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未来の失敗が見える子供は、全部避けて進む ~一歩ずつ間違えない選択が、世界を変えていく~  作者: 黒川レン


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第8話 外から来る火

 次は、屋敷の外だ。


 その結論に至った時点で、選択肢は限られていた。


 外部の人間を調べる。

 つまり――父を動かす。


 だが、それは難しい。


 内部の問題は目の前にある。

 焦げ跡も、帳簿の差し替えも、すぐに確認できる。


 だが“外の敵”は違う。


 見えない。

 証拠もない。

 動く理由も薄い。


 だからこそ、父は優先しない。


 合理的に考えれば、当然だ。


 そして、その合理が破綻を招く。


 地下から戻った後、屋敷の空気は完全に変わっていた。


 人の動きが速い。

 声が低い。

 無駄な会話がない。


 戦場に近い空気だ。


 父は書斎に戻り、指示を飛ばし続けている。


「地下の出入りを記録しろ。ここ数日の動きも含めてだ」

「はい」

「帳簿の件と照合する。重なる者を優先する」


 正しい。


 だが、それだけでは足りない。


 内側を潰しても、外からまた入ってくる。


 それが今の構造だ。


 僕は乳母に抱かれたまま、静かに父を見ていた。


 どう動かす。


 何を見せる。


 何を感じさせる。


 考えろ。


 使えるのは“違和感”だけだ。


 その時――


 扉が開いた。


「旦那様、門番から報告です」


 使用人が頭を下げる。


「王都からの使者とは別に、商人が一人。今朝方、到着しています」

「商人?」


 父の眉がわずかに動く。


 いい反応だ。


 続けろ。


「はい。帳簿の件で訪問したいと」


 来た。


 繋がった。


 僕の中で、断片が弾ける。


 石畳。

 笑う男。

 炎の前に立つ影。


 その顔が、今、はっきりと重なる。


 ――こいつだ。


 外から来る火種。


 原因の一つ。


 僕は、身体を揺らした。


 小さく。


 だが、確実に。


「どうした、アルト」


 父がこちらを見る。


 いい。


 気づいた。


 僕は視線を固定する。


 使用人。

 報告。

 そして――


 “商人”という言葉。


 そこに、引っかかるように。


 父が一瞬だけ黙る。


「……妙だな」


 小さな呟き。


 思考が動き出す。


「この状況で、わざわざ来るか」


 来る。


 それが狙いだからだ。


 だが父はまだ確信していない。


 だからこそ、もう一押し。


 僕は、ゆっくりと首を傾けた。


 不自然な動き。


 赤ん坊にしては、考えているような仕草。


 違和感を強める。


「……通すな」


 父が言った。


 空気が変わる。


 使用人が顔を上げる。


「は?」

「門前で止めろ。中には入れるな」


 いい。


 変わった。


 未来が、また一つズレた。


 だが――


 それだけでは足りない。


 敵は来ている。


 しかも、すぐそこまで。


「話は外で聞く。俺が出る」


 父が立ち上がる。


 判断が速い。


 いい流れだ。


 だが、まだ危うい。


 このままでは、父が直接接触する。


 それは――危険だ。


 断片がよぎる。


 炎。

 影。

 父の背中。


 あの位置。


 あの距離。


 近すぎる。


 ここで止める。


 距離を取らせる。


 それが次の一手だ。


 僕は、大きく身体を揺らした。


 今度は、はっきりと。


「――あああああっ!!」


 泣き声が響く。


 強い。


 さっきまでとは違う。


 明確な“拒否”。


「アルト!?」


 母が驚く。


 父も足を止める。


 いい。


 止まれ。


 僕は泣き続ける。


 視線は、父から外さない。


 ただの泣きじゃない。


 意図を持った“ノイズ”だ。


「どうしたんだ……」


 父が低く呟く。


 理解できない。


 だから止まる。


 人は、理解できないものの前で止まる。


 それでいい。


「少し様子を見たほうがいいわ」


 母が言う。


 自然な提案。


 だが、十分だ。


 流れが変わる。


「……」


 父が黙る。


 考える。


 そして――


「……護衛をつける」


 言葉が変わる。


 直接接触から、間接へ。


 距離が生まれる。


 それだけで、未来は大きくズレる。


 いい。


 それでいい。


「俺は出ない。外で話を聞け」


 指示が飛ぶ。


 使用人が動く。


 流れが変わった。


 また一つ、修正された。


 僕は、ゆっくりと泣き止む。


 タイミングを合わせて。


 不自然に。


 だが、もう誰もそれを指摘しない。


 指摘できない。


 違和感が積み重なっている。


 それで十分だ。


 父が、もう一度こちらを見る。


 長い。


 深い。


 そして――


「……お前は、何を見ている」


 初めてだった。


 明確な言葉で、問いかけられたのは。


 答えはない。


 答えられない。


 だが――


 伝えることはできる。


 僕は、静かに父を見る。


 ただ、それだけ。


 言葉の代わりに。


 父は何も言わない。


 だが、視線が変わった。


 完全ではない。


 だが、確実に。


 “ただの赤ん坊”を見る目ではない。


 関係が、変わった。


 ほんの少し。


 だが、決定的に。


 その瞬間――


 頭の奥で、最後の断片が弾けた。


 門前。


 男が立っている。


 笑っている。


 護衛と話している。


 そして――


 懐から、何かを取り出す。


 小さな、黒い袋。


 それが、地面に落ちる。


 次の瞬間。


 炎が、上がる。


 ――罠だ。


 理解した瞬間、全身が冷えた。


 止めたはずの未来が、形を変えて戻ってくる。


 外で。


 門前で。


 もっと派手に。


 僕は、目を見開いた。


 まだ間に合う。


 たぶん。


 だが次は――


 外で、起きる。

流れは少しずつ変わっていますが、その分だけ敵の動きもはっきりしてきました。


“内側”から“外側”へ。

ここから一気に、対立が見えてきます。


もし続きを気になっていただけたら、ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次は――門の外で何が起きるのか。

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