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 目を、疑った。ナナが本当に人間に対して引き金を引ける人物だとは思っていなかった。

 逆を言えば、そんなナナを相原はそこまでさせた。そこにどれだけの憎しみがあるのか、僕には計り知れない。

 堀は相原を多少強く見つめ二、三歩後ろに下がる。

 相原は体勢を崩したが、フラつきながらも元に戻した。

「なにをやっている!!!」

 米山はナナの顔をビンタした。

「またお前は私に背くか! まだ私の言うことが聞けんか!」

 ナナはうつ向いて口をつぐむ。

 きっとナナは何か言い返せば、耳の鼓膜の破れるほどの爆音で怒鳴られ、理不尽なことを言いつけられるのは痛いほどわかっている。

 僕でも、さっきまでの言動で米山がそんな人物であることは容易に想像できた。

 自分勝手な野郎で、見ていて心底腹が立つ。

「…………はあ、やってくれたな、だが、どうして……急所を外した?」

 相原が、やっとの思いだろう、口を開いた。

「堀さん……ひなたちゃんの父だから。それ以外の理由はない。なんなら死なない程度にもう一発撃ちましょうか?」

 ナナは先程に比べ格段に冷静になっていた。口調も表情も落ち着いている。冷酷さを感じさせるのは確かだ。

「ふん。そんなに私が嫌い、か」

 小声だった。だが強がりか、相原は平然を保っているように見える。

「お前はまたそんなことを言って! いつからそんな不孝者になった? 私はお前をそんな風に育てた記憶はない!!!」

 大声で威圧して、相手の口を閉じさせている。聞いているこっちの胸が苦しい。

 しかしナナは、実際に、米山に育てられた記憶、といってしまえばちょっと違うが、それは無いと言っていた。

「だいたいお前は、生き返らせてやった私にもっと感謝せんか! 誰のおかげで今がある? それを再認識しろ! わかっているつもりだろう。だがなお前はまだなんにもわかっていない! わかっていないんだよ!」

 洗脳にも思えた。

 とんだエゴイストだ。

 自分が生き返らせたくてそうしたんだろうが。それを、なんだ? そうしてやったんだから、感謝しろ? 恩着せがましいにもほどがある。

 ふざけるんじゃない。はらわたが沸々煮えくり返るようだ。

 実は相原より面倒な人間なんじゃないかとさえ思えてきた。

 これには流石の相原も呆れた顔を見せる。かと思いきや彼は余裕そうに笑っていた。

「ナナが死ぬ前よりずっとよくなったじゃないか、米山」

 また会える日を楽しみにしている。相原はそう言うと帰って行った。堀を残していって。

「さあナナ、お前も帰るぞ」

 米山がナナの腕をつかんで無理矢理に連れていこうとした。ナナは依然うつ向き口を閉じたままだ。動かない。

「ナナ、ふざけるのも大概にしろ」

 僕は腹が立って仕方がなかった。

「ふざけているのはあなたの方でしょう」

 本当に、ふざけないでいただきたい。

 ただの学生をこれ以上振り回さないでほしい。それもあるが、何よりナナに対する態度がいただけない。

 あまりに自己中心的だ。

 ナナは僕の声に反応してこちらを若干泣きそうな目で強く僕を希望としているように見つめてきた。

「なんだお前は。私のどこがふざけているっていうんだ」

 この人は本気でそう言っているのか。全てだろうが。呆れて言葉を失った。

「ほら、答えられないんじゃないか。だいたい、人の家の事情に首を突っ込むお前の方がふざけているんだ。お前の親の顔が見てみたいところだ」

 僕は口開いて話そうとした。「あなたはあまりに自分勝手すぎる」。そんなことを言おうとしたと思う。

 それは遮られ、僕の親がひどく貶された。「これだから、こんな過去の無意味な教育を受けた人間は」、「過去の人間というのは私達と全く違う言語を使用するらしい」。

 これじゃあ会話にならない。発言する気力すら失われてゆく。

 ナナは、ほぼ毎日がこれな訳だ。辛くない訳がない。

 何度か持ち直し、色々と発言を試みるも全て彼の大声で捻り潰され虚しく散った。

「ありがとうございます、綾小路君。もういいです。ごめんなさい……」

 申し訳なさそうにナナが謝る。ナナは何も悪くないはずである。

 どうしてナナが謝らねばならないのか。悲しさと歯痒さが僕の全身に駆け巡った。

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