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90話 「おかえりなさい」

(サイトのログインパスワードを忘れてしまってログイン出来ず、期間が空いてしまいました…!やっと思い出せた…!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「んじゃ、今までありがとな。世話になった」


朝9時、俺はキャリーケースを持って玄関に立っていた。


「うん!今度渚咲ちゃんの家に遊びに行くね!

陽太くんもたまにはこっちに遊びに来てね」


「あぁ、分かった」


「あとあと、2人でお出かけもしようねっ」


「あぁ」


美羽は笑顔で手を振って見送ってくれた。

1週間ほど世話になったからな、今度何か奢らせてもらおう。


「さて…帰るか」


柊には既に今日帰ると伝えている。

俺は道中にお土産としてケーキ屋でケーキを買い、懐かしい柊が住んでいるマンションの下までやってきた。


「…あ、鍵ねぇんだった」


ついいつもの癖で合鍵を使おうとしていたが、柊の家を出る時に合鍵を置いてきたんだったな。


柊の部屋番号を押してインターホンを鳴らすと、インターホン越しに『はい』という声が聞こえた。


「よぉ。俺だ」


『…今時オレオレ詐欺ですか? 申し訳ありませんが詐欺なら…』


「違う。如月陽太だ。前もあったなこんなやり取り」


懐かしいやりとりをすると、インターホン越しから小さく笑う声が聞こえた。


『今開けます』


扉が開き、中に入る。

そしてエレベーターに登り、柊の部屋の前に行く。

もう一度インターホンを押すと、柊が扉を開けた。


「お邪魔します」


「…違うでしょう」


玄関に入って言うと、柊は首を振った。


「…ただいま」


「はいっ!おかえりなさい!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…これ、ケーキ」


リビングに行き、柊にケーキを渡す。

すると柊は一瞬びっくりした後、笑顔になった。


「ありがとうございます!後で食べましょう!

あ、お外暑かったですよね。麦茶飲みますか?」


「お、おぉ…ありがとう」


「はいっ!あ、キャリーケース貸してください!お部屋に置いてきますから」


「いや、いいよ重いし」


「んー…じゃあ何か手伝える事ありますか?」


柊は俺に冷たい麦茶を渡した後もしつこく話しかけてくる。


「…どうしたお前?なんか変だぞ」


「うっ…如月くんが帰ってきてくれたのが嬉しくて…」


柊は恥ずかしそうに顔を逸らしながら言ってくる。

そういう事言われると俺も恥ずかしくなるんだけどな…


「…部屋に荷物置いてくる」


「あ、私も手伝います!」


「いや、1人でじゅうぶ…」


「手伝います」


「はいはい…」


こうなると柊は絶対に引かない。

柊に手伝ってもらいながら荷物を整理するが、荷物が少ない為すぐに終わってしまった。


「…すみません。元々あった物はもう処分してしまっていて…」


「気にすんな。俺が頼んだ事だしな」


この家を出る際、キャリーケースに入りきらなかった服などは柊に処分してもらうように頼んでたからな。

今の俺の服はキャリーケースに入っていた物だけだ。


「…今度2人で買いに行きませんか?お洋服とか色々」


「別に1人でも十分だから大丈夫だぞ」


「いえ、2人で行きましょう。私が居ないと如月くんはすぐ古着を買いそうなので。

別に古着を悪く言う訳じゃないですけどね」


「もっと気を遣えって事ね。りょーかい」


俺が言うと、柊は嬉しそうに頷いた。

にしても…また俺はここに帰ってきたのか。


「あー…柊」


「はい?」


「…また世話になる。よろしくな」


「…はいっ!」


柊は嬉しそうに笑顔で頷いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『えー!?何それそんな事があったの!?母さん何も知らなかったんだけど!

なんで言ってくれないのよ陽太!』


あの後、リビングで話しているといつものように柊のスマホに母さんから電話がかかってきた。


俺は母さんには何も伝えてなかったのだが、柊が「この度はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」と謝ってしまい、何の事か分からず混乱した母さんに事情を説明する流れになってしまったのだ。


「如月くん、何も言ってなかったんですか…?最近美穂さんから連絡が無かったので、てっきり如月くんの方から伝わっていたものだと…」


「あー…まぁな、心配かけたくなかったし」


『ったくあんたはまたそうやって…で?今まで何処に住んでたのよ。

春樹くんの家?ホテル?』


「う…」


『何よその反応』


「…如月くんが言いづらいみたいなので、私から説明しますね」


柊が分かりやすくかつ完結に俺の今までの状況を伝え、母さんは黙り込んでしまった。


『…ちょっと待ってね?私今すっごい混乱してる』


「…だろうな」


『え、白雲美羽ちゃんってあれよね?

最近凄く人気のアイドルよね?なに?その子が陽太の幼馴染?へ…?』


「誤解のないように言っておくと、如月くんは決して隠していた訳ではなく、白雲さんと再会するまで忘れていたみたいです」


『えぇ…で今まではその子の家に泊まってたと…

え、陽太ってもしかしてヒモの才能ある?』


「ねぇよ」


『だってだって!渚咲ちゃんだけじゃ飽き足らず次はアイドルってあんた見境な…』


母さんの話をぶつ切りする為に柊のスマホを奪い取り、通話を切る。


「あ…」


「事情は説明したんだしもういいだろ。どうせ後は揶揄われるだけだしな」


柊にスマホを返し、俺はソファに座る。

すると柊もちょこんと俺の隣に座った。


……さっきからこいつ距離近いんだよな。

部屋に荷物置いてからずーっとついてくるし。


「…柊?なんかやる事とかないのか?」


「やる事ですか?」


「あぁ、ほら明日から学校復帰するんだろ?

それの準備とか今まで授業出れてない分の復習とかさ」


「学校の準備はもう終わってますし、学校側には父が事情を説明してくれたそうなので問題はないです。

授業に関してももう2年生で学ぶ事は大体勉強し終えてるので大丈夫ですよ」


「そ、そうか」


あぁそうだったこいつめっちゃ頭良いんだった。

所々ポンコツなせいで忘れかけてたわ。


「…実は昨日、両親が家に来てくれたんです」


柊が嬉しそうに口を開いた。


「夜に私のご飯を食べにきてくれて、やっと両親に手料理を振る舞う事が出来ました」


「え…昨日って…俺達が帰ったのって昼だよな?その後に来たのか…?」


「はい。 お父様曰く、「明日には如月陽太が帰ってくるんだから食べに来るなら今日しかないだろう」との事でした」


「いや…別にそういう事なら帰ってくる日ズラすし俺だけその時間外出してきても良かったのに…」


「まぁ、そういう人ですからね」


「…で?どうだったんだ?」


「途中で仕事の連絡が入ったので少ししかお話出来なかったんですが、帰り際に「美味しかった」と言ってくれて…泣きそうになっちゃいました」


「そうか、良かったな」


どうやら柊家は徐々に向かい合いつつあるらしい。

とてもいい事だ。あとは時間が解決するだろう。

今まで目を合わせてこなかった分、これからは沢山目を見て話し合ってほしいものだ。


「事前に言ってくれればもっと準備出来たんですけどね。それだけが残念です」


「恥ずかしかったんじゃねぇの?」


「恥ずかしかった…?」


「あぁ。幸次郎さんってそこら辺不器用そうだろ。

素直になるのが苦手なんじゃねぇかな」


「なるほど…全く困ったものですね。不器用な人というのは」


「いや…お前も似たようなもんだろ」


「え」


素直になるのが苦手、頑固、不器用、全部幸次郎さんと柊に当てはまる物だ。


「…私はあんなに不器用じゃないです」


「いやいや、お前も相当だぞ? お前変な所で意地になるし」


「な…意地になんかなりませんよ!私はそんなに子供じゃありません!」


「ほらそういうとこ」


「うっ…!」


柊はハッとして頬を膨らませてそっぽを向く。


「もう知りません」


「はいはい悪かったよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あの後、柊の機嫌を直す為に散々ゲームに付き合わされた俺は、現在ソファの上で力なく寝ていた。


本当に疲れた…機嫌を直すためにゲームしてるのに俺が勝つと拗ねるしワザと負けてやるともっと拗ねるし…。


だが今では柊の機嫌はすっかり直り、楽しそうに鼻歌を歌いながらキッチンで冷蔵庫を見ていた。


「お昼ご飯何か食べたいものはありますか?」


「なんでもいいぞ〜」


「何でもいいが1番困るんですけどね」


「何でも美味いから大丈夫だ」


「…ありがとうございます」


柊は小さくお礼を言った後、何も喋らなくなり無言で料理を始めた。

そして数分後、プロ顔負けのオムライスが完成していた。


「…美味ぇ」


久しぶりに食べたけどやっぱり美味いなこいつの料理。

あんな短時間で作ったとは思えない。


「それは良かったです。…あ、そういえばあと2週間後ですね」


「ん?何がだ?」


「スポーツ大会ですよ」


「…あー…」


…そうだった。夏休みが終わって9月になったらこれがあったんだった。

生徒は全員参加の地獄のスポーツ大会。


柊と公園で出会ったのが去年の10月だったから、スポーツ大会の後だったんだよな。


「如月くんは去年何に出たんですか?」


「仮病使って見学してた」


「え!なんでですか!如月くん運動神経良いのに」


「人数合わせでリレーに出されたんだよ。でもほら…その時はな」


「あー…なるほど」


その頃はまだ陸上に苦手意識がある頃で、どうしても嫌だった俺は当日仮病を使って見学させてもらったんだ。


春樹が代わりに出てくれて、後日昼飯を奢ったのを覚えてる。


「柊はバスケに出てたよな」


「え、よく覚えてましたね。背が高いからという理由でバスケットボールに出されたんです」


「通りかかった時にチラッと見ただけだけどな。

お前運動神経いいし大活躍だったろ」


「別に普通ですよ」


絶対に嘘だな。体育の時たまに見てるけどこいつめっちゃ活躍してるもん。

そんで男子が騒ぐ。ここまでがセットだ。


「でも不思議ですね、あの頃はお互いまだただの他人だったのに」


「そうだなぁ。スポーツ大会が終わったらここに住み始めて1年になるのか。

早いもんだな」


柊がうんうんと頷く。


「そして12月には修学旅行がありますし、イベント尽くしですね」


「忙しくなるなぁ」


「そうですね…そして修学旅行が終わったらすぐに3年生になって、そしたら受験か就活です。如月くんは進学志望でしたよね」


「また受験かぁ…この高校に入る時めっちゃ勉強したんだよな…」


高校では地元を離れて一人暮らしをしたいと親に言った時、父さんがとある条件を出してきたんだ。

それは『偏差値が普通より高い学校』である事。


ウチは基本的に赤点さえ取らなければ問題なし。というスタンスだったが、一人暮らしをするなら勉強を頑張って将来の選択肢を増やせるようにしなさいと言われ、中学まで勉強が全然得意じゃなかった俺は必死に勉強して今の高校に入ったんだ。


「頑張ってくれてありがとうございます」


「なんでお前が感謝すんだよ」


「如月くんに会えたからです」


「……あっそ」


こいつは本当に急に爆弾を投下してくるなぁ…


「洗い物やるわ」


「はーい、お願いします」


柊から食器を受け取り、洗い物をする。


柊が料理を作って、食べた後は俺が皿洗いをする。

たった1週間離れていただけなのに、懐かしいなと感じるのは、それだけここでの生活が心地いいと感じている証拠なんだろうな。


そう思いながらも決して口には出さず、食器を洗い続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーー

第四章

白銀の想い 編


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