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22、螺旋の本質

 友香はビジネスライクに話し始めた。


 太陽系に螺旋が生まれた。

 ハーベスト系にもう1つの螺旋が生まれた。

 銀河と銀河の融合を図るために生み出されるのが螺旋。

 螺旋が宇宙にどれぐらい存在するかは未知。

 おそらく星の数ほどいると思われる。

 しかし、おとめ座銀河の外部には秩序を終わらせる真事象の地平面が存在するから、おそらく多くの螺旋が同時に顔を合わせることはないと思われる。

 螺旋は同じ秩序に2つだけ存在が許されるものと考えられる。

 人のDNAが二重らせん構造を取っているのと同じように、銀河も2つの螺旋によって支配された世界。

 2つの螺旋が融合し、1つの銀河になる。

 おそらく、1つになった銀河は支配圏が拡大し、次の螺旋と巡り合う。

 宇宙のすべてを統一するまでこの現象は続くと予想される。

 いま起こっていることはその現象の1つ。

 2つの螺旋が衝突し、1つの螺旋になる。

 銀河は統合され、新しい世界となる。

 けれど、螺旋が衝突するだけでは銀河の統一はならない。

 私は2つの螺旋をつなぐために存在する存在。

 2つの力にヒビを入れる存在。

 アダムとイブをそそのかすリリス。

 私は螺旋の力を増幅させることができる。

 その力によって1つの螺旋を決定する。

 どちらにも私を使う権利があった。

 けれど、私は地球に生まれた。

 私はどちらにも生まれうる存在だった。

 私の母はどちらの世界ともつながりうる立場だった。

 けれど、運命か偶然か、私は地球を生まれた。

 私は運命か偶然か、あなたの螺旋を増幅する力になった。

 そしてもうすぐ銀河の統合が実現する。

 そうすれば私は消え、あなたは神になる。

 地球が勝利し、おそらくは次の銀河の戦争に駆り出される。

 このトーナメントの終着点は私にも分からない。

 私は……いいえ、私たちは運命の通りに進むだけ。

 私はここで消える。それが運命。それを受け入れるだけ。


 友香はただ1つの感情もさしはさむことなく淡々とそして早口で述べた。

 いつもの友香のスピーチであったが、陸は唖然としていた。

 うまく内容が整理できなかった。

「もう一度繰り返しましょうか?」

 友香は淡々と尋ねてきた。

「君が消えてしまうってどういうこと?」

「私には螺旋を増幅する力がある。その力の代償は私自身。私は消えてなくなるの。気に留める必要はありません。私が消えても何も問題ありません。私は宇宙戦争の過程で消息不明となり、死亡扱いとなり、何事もなかったように消えるだけ。それで誰も困ることはない。地球の人々の生活は変わらない。あなたも新銀河の神となる。地球防衛軍の人々も勝利を手にし、戦いから解放される。喜ばしいことはあっても困ることはない」

「君は……本気で言っているのか?」

「私は冗談は言わないようにしています」

「君は……その……」

 陸は拳を握りしめた。螺旋と一体化していても自分の体の震えがよくわかった。

「怖くないの? 消えるって……簡単に言うけど」

「人はいつか死ぬもの。みな同じ。怖くない」

「でも、君のお母さんだって悲しむ……それに……」

「私の母は野望を実現して喜ぶでしょう。母は日本の独立を目指していた。螺旋が銀河を統一すれば、それは実現する。あなた次第ではその日本も消えてしまうかもしれないけれど」

「そんなことじゃない。自分の娘がいなくなって悲しまないお母さんがいるわけないよ」

「母のことなら気にしないでください。母は螺旋のことをすべてわかって私を産んだのです。私が生まれたのはすべて今日の日のため。今日につながらなければ私の存在意義はない。だから、母にとって私が消えることは喜びに等しいこと」

「そんなはずない!」

 陸は大きな声で遮った。

「そんなはず……」

 陸は友香と向かい合った。

 友香はいつも通りの表情で立ち尽くしていた。

 螺旋の青い光に浮かび上がる彼女の表情から特異なものは見られなかった。そこにいるのはいつもの友香。

 これから消えてしまうという事実を前にしても彼女の表情には恐怖も狼狽も感じられなかった。

 かと言って夢うつつの状態でもない。彼女は正気の中にあってただ運命を受け入れていた。

 陸は冷静になって友香と向かい合った。

「わかったよ……お母さんのことはいい。じゃあ、君は? 君の願望を教えてほしい。君は望んでいるのか、このまま消えてしまうこと」

「私に望みはない。私の意思で生まれたのではないし、私の意思でここにいるわけじゃない。私はただ時を受け入れるだけ」

 友香はいつも通り淡々と答えた。

「それが君の意思なのか?」

「そうかもしれない。私の意思。それは時に任せるだけ」

「じゃあ、僕の命令を聞いてくれる?」

「あなたは新世界の神。私に命令する権利がある」

「じゃあ、命令だ」

 陸は消えるなと友香に伝えた。

 陸はその言葉に強い思いを込めた。

 友香に消えてほしくないという思い。その思いを言葉に込めた。

 陸も自分の感情を表に出すのが得意ではなかった。

 陸なりに最大限の思いを込めたつもりだった。

 しかし、友香は何事もなかったかのように即座に首を横に振った。

「それはできない。私の消滅は私の意思ではもう決められない。私は螺旋のエネルギーになる運命。もうそれは止められない。おそらくあなたにも」

「……止めてみせるさ」

 陸は友香に背中を向けた。

 肩の力を抜いて前を見つめた。

「止める。僕の意思で」

 陸の体が震え始めた。

 螺旋の暴れる体が何かに捕まれたように止まった。

 しかし、その拘束を振りほどこうと螺旋は前のめりになった。

「止まれ!」

 陸は自らの意思を持って螺旋の力に抗った。

「僕が止まれと言ったら止まれ!」

 しかし、螺旋は止まらなかった。すさまじい力によって陸の意思を吹き飛ばしてきた。

 それでも陸は何度も螺旋の体を押さえ込んだ。

「アイルさん! 今のうちに逃げるんだ! 今のうちに……早く!」

 しかし、敵螺旋は自分の意思では動けない状態になっていた。

 おそらくアイルは気を失っている。死んでいるかもしれない。

 敵螺旋は自然の力に流されるように陸の視界から遠ざかっていった。

「アイルさん!」

 陸は手を伸ばした。しかし、その行動は螺旋の行動を助けるように働いた。

 螺旋は陸の意思を振りほどき、獲物を追いかけるように走り出した。

 距離は一瞬で詰まった。

 再び螺旋が敵螺旋の首根っこを掴み上げた。

「ごめんなさい、私の意思かもしれない……」

 陸の後ろで友香がつぶやいた。

 彼女から言葉を紡ぐのは珍しいことだった。

「どういうこと?」

「あの赤い螺旋を壊したいと思っています。そのほうがあなたにとって良い世界のはずです」

「……」

「あの女がいないほうが……いえ」

 友香は珍しく途中で言葉を切った。ビジネスライクにすべてを言い切る友香にとっては珍しいことだった。

「地球の未来にとって敵の螺旋がないほうがいいって……だろうね、地球の偉い人たちはみんなそう言うと思う。でも僕は壊したくないんだ」

 陸は友香の思いを誤解して受け取った。

 ここまでずっとビジネスライクだった友香の思いをくみ取ることは誰だって至難の業だったかもしれない。

「助けたい。分かり合えるはずだから!」

「そう……」

 友香は真剣な陸の表情をいつも通りの無表情で見ていた。

「では、私はあなたの意思を尊重します」

 友香がそう言うと、ふっと陸の体が軽くなった。

 友香から供給されていたエネルギーが断たれたのか、獣のように暴走していた螺旋が動きを止めた。

「では、私はどうすればいいですか? 私がここにいる理由が無くなったいま私は。消えることもできませんし、螺旋の力にもなりません。私の存在意義はありません。宇宙を漂流する小惑星のように」

「……」

 陸は唖然となったが、すぐに表情を緩めた。

「友香さんはアルマゲスト語は話せるの?」

「和訳、簡単な会話程度ならば」

「じゃあ、通訳をしてほしい。アイルさんと話をするときの。アイルさんは日本語がそれなりに話せるけど十分じゃないから、その変な覚え方をしているところがあって……」

「それならば、プロの通訳を雇ってください。あなたが望めば、望むタイミングで手配してもらえます」

「友香さんのほうがいいと思うんだ。アイルさんと友香さんが話せばきっとうまくいくと思う。戦争も止められる気がするんだ」

 陸は嬉しそうにそう話した。

「だからアイルさんを助けないといけない。そして友香さんも消えちゃダメだ」

 陸はそう言って友香に微笑みかけた。

 友香は表情を変えなかったが、その瞳にはわずかに不満が渦巻いているようにも見えた。

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