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白い結婚のはずですが、戦地から帰還した夫がやけに馴れ馴れしい  作者: おのまとぺ
後編

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15/23

15 day11



「……どういうことなの?」


 目を丸くしたエウレカの前には、小さな白い箱が三つ並んでいた。どれもが丁寧にリボンを掛けられて、机の上に載っている。


 恭しく頭を下げたメイドが「失礼します」と左端から手に取ってリボンを解き始めた。中から現れたのは、レースを重ねて作られた、花を模した髪飾りだった。


 手袋をした手が続けて二つ目の箱を開けに掛かる。先ほど同様、中から出て来たのは髪飾りで、今度はゴールドに輝く金具にサファイアとダイヤが嵌め込まれている。


 三つ目の箱にメイドの手が伸びたのを見て、エウレカは慌てて口を開いた。



「待って、これはいったい何事?」

「アルキメデス様からの贈り物です」

「何を言っているのよ、だってあの人は……!」


 正気に戻ったはず。


 アルキメデスは惚れ薬による気の迷いから目覚め、妻を愛さない冷徹な「英雄」へと戻った。向けられた目は、五年前と同じあの冷めた灰色で。


「ですけれど……私たちはこれを若奥様に渡すように頼まれたので……」


 モゴモゴと説明すると困ったようにメイドたちは顔を見合わせる。


 第二王女だけに贈り物をするのは申し訳ない、という気遣いからの行動だろうか。そんな知恵が夫に働くとは思えなかったが、五年の間に彼の中にも何か変化があったのかもしれない。


 言いたいことはどれも彼女たちに伝えても仕方がないことなので、大人しく化粧台の前に座り直す。


 最後の箱に入っていたのは、店でエウレカが見惚れたパールのネックレスだった。メイドが慎重に手に取って首元に取り付けるのを、エウレカはただ黙って見守っていた。


 どんな風の吹き回しだろう。

 こんな真似をされたら対応に困る。




「どういうおつもりですか?」


 仁王立ちで部屋に現れた妻を一瞥すると、アルキメデスは再び目線を書類に戻した。


「忙しいフリはやめてください。私だって話があってここへ来たのです」

「君は本当にいつも一方的だな。五分以内に片付けるから少し座って待ってくれ」

「……五分ですね」


 内心苛立ちつつ、壁に掛かった時計で時間を確認してエウレカはソファに座り込んだ。


 後から入って来たメイドがあたふたと飲み物の準備を、と申し出てくれたがひとまず断る。この部屋でゆっくり寛ぐことなんて、できるわけがない。


 エウレカは腕を組んで、机に向かう夫の横顔を眺めた。


 黙っていればきっと悪くはない。

 第二王女が気に入ったのも彼が持つ様々な勲章と「英雄」という評価、そして必要以上に整った顔の造形だろう。軍人にしておくには惜しいかもしれないが、敵国の捕虜にでもなったら役立つ。


(どうしてイライラするのかしら……)


 ここのところエウレカはずっと気分が悪い。


 手のひら返しをして自分の期待を裏切った夫が憎いのだろうと最初は考えたが、それに関しては自分が被るメリットとデメリットを整理して納得した。ルーヴェンの屋敷へ戻れるなら、別に良い。



「待たせたな。それで、話は?」


 エウレカの前にアルキメデスが腰掛ける。

 ぼんやりと顔を上げてその目を見た。


 穏便に済ませたいのに、怒りと憎しみが混じった感情が沸々と込み上げる。夫が何を考えているのか、エウレカはいつだって分からない。


「……またご機嫌取りをするの?」

「なに?」

「貴方からの贈り物を受け取ったわ。離縁の予定があるのにどういうおつもりですか。まだ悪口を言って唾でも吐かれた方がマシよ」

「君がそんなに理解力がないとは思わなかった。一度否定した話をもう一度持ち出すのは止せ」


 呆れた顔で首を振るものだから、エウレカはますます気が荒ぶる。先週はあんなにデレデレしていたくせに、別人みたいに距離を取るなんて。



「よくもそんなことが言えますね。警戒心をなくして惚れ薬を飲んだのはどなたですか?」

「惚れ薬……?」


 しまった、と思ったがここまで来ればもうどうでも良い。傷付けられた分だけ、この無知な夫をやり込めなければエウレカの怒りは収まらない。


「先週の貴方はすっかり愛妻家気取りで、見ているこちらが恥ずかしいぐらいでした。使用人から証言を取りましょうか?」

「私が……恥ずかしい愛妻家……?」

「ええ。隙あらば愛している愛していると熱心に囁かれるので、耳栓を入れたかったぐらいです。記憶にありませんか?」

「いや、そんなことは……」


 目を泳がせた夫が困惑した様子で口元を覆うのを眺める。


 スッキリするどころか、心臓がしくしく痛んだ。

 本当のことを教えてあげただけなのに、そこまで嫌そうな顔をするなんて。こちらとて好きで愛されていたわけではない。



「言ったはずです。私の覚悟は出来ていますから、第二王女とどうぞお幸せに。五年も家に帰らない貴方は、結婚には不向きなのでしょう」

「どうして君がその話を……?」

「優秀な薬師の方が教えてくださいました」


 済ました顔で答えるなり、アルキメデスは顔色を変えて立ち上がった。そして、ソファに座るエウレカの方は見もせず、部屋を出て行ってしまった。



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