ー第4項 営業終了後の静寂と二人だけの晩酌、生まれ変わる必要のない今この瞬間の完璧な幸福
第4項 営業終了後の静寂と二人だけの晩酌、生まれ変わる必要のない今この瞬間の完璧な幸福
「ふぅ……今日も忙しかったな」
すべての客が帰り、静寂が戻った店内。
クロードは店の入り口に『準備中』の札をかけると、カウンターの特等席に座った。
隣には、人間サイズに縮んだケダマがちょこんと座っている。
「ほら、今日は上等なワインが入ったぞ。王様からの差し入れだ」
クロードがボトルを開け、二つのグラスに注ぐ。
芳醇な香りが広がる。
チン、とグラスを合わせる音が、静かなダンジョンに響いた。
『……良い香りだ。だが、やはりお前の作る酒の方が、味がある』
ケダマが満足げに身を震わせる。
「よせよ。俺のはただの安酒だ」
クロードは笑いながら、ワインを口に含む。
美味い。
だが、かつてのような「苦しみを忘れるための味」ではない。
純粋に、生きている喜びを噛みしめるための味だ。
「なぁ、ケダマ。俺たち、いつまでこうしてられるかな」
『いつまでも、だ』
ケダマが即答する。
『我は時を食わない。お前の時間は止まっている。老いもせず、病まず、死なず。ただ、この“今”が永遠に続くだけだ』
そう。
クロードは気づいていた。
この店を開いてから、自分の爪や髪が伸びていないことに。
肌の艶も、体力の衰えもない。
ケダマが、クロードの「生老病死」の苦しみを、発生した端から食べてしまっているからだ。
普通なら、それは「呪い」かもしれない。永遠に死ねない地獄。
だが、ここでは違う。
毎日、面白い客が来て、美味い酒が飲めて、最高の相棒がいる。
それが永遠に続くのなら、それは地獄ではなく――。




