18、アイルと陸
陸はアイルに対して、なつかしさや既視感を覚えていた。
ハビオン原人は美人が多く、地球とアルマゲストが交流するようになってから、アルマゲストを代表するモデルたちの写真集が地球で発売されるようになった。
アルマゲストは規制が乏しく、モデルたちがモザイクなしのヌードを堂々とさらけ出していた。
日本では性表現の規制が高まり、十分に修正が行き届いて販売されていたが、インターネットでは原本が当然のように出回っていた。
陸も年頃になっていたので、インターネットで原本を見つけてたしなんでいた。
高い人気を博したモデル「リレイル・ノート」は陸の一番のお気に入りだった。
リレイルはまるで創作物のような美貌とスタイルを誇っていた。陸はリレイルの写真集をすべて手に入れていた。
アイルにはそのリレイルと類似した面影があった。
陸はひょっとしてと思った。
「あの、アイル・ノートさんと言いましたっけ。ひょっとしてあなたのお姉さんにリレイル・ノートさんという方がいませんでしたか?」
出会ったばかりであり、螺旋の搭乗員でもあり、ここがどこかもわからないという状況で聞くことではなかったかもしれない。
しかし、陸の好奇心が優っていた。
「間違いの訂正のことから、リレイル・ノートは私のお母さんという立場のこと」
アイルは腕を組んで陸を見下ろした。
「疑問視のことのあーたが私のお母さんを知っているのはなぜ?」
「それは……」
陸は顔を赤くした。正直に答えるのは憚られた。
「それを置くことの優先することの話」
アイルは懸命に日本語を使った。日本語が上手なのか下手なのかわからなかった。陸は何とかアイルの言葉を理解した。
「あーたが偽螺旋の神官?」
「はい」
「メガッサびっくりだわ」
アイルは予想外の日本語を使った。日本語を勉強するに際して、アニメのキャラクターか何かのセリフを覚えたのかもしれない。
「日本人、知ってる。福沢諭吉、野口英世、与謝野晶子」
陸はうなずいた。
「大谷翔平、鳥山明、宮崎駿」
陸はうなずいた。
「小島よしお、猫ひろし、あばれる君」
「はあ……通なんですね」
陸は複雑な表情をした。
「自分の来たことの場所、あーた、知ってる?」
「わからない。さっきまで温かい場所にいたけど、気が付くとここに……」
陸は立ち上がり、あたりを見渡した。
地平線の先まで灰色の世界が広がっていた。
空には宇宙空間そのままのような星空が広がっている。
大地には見たこともない花が半分枯れたままでぽつぽつと咲いていた。
冷たい風が頬を打ってきた。
生物が住めるような世界ではなかった。
しかし、澄んだ空気で満たされていて、呼吸に苦しさはなかった。
「bbbhhlblv」
アイルがアルマゲストの言語で何かをしゃべり歩き出した。
「どこへ行くんですか?」
「bbbkkbbb」
「あの、僕にわかる言葉で伝えてください」
「面倒臭いということにある」
アイルはうんざりした様子でそう言った。
陸はアイルの隣に並んだ。
「ごめんなさい。でも僕、そっちの言葉はわからないから。kkとbkとkvぐらいしか」
「bkbkbbk?」
陸は顔を横に振った。
「それは豚に真珠だこと」
アイルは慣用句として学んだであろう言葉を使ってきた。
「呉越同舟のこと。わかるですか?」
「わ、わかりました」
陸はうなずいた。
「ここ出ること考えることの最初」
「こっちに行けば出られるんですか?」
「kbvvkのことbccbk。kxvvvkv」
アイルは考え事をするようにそう言った。日本語を使うことを忘れて何かを考えていた。
「kbkbkkkjk」
「日本語でお願いします」
アイルはしばらく考えて、
「生まれたことの前のことの世界、ここ。kkkkの9のページに書いてあるklk、kkkvk、進んだこと後に生まれるここのこと」
「わかるようなわからないような……ここは生まれる前の世界ってことですよね」
陸はこの世界に来る前、とても心地良いゆりかごの中にいた。
そのゆりかごの中でアイルの姿を見つけ、手を伸ばした。
その結果、この地にやってきた。
アイルもそうなのかもしれない。
「アイルさん、ここに来る前、どこにいた?」
「kkxlxkkfkxx」
「日本語でお願いします」
「極端に面倒くさいということ!」
アイルは怒り口調でそう言った。
「赤い世界、赤い……赤い世界!」
うまく説明できなかったのか、それ以上の情報は得られなかった。
陸がいた世界も赤い世界だった。
やはり同じ場所にいたのだ。
ということはここはそのゆりかごの赤い世界の先にある世界。
陸は螺旋としてブラックホールに呑み込まれた瞬間のことを思い出した。
「ここはひょっとして事象の地平面とかいうやつかも。科学者の人から聞いたことがある。光さえも抜け出せない世界が停止する世界がブラックホールにはあるって」
「なに? なんか言ったこと?」
「光も抜け出せないのに抜け出す方法があるのか?」
「何を言ったこと? 光と方法はわかった。それ以外は?」
「つまり、出ることできることあるかわからない」
二人は同時に足を止めた。
「私もわからない。続いていること無限のこと」
アイルが指出した先には彼女が言ったように無限のような荒野が続いていた。
永久にさまよい続けるしかないように見えた。




