第二十二話
「だから早く寝ろって言ったじゃねえか……」
「ふぁあぁあぁい……」
「欠伸しながら返事すんじゃねぇっ!」
昨日は鬱蒼と生えていた木がまばらになり幾分歩きやすくなった森の中を、寝不足のせいで覇気なく歩くタケルのお尻を蹴り飛ばすベルド。
本気ではないといえ、それなりの痛みに飛び上がるタケルは傍を歩いていたイリナを盾にするがイリナにスルッと躱される。
「えぇっ?イリナさん救けて!!」
再びベルドに捕まるタケルはイリナに助けを乞うが彼女は取り合わない。
「……寝る子は育つ。夜ふかしをして寝不足なのはタケルの自業自得」
そう言うとさっさと先を歩くイリナにタケルだけでなくベルドも固まっていると、イリナは立ち止まり振り返ると
「……二人共ふざけてないで早く歩く……」
「お、おう……」「は、はい……」
そう言うだけでマイペースに進むイリナに二人は顔を見合わせる。
「まぁ……いつも通りなら良かったけどよ」
「……そうですね」
昨夜、元の世界の事を語るうちに情緒が不安定になったイリナの事を心配した二人だったが、変わらない彼女の雰囲気にひとまず安心する。
「ほんじゃ、俺は先に行くからよ。タケルも無理すんなよ。」
ベルドは先頭を進むラズロの元へ駆け寄って行き、タケルは殿を任された。
「ベルドさんが何も言わないってことは特に気にしなくていいのかな……」
朝起きてからというもの、ずっと何かに見られている気がするタケル。
自分の思い過ごしかと納得しようとしたが、そういえば昨夜もなにかの物音を聞いたような気がした事を思い出す。
(まぁ、敵意がないってことなのかな)
結局は視線の主は放置して今日の目的地で歩く採掘場へ向かう為に重い足を必死で動かすタケルなのだった。
しばらく進むことで、森の木も本当にまばらになり小さい小川などを渡り辿り着いたのは森が開けた先にある巨大な岩山の麓だった。
「今日はここで採掘作業をするゲコ」
ラズロがインベントリから大小様々な道具を取り出すと、各自それを手に持ちベルドはピッケルで巨大な岩山の根本を掘り始め、イリナは足元に転がる手頃な岩を小さな金槌で割り始めた。
「タケルには吾輩がまずは見本を見せるから、後は自分の勘を信じてやり始めるゲコよ」
「はい、お願いしますラズロ先生!」
ラズロはタケルの返事に満更でもない表情をしながら小さなピッケルを持ち岩山の周りを観察しながら回り始める。
タケルには特に何もないように見えるが不意に立ち止まると岩肌の一点を見つめ、ピッケルを振りかざした。
「ここにポイントがあるゲコ。分かるゲコか?」
「……ちょっとわかんないです。先生」
「え?マジゲコか??」
ピッケルを振り下ろそうとしてその手を止めたラズロは、その水かきのついた指で岩肌を指差すが全く他と区別がつかないとタケルは首を振る。
「困ったゲコね……。取り敢えず吾輩がやるのを見てるゲコよ」
再びピッケルを振りかざしたラズロは軽快に何度も振り下ろす。
初めは何もないように見えた岩肌から、真っ赤なクリスタルが露出してくるのが見え興奮するタケルの目の前でそれがポロッとこぼれ落ちた。
「お……おおお!!凄いじゃないですかラズロ先生」
「4等級ならまぁまぁゲコよ。
この辺りから出る物は5等級から3等級の強化クリスタルになるゲコ。それらを使って皆の装備品をアナスタシアが強化してくれるんだゲコ。」
「ん?そこは髭面の鍛冶屋の登場では??」
ラズロは落ちたクリスタルを拾い上げるとインベントリに収納しながら怪訝な顔をする。
「鍛冶屋がどうやってクリスタルで装備を強化するゲコ??」
「……確かに……」
呆れたような顔をしながら、ラズロはタケルの為に小さめのピッケルを取り出し、それを手渡した。
「ポイントが見えないとなると、本当に勘を頼りにするしかないゲコ。まぁ頑張ってみるゲコね」
ピッケルを受け取るとタケルは足元に転がっている岩を砕いたり、岩山の麓を叩いたりしてみるが一向にそれらしきものは出てくることはない。
それでも夢中になって採掘する間にどんどん皆のいる所とは離れてしまい、時間もちょうどお昼頃ということもあって休憩しようとして昨夜イリナから貰ったカロリーバーの残りがあったことを思い出した。
「一本だけでも残ってて良かった。イリナさんに感謝しないと……」
手頃な岩の上に腰掛けるとポケットから取り出したカロリーバーを食べようとして、森の中を移動中にもあった何者からか見られている感じがする。
いったい何処からか見られてるのか……そんなに隠れられる場所も多くあるわけではない。
岩に腰掛けたまま視線をあちこちに走らせると遂にそれを見つけた。岩場から森の間に生えている幾つかの木の陰に隠れて何かが動いている。
ただ木に隠れているためそれが何かはわからないため、タケルは足音を立てないよう、そぅと近づいて行くとそれは彼の事を興味深そうに見上げていた。
木の陰に隠れていたのは、タケルの腰くらいの大きさで人間のように二足歩行で立つ木であった。




