第2章 第1項 二日酔いなき爽快な朝とケダマの環境改変能力による劇的ビフォーアフター、そしてダンジョン食材での調理開始
第1項 二日酔いなき爽快な朝とケダマの環境改変能力による劇的ビフォーアフター、そしてダンジョン食材での調理開始
目が覚めると、そこは地獄の底――のはずだった。
だが、俺の体調はすこぶる良かった。
「……頭が痛くない」
俺、クロードは岩肌に寝転がったまま、自分の額に手を当てた。
昨晩、人生への絶望を肴に安酒を煽り、正体不明の毛玉魔王と飲み明かしたはずだ。通常なら泥のような二日酔いに襲われ、全身の古傷が痛むはずの朝。
しかし、今の俺の体は羽毛のように軽い。
『毒素はすべて我が頂いた』
脳内に直接響く、重厚かつ滑らかなイメージ。
見上げれば、真っ黒な巨大毛玉――ケダマが、天井の鍾乳石にぶら下がるようにして浮いていた。
「おはよう、ケダマ。お前、アルコール分解までできるのか。最高の相棒だな」
『礼には及ばん。お前の肝臓が悲鳴を上げる際の“老いへの恐怖”もまた、珍味であった』
どうやら俺の健康不安すらも、こいつの餌になったらしい。
俺は上体を起こし、周囲を見渡した。
そこは殺風景なダンジョンの最下層、百階層の広間だ。ゴツゴツとした岩と、湿った苔、そして遠くで聞こえる魔物の咆哮。
生活するには不便極まりない。
「さて、どうするか。地上に戻るにしても、レオンたちが門番をしているだろうしな。何より、またあそこで荷物持ちをする気にはなれない」
俺が独りごちると、ケダマがふわりと降りてきた。
『ならば、ここを都とすればよい。住めば都、心頭滅却すれば火もまた涼し。現世即浄土だ』
「都って言ってもなぁ。座る場所もねえし、酒を置くテーブルもねえ」
『造作もない』
ケダマが黒い毛を逆立て、空間を振動させた。
ズズズズズ……!
低い地響きと共に、硬い岩盤がまるで粘土のように変形を始める。
俺の目の前で、荒々しい地面が平らにならされ、岩壁の一部がせり出し、見事なL字型のカウンターへと変わっていく。表面は磨き上げられた黒曜石のように滑らかだ。
さらに、手頃な大きさの岩が削り出され、背もたれ付きの椅子が数脚生成された。
「おいおい、マジかよ……」
数分もしないうちに、そこには無骨ながらも雰囲気のある「バーカウンター」が出現していた。
『座る場所は作った。次は供物だ』
「供物って……ああ、つまみか」
俺はリュックの中身を確認する。食料は少し残っているが、心もとない。
だが、俺には『魔力感知』がある。
岩の陰に生えている『アビス・マッシュ(深淵茸)』。毒々しい紫色をしているが、適切に熱を通せば高級肉のような味がするキノコだ。
俺は近くの地面の亀裂から吹き出すマグマの熱を利用し、即席の石板焼きを始めた。
ジューッという音と共に、香ばしい匂いが立ち込める。
「よし、開店準備完了だな」
誰が来るわけでもないが、俺は満足げにカウンターの中に入り、リュックに残っていた予備のカップを磨き始めた。
ここは今日から、俺の城だ。




