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腹ペコ異世界帰還者、S級モンスターを食材としか見ていなくて話が合わない  作者: フーツラ


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第7話 母親のカレーと無職への焦り

 深夜の「ゴブリンBBQ」は、結局明け方まで続いた。


 新宿ダンジョンの第一階層は、低層とは思えないほどモンスターのポップ率が高かった。


 次から次へと食材ゴブリンが自ら歩いてきてくれる、非常に回転の良いバイキングレストランであった。


 ゴブリンのモモ肉や肩ロースでどうにか飢餓感を落ち着かせた俺は、一般の探索者や役人がやって来る前にと、新宿ダンジョンから立ち去った。


 鉄の壁を跳び越え、監視カメラの死角となる路地裏で鉄仮面を外し、リュックに仕舞う。


 そして、始発の山手線に乗って上野へ。


 足音を忍ばせて実家に戻ると、徹夜の疲労と満腹感が相まって急激な睡魔に襲われ、碌に風呂も入らずベッドに転がり込んだ。


 目を覚ますと、すでに昼の12時。


 俺を覚醒させたのは、昼食を知らせる母親のノックだった。


 また20年前のように、ふらりと俺がいなくなってしまわないか、心配で仕方がないらしい。36歳になっても、親からすれば子供は子供ということだろう。


「今、いくよ」


 俺が少し寝ぼけた声で返事をすると、扉の向こうで母親が「ほっ」と安堵の溜息をついた気配がした。


 自分が「ここ」にいることを知らせるために、洗面所で顔を洗い、一階のダイニングへ顔を出す。


 テーブルには既に、湯気を立てるカレーライスが用意されていた。


「いただきます」


 母親の対面に座り、手を合わせる。なんだか少し照れ臭い。


 それを誤魔化すように、ダイニングテーブルからよく見える位置にあるリビングのテレビへと視線を向けた。


 お昼のワイドショー番組。


 落ち着いたスーツ姿の女性アナウンサーが、淡々と政治ニュースの原稿を読み終えたところだった。


『続いては今日のバズです。昨日深夜、新宿ダンジョンにて奇妙な事件が発生しました』


 画面が切り替わり、明るい恰好の女性タレントが「今日のバズ」というフリップボードの横に立っている。


 ボードにはデカデカと、見覚えのある単語が並んでいた。


 【#ゴブリンBBQ】【#謎の鉄仮面】【#バラムツ】


「…………ッ!?」


 俺の心臓が、俄かに嫌な拍動を始める。


 無理やり動揺を落ち着かせるために、スプーンですくったカレーを口に流し込んだ。


「ゴブリンBBQって、何かしらねぇ」

「……さぁ……」


 テレビの画面には、屈強な鉄仮面の男(俺)が発火させた魔石で、串刺しにした肉を手際よく炙っている様子が、バッチリと映し出されていた。


 どうやらドローンは、俺の食事風景を最後までご丁寧にライブ配信し続けていたらしい。


「ゴブリンって、食べられるのかしら。毒とかないのかねぇ」

「……普通の人は、やめたほうがいいんじゃないかな……」


 魔力を栄養として吸収できる強靭な身体に変質した俺にとっては美味い肉だが、普通の地球人が食べれば魔力にあてられて酷いことになる。


 母親が「今晩はゴブリン肉を食べたい」と言い出すことはないと思うが、絶対に止めておいた方がいいだろう。


『ダンジョンへの不法侵入者の大半は外国人だと言われていますが、この鉄仮面の男性は、どうやら日本人のようなんです!』


 女性タレントは興奮したように弾んだ声で「今日のバズ」の解説を続ける。


『映像を見る限り、この男性は素手で何体ものゴブリンを瞬殺したそうで、ダンジョン省では現在、身元の特定を急いでいます。こんなに強い人が日本の公式調査団に加わってくれれば、他国に遅れを取っている現状が少しは変わるんですけどねぇ~!』


 ゴブリンを素手で倒したぐらいで「こんな強い人」だと? このタレントは何をいっているんだ。


 異世界には、ちょっと力を込めただけでゴブリンの巣ごと山を一つ吹き飛ばすような化け物がゴロゴロいた。


 俺だって少し努力して、その領域に辿り着いたのだ。


 地球の調査団とやらの奴等は、少々頑張りが足りないのではないか。


「どうしたのタダシ? 久しぶりのカレー、口に合わなかったかい?」

「いや、そんなことはないよ。味わって、ゆっくり食べているだけ」


 誤魔化すように、二口目のカレーを頬張る。


 母親の手作りカレー。二種類のカレールーをブレンドし、一晩寝かせた味は、確かに懐かしくて美味しい。美味しいのだが――。


 やはり、圧倒的に足りない。


 これは、栄養のない「味のついた水」だ。


 このカレーに入っている豚肉が、ダンジョン産のオーク肉であれば、さぞかし全身に魔力が満ちる極上の美味だっただろう。


 俺が真の意味で「腹を満たす」ことが出来るのは、やはりダンジョンの食材だけなのだ。


 『謎の鉄仮面』として世間で騒ぎになっているのは面倒だが、背に腹は代えられない。


 今後もダンジョンに潜り、モンスターを喰らい続けるのは確定事項だ。


「ところでタダシ。あんた、仕事どうするの?」

「…………ブフッ!」


 俺は危うく、口内のカレーをテレビ画面に向かって噴き出しそうになった。


 仕事。しごと。シゴト。


 ……全く、微塵も考えていなかった。


 そ、そうか。仕事か。

 

 そうだよな。36歳にもなった健康な息子が、働きもせずに実家でゴロゴロしていたら、両親も親戚の手前、困るよな……。


 アイテムボックスの中には、異世界から持ち帰った金貨や希少な宝石など、地球で換金しても金になりそうなものが山ほどある。


 しかし、「手元に金があること」と「真っ当に仕事をして親を安心させること」は、全く別の問題だ。


 異世界でも、親に与えられた富で贅沢を覚え、ブクブクと太って堕落していく貴族のボンボンを嫌というほど見てきた。


 俺も、社会復帰して仕事をしなければならない。


 しかし、腹を満たすためには定期的にダンジョンへ買い出しに行く必要もある……。


 一体、どんな職に就けば、仕事とダンジョン探索メシが両立できるのだろうか。


 昼間はコンビニでアルバイトをして、深夜にダンジョンに潜る生活?


 睡眠時間を削ればなんとかなるかもしれないが、36歳になってコンビニバイトの息子を、両親はどう思うだろうか。


 世間体というやつがある。


「あっ、ご、ごめんね! そんなすぐに働かなくても大丈夫だからね! ゆっくり探せばいいんだから!」

「……あ、あぁ……」


 俺の顔色が悪くなったのを見て、母親が慌ててフォローを入れてくる。その過保護さが、俺の心に刺さった。


「ごちそうさま。ちょっと、散歩してくる」


 俺は慌てて残りのカレーを平らげると、逃げるように実家を後にした。

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