19、不都合会話
恵梨香はケネディがアルマゲストとの会談に臨んでいる間、螺旋の捜索現場を指揮していた。
ローラの光が輝く暗黒宇宙の一端に巨大な宇宙船が漂っていた。
恵梨香は娘の友香と数人の科学者を携えて、螺旋が消えたと予測されたポイントを見ていた。
「何か大きなエネルギーが突発的に生じたとは考えにくいですね。巨大隕石ならば我々の技術で観測できるはずですし、磁気系のエネルギーは特にシステムインベーダーは精密にキャッチします。もっとも、螺旋の神秘の力を考えれば何があってもおかしくはないのですが」
科学者はそのように説明した。
「観測を続けてください。私は少し席を外します」
「わかりました」
恵梨香は科学者に現場を任せて歩き始めた。
「友香、ついて来て」
恵梨香に呼ばれて友香はうなずいた。恵梨香の後に続いて静かに歩き始めた。
螺旋捜索は空回りした。
現代科学の観測では螺旋が消えた理由を説明することはできなかった。
陸とアイルは今なお荒野をさまよっていた。
あれから小一時間は歩いただろうか。
「xbbbbxxxxx」
アイルがうんざりした声をあげて立ち止まった。
陸も立ち止まりたい気分でタイミングを計っていたので、ちょうどよく立ち止まった。
「このまま歩いても何も変わりませんね」
「歩くことやめた」
アイルは大地に座り込んだ。
ずっと歩いていたが、景色はまったく変わらなかった。
同じ場所をグルグルと回っている可能性さえあった。
陸は立ったままあたりを見たり、うんざりした様子のアイルの姿を見ていた。
冷たい風が吹いた。アイルの長い髪がなびいた。
陸はその様子を口をぽかんと開けて見ていた。
「xb?」
「え?」
「何かの用事があること?」
「えっと……いえ……」
陸は目をそらしてアイルから少し離れたところに座った。
「なんでそこ座ること?」
「いや、だって……」
「あーた、それでも軍人? 男? なんかよいことのアイデアとか出すことしないこと?」
アイルは立ち上がって怒りの表情になった。
「そんなこと言われても……」
「もじもじ人間。おそらく、そう言う、あーたのこと」
アイルはずかずかと近づいて来て陸の隣に座った。
「直近のことの置くこと意味わかってる?」
「それは翻訳が必要です」
「……」
アイルは頭を抱えた。
「ここにいることから抜け出すこと。呉越同舟」
「それはわかってるよ。でも方法と言われてもずっと歩く以外に方法なんかないよ。でも歩いても意味ないし」
陸は遠くに目を向けた。どこまで歩いても何も変わらない。ここで待っていても何も起こらなかった。
「君は何かいい考えがあるって言うの?」
陸がそう聞くと、策がなかったのか、アイルは黙り込んだ。
「なんだよ、そっちだって何もないのに僕に押し付けないでほしいよ」
「何を言った? いま?」
「え、いいよ。どうでもいいことだから」
「私の悪いこと言った。日本語、感じは雰囲気でわかる」
アイルは顔を近づけて不満そうにそう言った。
「何も言ってないよ。それよりここにずっといるの?」
「他のことない。仕方ない!」
アイルは投げやりになって地面に寝転がった。
「xxx」
アイルはそう言って荒野に奇跡的にきれいに咲いていた花に手をやった。
「xxxって花って言うんだ」
「それ知らない、馬鹿アホドジ間抜け」
アイルは花を見ながら、豊富な悪口を連ねた。
「僕だって知ってるハーベスト語はけっこうあるよ」
「言って」
「yxyyyx」
「v?」
「yxyyyx」
陸はアルマゲストのアニメに出てくる陸の好きな言葉だった。
日本語に訳すると「かわいいけど変な女」という意味があり、俗語に値する。
「知らないの?」
「そんな言葉ない。何こと?」
「知らないならそのままでいいよ」
「教えろ」
「いいって」
正直に言ったらなんて言われるかわからないから陸は言わなかった。
「そういえば」
アイルは体を起こした。
「あーた、私のお母さん、何のことで知ってる? あーたまだ答えてない」
「あー、それは……リレイル・ノートさんはモデルで、写真集が地球でも売られていたからだよ」
陸は素直に答えた。あまり答えたいことではなかった。
「あーた、それ買ったこと?」
「うん、まあ……」
「汚らわしい、クズ、変態、ロリコン、マザコン」
アイルは汚らわしいものを見るようにそう言った。
「どこで覚えたんだよ、そんな言葉」
「お母さんの写真集であーた毎晩、一人旅?」
「一人旅?」
それは自慰行為のことを示しているのだろうか。たしかにその経験が何度かあった。
「汚らわしい、お母さんで一人旅、クズ変態の極み!」
「なんだよ、写真集ぐらいでそんなこと言われるいわれはないよ」
「お母さんも黒歴史。人に見せる裸、信じられない」
アイルはぶつぶつと母親の文句を言った。
母親の仕事にはあまり誇りを持っていないようだった。
「お母さんのこと嫌いなの?」
「別に。好き嫌いこと関係ない。親子の義務のことだけ」
それはあまり好きではないということなのだろう。
「お父さんは?」
「戦争で死んだこと」
「あー、そっか……」
「私のことばかり、あーたは?」
「僕のお母さんは病気で亡くなった。お父さんはわからない。物心ついたときにはもういなかったから」
「c……」
それからしばらく会話が途切れた。
冷たい風がより冷たく感じた。
「あ……」
陸が地平線に目を向けたときだった。
空から赤い一筋の雷が見えた。その雷は地平線の奥に落下したようだった。
「アイルさん、見て」
「g?」
「何か落ちたよ、行ってみよう」
陸は先に歩き出した。
「邪魔が入ったのね。誰よ」
アイルは立ち上がった。
もう少しここにいたいと思っていた自分の心から目をそらすと、陸に続いて歩き出した。




