ー第3項 絶品キノコステーキとケダマによる精神的デトックス、古竜が抱える永遠の闘争への疲れを癒やす
第3項 絶品キノコステーキとケダマによる精神的デトックス、古竜が抱える永遠の闘争への疲れを癒やす
ドラゴンは言葉を話さない。
だが、その喉が渇いていることはわかった。
俺は手持ちの酒が尽きていたので、ダンジョンの湧き水を汲んできて、そこに『アビス・マッシュ』の石突き部分を炙って香り付けをした「キノコ茶」を差し出した。
巨大なタライのような岩皿に入れたそれを、ドラゴンは長い舌で器用に飲み干す。
ゴクリ、ゴクリ。
ふう、と熱い吐息が漏れる。
「つまみも、どうぞ」
続けて、マグマでじっくり焼き上げたキノコのステーキを出す。表面はカリッと、中はジューシーで、噛むと濃厚な旨味エキスが溢れ出す逸品だ。
ドラゴンはそれを一口で食べた。
その瞬間、ドラゴンの目が細められた。
美味い、と感じているのが伝わってくる。
そして、ここからが「深淵の居酒屋」の真骨頂だ。
ドラゴンの背後で、ケダマが活動を開始した。
『ほう……これは濃厚な“生の苦しみ”だ。終わりのない守護、癒えることのない傷への憤り、孤独……いただきます』
ズズズッ。
ドラゴンの背中から立ち上っていた、赤黒い陽炎のような揺らぎ――殺気やストレスの塊――が、ケダマの毛の中に吸い込まれていく。
それは、ドラゴンにとっても未知の体験だったはずだ。
常に張り詰めていた神経が、強制的に緩められていく。
戦わなければならない、殺さなければならないという強迫観念(四苦)が、物理的に除去されていく。
代わりに、ケダマからドラゴンの脳内へ、強烈なリラックスイメージが送信される。
――日向ぼっこをする幼少期の記憶。
――満腹で眠る至福の時間。
ドラゴンの獰猛な顔つきが、見る見るうちに穏やかな、まるで老犬のような表情へと変わっていった。
これが「即身成仏」モード。
死んで楽になるのではなく、生きたまま、苦痛だけを取り除かれた状態。
ドラゴンはカウンターに顎を乗せ、だらりと脱力した。
その姿は、仕事上がりに赤提灯でくだを巻くサラリーマンそのものだった。
「追加、いりますか?」
俺が聞くと、ドラゴンは小さく首を横に振り、代わりに自分の首元から一枚の鱗を剥がして、カランとカウンターに置いた。
それは、地上なら城が買えるほどの価値がある『竜王の紅鱗』だった。
これが、代金らしい。




