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11、銀河を賭けた戦い

 緊急事態はM25コロニーも気づいていた。

 遠くの宇宙から伝わってくる異常なエネルギーを分析すれば、螺旋がどのような状況にあるか掴むことができた。

「螺旋が攻撃に入りました。しかし、様子がおかしいです」

 作戦を見守っていたケネディがコンピュータ画面をのぞき込んだ。

「星と星が高速で衝突したような強力な重力波を複数に渡り観測。まるでボクシングです」

「どういうことだ? まさか敵螺旋との交戦に入ったのか?」

 ケネディが狼狽している後ろから、日本総理大臣の恵梨香が顔を覗かせた。彼女は常に冷静だった。

「敵螺旋との交戦は計画にない。ここまで敵螺旋の動きがなかったが、ここで出てきたか……」

 それはケネディが懸念していたことの1つだった。

 螺旋と敵螺旋が衝突すること。

 2つの強大な力が激突した結果は誰にも予想できない。

 しかし、起こってしまった以上は見守るしかない。

 2つの力を止める科学力はまだ地球にもアルマゲストにもなかった。


 螺旋と敵螺旋の衝突は広大な暗黒宇宙の中で行われた。

 喧嘩の素人である陸が腕を振り回すと、敵螺旋が吹き飛んだ。

 その距離、地球の円周2つ分に相当する。

 態勢を立て直し、敵螺旋が向かってきた。強靭な前腕で螺旋を切り刻んだ。

 その様子を見ていた恵梨香がぼそりつつぶやいた。

「素人の取っ組み合い」

 陸は間違いなく戦闘の素人だったが、敵螺旋も武術の達人ではないと見ていた。

 銀河を賭けた戦いは素人の手に握られていた。


 さんざん殴り合った後、敵螺旋が先に後退した。

 陸はしばらく敵螺旋を追いかけたが、途中で冷静さを取り戻した。

 螺旋は動きを止めた。

「いてっ……」

 冷静さを取り戻した陸は体のところどころに痛みを覚えた。

 どうやら螺旋に入ったダメージは陸にも与えられるようだった。

 陸は螺旋を操縦する中で、自分が螺旋の手足になっている感覚があったが、本当に一体化しているようだった。

 陸はダメージを受けた場所を手で押さえた。

 ずっと昔の喧嘩のことを思い出した。

 あれはまだ小学校に上がってまもなくのこと。

 通学路で偶然出会った外国の女の子と喧嘩になった。

「kkkkkklllllbbbbbb」

「何言ってるかわかんないよ。知らないよ」

 陸は言葉がわからなかったので、女の子に背を向けて立ち去ろうとした。

 すると女の子が突然泣きながら襲い掛かってきた。

 爪でひっかかれた。

 陸は懸命に女の子を振り切ると走ってその場を離れた。

 あのときに受けた爪の傷の痛みを思い出した。

 陸が受けたダメージはあのときの痛みに酷似していた。

「懐かしいな……まだお母さんが生きていたころだ……」

 陸は目を遠くした。


 陸は地球陣営の拠点に帰還した。

 銀河を賭けた戦いは引き分けに終わった。

 陸はアックスの通信を受けるところまで戻ってきた。

「おーい陸、聞こえるか? やったな。すげえガッツだったぜ。わかるよ、ここにいても、男のガッツが。それに対して敵は女々しいやつだ。すぐに逃げ出しやがって。敵に背中を向けるってことは負けってことだ。男の風上にも置けないやつだぜ」

 アックスは愉快に喚いた。

 陸はアックスの話を聞いて、敵螺旋を操縦しているのは女性なのではないかと予想した。


 陸は無事帰還した。

 陸が帰還すると、すぐに螺旋のボディチェックが行われた。

 しかし、損傷は見当たらない。敵螺旋の攻撃にさらされても、その体はびくともしなかったようだ。

 陸は自分の体が螺旋そのものなのだと実感していた。自分の体が朽ち果てるときが螺旋の最後なのかもしれない。


 陸はいつもどおりケネディたちに温かく迎え入れられた。

「陸、良くやった」

 ケネディは陸を抱きしめた。しかし陸に正式に伝えなければならないことがあった。

 ケネディは陸に敵螺旋のことを伝えることにした。

「陸、すまなかったな。敵螺旋の存在は以前から突き止めていたのだが、君にプレッシャーをかけないために極秘情報として扱われていたんだ。すまなかった」

「いえ……」

「陸に聞きたいことがある。敵螺旋のこと。気が付いたことを何でもいいから話してほしいんだ」

 ケネディのもとに科学者が集まってきた。

 敵螺旋を分析するために、多くの科学者が結集していた。

 彼らは一つでも多く敵螺旋の 情報を知りたがった。

 しかし、陸の説明はまるで陳腐なものだった。

「犬みたいな感じで、爪があって。こう、どーんと重たいけど小回りが利いて、すごい勢いでどーんとぶつかってきて、こうどかーんって」

「ありがとう、大変参考になったよ」

 科学者は陸から少しの話を聞くと、多くが立ち去って行った。

 ケネディは再び、陸と向かい合った。

「今後も敵螺旋と敵対する可能性がある。そのとき、敵螺旋を止めることができるとすれば、君しかいない。そこでだ」

 ケネディはアックスを呼び出した。

 アックスは嬉しそうな笑みを浮かべてやってきた。

「なんでしょうか、大統領」

「アックス、軍の体術を陸に指導してほしい。螺旋の力は陸自身の力でもある」

 ケネディは報告書に目を通しながらそう言った。

 ケネディの報告書には螺旋VS敵螺旋の戦闘状況が記されていた。

 分析班が波動をキャッチしてその戦闘の様子を再現していた。

 その報告書によると格闘技の心得がない者たちの殴り合いが展開されていたようだった。

 もし、陸に戦闘の心得があれば、あるいは敵螺旋を破壊できていたかもしれない。

 そうすれば、地球軍の勝利は確実だったかもしれない。

「任せてください。おれの必殺のぶん回しアイアンパンチを陸に伝授します。そうすれば、宇宙に敵なしさ」

 アックスは冗談か本気か分からない様子で腕をぶんぶんと回した。

「陸、おれの800ある必殺技のすべてを伝授してやる。楽しみににしてな」

「は、はあ……よろしくお願いします」

 陸の世にも奇妙な新しい訓練が始まった。

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