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 まずは、米山から当たってみるか。


*


「あ、高橋さん」

 向かいから、高橋さんと、女性二人が走ってくる。

「よう綾小路」と言ったと思えばすぐに「こんぐらいの坊主知らねえか?」と訊いた。手でその男の子の背の高さを表す。

「いや、知らないです」

 一人の女性が「高橋さん」と声を掛けた。

「これ……」

 女性は目前の折り重なった死体に目をやる。女や男、子どもだろうがなんだってお構い無しに殺され、無惨に葬られている。一番上には、丁度高橋さんが示した高さと同等の男の子が頭から血を出して死んでいた。僕は目を背けたが、僕以外全員、そうはしなかったが、高橋さんは辛そうに見ていたが。

「やられちまったか」

「そのようです」

「じゃあ、まだ敵は潜んでるわけね」

 三人は着々と話を進める。その話についていけない(僕もだが)堀は「ストーップ!」と声を掛けた。全くわけがわからないわけではないが、それはなんとなくでしかないので、ちゃんと内容を知りたい。

「ね、ね、どういうこと? なんでここに居るのかとかこの子は誰とかわかんないからさ、説明してよ」

「ん、ああ、そうだな」

 高橋さんは話を始めた。意外に長かったのでまとめると、女性は二人ともAIで、その内の一人、実果さん(本当はA-23号というらしい)がフェニックスの手下で高橋さんを、任意らしいが連れ去った。そして米山という現フェニックスの総統に当たる人物に「秋山を止めてくれ」と言われたそう。

 そしてもう一人の女性、ナナさんはその話が終わり、帰り道を案内するだけのつもりだったが、この事件が発生してしまい、もしかしたら力になれると着いてきた。出来るだけ安全な場所へ逃げようと地下へ逃げた結果、地下は地獄だった。

 さっきの男の子は、唯一の生存者だったらしく、保護しようとしたが恐れられ、逃げ、探している内に殺されてしまったという。あと一歩のところで助かった命だ。

「なるほど。可哀想に……」

「本当にな」

「で、明さん居る?」

 今までの話をすっ飛ばし、堀がそう質問する。さては最初からそれが聞きたかったな。

「それは今俺達も探しているところだ」

「えー、居ると思ったのになあ」

 堀が悔しそうにそう言う。何が悔しいんだよと内心突っ込みを入れた。

「んで、お前らはなんでここに居るんだ? こっちもそっちの事情は把握したい」

 それもそうだな。

「事情ってほどのもんじゃないですけど……」

 僕は明さんが急に家を飛び出したこと、堀がこの事件は自分の親が関わっているということを話した。「でも、お父さんとお母さんは、ちゃんと止めたって言ってた」と、堀は、自分の親が主犯でないと主張する。

「うーん」とナナが考える。きっと頭の中じゃ僕には到底理解し得ない演算が行われているに違いない。

「堀、ですか。結婚し、姓が変わった可能性は否定できませんが、相原信者に堀という姓の者は居ませんでした」

 ナナが冷静に分析結果を発表する。

「だから、相原って名前出すな」

 ナナは首をかしげる。

「そのようなことは一言も……」

「わかった。その名前は出すな」

「承知しました」

 高橋さんはひとつ、溜め息を吐く。

「で、これからどうするよ。何をどうすれば被害拡大を防げるよ」

 被害拡大を防ぐのも大事ではあると思うが、この人達が死んでしまっては元も子も無いんじゃないか。今現在この街に安全なところなど到底ありはしないだろう。地下の人々も、ほとんど殺されたみたいだ。まだ殺戮ロボットが潜んでいる可能性もゼロではない。しかし、安全な場所、避難できる場所はどこかと言われればここ以外相当しないだろう。それも、殺戮ロボットが僕達の存在に気がつくまでの短い時間だろうが。

 僕達はどこへ逃げたら良いんだ。

「なあ、単純な疑問なんだが、堀」

「なぁに?」

 こんな状況だというのに堀は、いつもと同じ調子で返事をする。いや、表情は少し曇っているか。

「堀の親って、俺達と同じ過去に来ている、こっちでいうところの未来人だよな?」

「そーだよ」

 堀の親は未来人。毎日隣に居る親が未来から来た人。ああ、だから、明さんや高橋さんが未来人であることをカミングアウトしても、すんなり受け入れられたのか。正直なところ、僕はまだ、未来から人が来たなんて信じきれていないし、これも何かの劇、もしくは悪い夢ではないのかと心のどこかで思っている。

 しかしつねった頬は痛い。

「じゃあ、堀の親に主犯が誰かを訊いてみる価値はあるか」

 主犯を止めないことには、この事件は収まらない。当然のことだ。

「電話、してみる?」

 堀がポケットからスマホを取り出す。

「……お前のそのスマホ、使えるのか?」

「ん? うん。普通に使えるよー」

 何がどう不思議なのか僕にはよくわからないが、一応僕のスマホも使える。

「……そうか、じゃあ電話を掛けてみてくれ」

 高橋さんは何か言いたげだったが、それを飲み込んだ。電話の鳴る音が微かに聞こえる。

「ただいま、電話に出ることができません。しばらく経ってから……」

 堀は自動音声を途中で切った。

「繋がんないみたい」

「そうか。ありがとう」

 高橋さんはひとつ礼を言うとまた考え込み始める。

 地下は異様なまでに静かだ。死体から血が滴り落ちる音、空調の音、今まで気にも留めなかった全ての音が耳に入る。

 ここの五人の中で一番無力で一番最初に殺されそうなお荷物の僕は今一体何をすればいい? 実際のところ、何もしないのが迷惑もかからず安全なのだろうけど。

 僕は、どう動けば良い?

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