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 殺人機械はそれ以上動こうとしなかった。

 ように思われた。あの殺人機械と僕達とは三十メートル程の距離がある

「どういうことでしょう?」と、ナナが小走りに機械に近づき、僕から大分距離を置くと近距離で銃弾が放たれ、そのままナナの右肩を直撃した。ナナはビクともしないが、服には銃弾の跡がある。

 結局コイツ等は、僕達を攻撃するのか、しないのか。どっちなんだよ。

 攻撃は続いた。ナナもどこに忍び込ませていたのか、銃で応戦する。流石のナナも苦しそうにしているが、僕の足は震えるばかりで全く思い通りに動いちゃくれない。僕の後ろに居る機械も全く動いちゃいない。原因は故障か。「それとも」とナナは言いかけたがあれは一体何だったのだ。

 カラカラと使用済みの弾が転がっている。不思議と僕に弾は当たらない。何故いわゆる雑魚である僕を真っ先に攻撃しない?

 動け、僕の足。今は人間でないとはいえ、ナナは女の子だ。僕が弾ひとつ喰らっただけでも重傷なのは確かだ。しかし、こうも守られてばかりでは格好がつかない。

 ゆっくりと足を前に踏み出してみる。じりじりとナナと僕との距離が近づく。ナナの右腕がぶら下がってきた。まずい。早く。助けないと。早く助けないと! 段々段々速く歩く。

 遂には走ろうとした僕が銃の射程内に踏み入れる寸前だった。忽然と攻撃は止んだ。ナナは重傷。僕は無傷。

 後ろの機械も攻撃してこない。

「綾小路さん、無事でいらっしゃいますか?」

 いつもと変わらぬ声で僕に問いかける。しかし服はボロボロ、右腕も機能していない。

「無事ですが、ナナさんは大丈夫ですか?」と言いかけた刹那ナナに「やっぱり、故障じゃない」と遮られる。

「恐らくこの殺人機械達は綾小路さんに反応しています」

「それって、どういう」

「綾小路さんはきっと駆逐対象とされておりません。逆を言えば殺してはいけない人物なのでしょうか。今まで無傷であったこと、銃の射程範囲となると攻撃が止まること。この二つがその証拠と言えるでしょう」

 静かな空間に、ナナの声だけが残った。

 あまりに唐突であり衝撃的な事実には慣れたつもりではいたが、これはもはや夢であるとしか思えない。これだと僕が重要人物じゃないか。何も、この事件を終わらせられるような、相手にとって有益であるような情報など持ち合わせていないはずなのに。

 これ以上、殺されると怯えなくてよいという解放感はもちろんあるが、ホラー映画だと開始早々殺される役がピッタリな僕が何故駆逐対象外であり、殺されないのか。僕が殺されない。つまりは僕以外の者は殺される、ということではないか?

「……殺人機械の動作を完全に停止させますね」

 ナナは機械の方を向くと手をかざした。ただそれだけで機械の動作を完全に停止させるというのだ。現実的に考え、可笑しな話だ。

 夢だ、夢。こんなもの、夢としかいいようがない。つねったほほだって結局は“痛い“と感じることを知っているから、そう思い込んでいるから痛いと感じるだけだ。

 僕が今居る世界を現実と仮定するならばこれは現実逃避だが、ここが現実でない、空想または夢であると仮定するならば、ここは現実からの逃避先か。こんな逃避先嫌だなと、仕方なく僕は微塵も現実と感じられない現実を見ることにした。

「さて、昔話の続きをしますか?」

 あんなに撃たれてよく平気で居られるものだ。と、少し考えてしまったが、ナナは元人間であると言っていた。もし本当にそうならば、平気な訳がないだろう。

「ナナさん、平気なんですか?」

 平気ですとしか答えようのない質問ではあるが、これしか僕は思い付かなかった。

 ナナは白々しく「何がでしょう?」と返事をした。

「右腕、動いてないじゃないですか。守られていた僕が情けないぐらい、もうボロボロです」

「ああ、腕ですか。大丈夫ですよ。お構いなく。動かそうと思えば動くので」

「大丈夫じゃない訳ないじゃないですか。人間だったら、とっくに死んでたんですよ?!」

「人間じゃなかったからこうして生きているんですよ」

 僕はナナの肩を揺らして問いかけた。ナナは即答だった。その声は感情的になっていた僕を強制的に落ち着かせた。だが、今のナナが大丈夫な訳がない。

 ナナの「もう一度死んでしまっているので、これを生きているというにふさわしいかはわかりませんが」と意味ありげな発言に、まんまと僕は「どういうことですか?」と訊ねる。

「昔話の続きをしましょう」

 僕の質問をよそに、ナナは高橋さん達が向かった地上への階段のほうへ歩き始めた。

「前提として、米山は、娘の人格をAIにコピーしました」

「はい」

「人格のコピーは成功しましたが、ただひとつ、欠点がありました。記憶の欠如です。娘の人格をしたAIは、生前の記憶が全くない状態でした。娘は完全に死んでしまい、また、秋山により余計な手が加えられたこともあり、記憶のバックアップをAIに移すことは不可能でした」

「記憶のバックアップなんて取れるもんなんですか?」

「私もよくわからないですけど頑張れば出来るんじゃないですか?」

「頑張れば」

「AIに人格コピーするなんて、私も初めて聞いたとき、どこのファンタジー物語かと疑いましたし」

 今までわからない、理解出来ないの連続で、やっと共感を得られる部分があったと安堵する。

「そのAIはこちらでいう未来の最先端の技術がたくさん盛り込まれており、喋りも滑らか、表情豊かで人間に近い存在なのですが、亡きはずの娘の声、娘の表情が米山を更に苦しめてしまい、それを制御するアプリを組み込まれました。まあ、すぐにでも解除できるのですが」

「出来ちゃったらダメじゃないですか」

「最先端の技術を盛り込んだ結果ですよ。もっとも、外せばヒステリックに喚いたことがあるので外しませんが」

 喚くのかと若干引き気味ではいるが、本人にしてみれば、娘と瓜二つではあるが記憶がない、もはや人格だけが同じの別人が居るのだから無理はないか。

「そして、そのAIはラベル別の名前としてB-37と名付けられ、それとその元となった米山奈菜(よねやまなな)より、“ナナ”と呼ばれるようになりましたとさ」

「えっと、それってつまり……」

「私は米山の娘の人格を所有する者ってだけですよ。長々と話してしまってすみません。ほら、着きましたよ」

 ナナは階段前で足を止めた。

 予想は出来たものの、理解が追い付かない。むしろその話が僕の理解に合わせてほしいぐらいに、他の話の整理もあまり出来ていないので、完全に理解するのには時間がかかりそうである。

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