第14話 見えない落とし穴
次は、地面だ。
その結論に至った時点で、やるべきことは決まっていた。
だが問題は――どうやって止めるかだ。
矢は見える。
火も、匂いで分かる。
だが、落とし穴は違う。
踏むまで分からない。
つまり――
踏ませないしかない。
屋敷の前庭。
出発の準備は、ほぼ終わっていた。
馬車が並び、荷が積まれ、護衛が配置につく。
昨日とは違う。
緊張の質が変わっている。
“待ち構える側”ではなく、“動く側”の緊張だ。
「出るぞ」
父の声が落ちる。
短い。
だが、それだけで全員が動く。
いい流れだ。
だが――
ここから先は、未知だ。
僕は母に抱かれたまま、馬車へと運ばれる。
視界が揺れる。
地面。
車輪。
足。
そして――
道。
そこに、違和感はない。
当然だ。
落とし穴は、隠れている。
問題は、その“位置”だ。
断片は短い。
地面が崩れる。
馬車が落ちる。
それだけ。
場所が特定できない。
だが――
条件は分かる。
“静かな場所”。
“人が少ない”。
“整備された道”。
つまり、街道の途中だ。
なら――
選ばせる。
その道を。
避けるように。
僕はゆっくりと身体を揺らした。
馬車の中。
狭い。
暗い。
視界が制限される。
だが、それでいい。
情報は外にある。
「どうしたの、アルト」
母が覗き込む。
僕は答えない。
代わりに、身体を強く揺らす。
不快を示す。
はっきりと。
「揺れが嫌なのかしら」
違う。
だが、それでいい。
理由はどうでもいい。
変えたいのは、“ルート”だ。
もう一度、揺らす。
今度は強く。
明確に拒否する。
「……一度止めましょうか」
母が言う。
馬車が止まる。
いい。
時間ができた。
父の足音が近づく。
「どうした」
「少し様子が変で……」
父が覗き込む。
僕を見る。
観察する。
考える。
いい。
迷え。
その間に、選択をずらす。
僕は、ゆっくりと視線を動かす。
馬車の外。
道の分岐。
左右に分かれている。
片方は広い。
整備されている。
まっすぐだ。
もう片方は狭い。
少し荒れている。
曲がっている。
断片に近いのは――
前者だ。
整備された道。
罠を仕掛けるなら、そこだ。
なら――
避ける。
僕は視線を固定する。
狭い方へ。
はっきりと。
動かさずに。
「……そっちが気になるのか」
父が呟く。
いい。
気づいた。
もう一押し。
僕は、小さく身体を揺らす。
肯定。
父が黙る。
考える。
合理で言えば、広い道を行くべきだ。
速い。
安全。
見通しがいい。
だが――
違和感がある。
それが、今の判断を揺らす。
「……時間はある」
父が言う。
小さく。
だが、決定的に。
「遠回りでも構わん。狭い方を使う」
変わった。
ルートが変わる。
未来がズレる。
大きく。
馬車が動き出す。
今度は、別の道へ。
狭い。
揺れる。
遅い。
だが――
それでいい。
数分後。
背後から、鈍い音が響いた。
遠くで。
重い音。
崩れる音。
そして――
叫び声。
短く。
だが、はっきりと。
僕は目を閉じる。
見える。
断片が、現実と重なる。
広い道。
地面が崩れる。
穴。
落ちる。
誰かが。
間に合わなかった者が。
僕はゆっくりと目を開ける。
成功だ。
回避した。
確実に。
だが――
問題は終わらない。
むしろ、悪化する。
敵は知る。
狙いが外れたことを。
そして――
次は、もっと確実に来る。
その時。
頭の奥で、断片が弾けた。
今度は――
人だ。
複数。
囲む。
逃げ場がない。
そして――
剣。
近い。
これは、避けられない。
場所も、時間も、曖昧だ。
だが一つだけ、はっきりしている。
“逃げられない状況”だ。
つまり――
戦うしかない。
僕は静かに息を吐く。
未来は変わる。
だが、楽にはならない。
むしろ――
難しくなる。
それでも。
進むしかない。
次は――
正面から来る。
移動中の最初の罠は、なんとか回避できました。
ただ、それで終わるほど相手も甘くはありません。
むしろここからは、より直接的な衝突に変わっていきます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次は――逃げ場のない「正面からの襲撃」です。




