第4章 第1項 極限の疲労と共に辿り着いた最深部と、そこに広がるあり得ない光景、魔物たちの楽しげな喧騒
第4章 再会と拒絶の扉
第1項 極限の疲労と共に辿り着いた最深部と、そこに広がるあり得ない光景、魔物たちの楽しげな喧騒
足が鉛のように重い。
呼吸をするたびに、肺が焼き付くような感覚が走る。
Sランクパーティー『金獅子の牙』のリーダー、レオンは、かつてないほどの疲労に蝕まれていた。
「はぁ……はぁ……ここが、百階層……」
背後には、同じくボロボロになった仲間たちが続いている。
聖女の純白だったローブは泥と魔物の返り血で汚れ、見る影もない。魔導師は杖を松葉杖代わりにして、虚ろな目で地面を見つめている。戦士に至っては、自慢のプレートメイルの一部を捨てて軽量化していた。
荷物持ちがいない旅路が、これほど過酷だとは思いもしなかった。
水も食料も尽きかけ、野営の準備もままならず、睡眠不足と空腹で精神は限界ギリギリだ。
だが、彼らは辿り着いた。
人類未踏の地、アビス・ゲートの最深部へ。
「……おい、なんだこれは」
レオンが掠れた声を出した。
目の前に広がる光景は、彼らの予想を遥かに超えていた。
そこにあるはずの「絶望的な闇」や「おぞましい魔王の玉座」はどこにもない。
代わりにあったのは、温かなオレンジ色の光に包まれた、巨大な石造りの建造物だった。
入り口には『解脱』と書かれた看板(下手くそな字だが味がある)が掲げられ、中からは何とも言えない香ばしい匂いと、楽しげなざわめきが聞こえてくる。
「ガハハハ! 大将、もう一杯くれ!」(と聞こえるオークの咆哮)
「キシャーッ! 今日も仕事が辛かったわー!」(と聞こえるラミアの鳴き声)
魔物たちが、武器を置いて肩を組み、酒を飲み交わしているのだ。
「馬鹿な……幻覚か? 俺たちは魔物の毒にやられたのか?」
魔導師が震える手で眼鏡を拭くが、光景は変わらない。
ヘル・ドラゴンがカウンターでうたた寝をし、スケルトン・ナイトがリッチとチェスをしている(駒は骨だ)。
ここは地獄の底ではない。
まるで、王都の裏通りにある繁盛した酒場そのものだった。
「……ふざけるな」
レオンの中で、何かが切れた。
自分たちは泥水をすすりながらここまで来たのだ。それなのに、討伐すべき魔物たちが、こんな優雅な宴を開いているだと?
「おい! 誰かいるのか! 責任者を出せ!」
レオンは残った力を振り絞り、大声で叫びながら、その店の重厚な扉を蹴り開けた。




