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第一四話

崩れ落ちたビル群が、灰色の空に影を落としていた。

ドーム型の建造物は火を噴き、黒い煙が空間を押し潰すように広がっていく。

見覚えのない街並みなのに、どこか痛ましく胸がざわつく。


「やめなって!$%#! 魔力がもう持たないよ!」


「アタイにはね、これくらいしか出来ないんだわ……。でも大丈夫。ここで踏ん張ってたら、きっと誰かが何とかしてくれるから!」


ローブを着た小柄な人影が、一際高い建物の前で炎の壁を張り、必死に入口を守っていた。

炎の揺らぎが少女の輪郭を染め、赤く燃える髪が爆風に舞う。


「%#&#も早く! 入らないと、本当に間に合わなくなる!」


「置いていけないよ! 一緒に来てよ! ここにいたら――死んじゃう!」


近くの爆発でフードがめくれ、その髪の赤が本物の火のように広がった。

煤に汚れた頬で、それでも隣の少女に笑いかける。


「アタイも、すぐ行くから。……だからお願い。動けない人たち、任せてもいいかな」


「$%#……ごめん……!ごめんね……!」


彼女を残して建物に駆け込む少女を見送り、赤い髪の少女は、一息ついて弱々しく笑った。


「これで……良かったんだわ。ねぇ、フレア……」


胸の奥がきしむ。

髪の色も、口調も、誰かのために体を張る姿も――全部、よく知っている。


彼女は膝をつくと、炎の壁がゆっくりしぼんでいく。

その向こうで揺れる複数の影。敵意の熱を孕んだ、どう見ても友好的でない影。


タケルは駆け寄ろうと足を踏み出すが、夢特有の粘ついた空気が体を縛り、どうしてもたどり着けない。


彼女がこちらを振り向いた瞬間、乾いた銃声が重ねて響いた。

少女は糸の切れたように倒れ、タケルへ向けて何か言葉を紡いでいる。


触れようと腕を伸ばしても、その手は虚空をすり抜ける。

それが夢だと理解していても、焦りは止められなかった。


「あ……なた、フレアを……知ってる? あなたから……あの子と同じ匂いが……するんだわ……」


『知ってる!だから今は喋らないで!誰か呼んでくるから――』


少女は首を振る。

赤い髪が、血の中で静かに揺れた。


「ごめ…ん、何言ってるか…聞き取れないな」


『フレアが待ってるんだよ!君のことを!!

頼むよ……フレアのためなんだよ……』


タケルは両手を地面につき頭を下げて懇願するが彼女はタケルを見て微笑んだ



「フレアの……こと、知ってる…あなたに、お願いが……あるんだわ。


アタイの……名前は、『ヤナト』……。

あの子に……"ごめんね"って……伝えて……」


『ダメだよ!生きようとしてくれよ!!

この世界がどうなるか知ってるのか!?

フレアは……君がいなくなったらどうなるか……!!』


「ふふ……言葉……わかんないけど……。あなたがいるなら……あの子は……きっと、大丈夫……。

フレアのこと……お願い……」


その瞳の光が、静かに消えていく。


タケルはその場に膝をつき、ただ見送るしかなかった。





――これは夢だ。

彼女と出会えるはずがない。それでも。

それでも、最後の言葉だけは、確かに自分に届いていた。


フレアを頼む――その願いだけが、胸の底に焼きついたまま。




―――――――――――――――





『ヤマト!起きるんだわ!もう朝ーーなんだって!』


目を開けると、フレアがタケルの腹の上で跳ねていた。


「……"ありがとう"、フレア」


『?? そこは“おはよう”なんだけど。

まぁ感謝されるのは悪くないんだわ!』


タケルはフレアをそっと抱きかかえ、ベッドの上に座り直す。




「ねぇフレア。僕の世界にもね、ちょっと似たような話があるのを思い出したんだよ。“付喪神”って言ってね……」


『つくも……がみ?アタイ、物じゃないんだけど? 偉大な精霊なんだけど?』


「わかってるよ。でも……長く大切にされてたものには魂が宿るっていう話なんだ。

フレアも、その人に……ずっと大切にされてたんだと思う」




『……大切に。されてた……』


フレアの炎が、小さく揺れた。


「うん、似てるんだ。話し方も……雰囲気もね。

彼女の心は、きっとフレアの中にいるんだよ。今も。」


フレアはハっとしてタケルの顔に近づく。


『ヤマト!あの人に……魔導師に会ったことがあるの!?』


「……ううん。ただ――そんな気がしただけ」


『なーんだ。でも……そっか。

アタイの中に……あの人は、いたんだね』


その声は、揺れていた。

ベッドの上でふわりと宙に浮いて、ゆらゆら揺れながら。





タケルは夢の中の出来事を言うべきか迷ったが、何も言わないことにした。

自分の妄想かもしれない。

それでも、ひとつだけ確認しておきたかった。


「ねぇフレア。皆は僕のこと“タケル”って呼ぶけど……どうしてフレアだけ“ヤマト”って呼ぶんだ?」


『ん〜……アタイにもわかんないけど……なんとなく、その響きが好きなの。

……もしかして、嫌だったら……ごめんなんだわ……』


しゅんとするフレアをタケルは優しく抱き寄せた。


「そんなことないよ。むしろ……気に入ってくれて嬉しい。

偉大な精霊で魔導師フレアに呼ばれるのなら、“ヤマト”って名前も悪くない」




"大和"という姓が重すぎて苦しい時代もあったけれど――

今は、少しだけ誇らしかった。







魔導師ヤナト。

その名の響きだけを借りるくらい、罰は当たらないだろう。


──────

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