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その後、ナナは父親に無理矢理連れ去られた。ナナは抵抗はしなかった。抵抗すれば更に酷くなることが身に染みてわかっているんだろう。
翌日、つまりは今日、事件を憂うかのよう、もしくは、被害者の血を流すかのような、冬にしては珍しい、夏の台風のような大雨が関東を襲った。
アスファルトに打ち付けられる雨のまばらでどこか規則的な音が僕の耳を丁度良く刺激する。
ともあれ、あれから殺人機械の活動は完全か不完全か、停止した。被害も明さんや堀の言っていた予想よりも遥かに下回っていて、ナナさんの言っていた通り、被害は丁度僕達の居た地域だけであった。
テレビもインターネットもこの話題で持ちきりだ。シンギュラリティが遂に来たなんて言われているらしいが、実際のところ、機械が自らの意思でそうした訳ではないので、そうとは言えないだろう。
当然ながらに今日は休校となった。これは被害のあった地域全域で、会社はわからないが、学校や保育園などは休みとなっている。なので僕はひとりここ数日の情報整理に努めようと思った。
なのに、なのにだ。
「どうして明さんに高橋さん、果ては堀までここに居るんですか」
三人はテレビ前に置かれる小さなテーブルを囲んでニュースを見ている。
四畳半で独り暮らしをしている訳ではないので、ある程度スペースに余裕はあった。必要最低限の物しか置いていないだけで部屋の広さはそれほどなのだが。
「まあ、良いじゃねえか。お前が居れば殺人機械が再び暴走を始めても俺達は死なねえんだから」
確かにそうである。なんでか僕は狙われない。
明さんと高橋さんと堀は、僕の家へ向かう道中偶然ばったり会ったらしく、そのまま僕の住むアパートへ来て、三人で机を囲み、数日間のことを整理しようと話し始めたとき、堀は二人にそう説明した。
「そうですかね……殺されない確証があるにしても怖いもんは怖いです」
高橋さんは僕の淹れたお茶をすする。
「次は何仕掛けてくるかわかったもんじゃないから、早めに手を打ちたい」
明さんがいつになく真面目な表情でそう訴える。これ以上何かが起こるのは勘弁してくれ。
「相原は……何する気ですか」
僕は思いきって訊いてみたが、明さんは「それが昔からわからないんだ」と眉をひそめた。
「ああ、だが日本を潰すだったか、あいつはそう吐いていったな。もしかすると、本当にそうなのかもしれない……だとするとここでの事件は本当にただの実験な訳か。そうだな、訊ねるのは若干躊躇われるんだけども、ひなたちゃんは何か知らない?」
堀は首を横に振った。
「そりゃあそうか。俺達と内通してるから、そう安易に情報は渡さないか」
どうしたものかと、十分ほど、テレビのニュースを見ながら全員で考え込んだ。意味のない中継を結んでいる様子が延々と垂れ流されている。
それに苛立ったのか高橋さんがテレビリモコンをテレビに向けると電源を切った。
ため息ひとつ吐いたあと、チャイムが鳴る。インターホンに出ても無言であったため、ピンポンダッシュを疑ったが、こんな時にそんな馬鹿げたことをしていられないだろう。残念なことに僕の家のインターホンは受話器型なのでここでの人の把握は困難であった。
堀が「誰?」と訊くので首をかしげる。
僕はひとつ銃弾が貫通している扉のドアスコープを覗いた。
「うわっっっ!」と素で声を出してのけぞってしまった。反射的に口を押さえる。ビックリした。
明さんらがそれに気がつき顔を覗かせる。
膝の力が抜けてしまったがなんとか立て直しもう一度覗き込んだ。さっきと同じ光景だった。さっきはいきなりでビックリしただけなので、今度は大丈夫だ。
ドアスコープからは、ドアップで、この豪雨でずぶ濡れになったナナが、扉の真ん前で棒立ちしている姿がうかがえた。




