14、核兵器
アルマゲストとの会談は陸には知られなかった。
今回の会談は、停戦合意などがあったわけではないが、お互いに螺旋の力を公式に認識し合う重大なものとなった。
今後のかじ取りはとても難しいものになる。
和平的な道を目指すのか、螺旋を巧みに利用して宇宙戦争を進めていくのか。
ケネディは精鋭を集めて今後の方針について識者の意見を聞いた。
「アーマードの言っていたことは信用できんな。螺旋のパイロットをいきなり会談に出すなどありえることか。ゆさぶりをかけてこちらの様子をうかがっているのだ。前回の戦いを分析するにこちらの螺旋のほうが格上だ。今のうちに敵の螺旋を叩いてしまうべきだ」
「螺旋に依存した宇宙戦争の継続はこちら側にも大きなリスクがあります。これをチャンスに平和路線に舵を切るべきだ。アーマード元帥が求心力を持っている今こそ平和の最大のチャンスだ」
さまざまな意見が出たが、どの意見も二つ返事で返せるような簡単な話ではなかった。
いずれにしても、地球の命運は日本の少年「陸」に背負わせるしかない。
螺旋の力は絶大。しかしその力はたった一人の少年の手に握られていた。
その陸はアックスの熱い指導のもとでウエイトトレーニングに精を出していた。
「いいか、挙上の際には、「おりゃあああ、でやああああ、どりゃああああ」だ。気合とハートが大事なんだ。心があれば隕石だって跳ね返せる。太陽だって粉砕できるのだ。月は優しく抱きしめてやれよ」
アックスの始動ははちゃめちゃだったが、一理もあった。たしかに螺旋は隕石を跳ね返し、太陽を粉砕することができるのかもしれない。
陸のトレーニングには、友香が帯同し、彼女は精緻に記録をつけていた。
「ベンチプレス27キロ、デッドリフト41キロ、スクワット36キロ。現時点では高校生平均に程遠い筋力と言わざるを得ません」
友香はいつもどおりさらりとそう言った。
陸は恥ずかしそうにうつむいた。
「なーに、気合とハートで何とかなるさ。為せば成る。笑えば月。跳べば太陽。そんで、叫べば宇宙だ。な? 日本の有名なことわざだろ?」
「そんなことわざ、僕は聞いたことないですが……」
陸は困惑した。
しかし、アックスとのトレーニングはとても楽しい時間だった。
アックスの指導は男らしいことを一度もしてこなかった陸の心に火をつけるものだった。
アルマゲストとの会談から一週間が経過した。
会談の後、さまざまな方針がシミュレーションされた。
平和を目指し、外交を強化する方針。
宇宙戦争を継続し、螺旋を効率よく運用する方針。
いずれも議会で繰り返し議論された。
優勢になったのは宇宙戦争を継続する方針だった。
兵器開発も螺旋をサポートするのに適したものが研究されるようになった。そのための予算も特別に承認された。
「螺旋を滞在させるコロニーをさらに増やすべきだ」
「磁気系の兵器が有効ではないか。螺旋が強力な放電攻撃を可能とするなら、合わせ技で敵軍の電子機器を軒並み破壊できるかもしれない」
螺旋を前面に出した宇宙戦争構想が進んでいった。
そんな矢先のことだった。
アルマゲストの会談後初めて、敵が螺旋を戦場に投入してきた。
「敵螺旋の出現を確認」
第一報が入ると、M25コロニーが慌ただしくなった。
ケネディはすぐさま観測室に向かった。
「出現位置を詳しく」
「暗黒宇宙帯、35画。う……高速で突っ込んできます」
技術者の一人が狼狽した。
これまでの敵螺旋は、敵の慎重な法規に則った行動を取ってきた。
無理な攻撃はせず、短時間で撤退させることが多かった。
しかし、今回は短期で暗黒宇宙帯を飛んできた。
地球圏に向けて、マッハ30000を超える速度を出していた。
「地球を直接攻める気か? なんと大胆な」
ケネディは目を細めた。
ありえないと思ったが、実際にそうされると対策は何も思いつかなかった。
螺旋が単騎で暴走した際に、現代科学に何ができるだろうか。
一応、マニュアルにはさまざまある。
地球圏までの道のりには多くの超音速核兵器が配備されている。
緊急事態の際には、核兵器による防衛手段がマニュアルに記されている。
そのスイッチはケネディの手に握られている。
だが、しかし……。
「核兵器か……ドラゴンを金属バットで退治するようなものか」
ケネディはそう言ったが、その通りだった。
突進してくる敵螺旋に対して、核兵器が使用された。
核兵器の使用はこれが3度目。
過去2度の使用実績にたいしたものはなかった。
「宇宙で核兵器を放つということは、熱湯風呂に氷を落とすようなものだ」
科学者はそう口をそろえた。
核兵器の有効性は宇宙戦争では確認されなかった。
コロニーが広く散らばり、暗黒宇宙帯の強力な磁場にあっては有効な攻撃手段とならなかった。
放射能は磁場に跳ね返され、強力な宇宙線に吸収され、地球圏へ降り注ぐ。
その強力な宇宙線は地球の磁場に跳ね返され、地球圏コロニーの間で卓球ラリーが繰り広げられる。
宇宙は人類の歩みのあらゆるをことごとく否定してきた。
それでも、螺旋を止められるなら、核兵器を使う以外の道はなかった。
ケネディは核兵器のボタンに手をかけた。自身就任後の2度目のプッシュになった。
「一度も押したくなかったがな」
ケネディはスイッチを押した。
2つの各発射台コロニーからロケットが放射された。
高速で敵を追尾し、核兵器を起動する。
宇宙空間で核兵器を爆発させるためには水素が用いられる。
水素の核融合反応を用いて強烈なエネルギーを放出する。
核融合は人類が発見した最大の破壊力。
ほんの少し前までは、核兵器をいかにして抑止するかが人類最大のテーマだった。
その人類の最終兵器である核兵器を使わざるを得ない状況だった。
だが、人類の最終兵器は螺旋には通じなかった。
「核兵器炸裂。巨大なエネルギーをキャッチ。しかし……」
核兵器のエネルギーの中、敵螺旋は悠々と通過してきた。
「核兵器が通じないとは……」
科学者たちは失望していなかった。螺旋に対して核兵器が無力であることはすでにわかっていたことだったからだ。
科学者たちは失望していない。敵螺旋に通用する兵器をこちらも持っていることを知っているからだった。
「大統領に、螺旋の出撃を要請します」
科学者たちはみな一斉に頷いた。いまや人類の最終兵器は核兵器ではなく螺旋だ。
螺旋起動の要請はすぐにケネディのもとに届いた。
ケネディは立ち上がり、天井を見上げた。
「私はこの世で最も大きな力のスイッチを握りしめているわけではない。私が動かすのではないのだから」
「陸少年はあなたの命令に従うでしょう。彼は秩序に従う少年です」
秘書が言った。
「秩序か……」
ケネディは色々と思うところがあったが、いまは敵螺旋を止めることが優先だった。
「陸につないでくれ」
ケネディは螺旋起動を要請した。




