21、大日本帝国
突如として地球螺旋と敵螺旋の戦いが始まった。
しかし、勝負にはならなかった。
地球螺旋の目が赤く輝いた。その目は獣のようであり、人の心を持たない狂気の輝きに満ちていた。
地球螺旋はまるで獣のような運動神経を発揮して、敵螺旋を攻撃した。
アイルはその一撃で一瞬意識を失った。
これまでに感じたことのない命の危険を覚えるようなダメージだった。
そんな敵螺旋に対して、地球螺旋は容赦なく攻撃を加えた。
地球螺旋に陸の意志は感じられなかった。狂った獣のようにその攻撃の手は止まらなかった。
地球螺旋は何度も敵を撃った。腕を振り下ろし、強烈な頭突きを喰らわせた。
螺旋の攻撃は恵梨香が指揮を執る宇宙船も認識していた。
しかし、誰もそれを止めることはできなかった。
「どうすることもできません。あれは本当に陸君が動かしているのですか? おかしいです。もし、螺旋がこちらに気づいたらこちらが攻撃されかねません。あれは子供を奪われた熊、いいえ、架空の生き物、獰猛なモンスターです」
科学者たちは怯えていた。
ある科学者が恵梨香に訴えた。
「総理、螺旋から距離を取りましょう」
「その必要はありません」
恵梨香は極めて冷静にそう答えた。
「しかし、明らかに危険です。螺旋はどうやらコントロールされていない模様。陸君の意志が繁栄されていない可能性があります」
「問題ありません。螺旋は完全にコントロールできています。こちらに被害が及ぶことはありません」
恵梨香はそう言ってにやりと笑った。
ちょうどそのとき、恵梨香のもとに緊急回線が入った。
緊急時の特別な回線だった。
この回線につなげる者は限られている。というよりも一人しかいない。
電話を入れたのはケネディ大統領だった。
恵梨香はすぐに応答した。
「恵梨香、螺旋が見つかったそうだな? 詳しく話をしてくれるか?」
「ケネディ大統領、申し訳ありませんが、螺旋はあなた方の管轄外となりました」
「ワッツ?」
「螺旋は大日本帝国の管轄となり、現時点で私が掌握する力となりました」
「恵梨香、ジョークを述べているのか?」
「いいえ、私は事実を述べているだけです。詳しい話は大日本帝国設立の宣言日にお話ししましょう。我々は地球から独立し、大日本帝国を制定します」
「……」
ケネディは難しい顔をした。
ケネディは優秀だった。これまでの情報を思案し、いま起きていることをある程度理解した。
「恵梨香、君は螺旋のことを我々以上に知っていたのだな?」
「おっしゃる通りです。螺旋についての資料をすべて提示したわけではありません」
「すべてはこの時を狙っていた。そういうことか? 君ならそういうこともあるかもしれないとは思っていた」
「けれど、日本がアメリカを裏切るはずがない……あなたは歴史を信じたのでしょう?」
「そうだな。日本はアメリカの鎖を解くことはできないと……たしかに考えてしまっていた」
ケネディは努めて冷静に尋ねた。
「教えてくれないか、いま螺旋に起こっていること。君が螺旋を動かしているのか? 秘書から聞いた話では、螺旋はバーサーカーのように暴れまわっていると。このまま地球もアルマゲストも滅ぼしてしまうのか?」
「すべてを亡ぼすことは大日本帝国の理念に反することです。地球人もアルマゲスト人も今まで通り醜い争いをしていただいて結構です。我々は超銀河の世界を目指しますので、皆様にご迷惑をかけることはありません」
恵梨香は伝えることをすべて伝えると、電話を切った。ビジネスライクなところは友香と同じだった。
「さて、まもなく仕事は終わりそうですね」
恵梨香は暗黒宇宙のほうに目を向けた。
螺旋は敵螺旋に容赦ない攻撃を繰り返していた。
それは陸が操っている螺旋ではなかった。
明らかに意志を持たない何かが螺旋を動かしていた。
その動きは獣に似ている。目の前の獲物だけに集中し、そして容赦がない。息の根を止めるまで攻撃の手を止めることがなかった。
「総理、申し訳ありませんが、我々の意志でこのエリアから離脱させていただきます。よろしいですね?」
科学者ら3人が総理のもとにやってきてそう伝えた。
「このままでは螺旋の攻撃の影響を受けます。その影響はエンジンが故障するというレベルではなく、宇宙船そのものの大破です」
「私を信用しないのですか?」
「これは乗組員の総意です。命の危険が差し迫っている中でここにとどまることはできません」
「それなら仕方ないですね、いいでしょう、きちんと説明させていただきます。文章にまとめたものを15分以内にあなた方に送りましょう。それまでここで待機してください」
「しかし15分後には宇宙船が大破してしまうかも……」
「心配には及びません。螺旋は私のコントロール下にありますので。大日本帝国の誕生です。あなた方は原初の住民になるのです」
「……」
科学者ら3人はみな黙り込んでしまった。
陸はいま暗闇の中にいた。
螺旋と一体化した後、本来なら人間を超越した視力が得られるはずだった。
しかし、いまは何も見えない。前は真っ黒だった。
「何が起きているんだろう……」
陸は肩を気にした。螺旋と一体化してからずっと何かが肩にのしかかっているような感じが続いていた。
それが視界を遮っているのかもしれない。
「xyz!」
そのとき、陸の耳に少女の声が響いた。
「xyz!」
「xyz?」
陸はその言葉の意味はわからなかった。しかし、その声のひっ迫度合から何か助けを求めているのではないかと思った。
「アイルさんの声……」
陸はアイルの声だと悟った。アイルのこのような逼迫した声は初めて聞いたので最初はわからなかった。
「アイルさん、聞こえる? 何があったの?」
声は返ってこなかった。
「一体何が……」
陸は目を閉じた。
何が起こっているかはわからない。しかし、陸には強い意思があった。
アイルに何かがあったのなら、助けてあげたいと。
もう戦いたくないと。
戦うのではなく力を合わせたいと。
螺旋の力は平和のためにあるべきだ。対立すべきではないと。
力を合わせれば、きっと今よりも素晴らしいことがあると。
陸の意志の力が高まったとき、陸の視界が開けてきた。
陸が見たものは炎上する世界だった。
あたりが炎に満ちていて、その先にいるのはぐったりと佇んだアルマゲスト螺旋の姿だった。
酸素がない世界が燃えている。核融合反応か、科学を超越した螺旋の力なのか。
1つだけ言えるのは、アイルと一体化しているアルマゲスト螺旋が暴力にさらされているということ。
「誰がこんなことを……」
陸は動揺した。こんなことができるとすれば螺旋以外にない。螺旋は核兵器ですらダメージを与えられなかったのだから。
「くそ、やめろ、止まれ!」
しかし、螺旋は陸の意思には従わなかった。
陸の命令に反して、螺旋は敵螺旋を攻撃した。
抵抗できない敵螺旋に対して、拳を何度も振り下ろした。
すさまじいパワーとスピードだった。
すっ飛んだ敵螺旋に対して、その距離を詰める螺旋のほうがずっと早かった。
数十万マッハに到達しているかもしれない。これが本来の螺旋の力なのかもしれない。
距離を詰めた螺旋は敵螺旋の首根っこを掴み上げた。
無防備なボディに何度もパンチを撃ち込んだ。
赤い炎が上がった。
「やめろ! なんでやめないんだ! 言うことを聞けよ!」
陸は何度も叫んだ。
しかし、螺旋は収まるどころか、さらに激昂して、攻撃を繰り返した。
「やめろ! やめてくれ! こんなことは望んでいない! やめろ!」
「もうすぐ終わるから」
陸の叫び声の間に、少女の静かな声が割って入った。
「誰?」
「もうすぐ終わる。そうすれば私は消えてなくなって、残るのは1つの螺旋とあなた。あなたが新世界の神になるの」
「なんだって?」
「世界が変わるの。あなたが望む世界になる。私はあなたを新世界に導くためにある存在」
「……」
陸はゆっくりと振り返った。
青白い光の中に人影が浮かび上がっていた。
寂しい顔、いや寂しいのではなく彼女の基本の表情で、それ以外に表情を知らないだけなのかもしれない。
「友香……さん?」
「私はまもなく役割を終えて消えてなくなる」
友香は青白い光の中でいつも通り冷たくそう答えた。
「ど、どういうこと……?」
友香は静かに口を開いた。




