ー第2項 全身骨折の激痛と孤独な死の予感に震えながら、リュックの底に隠していた安酒『ドワーフの涙』を取り出す
第2項 全身骨折の激痛と孤独な死の予感に震えながら、リュックの底に隠していた安酒『ドワーフの涙』を取り出す
ドサッ、グシャッ。
鈍く、湿った音が響いた。
痛みは遅れてやってきた。全身を焼印で押されたような激痛。手足の感覚がない。おそらく、何箇所か折れている。
奇跡的に即死は免れたようだった。あるいは、九十九階層から百階層への落下地点に、分厚い苔か腐肉のようなものがクッションとして存在していたのかもしれない。
「はぁ……はぁ……う、ぐ……」
声にならない呻きが漏れる。
目を開けても、そこは完全なる闇だった。
『アビス・ゲート』最下層、地下百階。人類が誰一人として生還したことのない領域。
冷たい。骨の髄まで凍りつくような冷気と、濃密すぎる魔素が肌を刺す。
回復薬はない。食料もない。武器もない。あるのは、ボロボロになった服と、落下中に奇跡的に手放さなかった小さなポーチだけ。
「痛い……寒い……」
涙が滲む。
これが死か。
人間、誰しもいつかは死ぬ。それはわかっている。
生、老、病、死。この世の四つの苦しみからは逃れられないと、神殿の坊主が言っていた。
だが、こんなのあんまりだ。
老いることもなく、病に伏せる暇もなく、ただ他人の欲望のために生を奪われる。
俺の二十四年間の人生はなんだったんだ。
ただ重い荷物を背負い、仲間にへこへこと頭を下げ、夜は安酒を飲んで泥のように眠るだけの日々。
――酒?
激痛で霞む意識の中で、俺はポーチの膨らみを思い出した。
震える右手で、ポーチを探る。指先の感覚はほとんどないが、硬くて冷たいガラスの感触があった。
取り出したのは、小さな小瓶。
『ドワーフの涙』。街の酒場で一番安い、度数だけが無駄に高い蒸留酒だ。
レオンたちに隠れて、これだけはこっそり持っていたのだ。いつか祝いの席で飲もうと思っていた、俺のなけなしの宝物。
「はは……祝いの席が、葬式になっちまったな」
乾いた笑いが漏れると同時に、肋骨が軋んで血を吐いた。
もう、助からない。
血の味が口の中に広がる。鉄臭くて、生温かい。
せめて最後くらい、この鉄の味を洗い流したい。
死ぬのは怖い。恐ろしい。
暗闇の向こうから、何かが這いずってくる音がする。魔物だろうか。食われるのだろうか。
痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。
俺は震える手で、小瓶のコルクを歯で食いちぎった。




