表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の失敗が見える子供は、全部避けて進む ~一歩ずつ間違えない選択が、世界を変えていく~  作者: 黒川レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/30

第7話 地下へ

 次は、地下だ。


 そう結論した瞬間、問題が一つ浮かぶ。


 どうやって行く。


 僕は赤ん坊だ。階段も降りられない。扉も開けられない。単独行動は不可能。


 つまり――


 誰かを動かすしかない。


 それも自然に。


 疑われずに。


 僕は目を開けた。


 書斎の空気はまだ張り詰めている。父は指示を出し続け、使用人たちは慌ただしく出入りしている。


 流れは変わった。


 だが、止まってはいない。


 帳簿の問題は、表の火種だ。


 地下の“内部発火”は、裏の火種。


 どちらも繋がっている可能性が高い。


 なら――


 先に裏を潰す。


 順番を間違えると、また別の形で破綻する。


 僕は乳母の腕の中で、ゆっくりと身体を揺らした。


 小さく。


 だが、繰り返す。


「どうしました、アルト様」


 乳母が顔を覗き込む。


 僕は答えない。


 代わりに、視線を下げる。


 床。


 そして、その向こう。


 地下へ続く扉の方向。


 さっきの断片で見た位置と一致している。


 ここから、そう遠くない。


 もう一度、身体を揺らす。


 今度は少し強く。


「……お腹が空いたのかしら」


 母の声。


 違う。


 だが、それでいい。


 理由は何でもいい。


 動けばいい。


「少し散歩でもさせましょうか。気分が変わるかもしれないわ」

「この状況でか?」


 父が顔を上げる。


 当然の反応だ。


 だが、母は一歩も引かない。


「こんな空気の中に置いておくほうが良くないでしょう」

「……」


 父が黙る。


 考えている。


 いい。


 迷え。


 その間に、流れを作る。


「屋敷の中だけよ。すぐ戻るわ」


 母の声は柔らかい。


 だが、譲らない。


 父が小さく息を吐く。


「……分かった。離れるな」


「ええ」


 通った。


 僕は内心で一つ頷いた。


 これで動ける。


 母に抱かれ、書斎を出る。


 廊下はまだ慌ただしい。


 だが、少し離れると人は減る。


 静かだ。


 音が落ちる。


 空気が変わる。


 そして――


 地下へ続く扉が見える。


 重い木の扉。


 普段は閉じられている。


 だが今は、わずかに開いている。


 誰かが使った後だ。


 好都合だ。


 僕は視線をそこに固定する。


 動かさない。


 はっきりと。


 分かりやすく。


「……そっちに行きたいの?」


 母が気づく。


 いい観察だ。


 僕は身体を揺らす。


 肯定。


「地下はあまり良くないわよ。暗いし、空気も悪いし」


 当然の判断だ。


 だが、引かない。


 もう一度、揺らす。


 今度は少し強く。


「どうしたの、本当に」


 母が困ったように笑う。


 だが、足は止まっている。


 あと一歩だ。


 もう一押し。


 僕は、手を伸ばした。


 扉の方向へ。


 はっきりと。


 迷いなく。


「……そんなに気になるのね」


 小さなため息。


 そして――


「少しだけよ」


 扉が開く。


 冷たい空気が流れ出る。


 暗い。


 湿っている。


 匂いが違う。


 ここだ。


 断片と一致する。


 母は躊躇しながらも、一歩踏み出す。


 階段を降りる。


 ゆっくりと。


 一段ずつ。


 足音が響く。


 下に行くほど、音が重くなる。


 光が減る。


 影が濃くなる。


 そして――


 見えた。


 地下室。


 広くはない。


 だが、物が多い。


 木箱。


 樽。


 布。


 そして――


 奥の一角。


 何かが積まれている。


 不自然に。


 整っていない。


 急いで置かれたような配置。


 違和感だ。


 あれだ。


 僕は視線を固定する。


 動かさない。


 母も気づく。


「……こんなところに、こんな物があったかしら」


 小さな声。


 近づく。


 一歩。


 二歩。


 距離が縮まる。


 そして――


 匂いが変わる。


 焦げた匂い。


 まだ弱い。


 だが、確かにある。


 間違いない。


 火種だ。


 内部発火の原因。


 僕は身体を強く揺らした。


 今度は、はっきりと。


「どうしたの、アルト――」


 母の言葉が途中で止まる。


 気づいた。


 匂いに。


 違和感に。


「……これ」


 母が近づく。


 布を持ち上げる。


 その下に――


 黒く焦げた跡。


 まだ新しい。


 完全には燃えていない。


 だが、始まっている。


「誰がこんなものを……!」


 声が変わる。


 焦りが混じる。


 いい。


 これで確定だ。


 問題はここにある。


 しかも、すでに始まっている。


 時間がない。


「誰か!」


 母が叫ぶ。


 声が地下に響く。


 足音が上から降りてくる。


 複数。


 速い。


 父も来る。


 これでいい。


 表と裏が繋がる。


 父が階段を駆け下りてくる。


 顔が険しい。


「何があった」


「これを見て」


 母が示す。


 焦げ跡。


 匂い。


 配置。


 父の目が細くなる。


 一瞬で理解する。


 この人は、やはり有能だ。


 だからこそ――


 選択が重要になる。


「……火はまだ小さい」


 父が言う。


 落ち着いている。


 だが、速い。


 判断が。


「すぐに処理すれば問題ない」


 違う。


 それは“対処”だ。


 原因は残る。


 また起きる。


 もっと大きく。


 僕は、父を見る。


 じっと。


 動かずに。


 さっきと同じ。


 違和感を与える。


 父の視線が一瞬だけ揺れる。


 気づいた。


 完全ではない。


 だが、何かが引っかかっている。


「……いや」


 父が小さく呟く。


 思考が変わる。


「これは偶然じゃない」


 来た。


 認識の変化。


「誰かが仕込んでいる」


 空気が変わる。


 さらに。


 表と裏が、完全に繋がった。


 帳簿。


 地下。


 火。


 全部、一つの流れだ。


 いい。


 これで戦える。


 ただの事故じゃない。


 “敵”がいる。


 それが分かれば、対処は変わる。


 父が振り返る。


「全員、上に戻れ。ここは封鎖する」


 指示が飛ぶ。


 動きが変わる。


 速い。


 無駄がない。


 正しい方向だ。


 だが――


 まだ足りない。


 敵はまだ見えていない。


 火種は、これだけじゃない。


 僕は目を閉じる。


 断片が来る。


 今度は――


 人だ。


 顔が見える。


 はっきりと。


 だが――


 知らない。


 この屋敷の人間じゃない。


 外だ。


 王都。


 そして――


 その人物が、笑っている。


 火の前で。


 そこで映像が切れた。


 理解した。


 これは内側だけじゃない。


 外から、来ている。


 つまり――


 次は、屋敷の外だ。

ここまでで、第1章の流れが一気に繋がり始めました。


「帳簿」と「火」、そして“見えない敵”。

アルトが触れているのは、まだほんの一部です。


ここから先、物語はさらに大きく動きます。

もし続きを気になっていただけたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。


次は――屋敷の外にいる“敵”に踏み込みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ