"ごちかわ先生の奇跡" 中編
「────つまり、この部活……もとい、この学校は多額の負債を抱えていると。そして、新入生も入って来ず、アビドスは実質、この5人のみか」
「……はい。その通り、この学校は、窮地にあります。藁をもすがる気持ちで、先生に連絡を……」
「ふ、くく。その判断は大正解だ。……それにしても、カイザー、か。ふざけた野郎どもだ」
「さっき、先生が倒れていたところも、昔は結構栄えてた」
「砂漠に飲まれてしまったか」
「……」
目を閉じて、小さくコクリ、と頷いた。
俯いていてもわかる、悲しみと、悔しさの入り混じった表情。
連邦生徒会から俺を呼ぶだけあって、なかなかどうしてのっぴきならぬ状況だな。
だがだ。こんなもの、窮地にすら入らん。
「……先生。もしかして、カイザーに直接乗り込もうとしていますか?」
「む?」
……表情に出ていたか。
いや、参るな。
「気持ちは嬉しいけどっ……、私たちの力で、合法的に借金を返してやるんだから!そのために、毎日アルバイトをして……」
……アルバイトで、学校、いや、国単位の負債を?
何千年掛かると思っている。むしろ、そんな方法こそ認めてやれぬ。だが……
「そうか。励むことだ、体は壊すなよ」
今は、こんなことしか言ってやれぬ。
しかしだ。セリカのバイト先か。暇のあるときに、赴いてみたいところだ。
それからしばらく話し合いをした後。
セリカがバイトの時間だと校舎を後にした直後に、俺は聞いた。
「なあホシノ。セリカのバイト先、どこか知ってるか?」
「ええー?いや、いくら先生といえども、セリカちゃんのバイト先が柴関ラーメンっていうラーメン屋さんだってことは教えられないよ〜〜」
「ホシノ先輩………?」
柴崎ラーメンというのか。絵の上手そうな店主がいそうな名称だな。
「柴"関"ラーメンだよ〜、先生〜」
ふむ。なぜ思考を読まれている?
「……それじゃ、ちょうど話題に出たし、この後みんなで行ってみる?」
「行きましょう!」
「賛成ですっ!」
総員が手を挙げて、賛同する。一番に教室を出たのは、シロコだった。
………………………
しばらく歩くと、まさに営業中の、大きな看板を携えた店舗が見えた。ここか。
窓の外から、様子を覗き見てみた。
卓へ、キッチンへとあくせく動く様子が見える。
「ちゃんと働いてるみたいだね~」
「のぞき見するのも悪いですし、早いとこ入っちゃいますか」
カラ、カランと、店の扉に付いた鈴が鳴った。
「いらっしゃいま……って、どうして先輩たちがっ!?それに、先生も……!」
「む?いやいや、たまたま飯屋を探してたら、ここに辿り着いただけだ、偶然だぞ」
「ぜったい、嘘でしょっ!!どうせホシノ先輩とかが口を滑らせて……」
「いやぁ〜、人聞きの悪いこと言うねえ、セリカちゃん。私がそんなことするように見えるー?」
「…………」
逆に料理を提供したお盆を持ったまま、無言で、白い目でホシノを見つめる。"めちゃくちゃ見える"と、その眼が言っている。
「うへぇ〜」
飄々と、その視線を受け流している。
どうやら、これはよくある光景のようだな。後ろのノノミとアヤネも、苦笑いをしている。シロコは……どこを見てるんだ?
席につく。なかなかどうして、良い店内だ。
「大将、柴関ラーメンを一杯貰おう。それと、可憐な従業員にドリンクを」
「せ、先生……!そういうのいいからっ!」
「あいよ!セリカちゃん、コーラでいいかい?」
「店長!」
先ほどよりももっと顔を赤くして糾弾するセリカを横目に、他の皆も次々に注文する。
そうして、待つこと数分。
俺の前には、熱気を備えた大きな丼が君臨していた。
腕をまくり、その全貌を見定める。
「────ふむ」
ふわり。穏やかで、それでいて温かな香りが鼻孔をくすぐる。
これは、期待できる。
視えるのは、截然と整えられた、ほのかに山吹色づいた麺。歯ごたえの期待できる、野太いメンマ。スープに僅かに浮いた脂、表面を彩る2色のネギ。
そして中心に、我こそが主人公だと佇む……極厚のチャーシュー。表面を少し炙られているのか。いわし雲のような焦げ目がドレスコードとなり、その極上たるやを示唆している。
食欲がそそられる。これは、期待できるな。
「では」
レンゲにそのスープをすくう。
かすかに浮いた脂。香りがまた、さらに色濃く鼻をなでる。
……ゆっくりと。
御神酒を飲むように、静かにそれを口に入れた。
「………」
口の中で、そのスープを転がす。
まだ、少し口に入れただけだというのに、ソレが五臓六腑に沁み渡る幻覚が見える。
「……ど、どうなの?先生……」
俺がいつまでも無言だからか。セリカが、不安そうにこちらを覗き見ている。
いや、よく見わたすと、ほかの皆も、こちらの様子を伺っている。
いかんな。目の前のラーメンに夢中になるあまり、生徒たちの存在をすっかり忘れていた。
「…………ふむ。まずは鶏───よく煮詰められた鶏ガラの深みのある風味が口中に広がる。あえてアクを全てはとらず、生姜でしつこさを消しているのか。これによって生醤油の旨みも存分に引き立っている」
もう一杯、スープを啜り、シャキ、シャキとネギを口で転がして、俺は続ける。
「そして遅れてくるのは魚介のニュアンス。古来より、鶏ガラ醤油と魚介はスープに共存させるには相性が悪いと言われていたが、よくぞここまで併せたものだ。喉を通るたびに、この香りが鼻を突き抜ける」
なんて旨みの奔流だ。この2すくいだけで、俺は完全に魅了されてしまった。
そして。
もう我慢できぬと、箸を突き入れ、ズ、ズゾゾ、と山吹色の麺を啜る。
「………ベスト、マッチ」
啜った瞬間に息をついて出た言葉。
俺自身の意思ではなく、身体から勝手に、出た言葉だ。
「いや、なんだ。スープを少し味わえば、それに見事に合致するであろう麺の粘り、硬さ、舌触り……ソレに合う風味はある程度想像できるものだが、まさか、こうまで見事に体現されようとは。いや。これは、その想像すら遥かに超えている」
もう一度、麺を流し込むように、スープを口に入れる。
そうしてもう一度麺に口をつけた、その時。
「……む?」
体中を突き抜ける痺れのような感動とともに、
覚えたのは、一抹の違和感。
「───まさか。かん水を、使っていないのか」
「おぉ、兄ちゃん、分かるかい」
大将がニヤ、と口角を上げる。
「よもやと思ったが、今なお信じられぬ。天然の素材のみで、引き出せるコクか」
「……シロコ先輩、かん水って……何ですか?」
小さな口でスープを味わいながら、アヤネが問う。
「麺の旨みと歯ごたえを引き出すための、水だよ。小麦粉に混ぜてから麺を打つことで、食感が劇的によくなるらしくて……ラーメン屋の麺が黄色かったら、それはたまご麺か、かん水のはたらきによって着色してる。確か……小麦粉のフラボノール?と反応するのだったかな」
……詳しいな、シロコよ。
「でも、かん水にはちょっとよくない話もあって。例えば───」
話に興じる皆を尻目に、俺はまた啜る。
……旨い。突き抜ける風味、湧き上がる香り。箸が止まらぬ。
「……くく」
目が、合った。
着飾ったその肉と。
箸でソレを持ち上げる。
取ったそばからぷる、ぷると震えるその様は、その並々ならぬ弾力を予見させる。
たまらず、俺はソレに食らいついた。
……まず感じたのは。
肉の表面をわずかにコーティングしている、あの素晴らしきスープ。
わずかに噛んだだけで、じわ、と肉汁があふれ、スープと調和を奏でる。
同時に舌に飛び込んでくるのは、濃厚で、深き白醤油の味わい。相当、長く漬け込んでいたのか。
……これは、たまらん。
ほどよく炙られた肉の食感、白醤油の味わいが、
俺の口中を肉色に染め上げてくれる。
そして、極めつけはこれだ。この歯応え。
よく煮られ、漬け込まれたその焼豚は、
かすかに脂身の絶妙な絡みを残して、
ひと噛み、ひと噛みごとにほろ、ほろと口の中で崩れ落ちてゆく。柔らかで、どこか懐かしい残響。
脳裏に過ぎったのは、
そう。日曜日の午前10時ごろ。
少し夜更かしをし、少し遅めに起きたその日。
よき夢を見た朝。脳がゆっくりと腰を起こしかけた後、日曜日であることに安堵して、二度寝を決心するあの瞬間。
甘美で、決して捨ててはならぬ、あの胸がじわりとする気持ち。
そして、またよき夢の続きを見るため、目を閉じるのだ。
しかし夢は儚いもので、
いくら薄い記憶を掴みあげようとも、ほろ、ほろとその輪郭を失くしていく。
その様が、今無心に頬張る肉の儚さとその甘美さにも似て────
「は、はは」
笑みが溢れる。
なんたる、満足感。
麺が。スープが。ネギが。メンマが。焼豚が。
この口の中で踊っている。
調律された演劇。ソレは贅沢な、蕩けるような刺激を纏い、
聴衆を心の奥底から魅了する。
「げに美しきかな、この調和。俺の中で、五重奏が奏でられている…………」
脳を駆け巡る愛くるしい快楽。
その流れに、一寸も抵抗せず、ただ身を任せた────。
…………気がつけば、目の前に空の丼があった。
夢は一瞬にして過ぎ去るものだ。
かすかに名残惜しさを感じつつも、俺の心は十分に満ち足りていた。
「───それで、多くのラーメン店にはかん水は欠かせないんだけど、その特有の臭みと苦味が苦手だ、と言う人が結構居てね……」
ふむ、話の途中か。
俺は余韻に浸りながら、
かの素晴らしき演劇の響動を、惜しみながら水を飲んで洗い流し、
しばらくその浮き立つような気持ちのまま、ゆっくりと麺を啜る生徒たちを横目に、
「…………だが。一つだけ文句を垂れよう。柴大将よ。これが580円とは、どういうことだ。10倍でも文句は言えぬぞ」
「はっは。そこまで言ってくれるとはね。この値段がイチバンさ。自分にとっては、お客様の笑顔に代えられるものはないからね」
この店主にして、この味あり、か。
スープと麺の調和具合は、作り手の在り様を体現すると言うが、あながち嘘でもあるまい。
気づけば、他の生徒たちも、箸を置いていた。
「ぷはぁ〜〜食べすぎちゃったよー」
「本当に、美味しかったです……!」
様々な、満足の声が上がっている。
これまで何度もこの店を経験しているとは、羨ましいな。
「……堪能した。大将。取っておいてくれ」
俺は丼と一万円札をカウンター上に置く。
全員分+チップだ。この味、これでも払い足りぬくらいだ。
「……兄ちゃん、なんだこのお金は?外国のお金は使えないよ」
「え?」
……………………………………………
……それから。
連日、アビドスで作戦会議を行い、
様々な話をした。
噂によれば、先日撃退した"ヘルメット団"が、こちらへの復讐を狙っているらしい。
「やはり、リベンジに来るか」
「……そうみたいですね。今も虎視眈々と、戦力を集めているようです」
「アレでも懲りないなんて……本当にしつこいんだから……!!」
「まあ、アレはただ脅かしただけだからな。大層な前振りをしたが、ただ俺に注意を惹きつけて目くらましをしただけだ。誰1人として、傷は負っていない」
「……いや。懲りてはいるみたいだよ。作戦を変えたみたい」
「……というと……」
シロコの情報は信頼できる。
アヤネもそれを分かっているのか、即座にメモを用意し、書き留め出した。本当に、真面目だな。
「……あのヘルメット団は、やはりカイザーに雇われたチンピラだった。ヘルメット団がこの校舎の占拠を失敗したからか、カイザーは、何か怪しい集団を雇ったみたい」
「怪しい集団……って、何ですか?」
「そこまでは分からない……ただ、確実に言えるのは、あのヘルメット団より厄介な相手」
「そんな……」
「まあまあ、大丈夫でしょ〜。あの時のように、先生のぴかーー!!ってやつで撃退しちゃえば〜」
「……ホシノ、アレは先程言った通り、ただの目くらましだ。アレがあの時効果的だったのは、俺にたまたま全員の注意が向いていて、そしてあやつらが誇りも信念もないチンピラ風情だったからだ。正式に雇われた奴らを退かせるには、手荒な手段を取るしかあるまい」
「ちぇ〜。楽できると思ったんだけどなぁ〜」
「皆がなるべく闘わなくて済む手段を取りたいところだが、来るべき時は、力を貸してもらう。それでいいな?」
「……もちろん」
「当然ですよ!そもそも、私たちが力を借りている側なんですから!」
うむ。
覇気のこもった、いい返事だ。
アビドスの未来は、きっと明るい。
ただの無根拠の理想だが。俺には、素晴らしい未来が見えた。
……………………………………
そして数日後、
また今日も俺はあのラーメン屋に立ち寄る。
"ラーメンは野菜なので0カロリー"が俺の信条だ。健康食なのだから、食わぬ理由がない。
「お、兄ちゃん、また来てくれたか」
「ここより美味い店を知らぬものでな」
「嬉しいこと言ってくれるねえ」
「売り上げはどうだ?」
「いやあ……正直芳しくないね。アルバイトの給料を捻り出すのに精一杯さ」
「こんなに美味いのに、不思議なことだ」
「まだ食べていないのにかい?」
「ああ。大将が作るラーメンはいつだろうと美味いに決まっている」
「……本当に、嬉しいことを言ってくれるねえ」
席に着く。……と同時に、カラカラ、とやや控えめに扉が開いた。そして、
「す……すみませ…ん、あの、ここで…1番安いメニューって……いくらですか……?」
おず、おずとした声で、紫髪の少女が大将を見ていた。
小さな帽子を被り、半分開いた扉から体をすぼめて、問いかけている。
「ウチで一番安いメニューは、ズバリ柴関ラーメン、580円だよー!」
大将の朗らかな声と共に。
扉のそとから、「やったわ!」と言う声が聞こえてきた。
ガラ、と勢いよく、
さっきまで半分しか開いていなかった扉が全開する。
「やっと見つかったね、600円以下のメニュー!」
引っ込み思案な紫髪の少女の後ろから、ぞろぞろと続いたのは3人の少女。
「でしょう?どんなときにも、解決策はあるのよ!」
一人は白銀の髪に、大きな花の髪飾りが特徴的な小柄な姿をしている。背には自分の身長ほどの非常に大きなカバンを携え、口を押さえて小さく笑っている。
一人はその後ろに堂々と立つ。
赤い髪。目立つのは、後頭部から伸びた一対の角。
華麗なロングコートを羽織り、満面の笑みでメニュー表を覗いている。
そして、そのさらに後ろ。
同じく一対の角を生やし、整えられた白髪に、顔に掛かった黒い前髪がよく映えている。
2人のように喜びをあらわにするでなく、険しい目で店内を俯瞰している。
「あ、4名様ですかー?テーブル席へどうぞ!」
「あ、大丈夫大丈夫!どうせ一杯しか頼まないから〜」
「え……?」
………先ほど、最も安いメニューの値段を聞いていたのは、そしてその値段を聞いて安心していたのはこのためか。
「いや、今の時間帯は空いてるし、よかったら4人席でごゆっくりどうぞ」
「おー、親切な店員さんだねっ!じゃあ、ついでにお箸は4膳でよろしく!」
「え!?ま、まさか、1杯を4人で分け合うつもり!?」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!貧乏で……」
驚いたセリカの言葉に、なぜか傍の紫の少女が怯えたように謝った。まるで、激しく怒鳴られた時のように……。
「い、いいや!謝る必要なんてない、お金がないことは罪じゃないわ!……お金をかき集めて来てくれたんだよね?その気持ちに、必ず応えてあげるから!」
セリカは一瞬面食らったような表情を見せたが、すぐに、何か自分にも思うところがあったのかそう諭した。
気丈だ。普段から麺食らってるだけはある。
「うへえ、先生、それつまんないよ〜」
だからなぜ思考を読まれている?
そしてなぜここにいる……?俺は1人で食べていたはずだが……
「あはは……つけてたわけじゃないんですよ、たまたまです。それにしてもあの子たち、見かけない顔ですね。アビドスの外の生徒でしょうか?」
気づけば、アビドスの生徒たちが勢揃いだ。見てみると、シロコがこちらにピースサインをしている。やけにテンションが高いな。
……に、しても。
俺は、ゆっくりと席を立った。
お節介かもしれぬが、年頃の少女たちが、
1杯のラーメンを4人で分け合うなど、そんな不条理、許してはおけぬ。
だが、そんな俺の意図を察したのか、
「……兄ちゃん。気持ちはわかるが、座っといてくれ」
ラーメンを作りながら、柴大将は後ろ手で引き留める。
「いや、しかし……」
「自分も、気持ちは同じだよ」
こちらからは後ろ姿しか見えぬ。
だが、それでも、その眼光が激しく光っていた。
そして。10分後。
あの4人組の目の前には、富士山があった。
「え、こ、これ……」
「こっ、これは……」
「……とんでもない量だね」
「……こ、これ、オーダーミスじゃないかしら!?私たちはただ普通のラーメンを一杯……」
〇郎系もかくやというその爆量。
彼女らは、驚きと困惑を隠せないでいる。
「いやいや、オーダーミスじゃありませんって!確かにラーメン並、ですよね大将?」
「ああ、そういうことだ。ちと手元が狂っちまってな。量がちょっと多くなったかもしれねえ」
……粋な計らいだ。
思いがけぬ出来事に、4人とも、目を輝かせている。
「……くく。柴大将よ。そんなだから売り上げが伸びんのだ」
「お客様の笑顔も見られずに売り上げだけ上がってもね、そんなのはこちらから願い下げさ」
「はは」
微笑がこぼれる。
この旨すぎるラーメンの、最大にして最高の秘奥は、間違いなくこの大将の人格にあることだろう。
4人組は、美味しい、美味しいと呟きながらとラーメンを啜っている。
……いや。いつの間に。
ノノミやシロコ達と、ラーメン談議に花を咲かせている。
青春というものか。確かに、首を突っ込まないで正解だったかもしれん。
横目で、その様子を覗き見る。
リーダー格の赤い髪の少女は、満面の笑みで応対しているが、
白・銀の髪の二人は、会釈をしつつ、ひそひそと内緒話をしている。
何かに、気が付いた様子、そして僅かな焦りが見える。
紫髪の少女は、店の至るところをきょろきょろと見回している。
「その制服、ゲヘナの生徒さんですか?」
「遠いところからご苦労さんだねえ~」
「そうよ!貴方達は、このあたりの生徒かしら?」
「ええ、私たちはアビドスの生徒なんです」
「へえー。アビドスの……アビドっ!?!?……もご」
叫びかけたのを、隣の少女が口を抑えていた。
(しーっ!アルちゃん、抑えて!)
「……アビドスって、最近大変なんじゃないの?」
注意をそらすように、そう切り出していた。口を抑えられた方は……白目を剥いている。何があった?
「……はい。存続が困難な一面があるのは事実です。でも、必ずっ、復興させてみせます!」
「おー!いいねぇ!」
「ええ!なんて気丈な人たちなのかしら!」
つい数瞬前まで絶望的な顔をしていたのにも関わらず、また満面の笑みに戻って言い放った。
「ありがとうございます!それで……さしあたり、あそこに座っているシャーレの先生に、助けてもらっている最中なんです」
「へえー。シャーレの……先生っ!?!?……もご」
……デジャヴか。
先程と同様に白目を剥き、そして口を押えられている。
忙しいやつだ。
……生徒間の仲睦まじき会話に割り込むまいと思っていたが、こうなっては首を突っ込まざるを得ないな。
「……ご紹介に預かった、シャーレの先生、ことごちかわだ。今後ともよろしく頼む」
「…………鬼方カヨコ。よろしく。先生」
「浅黄ムツキだよ!よろしくね~、先生っ♪」
「……あ、えと……伊草、ハルカ……です……」
「ほらっ、アルちゃんも」
「あ、う、ああ……っ、……私は陸八魔、アルよ。先生。以後、お見知りおきを」
……ふむ。一瞬にして真剣な顔に戻ったな。
突っ込むことはやめておこう。
そうして少しのあいさつの後、
固い握手と少しの雑談を交わし、店をあとにした。
………………………………
「いやぁー、いい人たちだったね、アルちゃん?」
「………あの人たちが、アビドス………だなんて…………」
「……はぁ。本当に、気づいてなかったんだね。社長」
「ど、ど、どうしましょう、今からっ、始末してきましょうか!?」
愕然と肩を下ろすアルと対照的に、ハルカは銃を構えてあたふたしている。今にも、敵地に突っ込みそうだ。
「いや、もう遅いと思うよ……」
「切り替えていこう、アルちゃん!」
「え、あ……、そんな……」
「………それより。警戒するべきは、あの“シャーレの先生”だと思うよ。アビドスの連中、シャーレの先生まで味方につけていただなんて……。これは、一筋縄ではいかなさそうだね」
「俺が、どうかしたのか?」
「………!?」
「さっきの……シャーレの、先生!?」
いや、脅かすつもりはなかったのだが、
そんなに怯えた表情をされると参るな。
「………いや。“シャーレの先生”を見たのは皆初めてだったから、つい話題に出ただけだよ」
ふむ。確かに。
シロコに会った時の反応もそうだったが、生徒たちからしたら物珍しいのだろう。
「そういえば先生って~、生徒のためなら何でもするって聞いたけど、本当なの~?」
「ああ。真実だ。この身は生徒のためにある。そして、君らも俺の大切な生徒であると断言する」
「わわっ…私たちが……大切な、生徒……」
「ふ~~ん、じゃあ、私たち、とある任務を遂行するために頑張ってるんだけど、私たちの邪魔をしたり、攻撃したりってことはないよね?」
「ああ。約束しよう」
「………!」
「ふ~~ん?」
俺が断言したのが意外だったのか。
カヨコはあからさまに驚き、
アルは目を輝かせていた。
「だが、肝に銘ぜよ。君ら4人も大切な生徒だが、彼女らも、無論他の生徒たちも俺の大切な大事な生徒だ。彼女らを不当に傷つけることがあれば、俺は決して許しはせん」
「……………!」
それだけ言い残して、俺はすぐにその場をあとにした。
いつの間にやら、日が落ちかけている。
もう一つ、気になることがあるからな。
「………もしかして、バレてる……?私たちの、こと……?」
「え、ええっ!?ど、どうして!?そんな素振りあったかしら!?」
「きっと私が、何かヘマをしてっ……ごめんなさいっっ……!!!」
「………いや、まだそうと決まったわけじゃないと思う。……でも、可能性は高いね。どうする?社長。あの子たちの上に、シャーレの先生まで敵に回すかもしれないよ」
「あ……え?」
「アルちゃん、大事な選択だよ?どうする?」
皆に見つめられる中。
アルは、覚悟を決めたように深く息を吸って、
「や、やってやるわっ!!どんな障壁だって乗り越えて、この任務を完遂してみせるわ!!……なんたって、この任務を乗り越えたら……大量の報酬が貰えて、企業規模も拡大して……みんなで社員旅行とかも行けるかもしれないからねっ!」
───そう、言い放った。
…………………………………………
そして、
完全に日が落ち、暗闇となった砂漠の地。
砂漠といえど、荒廃した建物が建て並ぶ、元々町だったところだ。
冷たい風が吹きすさぶ。闇に月光が差し込む。
───天鷹は、わずかな光を辿るように、俊敏に迅雷に翔ける。
「な、なっ……!!こ、このままじゃ全滅だぞ!!」
「馬鹿な!!!寝込みを襲われたとはいえ、我々が……!!」
「敵の姿、視えません!!闇に紛れて、一人、また一人と倒れていきます!」
「ち、いい……!!敵の姿もわからぬまま、我らは全滅するのか……!!」
ドン、ドォンと爆撃の音が響く。
砂塵が舞い、閑散とした建物に爆音が反響する。
「夜襲慣れしてないね。元々暗いのにそうやって視界を聴界を狭めたら、隠れてくれって言ってるようなもんだよ」
遂に、リーダー格の兵士も銃弾に倒れる。
神業だ。砂塵の中で、固まった5人を一瞬にして蹴散らし、劣悪な視界の中で、司令塔を狙撃した。
「ぐ……ぉ……!!せめて、道連れに……!!」
司令官が、【危険】と書かれた赤いスイッチのフタを外し、強く押した。
足元が光る。
爆弾か。それも、とびきり高威力の物だ。
部下がいては、使えない代物だろう。
勿論自分も、倒れた部下たちもただでは済まない。
「……!!」
咄嗟に大きく退がり、盾を構えている。
だが危険だ。距離が十分でない。
「くっ────!!」
少女は冷や汗をかいている。
それを見て、俺の体は独りでに動いていた。
瞬間。
ズドガァァァァァア、とけたたましい音を侍らせ、大爆発が巻き起こった。
「先……生……?」
「無事だったか、ホシノ」
砂塵が晴れる。
なんとか、間に合ったようだな。
「え、どうして先生がここに……それよりも、先生こそ無事!?」
「うむ。かんしゃく玉の扱いには、幼少期から慣れている」
「え、ええ……」
「ホシノ、毎日、こんなことをしていたのか」
「うへ、バレちゃったか~。毎日ってわけじゃないけどね。ヘルメット団の前哨基地の場所は分かってたから、手っ取り早く潰しちゃおうと思って」
ばつが悪そうな顔をしている。
誇ることだというのに。人知れず、彼女らを守っていたのだ。
「ふむ。流石だな。だが、体だけは壊すなよ。そして、次からは俺も連れていくことだ。先生を頼れ」
「うへぇ、分かったよ~」
“一人の方が楽なのに”といった顔をしているな。
俺が信用ならないか。いや、参った。
「とにかく、そういうことだ。早めに寝ることだな、明日も会議がある」
「は~い」
「……ああ、そうだ。最後にもう一つ。さっきもちょっと言ったことだが」
「……ん~?」
銃と装備を仕舞いながら、ホシノが首を傾げる。
「何か困難に直面した時。理不尽に襲われた時。必ず、シロコたちを、俺を頼ってくれ。一人で乗り込むなんてことは、決してしないでくれ。俺が、俺たちがきっと解決してみせる」
「……」
ホシノは俯いて、コク、と小さくうなずいた。
「その代わりにだ。ホシノ。俺が四方八方を敵に囲まれ、窮地のとき。俺はホシノを呼ぶ。助けてくれ」
「……!」
「いいな?」
「……分かった。約束するよ、先生」
そうして、俺たちは砂漠をあとにした。
…………………ホシノは毎日じゃないと言った。
確かにこれほどの激戦は稀だろう。
だが、たぶん、周辺のパトロールは毎日やっていることだろう。俺の直感がそう言っている。
……もしかして。
普段のホシノがいつも眠そうなのは。まさか…………
………………………………………………………………
その2週間後。
今日も会議だ。……現状は拮抗状態。こちらからはほとんど仕掛けられていない以上、状況は芳しくない。
件の“怪しい集団”は、まだ姿を見せていない、ということや、
ヘルメット団の、カイザーの動向の情報は大きく知れたが、
根本の解決策だけは、どうにもならなかった。
「ホシノ先輩、来ないですね……」
「どうせ屋上とかでまた昼寝してるんでしょっ!いいから、進めましょ」
「まあ、その可能性は高いけど、少し……胸騒ぎがする」
ふむ。
ホシノの姿が見えない、か。
よくあることだ。現に俺がアビドスに来訪した時も、教室にはいなかった。
……その日は。
ついに一度も、ホシノの姿を見ることはなかった。
ホシノに限って、さらわれた、などあり得ぬはずだが……。
まあ、今夜、探してみるとしよう。
ホシノの夜のパトロールを知っているのは俺だけだ。ここで喋っては面倒なことになりかねん。
ここ最近、相手側の動きが怪しい。
あまり攻めてこなくなった。
……むしろ、困る。
敵がどこに潜んでいるか、どんな人員がいるかわからないまま、拮抗状態が続いている。
狡猾だ。篭城している敵のあやし方を、分かっている。
だから、彼らの思惑通り、少しずつ、不安が溜まっていく。
これは、まずいな。
心に少し引っ掛かりを覚えながら、
……俺はまた、あの店へと赴く。
ラーメンを食べながら悩めば、何かいいアイデアも思いつくだろう。
店へ歩を進める際中。
目に留まったのは、4人の見知った人影。
「よう、久しぶりだな」
「せ、先生!?え、ええ、久しぶりねっ!」
「元気そうで何よりだ。どうだ、順調か?件の、とある任務というのは」
「……とても、順調よっ!順調すぎて怖いくらい!」
嘘だろうな。
後ろのムツキとカヨコが、不安そうな目で見ている。
ハルカは、ぶれずに羨望の眼差しを向けているが。
「そうか、それでも、用心するに越したことはない。どうだ。これから柴関ラーメンにて、作戦会議といかぬか?」
俺はそう問いかけた。
(……アルちゃん、今はそんなお金無いし……、やるべき事もあるし、適当な理由をつけて、断らないとだよ)
(…わ、分かってるわ!)
「勿論、代金はすべて俺が払おう。好きなものを頼むがよい」
「行くわっ!」
「アルちゃん………?」
…………………………………………………
ズ、ズゾゾと、麺を啜る音が響く。
依然とは違い、奥の方の席だ。ゆっくりできるな。
「……先生、作戦会議って、具体的に何を話すの?私たちが任されている任務も知らないのに」
「まあ、そうだな。それを知らないことには始まらんな」
「んー、でも先生、ごめんね。今回の任務は、極秘で、たとえ先生であっても教えられないんだ。だから、先生を頼るのは次の機会にするね!勿論、このラーメンは頂くけど♡」
「そうか、言えないならそれでいい」
「……え?」
「いいの……?」
かなり驚いた表情だ。
まあいい。本題は他にある。
「ああ。実のところ作戦会議とは建前で、少し、聞きたいことがあってな」
「聞きたいことって……?」
「ハルカ」
左前にいる彼女の名を呼ぶ。
「は、はいっっ!?」
ハルカは怯えた様子で答えた。
俺は、キッチンから視えない角度で、こっそりといくつかの黒い物体を取り出す。
「これはなんだ?」
「……え、あ、ああっ……!!」
「……これ、爆弾……?」
「なんで、先生がこんなものを……?」
「いやなに。先日、夜な夜なこの店にこれを仕込んでいるのが見えてな。威かし程度のものならよかったのだが、これはこの店をまとめて吹き飛ばすのに十分なものだ」
「……ひ、ぁ、あうう……」
当のハルカは、顔面蒼白といった感じだ。
目線を下に落とし、初めて会った時……いや、その時よりも縮こまっている。
「なに、罪を問おうという気はない。ただ、なんの思惑があってこれを設置したのか気になってだな……」
「う、うぅ……!!」
……汗をだらだらと流し、目線があちこちに飛んでいる。
参った。ここまで詰めるつもりはなかったのだが。
………その時。
先程まで静観を決め込んでいたアルが、
覚悟を決めたように、俺に向かって口を開いた。小さな声で、語る。
「……先生。実は私たち、“悪”なの。アビドスの子たちの邪魔をするため、雇われたの」
「ほう」
「……!?」
「アルちゃん!?」
「そして、手始めにあの子たちの心の拠り所となっているこの店を破壊し、私たちの活動の狼煙を上げようと思って、私がハルカに指示したの。ねえ、ハルカ?」
「え、あ……うぅ」
堂々と、アルはそう言い放った。……ハルカは否定も肯定もせず、きょろきょろと辺りを見回している。
ふむ。
ハルカがこれ以上詰められないようにと、機転を利かしたのか。
前とは雰囲気が一変している。
…………彼女らを、纏めているだけあるな。ただ…………
「ふふ。凄くアウトローでしょう?ねえ先生、まさか邪魔はしないわよね?……前、私たちの邪魔はしないと、約束したでしょう?」
厳かな顔だ。あの時の、白目を剥いた顔とは別人だ。
他の3人は、固唾をのんで様子を見守っている。
「うむ。そうだな。どうぞ」
俺はそう言って、爆弾をムツキ、カヨコ、ハルカに渡す。
「………………え……?」
「……先生」
「……ぇ、う……先生……?」
そして、俺は声を張り上げ、
「大将、替え玉を頼む。麺はやわらかめでなー」
遠くの大将にそう言い放った。
4人が、わずかにびくりと肩を震わせる。
「あいよお!やわらかめか、珍しいな」
「さて、アル。いいぞ。柔らかめを頼んだ、茹でるのに時間がかかるだろう。夢中になっている隙に、後ろから狙撃すればよい。相手は戦闘力のない一般人だ。お前なら楽勝だろう。……そして、ムツキ、カヨコ、ハルカ。その後に爆弾を投げ、逃げればよい。ガスに引火し、適当に投げても、十分な威力が見込めるだろう」
「え……?あ……う……」
「どうした?アルの言う通り、この店は彼女らの心の拠り所となっている。大切な場所だ。ここを壊せば、奴らに与える影響は計り知れぬ。便利屋68の極悪たるを、容赦のなさを世間に知らしめるチャンスだ。それにだ、もし仮に、紫関ラーメンを壊したという事実が、便利屋にとって面倒ならば、俺に全責任を擦り付けてしまえばいい。何しろ今、指示したのは現に俺なのだ。どうだ?何一つとしてお前らに不都合はあるまい」
俺は、アルの肩を支え、照準を合わせてやる。
小さな震えが、伝わってくる。
「ほら。あれだ。早くしないと、気づかれてしまうぞ」
「う……あ……っ」
銃を構える。指が震えている。
この震えでは、満足な狙撃はできんだろう。
「……アルちゃん」
「……社長」
「……っ、アル様……っ」
3人は尚も見守っている。
不安げな顔で。彼女らが願うのは、この襲撃の成功か。はたまた───
永遠にも思える数秒。
氷漬けにされたのかと見まがうような、張り詰めた空気が続いた後、
アルは、ゆっくりと、銃を下した。
「………………できないわ」
そして、がっくりとうなだれた。
「………………できるわけないわ!あんなに世話になった大将を、後ろからなんて……!そんなの卑怯よっ!そんなことをしなくても、真正面から、決着をつけてあげるんだから!」
首を垂れたまま、啖呵を切る。
対照的に、他の3人は、何かほっとした表情を浮かべていた。
「幻滅したでしょう?みんな……先生……。でも、できないわ。私には、どうしても……」
「いいや?何を言う。3人を代弁して言おう。一片の幻滅もない!……それにだ。アル。彼女らは、これだから、そんなアルだから、付いて来ているように見えるぞ」
「……え……?」
3人が、微笑ましくアルを見ている。
当のアルは、面食らったような表情だ。わずかに、目尻に涙を浮かべて。よほど、プレッシャーだったのか。
「────アル、カヨコ、ムツキ、ハルカ」
4人の名を呼ぶ。
「俺はお前たちの行いを否定しない。生徒は自由であるべきだ」
カチャ、とレンゲを置き、続ける。
「だが俺は言ったはずだ。俺の生徒たちを傷つけ、危険にさらすものには容赦せぬと」
4人が、顔を見合わせる。並々ならぬ空気だ。
「─────全く、許せないよな。お前らに、そんな酷な指示をした連中が」
「え……?」
「……先生……?」
「……先生」
「ぁ……」
「俺はこうも言ったはずだ。お前らも大事な大事な生徒であると。そんな大事な生徒たちを危険にさらし、酷な選択を迫るとは。俺が否定すべきなのは、その極悪人どもと、この不条理な世界だ」
ちらりと、後ろを見る。
そして、もう一度向き直り、手を差し出した。
「共に闘ってくれ。便利屋68。この不条理な世界を打ち倒すために」
「「「「…………!!!」」」」
4人がほぼ同時に、ゴク、と唾をのむ。
真剣な眼差しだ。
決断を、決めあぐねているのか。
「まあ、なんだ。彼女らも、そう言っているみたいだぞ」
その言葉とともに、
後ろの席から、ぴょこ、と、見慣れた顔が見えた。
「……え」
「な、なっ……」
「……あちゃ~」
「ひ、ひっっ……!」
「盗み聞きしたみたいでごめんね。でも、先生の言う通り、一緒に戦ってくれると嬉しい」
「あ、はは……」
「本当ですよ?今日ここに来たのも、少し野暮用があって……」
「久しぶりにバイトが休みだから、みんなで行こ!って……そしたら、大事な話をしてたみたいだから、静かにしてたの」
「………い、いや、待ってっっ……!!!心の整理が追い付かないわ」
そういうとアルは、大きく深呼吸し、肩を落ち着かせる。
傍らでハルカが、アルの汗を拭きとっていた。自分の冷や汗の方がよっぽどだというのに。
「……アビドスの皆。私は、私たちは、依頼でここに来たの。……あなた達を襲うために。そんな私たちが……」
またうなだれて、呟いている。
その姿は、アビドスの皆に陳謝している様にも思えて……
「……だから?」
「……え……?」
「ほら、ラーメン冷めちゃうよ。早く食べないと」
「……え、ああ、そうね」
そう言うとアルは、まだ半分以上残ってるラーメンを啜り出した。
やはり少し冷めている様子。だが、ここのラーメンは冷めててもうまいのだ。
「……ぷ」
「……はは」
「アルちゃん、言われたからって、普通この状況でラーメン食べるう……?やっぱり大物だね、アルちゃん」
「え?あ……」
アルの周囲が笑顔で包まれている。
緊張が、ほぐれていた。
「……ん。こんな面白い人たちが、悪い人なわけがない」
「ふふ、そうですね」
アビドスの皆が。そして、ハルカを除く便利屋の二人も、小さく笑った。
当事者のアルは、困惑と、複雑の入り混じった表情をしている。
……アルにとっては、あの物言いは少し複雑だろうな。
俺はすっかり伸び切った麺を啜りながら、
生徒たちの喋喋喃喃をしばらく見守った─────。
…………そして。
小さな宴会が、少し静かになってきた頃。
「……先生。ちょっと、いいですか」
「どうした?」
神妙な顔つきで、アヤネがメモ帳を片手に話しかけてきた。
「えっと………色々なことがあって、話すタイミングを見失っていたんですが……」
……ああ。
確かに、野暮用があってここに来たと言ってたな。
これが、本題か。
「……ホシノ先輩、まだ見つからないんです。そして、…………何か、置き手紙のようなものが」
先程まで談笑をしていた皆も、気になったようで、
なんだなんだと、覗きこんでいる。
そこに綴られていたのは。
『こんな形で別れの挨拶をすること』
『“カイザーPMC”の傭兵として働くというスカウトに乗ったこと』
『借金は自分がどうにかする』
つらつらと。
それはホシノの面影を残しながら、淡々と書かれていた。
「え…………」
「こ、これっ…………」
「ホ、ホシノって、あなた達のリーダー的存在でしょう?なんでいきなりっっ……?!」
「私たちが聞きたいくらい。どうしてこんな…………」
「……待って。この封筒、この手紙のほかにもう一枚ある」
カヨコが、アヤネの左手の封筒を指し示す。
たしかに、そこにはもう一枚の紙があった。
手紙のような形ではなく、正式な紋書のように見える。
「あ……ほんとだ」
「なんでしょう~?」
「ドッキリ大成功、って紙だったりして」
「もしそうだとしたら、アビドスから追放してやるわっ!」
その書類の内容は────
「え……っ?」
「ちょ……」
「こ、これ……!」
───アビドスの、退学届けだった。
全員の顔が、蒼白に染まる。
もはや、言葉も発せぬ状況だ。
「────ふむ。冗談ではないようだな」
静寂を打ち破り、俺は言い放つ。
当然、視線は俺に集中した。
「……先生」
縋るような視線。
悲しみを孕んだ眼差し。
当惑を示す眼光。
様々な瞳線が、俺に突き刺さる。
「そう心配するな、皆よ。ホシノの居場所は、粗方見当がついている。────すべてを裏で操る、“黒幕”の姿もな」
「ほ、本当ですか!?」
「え……!?」
「なぜ……」
「いや、なんだ。教育に悪いことながら、俺はここに向かう途中歩きスマホをしていてな」
「………?」
「────“ブルアカ”のメインストーリーを、読み返してきた」
「……?」
「ぶ、ブル……?」
「な、何ですかそれ……?」
「…………???」
反則で草




