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MOZA-CHAN -モザちゃん-  作者: モザの者
番外編など
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62/64

"ごちかわ先生の奇跡" 中編

「────つまり、この部活……もとい、この学校は多額の負債を抱えていると。そして、新入生も入って来ず、アビドスは実質、この5人のみか」


「……はい。その通り、この学校は、窮地にあります。藁をもすがる気持ちで、先生に連絡を……」


「ふ、くく。その判断は大正解だ。……それにしても、カイザー、か。ふざけた野郎どもだ」


「さっき、先生が倒れていたところも、昔は結構栄えてた」


「砂漠に飲まれてしまったか」


「……」


目を閉じて、小さくコクリ、と頷いた。

俯いていてもわかる、悲しみと、悔しさの入り混じった表情。


連邦生徒会から俺を呼ぶだけあって、なかなかどうしてのっぴきならぬ状況だな。

だがだ。こんなもの、窮地にすら入らん。


「……先生。もしかして、カイザーに直接乗り込もうとしていますか?」


「む?」


……表情に出ていたか。

いや、参るな。


「気持ちは嬉しいけどっ……、私たちの力で、合法的に借金を返してやるんだから!そのために、毎日アルバイトをして……」


……アルバイトで、学校、いや、国単位の負債を?

何千年掛かると思っている。むしろ、そんな方法こそ認めてやれぬ。だが……


「そうか。励むことだ、体は壊すなよ」


今は、こんなことしか言ってやれぬ。

しかしだ。セリカのバイト先か。暇のあるときに、赴いてみたいところだ。


それからしばらく話し合いをした後。

セリカがバイトの時間だと校舎を後にした直後に、俺は聞いた。


「なあホシノ。セリカのバイト先、どこか知ってるか?」


「ええー?いや、いくら先生といえども、セリカちゃんのバイト先が柴関ラーメンっていうラーメン屋さんだってことは教えられないよ〜〜」


「ホシノ先輩………?」


柴崎ラーメンというのか。絵の上手そうな店主がいそうな名称だな。


「柴"関"ラーメンだよ〜、先生〜」


ふむ。なぜ思考を読まれている?


「……それじゃ、ちょうど話題に出たし、この後みんなで行ってみる?」


「行きましょう!」


「賛成ですっ!」


総員が手を挙げて、賛同する。一番に教室を出たのは、シロコだった。


………………………


しばらく歩くと、まさに営業中の、大きな看板を携えた店舗が見えた。ここか。

窓の外から、様子を覗き見てみた。

卓へ、キッチンへとあくせく動く様子が見える。


「ちゃんと働いてるみたいだね~」


「のぞき見するのも悪いですし、早いとこ入っちゃいますか」


カラ、カランと、店の扉に付いた鈴が鳴った。


「いらっしゃいま……って、どうして先輩たちがっ!?それに、先生も……!」


「む?いやいや、たまたま飯屋を探してたら、ここに辿り着いただけだ、偶然だぞ」


「ぜったい、嘘でしょっ!!どうせホシノ先輩とかが口を滑らせて……」


「いやぁ〜、人聞きの悪いこと言うねえ、セリカちゃん。私がそんなことするように見えるー?」


「…………」


逆に料理を提供したお盆を持ったまま、無言で、白い目でホシノを見つめる。"めちゃくちゃ見える"と、その眼が言っている。


「うへぇ〜」


飄々と、その視線を受け流している。

どうやら、これはよくある光景のようだな。後ろのノノミとアヤネも、苦笑いをしている。シロコは……どこを見てるんだ?


席につく。なかなかどうして、良い店内だ。


「大将、柴関ラーメンを一杯貰おう。それと、可憐な従業員にドリンクを」


「せ、先生……!そういうのいいからっ!」


「あいよ!セリカちゃん、コーラでいいかい?」


「店長!」


先ほどよりももっと顔を赤くして糾弾するセリカを横目に、他の皆も次々に注文する。


そうして、待つこと数分。

俺の前には、熱気を備えた大きな丼が君臨していた。

腕をまくり、その全貌を見定める。


「────ふむ」


ふわり。穏やかで、それでいて温かな香りが鼻孔をくすぐる。

これは、期待できる。

視えるのは、截然と整えられた、ほのかに山吹色づいた麺。歯ごたえの期待できる、野太いメンマ。スープに僅かに浮いた脂、表面を彩る2色のネギ。

そして中心に、我こそが主人公だと佇む……極厚のチャーシュー。表面を少し炙られているのか。いわし雲のような焦げ目がドレスコードとなり、その極上たるやを示唆している。

食欲がそそられる。これは、期待できるな。


「では」


レンゲにそのスープをすくう。

かすかに浮いた脂。香りがまた、さらに色濃く鼻をなでる。

……ゆっくりと。

御神酒を飲むように、静かにそれを口に入れた。


「………」


口の中で、そのスープを転がす。

まだ、少し口に入れただけだというのに、ソレが五臓六腑に沁み渡る幻覚が見える。


「……ど、どうなの?先生……」


俺がいつまでも無言だからか。セリカが、不安そうにこちらを覗き見ている。

いや、よく見わたすと、ほかの皆も、こちらの様子を伺っている。

いかんな。目の前のラーメンに夢中になるあまり、生徒たちの存在をすっかり忘れていた。


「…………ふむ。まずは鶏───よく煮詰められた鶏ガラの深みのある風味が口中に広がる。あえてアクを全てはとらず、生姜でしつこさを消しているのか。これによって生醤油の旨みも存分に引き立っている」


もう一杯、スープを啜り、シャキ、シャキとネギを口で転がして、俺は続ける。


「そして遅れてくるのは魚介のニュアンス。古来より、鶏ガラ醤油と魚介はスープに共存させるには相性が悪いと言われていたが、よくぞここまで併せたものだ。喉を通るたびに、この香りが鼻を突き抜ける」


なんて旨みの奔流だ。この2(・)す(・)く(・)い(・)だけで、俺は完全に魅了されてしまった。

そして。

もう我慢できぬと、箸を突き入れ、ズ、ズゾゾ、と山吹色の麺を啜る。


「………ベスト、マッチ」


啜った瞬間に息をついて出た言葉。

俺自身の意思ではなく、身体から勝手に、出た言葉だ。


「いや、なんだ。スープを少し味わえば、それに見事に合致するであろう麺の粘り、硬さ、舌触り……ソレに合う風味はある程度想像できるものだが、まさか、こうまで見事に体現されようとは。いや。これは、その想像すら遥かに超えている」


もう一度、麺を流し込むように、スープを口に入れる。

そうしてもう一度麺に口をつけた、その時。


「……む?」


体中を突き抜ける痺れのような感動とともに、

覚えたのは、一抹の違和感。


「───まさか。か(・)ん(・)水を、使っていないのか」


「おぉ、兄ちゃん、分かるかい」


大将がニヤ、と口角を上げる。


「よもやと思ったが、今なお信じられぬ。天然の素材のみで、引き出せるコクか」


「……シロコ先輩、かん水って……何ですか?」


小さな口でスープを味わいながら、アヤネが問う。


「麺の旨みと歯ごたえを引き出すための、水だよ。小麦粉に混ぜてから麺を打つことで、食感が劇的によくなるらしくて……ラーメン屋の麺が黄色かったら、それはたまご麺か、かん水のはたらきによって着色してる。確か……小麦粉のフラボノール?と反応するのだったかな」


……詳しいな、シロコよ。


「でも、かん水にはちょっとよくない話もあって。例えば───」


話に興じる皆を尻目に、俺はまた啜る。

……旨い。突き抜ける風味、湧き上がる香り。箸が止まらぬ。


「……くく」


目が、合った。

着飾ったその肉と。


箸でソレを持ち上げる。

取ったそばからぷる、ぷると震えるその様は、その並々ならぬ弾力を予見させる。

たまらず、俺はソレに食らいついた。


……まず感じたのは。

肉の表面をわずかにコーティングしている、あの素晴らしきスープ。

わずかに噛んだだけで、じわ、と肉汁があふれ、スープと調和を奏でる。

同時に舌に飛び込んでくるのは、濃厚で、深き白醤油の味わい。相当、長く漬け込んでいたのか。


……これは、たまらん。

ほどよく炙られた肉の食感、白醤油の味わいが、

俺の口中を肉色に染め上げてくれる。


そして、極めつけはこれだ。この歯応え。

よく煮られ、漬け込まれたその焼豚は、

かすかに脂身の絶妙な絡みを残して、

ひと噛み、ひと噛みごとにほろ、ほろと口の中で崩れ落ちてゆく。柔らかで、どこか懐かしい残響。


脳裏に過ぎったのは、

そう。日曜日の午前10時ごろ。

少し夜更かしをし、少し遅めに起きたその日。

よき夢を見た朝。脳がゆっくりと腰を起こしかけた後、日曜日であることに安堵して、二度寝を決心するあの瞬間。

甘美で、決して捨ててはならぬ、あの胸がじわりとする気持ち。

そして、またよき夢の続きを見るため、目を閉じるのだ。

しかし夢は儚いもので、

いくら薄い記憶を掴みあげようとも、ほろ、ほろとその輪郭を失くしていく。


その様が、今無心に頬張る肉の儚さとその甘美さにも似て────


「は、はは」


笑みが溢れる。

なんたる、満足感。

麺が。スープが。ネギが。メンマが。焼豚が。

この口の中で踊っている。

調律された演劇。ソレは贅沢な、蕩けるような刺激を纏い、

聴衆を心の奥底から魅了する。


「げに美しきかな、この調和。俺の中で、五重奏(クインテット)が奏でられている…………」


脳を駆け巡る愛くるしい快楽。

その流れに、一寸も抵抗せず、ただ身を任せた────。


…………気がつけば、目の前に空の丼があった。

夢は一瞬にして過ぎ去るものだ。

かすかに名残惜しさを感じつつも、俺の心は十分に満ち足りていた。


「───それで、多くのラーメン店にはかん水は欠かせないんだけど、その特有の臭みと苦味が苦手だ、と言う人が結構居てね……」


ふむ、話の途中か。

俺は余韻に浸りながら、

かの素晴らしき演劇の響動を、惜しみながら水を飲んで洗い流し、

しばらくその浮き立つような気持ちのまま、ゆっくりと麺を啜る生徒たちを横目に、


「…………だが。一つだけ文句を垂れよう。柴大将よ。これが580円とは、どういうことだ。10倍でも文句は言えぬぞ」


「はっは。そこまで言ってくれるとはね。この値段がイチバンさ。自分にとっては、お客様の笑顔に代えられるものはないからね」


この店主にして、この味あり、か。

スープと麺の調和具合は、作り手の在り様を体現すると言うが、あながち嘘でもあるまい。


気づけば、他の生徒たちも、箸を置いていた。


「ぷはぁ〜〜食べすぎちゃったよー」


「本当に、美味しかったです……!」


様々な、満足の声が上がっている。

これまで何度もこの店を経験しているとは、羨ましいな。


「……堪能した。大将。取っておいてくれ」


俺は丼と一万円札をカウンター上に置く。

全員分+チップだ。この味、これでも払い足りぬくらいだ。


「……兄ちゃん、なんだこのお金は?外国のお金は使えないよ」


「え?」


……………………………………………


……それから。

連日、アビドスで作戦会議を行い、

様々な話をした。

噂によれば、先日撃退した"ヘルメット団"が、こちらへの復讐を狙っているらしい。


「やはり、リベンジに来るか」


「……そうみたいですね。今も虎視眈々と、戦力を集めているようです」


「アレでも懲りないなんて……本当にしつこいんだから……!!」


「まあ、アレはただ脅かしただけだからな。大層な前振りをしたが、ただ俺に注意を惹きつけて目くらましをしただけだ。誰1人として、傷は負っていない」


「……いや。懲りてはいるみたいだよ。作戦を変えたみたい」


「……というと……」


シロコの情報は信頼できる。

アヤネもそれを分かっているのか、即座にメモを用意し、書き留め出した。本当に、真面目だな。


「……あのヘルメット団は、やはりカイザーに雇われたチンピラだった。ヘルメット団がこの校舎の占拠を失敗したからか、カイザーは、何か怪しい集団を雇ったみたい」


「怪しい集団……って、何ですか?」


「そこまでは分からない……ただ、確実に言えるのは、あのヘルメット団より厄介な相手」


「そんな……」


「まあまあ、大丈夫でしょ〜。あの時のように、先生のぴかーー!!ってやつで撃退しちゃえば〜」


「……ホシノ、アレは先程言った通り、ただの目くらましだ。アレがあの時効果的だったのは、俺にたまたま全員の注意が向いていて、そしてあやつらが誇りも信念もないチンピラ風情だったからだ。正式に雇われた奴らを退かせるには、手荒な手段を取るしかあるまい」


「ちぇ〜。楽できると思ったんだけどなぁ〜」


「皆がなるべく闘わなくて済む手段を取りたいところだが、来るべき時は、力を貸してもらう。それでいいな?」


「……もちろん」


「当然ですよ!そもそも、私たちが力を借りている側なんですから!」


うむ。

覇気のこもった、いい返事だ。

アビドスの未来は、きっと明るい。

ただの無根拠の理想だが。俺には、素晴らしい未来が見えた。




……………………………………



そして数日後、

また今日も俺はあのラーメン屋に立ち寄る。

"ラーメンは野菜なので0カロリー"が俺の信条だ。健康食なのだから、食わぬ理由がない。


「お、兄ちゃん、また来てくれたか」


「ここより美味い店を知らぬものでな」


「嬉しいこと言ってくれるねえ」


「売り上げはどうだ?」


「いやあ……正直芳しくないね。アルバイトの給料を捻り出すのに精一杯さ」


「こんなに美味いのに、不思議なことだ」


「まだ食べていないのにかい?」


「ああ。大将が作るラーメンはいつだろうと美味いに決まっている」


「……本当に、嬉しいことを言ってくれるねえ」


席に着く。……と同時に、カラカラ、とやや控えめに扉が開いた。そして、


「す……すみませ…ん、あの、ここで…1番安いメニューって……いくらですか……?」


おず、おずとした声で、紫髪の少女が大将を見ていた。

小さな帽子を被り、半分開いた扉から体をすぼめて、問いかけている。


「ウチで一番安いメニューは、ズバリ柴関ラーメン、580円だよー!」


大将の朗らかな声と共に。

扉のそとから、「やったわ!」と言う声が聞こえてきた。


ガラ、と勢いよく、

さっきまで半分しか開いていなかった扉が全開する。


「やっと見つかったね、600円以下のメニュー!」


引っ込み思案な紫髪の少女の後ろから、ぞろぞろと続いたのは3人の少女。


「でしょう?どんなときにも、解決策はあるのよ!」


一人は白銀の髪に、大きな花の髪飾りが特徴的な小柄な姿をしている。背には自分の身長ほどの非常に大きなカバンを携え、口を押さえて小さく笑っている。


一人はその後ろに堂々と立つ。

赤い髪。目立つのは、後頭部から伸びた一対の角。

華麗なロングコートを羽織り、満面の笑みでメニュー表を覗いている。


そして、そのさらに後ろ。

同じく一対の角を生やし、整えられた白髪に、顔に掛かった黒い前髪がよく映えている。

2人のように喜びをあらわにするでなく、険しい目で店内を俯瞰している。


「あ、4名様ですかー?テーブル席へどうぞ!」


「あ、大丈夫大丈夫!どうせ一杯しか頼まないから〜」


「え……?」


………先ほど、最も安いメニューの値段を聞いていたのは、そしてその値段を聞いて安心していたのはこのためか。


「いや、今の時間帯は空いてるし、よかったら4人席でごゆっくりどうぞ」


「おー、親切な店員さんだねっ!じゃあ、ついでにお箸は4膳でよろしく!」


「え!?ま、まさか、1杯を4人で分け合うつもり!?」


「ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!貧乏で……」


驚いたセリカの言葉に、なぜか傍の紫の少女が怯えたように謝った。まるで、激しく怒鳴られた時のように……。


「い、いいや!謝る必要なんてない、お金がないことは罪じゃないわ!……お金をかき集めて来てくれたんだよね?その気持ちに、必ず応えてあげるから!」


セリカは一瞬面食らったような表情を見せたが、すぐに、何か自分にも思うところがあったのかそう諭した。

気丈だ。普段から麺食らってるだけはある。


「うへえ、先生、それつまんないよ〜」


だからなぜ思考を読まれている?

そしてなぜここにいる……?俺は1人で食べていたはずだが……


「あはは……つけてたわけじゃないんですよ、たまたまです。それにしてもあの子たち、見かけない顔ですね。アビドスの外の生徒でしょうか?」


気づけば、アビドスの生徒たちが勢揃いだ。見てみると、シロコがこちらにピースサインをしている。やけにテンションが高いな。


……に、しても。


俺は、ゆっくりと席を立った。

お節介かもしれぬが、年頃の少女たちが、

1杯のラーメンを4人で分け合うなど、そんな不条理、許してはおけぬ。


だが、そんな俺の意図を察したのか、


「……兄ちゃん。気持ちはわかるが、座っといてくれ」


ラーメンを作りながら、柴大将は後ろ手で引き留める。


「いや、しかし……」


「自分も、気持ちは同じだよ」


こちらからは後ろ姿しか見えぬ。

だが、それでも、その眼光が激しく光っていた。


そして。10分後。


あの4人組の目の前には、富士山があった。


「え、こ、これ……」


「こっ、これは……」


「……とんでもない量だね」


「……こ、これ、オーダーミスじゃないかしら!?私たちはただ普通のラーメンを一杯……」


〇郎(じ〇う)系もかくやというその爆量。

彼女らは、驚きと困惑を隠せないでいる。


「いやいや、オーダーミスじゃありませんって!確かにラーメン並、ですよね大将?」


「ああ、そういうことだ。ちと手元が狂っちまってな。量がちょっと多くなったかもしれねえ」


……粋な計らいだ。

思いがけぬ出来事に、4人とも、目を輝かせている。


「……くく。柴大将よ。そ(・)ん(・)な(・)だから売り上げが伸びんのだ」


「お客様の笑顔も見られずに売り上げだけ上がってもね、そんなのはこちらから願い下げさ」


「はは」


微笑がこぼれる。

この旨すぎるラーメンの、最大にして最高の秘奥(かくしあじ)は、間違いなくこの大将の人格にあることだろう。


4人組は、美味しい、美味しいと呟きながらとラーメンを啜っている。

……いや。いつの間に。

ノノミやシロコ達と、ラーメン談議に花を咲かせている。

青春というものか。確かに、首を突っ込まないで正解だったかもしれん。


横目で、その様子を覗き見る。

リーダー格の赤い髪の少女は、満面の笑みで応対しているが、

白・銀の髪の二人は、会釈をしつつ、ひそひそと内緒話をしている。

何(・)か(・)に、気が付いた様子、そして僅かな焦りが見える。

紫髪の少女は、店の至るところをきょろきょろと見回している。


「その制服、ゲヘナの生徒さんですか?」


「遠いところからご苦労さんだねえ~」


「そうよ!貴方達は、このあたりの生徒かしら?」


「ええ、私たちはアビドスの生徒なんです」


「へえー。アビドスの……アビドっ!?!?……もご」


叫びかけたのを、隣の少女が口を抑えていた。


(しーっ!アルちゃん、抑えて!)


「……アビドスって、最近大変なんじゃないの?」


注意をそらすように、そう切り出していた。口を抑えられた方は……白目を剥いている。何があった?


「……はい。存続が困難な一面があるのは事実です。でも、必ずっ、復興させてみせます!」


「おー!いいねぇ!」


「ええ!なんて気丈な人たちなのかしら!」


つい数瞬前まで絶望的な顔をしていたのにも関わらず、また満面の笑みに戻って言い放った。


「ありがとうございます!それで……さしあたり、あそこに座っているシャーレの先生に、助けてもらっている最中なんです」


「へえー。シャーレの……先生っ!?!?……もご」


……デジャヴか。

先程と同様に白目を剥き、そして口を押えられている。

忙しいやつだ。

……生徒間の仲睦まじき会話に割り込むまいと思っていたが、こうなっては首を突っ込まざるを得ないな。


「……ご紹介に預かった、シャーレの先生、ことごちかわだ。今後ともよろしく頼む」


「…………鬼方カヨコ。よろしく。先生」


「浅黄ムツキだよ!よろしくね~、先生っ♪」


「……あ、えと……伊草、ハルカ……です……」


「ほらっ、アルちゃんも」


「あ、う、ああ……っ、……私は陸八魔、アルよ。先生。以後、お見知りおきを」


……ふむ。一瞬にして真剣な顔に戻ったな。

突っ込むことはやめておこう。


そうして少しのあいさつの後、

固い握手と少しの雑談を交わし、店をあとにした。



………………………………



「いやぁー、いい人たちだったね、アルちゃん?」


「………あの人たちが、アビドス………だなんて…………」


「……はぁ。本当に、気づいてなかったんだね。社長」


「ど、ど、どうしましょう、今からっ、始末してきましょうか!?」


愕然と肩を下ろすアルと対照的に、ハルカは銃を構えてあたふたしている。今にも、敵地に突っ込みそうだ。


「いや、もう遅いと思うよ……」


「切り替えていこう、アルちゃん!」


「え、あ……、そんな……」


「………それより。警戒するべきは、あの“シャーレの先生”だと思うよ。アビドスの連中、シャーレの先生まで味方につけていただなんて……。これは、一筋縄ではいかなさそうだね」



「俺が、どうかしたのか?」


「………!?」


「さっきの……シャーレの、先生!?」


いや、脅かすつもりはなかったのだが、

そんなに怯えた表情をされると参るな。


「………いや。“シャーレの先生”を見たのは皆初めてだったから、つい話題に出ただけだよ」


ふむ。確かに。

シロコに会った時の反応もそうだったが、生徒たちからしたら物珍しいのだろう。


「そういえば先生って~、生徒のためなら何でもするって聞いたけど、本当なの~?」


「ああ。真実だ。この身は生徒のためにある。そして、君らも俺の大切な生徒であると断言する」


「わわっ…私たちが……大切な、生徒……」


「ふ~~ん、じゃあ、私たち、とある任務を遂行するために頑張ってるんだけど、私たちの邪魔をしたり、攻撃したりってことはないよね?」


「ああ。約束しよう」


「………!」


「ふ~~ん?」


俺が断言したのが意外だったのか。

カヨコはあからさまに驚き、

アルは目を輝かせていた。


「だが、肝に銘ぜよ。君ら4人も大切な生徒だが、彼女ら(アビドス)も、無論他の生徒たちも俺の大切な大事な生徒だ。彼女らを不当に傷つけることがあれば、俺は決して許しはせん」


「……………!」


それだけ言い残して、俺はすぐにその場をあとにした。

いつの間にやら、日が落ちかけている。

もう一つ、気になることがあるからな。


「………もしかして、バレてる……?私たちの、こと……?」


「え、ええっ!?ど、どうして!?そんな素振りあったかしら!?」


「きっと私が、何かヘマをしてっ……ごめんなさいっっ……!!!」


「………いや、まだそうと決まったわけじゃないと思う。……でも、可能性は高いね。どうする?社長。あの子たちの上に、シャーレの先生まで敵に回すかもしれないよ」


「あ……え?」


「アルちゃん、大事な選択だよ?どうする?」


皆に見つめられる中。

アルは、覚悟を決めたように深く息を吸って、


「や、やってやるわっ!!どんな障壁だって乗り越えて、この任務を完遂してみせるわ!!……なんたって、この任務を乗り越えたら……大量の報酬が貰えて、企業規模も拡大して……みんなで社員旅行とかも行けるかもしれないからねっ!」


───そう、言い放った。



…………………………………………



そして、

完全に日が落ち、暗闇となった砂漠の地。

砂漠といえど、荒廃した建物が建て並ぶ、元々町だったところだ。


冷たい風が吹きすさぶ。闇に月光が差し込む。

───天鷹は、わずかな光を辿るように、俊敏に迅雷に翔ける。


「な、なっ……!!こ、このままじゃ全滅だぞ!!」


「馬鹿な!!!寝込みを襲われたとはいえ、我々が……!!」


「敵の姿、視えません!!闇に紛れて、一人、また一人と倒れていきます!」


「ち、いい……!!敵の姿もわからぬまま、我らは全滅するのか……!!」


ドン、ドォンと爆撃の音が響く。

砂塵が舞い、閑散とした建物に爆音が反響する。


「夜襲慣れしてないね。元々暗いのにそうやって視界を聴界を狭めたら、隠れてくれって言ってるようなもんだよ」


遂に、リーダー格の兵士も銃弾に倒れる。

神業だ。砂塵の中で、固まった5人を一瞬にして蹴散らし、劣悪な視界の中で、司令塔を狙撃した。


「ぐ……ぉ……!!せめて、道連れに……!!」


司令官が、【危険】と書かれた赤いスイッチのフタを外し、強く押した。


足元が光る。

爆弾か。それも、とびきり高威力の物だ。

部下がいては、使えない代物だろう。

勿論自分も、倒れた部下たちもただでは済まない。


「……!!」


咄嗟に大きく退がり、盾を構えている。

だが危険だ。距離が十分でない。


「くっ────!!」


少女は冷や汗をかいている。

それを見て、俺の体は独りでに動いていた。


瞬間。

ズドガァァァァァア、とけたたましい音を侍らせ、大爆発が巻き起こった。


「先……生……?」


「無事だったか、ホシノ」


砂塵が晴れる。

なんとか、間に合ったようだな。


「え、どうして先生がここに……それよりも、先生こそ無事!?」


「うむ。かんしゃく玉の扱いには、幼少期から慣れている」


「え、ええ……」


「ホシノ、毎日、こんなことをしていたのか」


「うへ、バレちゃったか~。毎日ってわけじゃないけどね。ヘルメット団の前哨基地の場所は分かってたから、手っ取り早く潰しちゃおうと思って」


ばつが悪そうな顔をしている。

誇ることだというのに。人知れず、彼女らを守っていたのだ。


「ふむ。流石だな。だが、体だけは壊すなよ。そして、次からは俺も連れていくことだ。先生を頼れ」


「うへぇ、分かったよ~」


“一人の方が楽なのに”といった顔をしているな。

俺が信用ならないか。いや、参った。


「とにかく、そういうことだ。早めに寝ることだな、明日も会議がある」


「は~い」


「……ああ、そうだ。最後にもう一つ。さっきもちょっと言ったことだが」


「……ん~?」


銃と装備を仕舞いながら、ホシノが首を傾げる。


「何か困難に直面した時。理不尽に襲われた時。必ず、シロコたちを、俺を頼ってくれ。一人で乗り込むなんてことは、決してしないでくれ。俺が、俺たちがきっと解決してみせる」


「……」


ホシノは俯いて、コク、と小さくうなずいた。


「その代わりにだ。ホシノ。俺が四方八方を敵に囲まれ、窮地(ピンチ)のとき。俺はホシノを呼ぶ。助けてくれ」


「……!」


「いいな?」


「……分かった。約束するよ、先生」


そうして、俺たちは砂漠をあとにした。


…………………ホシノは毎日じゃないと言った。

確かにこれほどの激戦は稀だろう。

だが、たぶん、周辺のパトロールは毎日やっていることだろう。俺の直感がそう言っている。


……もしかして。

普段のホシノがいつも眠そうなのは。まさか…………



………………………………………………………………



その2週間後。

今日も会議だ。……現状は拮抗状態。こちらからはほとんど仕掛けられていない以上、状況は芳しくない。


件の“怪しい集団”は、まだ姿を見せていない、ということや、

ヘルメット団の、カイザーの動向の情報は大きく知れたが、

根本の解決策だけは、どうにもならなかった。


「ホシノ先輩、来ないですね……」


「どうせ屋上とかでまた昼寝してるんでしょっ!いいから、進めましょ」


「まあ、その可能性は高いけど、少し……胸騒ぎがする」


ふむ。

ホシノの姿が見えない、か。

よくあることだ。現に俺がアビドスに来訪した時も、教室にはいなかった。


……その日は。

ついに一度も、ホシノの姿を見ることはなかった。


ホシノに限って、さらわれた、などあり得ぬはずだが……。

まあ、今夜、探してみるとしよう。

ホシノの夜のパトロールを知っているのは俺だけだ。ここで喋っては面倒なことになりかねん。


ここ最近、相手側の動きが怪しい。

あまり攻めてこなくなった。

……むしろ、困る。

敵がどこに潜んでいるか、どんな人員がいるかわからないまま、拮抗状態が続いている。


狡猾だ。篭城している敵のあやし方を、分かっている。

だから、彼らの思惑通り、少しずつ、不安が溜まっていく。

これは、まずいな。


心に少し引っ掛かりを覚えながら、

……俺はまた、あの店へと赴く。

ラーメンを食べながら悩めば、何かいいアイデアも思いつくだろう。

 


店へ歩を進める際中。

目に留まったのは、4人の見知った人影。


「よう、久しぶりだな」


「せ、先生!?え、ええ、久しぶりねっ!」


「元気そうで何よりだ。どうだ、順調か?件の、とある任務というのは」


「……とても、順調よっ!順調すぎて怖いくらい!」


嘘だろうな。

後ろのムツキとカヨコが、不安そうな目で見ている。

ハルカは、ぶれずに羨望の眼差しを向けているが。


「そうか、それでも、用心するに越したことはない。どうだ。これから柴関ラーメンにて、作戦会議といかぬか?」


俺はそう問いかけた。


(……アルちゃん、今はそんなお金無いし……、やるべき事もあるし、適当な理由をつけて、断らないとだよ)


(…わ、分かってるわ!)


「勿論、代金はすべて俺が払おう。好きなものを頼むがよい」


「行くわっ!」


「アルちゃん………?」


…………………………………………………


ズ、ズゾゾと、麺を啜る音が響く。

依然とは違い、奥の方の席だ。ゆっくりできるな。


「……先生、作戦会議って、具体的に何を話すの?私たちが任されている任務も知らないのに」


「まあ、そうだな。それを知らないことには始まらんな」


「んー、でも先生、ごめんね。今回の任務は、極秘で、たとえ先生であっても教えられないんだ。だから、先生を頼るのは次の機会にするね!勿論、このラーメンは頂くけど♡」


「そうか、言えないならそれでいい」


「……え?」


「いいの……?」


かなり驚いた表情だ。

まあいい。本題は他にある。


「ああ。実のところ作戦会議とは建前で、少し、聞きたいことがあってな」


「聞きたいことって……?」


「ハルカ」


左前にいる彼女の名を呼ぶ。


「は、はいっっ!?」


ハルカは怯えた様子で答えた。

俺は、キッチンから視えない角度で、こっそりといくつかの黒い物体を取り出す。


「これはなんだ?」


「……え、あ、ああっ……!!」


「……これ、爆弾……?」


「なんで、先生がこんなものを……?」


「いやなに。先日、夜な夜なこの店にこれを仕込んでいるのが見えてな。威(おど)かし程度のものならよかったのだが、これはこの店をまとめて吹き飛ばすのに十分なものだ」


「……ひ、ぁ、あうう……」


当のハルカは、顔面蒼白といった感じだ。

目線を下に落とし、初めて会った時……いや、その時よりも縮こまっている。


「なに、罪を問おうという気はない。ただ、なんの思惑があってこれを設置したのか気になってだな……」


「う、うぅ……!!」


……汗をだらだらと流し、目線があちこちに飛んでいる。

参った。ここまで詰めるつもりはなかったのだが。


………その時。

先程まで静観を決め込んでいたアルが、

覚悟を決めたように、俺に向かって口を開いた。小さな声で、語る。


「……先生。実は私たち、“悪”なの。アビドスの子たちの邪魔をするため、雇われたの」


「ほう」


「……!?」


「アルちゃん!?」


「そして、手始めにあの子たちの心の拠り所となっているこの店を破壊し、私たちの活動の狼煙を上げようと思って、私がハルカに指示したの。ねえ、ハルカ?」


「え、あ……うぅ」


堂々と、アルはそう言い放った。……ハルカは否定も肯定もせず、きょろきょろと辺りを見回している。


ふむ。

ハルカがこれ以上詰められないようにと、機転を利かしたのか。

前とは雰囲気が一変している。

…………彼女らを、纏めているだけあるな。ただ…………


「ふふ。凄くアウトローでしょう?ねえ先生、まさか邪魔はしないわよね?……前、私たちの邪魔はしないと、約束したでしょう?」


厳かな顔だ。あの時の、白目を剥いた顔とは別人だ。

他の3人は、固唾をのんで様子を見守っている。


「うむ。そうだな。ど(・)う(・)ぞ(・)」


俺はそう言って、爆弾をムツキ、カヨコ、ハルカに渡す。


「………………え……?」


「……先生」


「……ぇ、う……先生……?」


そして、俺は声を張り上げ、


「大将、替え玉を頼む。麺はやわらかめでなー」


遠くの大将にそう言い放った。

4人が、わずかにびくりと肩を震わせる。


「あいよお!やわらかめか、珍しいな」



「さて、アル。いいぞ。柔らかめを頼んだ、茹でるのに時間がかかるだろう。夢中になっている隙に、後ろから狙撃すればよい。相手は戦闘力のない一般人だ。お前なら楽勝だろう。……そして、ムツキ、カヨコ、ハルカ。その後に爆弾を投げ、逃げればよい。ガスに引火し、適当に投げても、十分な威力が見込めるだろう」


「え……?あ……う……」


「どうした?アルの言う通り、この店は彼女らの心の拠り所となっている。大切な場所だ。ここを壊せば、奴らに与える影響は計り知れぬ。便利屋68の極悪たるを、容赦のなさを世間に知らしめるチャンスだ。それにだ、もし仮に、紫関ラーメンを壊したという事実が、便利屋にとって面倒ならば、俺に全責任を擦り付けてしまえばいい。何しろ今、指示したのは現に俺なのだ。どうだ?何一つとしてお前らに不都合はあるまい」


俺は、アルの肩を支え、照準を合わせてやる。

小さな震えが、伝わってくる。


「ほら。あ(・)れ(・)だ。早くしないと、気づかれてしまうぞ」


「う……あ……っ」


銃を構える。指が震えている。

この震えでは、満足な狙撃はできんだろう。


「……アルちゃん」


「……社長」


「……っ、アル様……っ」


3人は尚も見守っている。

不安げな顔で。彼女らが願うのは、この襲撃の成功か。はたまた───


永遠にも思える数秒。

氷漬けにされたのかと見まがうような、張り詰めた空気が続いた後、


アルは、ゆっくりと、銃を下した。


「………………できないわ」


そして、がっくりとうなだれた。


「………………できるわけないわ!あんなに世話になった大将を、後ろからなんて……!そんなの卑怯よっ!そんなことをしなくても、真正面から、決着をつけてあげるんだから!」


首を垂れたまま、啖呵を切る。

対照的に、他の3人は、何かほ(・)っ(・)と(・)した表情を浮かべていた。


「幻滅したでしょう?みんな……先生……。でも、できないわ。私には、どうしても……」


「いいや?何を言う。3人を代弁して言おう。一片の幻滅もない!……それにだ。アル。彼女らは、こ(・)れ(・)だから、そんなアルだから、付いて来ているように見えるぞ」


「……え……?」


3人が、微笑ましくアルを見ている。

当のアルは、面食らったような表情だ。わずかに、目尻に涙を浮かべて。よほど、プレッシャーだったのか。


「────アル、カヨコ、ムツキ、ハルカ」


4人の名を呼ぶ。


「俺はお前たちの行いを否定しない。生徒は自由であるべきだ」


カチャ、とレンゲを置き、続ける。


「だが俺は言ったはずだ。俺の生徒たちを傷つけ、危険にさらすものには容赦せぬと」


4人が、顔を見合わせる。並々ならぬ空気だ。


「─────全く、許せないよな。お前らに、そんな酷な指示をした連中が」


「え……?」


「……先生……?」


「……先生」


「ぁ……」


「俺はこうも言ったはずだ。お前らも大事な大事な生徒であると。そんな大事な生徒たちを危険にさらし、酷な選択を迫るとは。俺が否定すべきなのは、その極悪人どもと、この不条理な世界だ」


ちらりと、後ろを見る。

そして、もう一度向き直り、手を差し出した。


「共に闘ってくれ。便利屋68。この不条理な世界を打ち倒すために」


「「「「…………!!!」」」」


4人がほぼ同時に、ゴク、と唾をのむ。

真剣な眼差しだ。

決断を、決めあぐねているのか。


「まあ、なんだ。彼女ら(アビドス)も、そう言っているみたいだぞ」


その言葉とともに、

後ろの席から、ぴょこ、と、見慣れた顔が見えた。


「……え」


「な、なっ……」


「……あちゃ~」


「ひ、ひっっ……!」


「盗み聞きしたみたいでごめんね。でも、先生の言う通り、一緒に戦ってくれると嬉しい」


「あ、はは……」


「本当ですよ?今日ここに来たのも、少し野暮用があって……」


「久しぶりにバイトが休みだから、みんなで行こ!って……そしたら、大事な話をしてたみたいだから、静かにしてたの」


「………い、いや、待ってっっ……!!!心の整理が追い付かないわ」


そういうとアルは、大きく深呼吸し、肩を落ち着かせる。

傍らでハルカが、アルの汗を拭きとっていた。自分の冷や汗の方がよっぽどだというのに。


「……アビドスの皆。私は、私たちは、依頼でここに来たの。……あなた達を襲うために。そんな私たちが……」


またうなだれて、呟いている。

その姿は、アビドスの皆に陳謝している様にも思えて……


「……だから?」


「……え……?」


「ほら、ラーメン冷めちゃうよ。早く食べないと」


「……え、ああ、そうね」


そう言うとアルは、まだ半分以上残ってるラーメンを啜り出した。

やはり少し冷めている様子。だが、ここのラーメンは冷めててもうまいのだ。


「……ぷ」


「……はは」


「アルちゃん、言われたからって、普通この状況でラーメン食べるう……?やっぱり大物だね、アルちゃん」


「え?あ……」


アルの周囲が笑顔で包まれている。

緊張が、ほぐれていた。


「……ん。こんな面白い人たちが、悪い人なわけがない」


「ふふ、そうですね」


アビドスの皆が。そして、ハルカを除く便利屋の二人も、小さく笑った。

当事者のアルは、困惑と、複雑の入り混じった表情をしている。


……アルにとっては、あの物言いは少し複雑だろうな。


俺はすっかり伸び切った麺を啜りながら、

生徒たちの喋喋喃喃(わちゃわちゃ)をしばらく見守った─────。



…………そして。

小さな宴会が、少し静かになってきた頃。


「……先生。ちょっと、いいですか」


「どうした?」


神妙な顔つきで、アヤネがメモ帳を片手に話しかけてきた。


「えっと………色々なことがあって、話すタイミングを見失っていたんですが……」


……ああ。

確かに、野暮用があってここに来たと言ってたな。

これが、本題か。


「……ホシノ先輩、まだ見つからないんです。そして、…………何か、置き手紙のようなものが」


先程まで談笑をしていた皆も、気になったようで、

なんだなんだと、覗きこんでいる。


そこに綴られていたのは。


『こんな形で別れの挨拶をすること』


『“カイザーPMC”の傭兵として働くというスカウトに乗ったこと』


『借金は自分がどうにかする』


つらつらと。

それはホシノの面影を残しながら、淡々と書かれていた。


「え…………」


「こ、これっ…………」


「ホ、ホシノって、あなた達のリーダー的存在でしょう?なんでいきなりっっ……?!」


「私たちが聞きたいくらい。どうしてこんな…………」


「……待って。この封筒、この手紙のほかにもう一枚ある」


カヨコが、アヤネの左手の封筒を指し示す。

たしかに、そこにはもう一枚の紙があった。

手紙のような形ではなく、正式な紋書のように見える。


「あ……ほんとだ」


「なんでしょう~?」


「ドッキリ大成功、って紙だったりして」


「もしそうだとしたら、アビドスから追放してやるわっ!」


その書類の内容は────


「え……っ?」


「ちょ……」


「こ、これ……!」


───アビドスの、退学届けだった。


全員の顔が、蒼白に染まる。

もはや、言葉も発せぬ状況だ。


「────ふむ。冗談ではないようだな」


静寂を打ち破り、俺は言い放つ。

当然、視線は俺に集中した。


「……先生」


縋るような視線。

悲しみを孕んだ眼差し。

当惑を示す眼光。


様々な瞳線が、俺に突き刺さる。


「そう心配するな、皆よ。ホシノの居場所は、粗方見当がついている。────すべてを裏で操る、“黒幕”の姿もな」


「ほ、本当ですか!?」


「え……!?」


「なぜ……」


「いや、なんだ。教育に悪いことながら、俺はここに向かう途中歩きスマホをしていてな」


「………?」


「────“ブルアカ”のメインストーリーを、読み返してきた」


「……?」


「ぶ、ブル……?」


「な、何ですかそれ……?」


「…………???」














反則で草

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