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34 信じて。でも、信じないで。

「――ねぇ、何見てるの?」


突如降って来たその冷酷な声に、晴大は思わず固まってしまう。見上げると、ただこちらを見下ろすさくらの瞳があった。


「あ、いや、これは……その……」


誤魔化そうとするが、かえって怪しさを強調するだけだった。


「ふぅん、別に誤魔化さなくて良いのに。佐藤君はそれ、信じるの?」


少し突き放すように言うさくらの口調に、晴大はさらに体を強張らせる。


「いや、信じない。菊田さんがこんな事するはずないから」


本心だった。大体、こんなこと芸能人にはよくある事だろう。根も葉も無い情報を、さも事実であるかのように流される。それが、この人達をどれだけ傷付けているか。


「……そっか。君はその情報を信じないんだね。つまり、私の事を信じてくれる。そういうことだね」


さくらは晴大に尋ねるような、それでいてどこか自分自身に言い聞かせるような、そんな口調で言った。


「……ははっ、困っちゃうよね、こういうの。どうしてこんな事、平気で言えちゃうんだろうね」


その少し震えた声に、晴大は胸がきゅっと苦しくなった。

「こんなの、クズがすることだから。こうする事でしか自分を保てない最低な野郎のすることなので、気にしちゃダメ、です」


晴大はさくらの瞳の奥まで届くようにじっと見つめた。


「クズ……野郎……って、佐藤君がそんな言葉使うの、初めて聞いたかも」


さくらはふいに笑い出した。だが、その顔にはまだどこか悲しげな表情が浮かんでいた。まるで、無理に笑っているような。


「ほ、本当だから! クズの言うことは無視、無視だから! 」


晴大が慌てて言うが、さくらはなおさら笑うだけだった。その様子に晴大はため息をつく。


(この人は今、何を思っているんだろう)


今まで普通のクラスメイトとして接してきたけど、本当はとてつもなく凄い人で、自分達と同じ世界に生きる人ではないはずだ。


この人にとって、この世界はどんな風に見えているのか。何を考え、どう捉えているのか。分かりそうで、全く分からなかった。


「ねぇ、何? そんなに見つめちゃって! 見惚れてるの?」


さくらがそう揶揄うように言うが、晴大には全く届かなかった。


「……菊田さん」

「……何?」


晴大はさくらと真正面に向かい合い、そのままさくらの手を取った。そして、ぎゅっと優しく握った。


「え、何……」

戸惑って顔を赤らめるさくらに、晴大は真っ直ぐな瞳でこう言った。


「貴方にとっては、こんなネットの言葉は日常茶飯事なのかもしれないけど、それでも傷付かないはずないですよね。 だから、悲しいとか嫌だとか色々言ってください。もっと、愚痴を全部吐いちゃってください」


晴大は自分にできる精一杯のことを伝えたつもりだ。これまで菊田さくらに支えられた分を返したい、その思いでこれを伝えた。


「……ありがとう、佐藤君」


菊田さくらはそれだけ言うと、握られた手に視線を落とした。


「……私さ、佐藤君にそう言ってもらえてすっごく嬉しい。でも、信じてくれてるのが苦しい」

「……え?」


思いもよらない言葉に晴大は大きく目を見開く。


「その情報さ、全くの事実無根ってわけじゃないんだよね」


「え……?」


その言葉に、晴大の胸がどくんと嫌に響いた。

晴大はそれ以上、何も言えなかった。

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