ー第5項 地獄のような行軍の始まりと疲労困憊の果て、歪んだ希望を胸に彼らは再び奈落を目指す
第5項 地獄のような行軍の始まりと疲労困憊の果て、歪んだ希望を胸に彼らは再び奈落を目指す
数日後、再結成された『金獅子の牙』は、再びアビス・ゲートへ潜った。
しかし、その足取りは重かった。
荷物持ちの新規雇用はできなかった。彼らの悪評――「仲間を見捨てる」「報酬を払わない」――が広まっており、誰も応募してこなかったからだ。
仕方なく、自分たちで分担して食料やポーションを持つことになった。
高価なマジックバッグは、資金不足で売り払ってしまっていた。
「重い……なんで私がこんな……」
聖女が愚痴をこぼしながら歩く。
五十階層、六十階層……。
進むにつれて、魔物の様子がおかしくなっていく。
七十階層を過ぎたあたりから、魔物たちは人間を無視し、ただ一心不乱に下を目指していた。
まるで巡礼者のように。
あるいは、何かの祭りに急ぐ群衆のように。
「なんだあいつら……気味が悪い」
レオンたちは、戦う必要がないことに安堵しつつも、底知れぬ恐怖を感じていた。
そして八十階層。
疲労はピークに達していた。
野営のたびに喧嘩が起き、食事は焦げた干し肉のみ。睡眠不足で判断力は鈍り、些細なミスで怪我をする。
それでも彼らは進んだ。進むしかなかった。
戻れば破滅。進めば栄光。
その二択しかないと思い込んでいた。
「あと少しだ……あと少しで百階層だ……」
レオンはぶつぶつと呟きながら、泥だらけの剣を杖代わりにして歩いた。
九十九階層のボス部屋。かつてクロードを突き落とした場所。
門は開いていた。
誰かが開けたわけではない。中から、楽しげな喧騒と、なんとも言えない芳醇な香りが漂ってきていた。
「……おい、なんだあの匂いは」
「酒……? それに、焼いた肉の匂い?」
極限状態の彼らの鼻腔を、食欲をそそる香りがくすぐった。
「まさか、他の冒険者が先回りして宴会でもしているのか!?」
レオンの目に、どす黒い怒りと、卑しい欲望の光が宿った。
「許さん……俺たちがこんなに苦労しているのに。その酒も食料も、全部俺たちのものだ!」
歪んだ正義感と空腹に突き動かされ、彼らは最後の階段を降りていく。
そこが、彼らにとっての本当の地獄――いや、「入店拒否」という名の絶望の入り口であるとも知らずに。




