和主義者だった。
「螺旋の力に依存した計画などばかばかしい。戦争を終結できるチャンスがあれば、終結するべきです。螺旋だって永遠ではないでしょう。それに螺旋を使った野蛮な行いを歴史に刻めば、それは消えない罪になるのです。キリスト様がお嘆きですよ。あなた方も平和に向けた議論に注力すべきです」
スミスの演説には野次が次々と飛んだ。
「ここで大統領。それぞれの意見を踏まえて1つ決断をお願いできますか?」
委員長はケネディに話を振った。
ケネディは終始難しい顔をしていた。すぐには立ち上がらず、じっくりと何かを思案した。
みなケネディの発言を静かに待っていた。
ややあってケネディが立ち上がった。
「そうですね、結論を急ぐべきではありませんが……」
ケネディは言葉を切って、再び思案に入った。
「少なくとも螺旋の威を借りて歴史を紡いでいくことに抵抗はあります。螺旋に依存すれば、みな螺旋の力に呑み込まれてしまいます。人類のこれまでの歩みを思い出すべきでしょう。力によって成り上がったのではなく協調によってここまで来たはずです」
「大統領、そろそろ引退の時期が来たのではないですかな。選挙を勝ち抜いた野心はどこへ行ったのです?」
誰かがそう言った。
「私は螺旋の力を否定してはいません。螺旋は我々に大きな力を授けてくれます。しかしその力の使い方を間違うべきではないでしょう。我々は螺旋に依存するべきではなく学ぶべきです」
「ふう……次は民主党だな。あの弁護士上がりのペテン師が大統領か」
誰かが囁くようにそう言った。
結論は出なかったが、空気感としては螺旋の力を用いてアルマゲスト陣営にプレッシャーをかけ続けるということで一致した。
螺旋を独占している限り、地球陣営にはリスクがないと判断するものが多勢だった。
そうなれば、アルマゲストと停戦し、友好関係を築いていくという選択肢は断たれたも同然だった。
しかし、ケネディの心配事は別にあった。
恵理子のこと。
恵理子のことは議会がほんのわずかに触れられた程度で、誰も重要視していなかった。
しかしケネディだけは恵理子の正体を知っている。
恵理子は行方不明となっており、死亡濃厚という形で上層部の連中は捉えている。
ケネディはおそらく恵理子は生きていて、意図的に消息を絶ってどこかに潜伏していると考えていた。
恵理子はこれから起こる宇宙の何かを知っているに違いない。
それを考えると、アルマゲストと争っている場合ではない。
ケネディは目の前の宇宙戦争のその先を見ていた。
「これから一体何が起こるんだ?」
ケネディの独り言は室内にむなしくこだました。




