ー第2項 王家調査団の戦慄と深淵の居酒屋への到着、そこで目撃した魔物と人間が共存するあり得ない光景
第2項 王家調査団の戦慄と深淵の居酒屋への到着、そこで目撃した魔物と人間が共存するあり得ない光景
一方、地下百階層。
レオンたちが排出されてから数週間後、ついに王家が重い腰を上げた。
最強の近衛騎士団と、宮廷魔導師団からなる精鋭調査隊が、決死の覚悟で最深部に送り込まれたのだ。
「総員、警戒せよ! 最深部には、Sランクパーティーを一瞬で壊滅させた未知の魔王がいる!」
団長が声を張り上げる。
彼らは冷や汗を流しながら、死を覚悟して門をくぐった。
しかし。
「……いらっしゃいませ。何名様ですか?」
出迎えたのは、エプロン姿のクロードだった。
そして、その背後には、楽しげに酒を酌み交わす魔物たちの姿。
「な、なんだこれは……」
騎士たちは剣を抜くのも忘れ、呆然と立ち尽くした。
凶悪なアークデーモンが、ジョッキを片手に笑っている。
毒を撒き散らすはずのヒュドラが、クロードの焼いた串焼きを九つの首で分け合っている。
そこには殺伐とした空気など微塵もなく、ただただ平和な「酒場の喧騒」があった。
「き、貴様は何者だ! 人間か!?」
団長が震える声で問う。
「俺はクロード。ここの店長です。後ろにいるのは、オーナーのケダマ」
クロードが親指で背後を指すと、天井に張り付いていた巨大な毛玉が、ふわりと降りてきた。
ヒュッ、と騎士たちが息を呑む。
圧倒的な魔力質量。本能が「勝てない」と警鐘を鳴らす深淵の王。
だが、その魔王は、クロードの肩にポンと触手(毛束)を置くと、団長たちの前に酒瓶を差し出した。
『……遠路はるばるご苦労。まあ、一杯どうだ』
脳内に響く、ダンディな声。
団長は混乱のあまり、差し出されたコップを受け取ってしまった。
「こ、これは……」
「『アビス・エール』です。ダンジョンの湧き水と、特殊な麦で作った地ビールですよ。疲れが取れます」
クロードがにこやかに勧める。
毒見役が一口飲み、目を見開いた。
「う、美味い! 団長、これはいけます!」
緊張の糸が切れた。
調査隊は、気づけばカウンターに座らされ、魔物たちの隣で酒盛りを始めていた。




