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 唐突に私は元人間であると言い出したナナに僕はもはや何も感じなくなった。

「あら、意外と驚かれてないんですね」

「そりゃあ、最近、僕の周りは可笑しなことだらけだから」

 明さんが僕の家に宅急便で来てから、毎日のように異常なことが起き続けている為、慣れてしまった。その全てが真実だと信じきれている訳ではないのだが。非日常が楽しくない訳ではないが、命の危機に晒されたくはなかった。

「そうですか。それでですね、米山という方はご存知でしょうか? 現フェニックスの幹部に相当する方です」

「いや、知らない」

「そうですか。米山という人は奥さんを亡くし、娘と二人で暮らしていたんです」

「はあ」

「あるとき、娘が病気にかかってしまいました。原因不明の病です。あと少しで死んでしまうと、医者から余命宣告を受けます。その時米山は、娘を病から救ってやりたい、即ち死なせたくないと考えます。当時フェニックスは不老不死の研究をしておりました。つまり、米山は娘を……」

「不老不死にさせようとした」

 僕はナナが答える前にそう言ってやった。ここ数日で、勘が鋭くなったのではないかと錯覚するが、しっかり話を聞いていればわかることか。

「ご名答、そうです。娘を不老不死にさせようとしました。病気なんかで死なせたくなかったのですね。その時、手伝ってあげると秋山が米山に言ったのです。ダブルマウンテンです」

「ダブルマウンテン」

 何故ナナはこの状況で笑いを取ろうとするのか。この事件が起こった次に不明だ。

「まあ色々研究します」

「色々」

「そこの詳細はわからないです」

 じゃあ何故話を始めたんだという突っ込みは心の中にしまうことにした。

「そして、米山はAIに人格をコピーしようと試みますが、失敗したように思われました。次に秋山が薬を飲ました。単純に言うと、娘は溶けました。失敗です」

「人が溶けてしまうって、秋山さんはどんな薬飲ませたんですか……」

「知らないです。そして次、ここが一番重要なのです」

「はあ」

「もう一度言いますが、娘のAIに人格をコピーしようと試みました。そして、それは失敗したかと思えました」

「ええ」

「実際、その時人格を移したAIは起動はしていましたが、端からは起動しているように見えなかったようなのです」

「つまり、起動はしていたんですね」

「ええ。人格をコピーするのも成功しました。ただ……」

 ナナは足を止める。

 僕が「ただ?」と問うと口を手で押さえられ「殺人機械が居ます」と小声で知らされた。

「二体、いや、三体? とにかく、一体ではないです」

 まだ姿は見えない為、現実味を帯びていないが、ここで殺される確率が高いのは確かである。

 死ぬ前にせめて話のオチぐらいは聞きたかった。ここでくたばる予定はないけれど。

「どちらから迫ってるんです?」

 僕が小声で訊ねると「両方です。挟み撃ちにされています。今下手に通路を出るとそこを狙い撃たれる可能性が非常に高いです」と返ってきた。

「綾小路さんは私の後ろへ」と僕の前に手を出されたので「女の子に守られる程柔じゃない」と返すと「私は、現在生身の人間ではないので、何発かの銃弾には耐えられます。そして負傷した部分を捨てることも出来ます。あなたは一発喰らっただけでも重傷です。例えその部分を捨てられても、痛みで耐えきれないでしょう?」と言い返された。何も言えない。

「もう少しで来た道から一体来ます。そいつを潰し、一旦逃げます」

 十数秒後、ジー、ジー、と音をたて、のそのそと一体の殺人機械が現れた。ウィーンと、もっとも、機械らしい音をたて、銃で僕達を狙う。

 ナナはいつでも俊敏に動ける姿勢をとった。

 が。

「あら?」

 機械はあれ以上動かなかった。ナナは姿勢を戻す。

「どうしてでしょう? 故障ですかね? 銃を撃ってきません」

 ナナは首をかしげた。

「ナナさんが居るからでは?」と訊くとすぐさま「それはないと思います」と否定された。

「敵はこちら側に、殺人機械に対抗出来る私や実果さんのような存在が居るのを良く思わないでしょう。私が敵であるとするならば気に入りませんし、すぐにでも破壊します。一番邪魔な存在ですから」

 よくよく考えてみればそうか。相手からすれば、ナナは計画の妨げでしかない。駆除すべき害虫に等しいのだ。

「しかし何故発砲しないんでしょう? しないに越したことはないですけど」

「故障か、もしくは……」

 微かに音が聞こえた。

 それは僕がゆっくりと振り向くと同時に姿を現す。息が止まった。

 殺人機械だ。

「ナナさん!」

「は、はい」

 ナナは僕の指す方を向いた。殺人機械が一体、二体、のろのろと近づく。

「来てしまいましたか」

 無表情かつ無機質な声。ナナの感情を読み取ることは非常に難しい。

 そして銃口は僕達の方へ向けられた。

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