ー第2項 荷物持ち追放後の『金獅子の牙』に訪れた機能不全、野営準備もままならず疲弊していくエリートたち
第2項 荷物持ち追放後の『金獅子の牙』に訪れた機能不全、野営準備もままならず疲弊していくエリートたち
「くそっ、なんだこのテントは! 全然組み上がらないじゃないか!」
ダンジョン五十階層のセーフティエリア。
黄金の鎧を身にまとったリーダーのレオンが、ポールと布の塊を地面に叩きつけた。
かつては輝かしい戦果を上げ、王都の英雄と讃えられた彼らの姿は、今は見る影もなくやつれていた。鎧は泥と煤で汚れ、聖女の白いローブはあちこちが破れている。
「レオン、静かにしてよ。魔導書が読めないじゃない」
魔導師の女が苛立たしげに言うが、彼女の目の下には濃いクマができている。
「うるさい! そもそも、なんで俺がこんな雑用をしなきゃならないんだ。おい、誰か水を持ってこい!」
「水ならさっき切れましたわ。補充するのを忘れていたのです」
聖女が冷淡に答える。
「なんだと!? なんで忘れたんだ!」
「私の仕事は回復と浄化です。水筒の管理なんて知りません」
険悪な空気が流れる。
以前なら、野営地に着いた瞬間、温かいスープとふかふかの寝袋、そして清潔な水が用意されていた。装備のメンテナンスも、見張りのシフト管理も、すべて誰かがやっていた。
クロードだ。
あの「役立たず」の荷物持ち。
彼がいなくなって初めて、レオンたちは気づいたのだ。自分たちがダンジョン探索という過酷な環境で、どれほど彼に依存していたかを。
重い荷物を分担して持つだけで、体力の消耗は倍以上になった。
魔物の素材を剥ぎ取るのも、自分たちでやると血まみれになり、悪臭で集中力が削がれる。
何より、精神的なクッション役がいなくなったことが致命的だった。
クロードは、レオンが理不尽に怒鳴っても、聖女がワガママを言っても、いつもニコニコと受け流し、場の空気を和ませていた。
その「緩衝材」を失った今、エリートたちのプライドと疲労が直接ぶつかり合い、パーティーは崩壊寸前だった。
「……あいつ、なんで死んだんだよ」
誰かがぽつりと呟いた。
それは後悔の言葉ではなく、自分たちの不便さに対する逆恨みだった。
「そうだ。あいつが勝手に死んだせいで、俺たちはこんな目に遭っている。役立たずどころか、疫病神だったんだ」
レオンは吐き捨てるように言った。
そうでも思わなければ、自分たちの無能さを認めることになってしまうからだ。




