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91話 「一緒に登校しましょう」

「…くん…如月くん、朝ですよ。いつまで寝てるんですか」


「ん〜…」


朝、部屋に来た柊に無理矢理毛布を引き剥がされ、カーテンを開けられて俺は目を開けた。


「早く起きないと遅刻しますよ」


「…おー…悪い美羽…今起きる…」


「……」


「………あ」


段々意識が覚醒し、ようやく俺は今自分が何を口走ったのかを理解した。

目の前にいた柊からはスッと表情が消え、次にニコリと笑った。


「白雲さんじゃなくてごめんなさい」


「あ…いやあの…」


「さぁ、もう目は覚めたでしょう?早く顔洗ってきてくださいね」


「は、はい…すみません…」


柊が部屋を出て行ってから俺は制服に着替え、歯を磨いて顔を洗ってからリビングに行く。


「おはようございます。如月くん」


「ひ、柊…さっきは間違えて悪かった」


「別に気にしてませんよ。えぇ、全く気にしてませんから」


「めっちゃ気にしてんじゃねぇか…」


口ではそう言ってるが、柊はめっちゃ頬を膨らませていた。

だが、そうやって拗ねながらもしっかりと朝飯は用意してくれている。


「全く…如月くんは酷いと思います。 せっかく起こしに行ってあげたのに」


「返す言葉もございません。罰ならなんなりと」


「あらそうですか。では今日は一緒に登校しましょう」


「は…?」


柊は朝飯をテーブルに置きながら言った。


「両親には認めてもらいましたし、もう怖いものなんてないでしょう?」


「いや…周りの目とかあるだろ…」


「でも白雲さんとは一緒に登校してたらしいじゃないですか」


「…なんで知ってる?」


「昨日の夜に白雲さんからチャットで」


まじかよ、美羽の奴余計な事を…。


「いや…それはあくまでも変装した美羽と途中まで一緒に行ったってだけでだな、学校に入ったのは別々で…」


「なら尚更一緒に登校したいです」


「尚更ってなんだよ」


「…如月くんは私と一緒に学校行きたくないんですか?如月くんが嫌なら無理にとは言いません」


そう言って柊は悲しそうに下を向く。


「いや…別に嫌って訳じゃねぇけど…」


「なら一緒に行きましょう!」


「はぁ…分かったよ。どうなっても知らねぇからな」


柊の勢いに負けてしまい、俺は渋々頷いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんか不思議な感じですね。 朝にお互い制服姿でエレベーターに乗るの」


「…そうだな」


現在、俺と柊は家を出てエレベーターに乗って1階に向かっていた。

1階につくとそのまま外に出る。


「……」


「……」


そして、俺と柊はお互い無言のまま歩き続ける。


「……何を話せばいいか分かりませんね」


「…別に無理に話さなくてもいいだろ」


「でも、せっかく一緒に登校出来てるんですし…」


「お前昨日からちょっとおかしいぞ?なんか元気すぎるっていうか…」


「うっ…」


俺が言うと、柊は少しだけ顔を赤くして顔を逸らした。


「…そんなにテンション高いですか?」


「あぁ」


「いつもの私ってどんな感じでしたっけ」


「んー…真面目頑固。たまにポンコツ」


「……怒りますよ?」


「いや…だって本当の事だろ」


「むぅ…少しくらい良いところを言ってくれたっていいじゃないですか」


「真面目なのは良いところだろ」


「そういう意味じゃ…はぁ…もういいです」


柊は諦めたように溜息を吐く。


「……あの、如月くん」


「なんだ?」


「…本当に私と登校するの嫌じゃなかったですか?」


「はぁ?なんだよ今更」


「だって…あんまり喋らないし…」


「いつも喋らないだろ俺は」


「そうですけど…」


何を不安がってるのか知らないが、柊は下を向いてしまった。


「…嫌じゃねぇよ。 1人寂しく歩くよりはずっとマシだ。 今まではきっかけがなくて誘えなかったけど、実は何回か誘おうとして辞めてたんだ」


「え、それ本当ですか…?」


「あぁ。 情けない話だけど、ずっとお前と一緒にいる生活をしてたからかな、少しでも1人の時間があると物足りなく感じるようになったんだよな。

一人暮らししてた頃は1人の時間が心地よかったのにな」


俺はそう言って笑う。 すると柊は目を見開き、何度も頷いた。


「わ、私も!私もです! 前までは1人で居るのが当たり前だったのに、今は1人の時間が怖くて…。

だから常に誰かと一緒に居たいんです」


「お前寂しがりやだもんな」


「なっ…!如月くんだってさっき1人の時間は嫌だって言ってたじゃないですか!」


「俺は物足りないって言ったんだ」


「同じじゃないですか!」


そんな会話を続けながら歩いていると学校が近くなり、徐々に周りに制服を着た生徒が増えてきた。

そして、その全員が俺達を2度見していた。

多い奴は5度見していた。


「…やっぱりめっちゃ見られてんな」


「堂々としていればいいんですよ。 別に何も悪い事はしてないんですから」


柊はすっかりいつもの調子に戻り、余裕そうに歩いていた。

それとは対照的に俺は周りをキョロキョロと見渡してしまう。

やめてくれ俺みたいな日陰者はチラチラ見られるのが嫌いなんだ。


「キョロキョロしない」


「いやでも…気になるだろ」


「はぁ…まぁ毎日続けていれば周りも如月くんも慣れるでしょう」


「え、これ毎日続けんの?」


「当たり前じゃないですか。嫌ですよ明日からはまた別々だなんて。

私がどれだけ勇気を出して言ったと思ってるんですか」


「まじかよ…視線が痛ぇよ…」


「いっその事手でも振ってあげたらどうですか?」


「馬鹿かお前殺されるわ」


俺が言うと柊は楽しそうに笑う。


「如月くんは周りの目を気にしすぎなんですよ。もう少し…あっ」


「げっ…ばれた」


柊が歩みを止めた。

そんな柊の視線の先には、七海と春樹がいた。


七海は俺と柊を見て心底嫌そうな顔をした。


「七海さん!海堂さん!如月くん、行きましょう!」


「え、ちょ…おい」


柊は七海を見つけると笑顔になり、俺の手を引っ張って走り出した。


「ちょ…!馬鹿渚咲…!あんたがこっち来たら目立つ…!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「あー…視線が痛い…」」


現在、俺と七海は肩を窄めて下を見ながら歩き、俺と七海の前では柊と春樹が並んで歩いていた。


「へぇなるほど、確かにもう両親の許可を得たんなら一緒に登校しても問題ないもんね」


「はい!いつも1人登校だったので賑やかでとても楽しいです!」


「そうかい、それは良かった。にしても面白いくらいに視線が全部そっちを向いてたねぇ。流石柊さんだ」


「あー…そうですね。ある程度は覚悟していたんですけど…」


「まぁ皆からしたらずっと学校に来てなかった学校1の美少女が男と歩いてるんだからね。そりゃ見たくもなるさ。

陽太、これで君も有名人だねぇ?」


「…やっぱり目立つよなぁ」


「目立つだろうねぇ。でも良いじゃないか。 もう君に怖いものなんてないだろう?」


「はぁ…?」


「君は過去を乗り越えたし、友達を頼れるようになったし、柊さんの両親を説得して柊さんを取り戻してみせた。

君は去年までの君とは別人だよ。今更周りの視線にビクビクするような男じゃないだろう」


「……」


春樹の言葉に、俺は何も言えなくなる。


「それに、あんまりビクビクしてると柊さんが罪悪感を感じちゃうんじゃないかな?」


「え…!あ…私は…」


急に名前を出され、柊はビクッと身体を震わせる。


「はぁ…分かったよ。 確かに春樹の言う通り今更だよな。たまに4人で帰ってるんだし」


俺が言うと、柊は安心したように息を吐いた。

どうやら春樹の言う通り本当に罪悪感を感じていたらしい。


「…柊、さっきも言ったけど別に嫌って訳じゃねぇからな。 当分は落ち着かねぇかもだけど、その内慣れるから」


「は、はい!」


俺はそう言って足を大きく踏み出し、柊の横を歩いた。

すると春樹は俺の後ろに行き、横にいる七海を見て笑う。


「七海も陽太を見習って頑張ろうね」


「…陽太は元陽キャだから無理」


春樹が言うと、七海が心外な事を言ってきたので俺はすぐに振り向いて講義する。


「陽キャじゃねぇよ」


「陸上部のエースだった奴が言っても説得力ないよ。陽太は仲間だと思ってたのに私は悲しいよ」


「あ…あれはだな…」


「で?その陸上部のエースだった人は今年のスポーツ大会どうすんの?」


七海に言われ、俺は言葉を詰まらせてしまう。

七海の言いたい事は分かる。


七海は俺にスポーツ大会の陸上競技に出ないのかと聞いているのだろう。


確かに、俺はもう陸上に対してトラウマは抱いてないし、走る事自体は今も好きだ。


「…考え中」


「ふーん。即答で「適当に」とか言わない辺り迷ってはいるんだね」


「うっ…」


本当鋭いなコイツ…。


「まぁ、何に出るにしたって後悔はないようにしなね。 もしもの時はまたハルに代わって貰えばいいんだし、気楽に行きな」


「えっ…いや…僕は出来れば遠慮したいかなぁ…?去年ごぼう抜きされて肩身が狭かったんだよ…」


苦笑いしながら言う春樹を見て俺は少しだけ気持ちが楽になった。


「…あぁ。後悔はないようにするよ」


…過去は乗り越えたし、俺自身もう陸上の事は嫌いではなくなった。


あの地面を強く蹴る感触、風を切って走る感覚、単純に人と速さを競う事。


全てが心地良い思い出として残っていて、俺はやっぱり陸上が…走る事が好きなんだと思う。


ただ…俺とカズの関係を一度壊したのは陸上な訳で、乗り越えたとしても、その事実は変わらない。


…八神はその点どうなんだろうか。八神も俺と同じで中学時代に嫉妬の目に晒されながらも、今でも高校で立派にエースとして頑張っている。

俺と八神は…


「…如月くん」


考えている事が顔に出ていたのか、横を歩いていた柊が声をかけてきた。


「悩んでる事があったら、遠慮なく頼って下さいね」


「……あぁ。ありがとな。1人じゃ無理だってなったら遠慮なく頼らせてもらう。 もしもの時は春樹に変わってもらえばいいしな」


「…えっ…!?い、いや…!だから僕は去年ごぼう抜きされて結構なトラウマで…」


「冗談だよ。色々自分の中で気持ちを整理して、俺なりに頑張ってみようと思う」


冗談を言ったからか気持ちがだいぶ楽になり、俺達はそのまま学校へと向かった。

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