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第十五話

朝の冷えた空気を切るように、タケルはフレアを抱えてアナスタシアの館へ急いだ。

『朝は毎日アナスタシアの所に集まるんだから、急ぐんだわ!』

小さな炎の尾を揺らしながら急かされ、急ぎ食べた朝食の温もりがまだ胃に残っている。


アナスタシアの館に着くと、すでに全員が揃っていた。

クロエがちらりとこちらを見る。昨日の一件で何か空気が変わっているかと思ったが、

「遅いじゃないの。てっきり寝坊かと思ったわ」

と軽く言うだけで、彼女はいつもの調子だった。まるで何も引きずっていないように。


その“いつも通り”にタケルがほっと息をついたところで、視線の端に見知らぬ影が立っているのに気づいた。


ラズロと談笑していたのは、学校にある骨格標本そのままの姿。

伽藍洞の瞳はどこか柔らかく光り、こちらに気づくと陽気に手を挙げてきた。


何か不穏な気配があるわけでもなく、タケルは自然と軽く会釈して返す。



「……フレア、あの人も仲間なんだよね?」


『ベルドのこと?』

「うん。ガチャ召喚……なんだよね?」


フレアは少し言葉を選ぶように炎を揺らした。

『うーん……ベルドはちょっと訳ありなんだわ。でも頼もしい仲間だから安心していいわよ』



そう言われても、立っている姿はどうしても骨だ。タケルは視線を向けたまま固まっていたが——


コツン、と脛を蹴られた。


クロエが目で「失礼でしょ」と語っている。

タケルは小さく肩をすぼめ、フレアを抱き直して席に着いた。


その直後、ラズロとベルドの小さな言い合いが耳に届いた。


「戦うのが得意じゃないクラスもあるんだゲコ。我輩は後方支援…」

「そうだよな。学者ガエルは作戦参謀って感じだし」

「吾輩はラズロという名前があると言っているゲコ!」


軽口とは裏腹に、二人の間に流れる雰囲気は柔らかい。

ベルドの見た目と違い、どこか優しい温度があるそのやり取りに、タケルは胸の中でつぶやいた。


(本当にいろんな人がいるな、この陣営……)


その雑多さに少しだけ救われた気がしたところで

アナスタシアが静かに現れ、室内の空気が締まる。



ーーー



彼女はその金色の大きな瞳で全員を見まわし、深く息を整えた。


『それでは今後の活動方針を決めたいと思います』


長テーブルに並ぶ視線が、一斉に彼女へと向けられる。


『突発的でしたが、短い間隔で陣営戦が行われました。今後も同じ状況が起きる可能性があるため、“遠征”について改善したいと思います』


ラズロがすぐに手を挙げる。


「むむ…しかし素材採取を行わないというのはどうかと思うゲコ」


続いてベルドが肩を鳴らすようにして言う。


「そうだぜ。まだまだ強化できる余地があるんだからよ」


タケルは、ふと笑いながらその骸骨の横顔を眺めていた。

先ほど蹴られたことを思い出すと、クロエが半眼でこちらを見ている。

タケルは慌ててフレアを抱え直すしかなかった。


アナスタシアは短い沈黙のあと、タケルへと視線を移した。

その瞳の奥で、何かを決める音がした。


『……それでは、こういうのはどうでしょうか』


彼女が示した案は、遠征と陣営待機を分けるというものだった。





『……というわけで、今回から“遠征組”と“陣営待機組”に分けようと思います』


遠征は4人揃うことが条件で、陣営戦は最大5人まで。

数的有利を捨ててまで陣営戦に出ても負ける事は目に見えており、人数不足だったアビス陣営は、いままでどちらか一方を選ぶしかなかった。

タケルが来たことで、ようやく他陣営と同じように両方を動かせるようになったのだ。


ただ、遠征は小旅行に似ている。

数日帰れず、運が悪ければ陣営戦と重なり、戦いに参加できなくなる可能性もある。

それでも素材収集は必要で――。

彼らの薄い領地資源を支える唯一の手段でもあった。


タケルはふと気づき、周囲を数えた。


「……ねぇ、8人しかいないよね?」


言葉に詰まる一同。

やや気まずい空気を破ったのは、ラズロだった。


「……余り人の多いところが苦手な者がいるんだゲコ」


「8人しかいないのに?」


「そうだゲコ……」


多種多様な者が集まるアビス陣営らしい事情。

ベルドが「まぁよ」とタケルに補足し、ラズロと軽口を交わす様子に、

タケルは骨格標本の印象以上に温かいものを感じた。


ーーー


『それでは、遠征に行くメンバーを発表します』


アナスタシアの澄んだ声が響く。

場の空気が、ひとつ締まった。


『ラズロをリーダーに。ベルド、タケル……そして、今はここにいませんがイリナ。

この四名に遠征をお願いします』


抱えられていたフレアが小さく揺れた。

『今回は一緒じゃないんだわね……』


ミルラも沈んだ声で「ワタシも行きたかったなぁ……」と言う。


『今回はタケルさんと他のメンバーの顔合わせもありますし……また次の機会に』


「ウン……」

フレアはふわりと尾を弱く揺らし、そっとタケルの胸に寄った。


タケルがその炎を優しく撫でると、

向かいのクロエが頬杖をつき、じとっとした目で見つめてくる。


「流石、ヒモ希望の大和男子は違うわね」


「いや、言い方!」


「どうかしら……」

そう言ってそっぽを向きながら、

小さく「私だって一緒に行きたかったのに……」と漏らしたが、その声は彼女の喉で沈んだ。


ーーー


解散後、ミアとノアの姉弟とも挨拶を交わし、タケルはベルドのもとに歩み寄った。


差し出した手に、骨の手が軽やかに触れる。


「これからよろしく。ベルドさん」

「おお、よろしくなタケル!」


その横でラズロが深いため息をつく。

「はぁ……それでは向かうとゲコか……」


「大丈夫大丈夫。とって食われるわけじゃないし」

ベルドが笑いながら肩を叩く。


「??」


そうして、少し不安げなラズロと、どこか楽しげなベルド、

そしてタケルの三人は――

最後のメンバー、“イリナ”の元へ向かっていった。


――――――――――――――――――――


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