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自殺の催促

日曜日の朝。



本来なら、一週間の疲れを癒やすための穏やかな朝食の時間が、早苗にとっての「終焉」の始まりとなった。


 食卓に並べられたトーストとコーヒー。早苗は、昨日の萌の囁きによる疑心暗鬼を「私の妄想よ」と打ち消そうと、無理に笑顔を作っていた。だが、優太の目は、一度も彼女と合わなかった。


「……ねえ、早苗。ちょっと、大人しくしててくれるか」


 優太が呟いた瞬間、背後に立っていた義母・正江が、驚くべき力で早苗の肩を押さえつけた。


「な、何を……? 優太さん、お義母様!?」


「うるさいわね、この出来損ない。あんたのその『正しい顔』、もう見飽きたのよ」


 正江は嘲笑いながら、用意していた太いビニール紐で、早苗の両手首を椅子の背もたれに、両足首を脚へと、手際よく縛り付けていく。銀行員として培った早苗の論理的な思考は、このあまりにも非日常的な暴力の前に、完全にフリーズした。


「……よし。母さん、ありがとな。」


「ええ。せいぜい、たっぷり『お勉強』させてあげなさいな。ふふっ」


 正江は満足げに、上機嫌で玄関から出ていった。



家の中には、拘束された早苗と、冷徹な瞳をした優太だけが残された。



 そこへ、入れ替わるようにして、リビングに「彼女」が現れた。


 萌だった。


 彼女は、朝の光の中ではおよそ不釣り合いな、黒いレースの透けるようなベビードール一丁だった。豊かな胸が溢れんばかりに強調され、太ももの付け根まで露わになったその姿は、この家を完全に「娼館」へと塗り替えていた。



「お姉さん、おはよう。……特等席だね」



 萌は、椅子に縛り付けられた早苗の顔を覗き込み、その頬をあざ笑うように撫でた。


「やめて……っ、優太さん、助けて! 萌さんを追い出して……っ!」


 早苗の悲痛な叫び。だが、優太はそれに応えるどころか、萌の腰を引き寄せ、早苗の目の前で、彼女の首筋に深く唇を寄せた。


「……いい匂いだ、萌」


「優くん……。お姉さんの前だと、余計に興奮しちゃうね」


 二人は、早苗のわずか数メートル先にあるリビングのソファに、絡み合うように倒れ込んだ。


 早苗の瞳孔が、恐怖と絶望で大きく見開かれる。


 眼前で繰り広げられるのは、自分が「悪夢だ」と信じ込もうとした、あの夜の続きだった。


 萌は、早苗から視線を逸らさないまま、優太を誘い、見せびらかすようにフェラを始めた。



下品な音に反応するかのように、聞いた事がないくらいに喘ぎ出す優太。



そして、避妊などする素振りもなく、反り立つ優太の肉棒を萌の腟が迎え入れた。




【グチャッ】



全てが壊れるような挿入音が響く。



 肉体と肉体がぶつかる生々しい音、粘り気のある愛撫の音、そして優太の、聞いたこともないような野卑な呻き声。それらすべてが、早苗の鼓膜を物理的に破壊するかのように響き渡る。



「ん……っ、ぁあッ! 優くん、もっと……っ! お姉さん、見てる……? ほら、貴方の旦那様、萌のここが大好きだって……っ!」



 萌の声は、もはや猫なで声ではない。


早苗の理性を、その尊厳を、徹底的に踏みにじるための凶器だった。


 早苗は首を振り、目を閉じようとした。だが、優太が冷たく言い放つ。


「見ろよ、早苗。お前が一度も俺に与えなかったものを、萌は全部持ってるんだ」


 早苗の中で、何かが「パチン」と音を立てて切れた。


 自分が毎日、栄養バランスを考えて作った食事。

 自分が毎日、アイロンをかけたワイシャツ。

 自分が必死で守ろうとした「佐藤家」の輪郭が、目の前の、下らなくて、卑猥で、動物的な光景によって上書きされていく。



「あはっ……ぁ、あ……っ! ねえ、優くん……! お姉さん、どんな顔してる? もう狂っちゃったかな……っ?」



 萌は絶頂の中で、早苗の顔を指差し、狂ったように叫び始めた。



「あー、はやく飛び降りてくれないかなあ! お姉さんが死なないと、この保険金、入ってこないんだよぉ……っ! はやく、はやく死んでよお姉さん!!」



「萌、言い過ぎだぞ……っ、くっ、ああ……っ!」




 優太は口では制しながらも、その萌の「殺意」に煽られるように、さらに激しく腰を振る。


 二人の欲望は、早苗の「死」という共通のゴールに向かって、加速していく。


「死んで! 死んでよ! お姉さんが死ぬのが、一番の家族サービスだよぉ……っ! ぁあ、あああぁッ!!」



 萌の絶叫が、リビングの天井に突き刺さる。


 早苗は、縛られたまま、ガタガタと椅子ごと震えていた。

 


「あ……あ、あは……。あはははは……」

 


 早苗の口から、乾いた、壊れた時計のような笑い声が漏れた。


 涙はもう出ない。眼球は血走り、視界は赤く染まっている。


 信じていた夫。


 可愛がっていた幼馴染。


 彼らが今、目の前で自分の死を願いながら、結合している。

 

 早苗の脳は、このあまりにも巨大な苦痛を処理しきれず、ついに「現実」を切り離した。


 彼女には、目の前の二人が、巨大な、醜悪な泥の塊がのたうち回っているように見えていた。その泥の中から、黄金の保険金が溢れ出し、自分の身体を飲み込んでいく幻覚。


「……そうね。私が死ねば、みんな幸せ……。ふふ、ふふふふっ!」


 早苗の笑い声は、萌の喘ぎ声と混ざり合い、佐藤家の中に地獄の三重奏を奏でた。



そして、優太は大量の精子を萌の腟内にぶち撒けていた。



 行為を終え、汗だくの体で離れた優太と萌は、椅子の上で首を垂らし、奇妙な笑みを浮かべながらブツブツと独り言を繰り返す早苗を、冷めた目で見つめた。


「……優くん。お姉さん、やっと『完成』したみたい」



 萌は、裸のまま早苗に近づき、自分の腟を目の前で開いて見せた。


ドクドクと優太の白い精子が溢れ出し、太腿を伝って流れてくる。



その精子を人さし指で絡め取る萌。



早苗の右頬にソレを擦りつけながら、

萌は耳元で最後の一押しを囁いた。



「……ベランダまで、一緒に行こうか。お姉さん」




 狂気に堕ちた悲劇のヒロインは、もはや反論する言葉も持たず、ただ、壊れた人形のように揺れ続けていた。


(第17話へ続く)

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