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蜘蛛の復讐  作者: 凪竜
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9/14

九話

なんか当初の予定から結構ずれてます(汗


遅くなりましたが評価、感想くださったかたありがとうございましたm(_ _)m


非常に励みになります

予定より多少長引きましたがこれからも完結に向けて執筆していきますので、応援お願いします。

『哲也』


その名前は僕にとって重大な意味を持っていた


僕の実の弟であり同じ母親から生まれた肉親


だが、僕との共通点はそれだけだ


哲也は僕なんかとは違い頭が良かった 学歴でも優秀な成績を残し、生活的な面でも要領は良かった


容姿も僕に比べて格段に恵まれていた


小柄ではあるが色白だった幼稚園時代はは男子と言うより女の子と言われても違和感ない童顔を持った哲也は当時から女の子達にも人気があり、よくままごとなどの遊びにも加えてもらっていた

成長しきった今でもイケメンと言っても良いほどのバランスが取れた顔付きになっている


そして友達の居ない僕とは違い、外見だけではなく人望も備えていた


脳みその中に筋肉しか詰まっていない力づくで人間関係を構築している体育関係の連中とは明らかに違った

生来の優しい性格から子供から年上にまで好かれていた


そして何でも出来た

スポーツだろうが料理だろうが勉強だろうが望まれればどんな事でもこなしたしいずれも人並み以上な業績を打ち立てた

僕はそんな哲也を疎ましいと思っていた


僕よりもたくさんの友達がいたから


僕よりも運動や勉強ができたから


生まれながらにして何でも持っている哲也が憎かった


哲也の才能の一部が僕に備わっていれば僕の人生は有意義になっていたのだろうか?


しかしそれ以上に気に食わなかったのは

“哲也が母さんに愛されていたからだった”


何で僕はこんなにも人から疎まれるのだろうか?


そのせいで色々な事を諦めるしかなかった


仕方無く挫折するしかなかった


友達を作ろうとしても


周りが近寄って来ない


話しかけるても避けられる


いつの間にかクラス内で孤立している


それだけでは飽きたらず暴力恐喝盗難罵倒学級裁判などの虐めに合う


おかげで何かを成し遂げようとする気力は失われただ理不尽な暴力に脅えるだけの日々が続いた


あの頃は何故自殺しなかったのか気になる


なんであんな地獄のような日々をおくりながら僕は生き長らえているのだろうか?


それは多分虐められることよりも自分の命が失われる方を恐れていたからだと思う


何故なら特技もビジュアルも友人も好きな趣味すら持たなかった僕は自分の命しか持っていなかったから


昔、一度だけカッターナイフで手首の頸動脈を切り死のうと思ったことがある


例のランドセル事件よりも後の話

学級裁判の直後だった


あの頃僕に話し掛けてくる連中がいた

男子二人と女子一人のグループだった気がする


彼らは僕と一緒に遊んでくれた、担任の先生の事等、他愛もないことをしゃべって笑い合った


それから数日後に彼らはとある『イタズラ』を僕に提案してきた


それは給食費を盗んで学級のみんなを驚かせてやろうというものだった


勿論盗んだ給食費は一晩経ったら教卓の上に戻す


そして実行犯の役割は僕になった


別に押し付けられた訳でも初めから役割が決まっていた訳でもない


僕の方から進み出たのだ

何故なら僕は目立ちたかった

せっかく出来た友達に良いところを見せたかった

そして何よりも友達のために何かをやってあげたかった


そして計画は実行され、僕は盗んだ給食費を女の子に渡した

事件の結論から言うと


給食費は戻ってこなかった


僕は女の子に事情の説明を求めたが、シカトされた

他の男子二人も同様だった


その日の授業が終わった後に、先生はホームルームで給食費がなくなった事についてクラス全員に言った


「先生怒らないから給食費を取った人。正直に立ってください」


僕は立たなかった。本当は正直に立ってみんなに謝りたかったが、怖かったのだ


友達の三人を裏切るのが


それは決して報復を恐れての行動では無かった


僕の事が露見して友達の三人に被害が及ぶのが怖かったからだ


なのに、


「先生。私は給食費を盗った犯人を見ました」


僕達のグループに入っている女子が手を挙げた


先生が驚いて訪ねる


「誰なの?言ってみて」


「それは、信二くんです」


僕が給食費を預けた女の子が


こちらを向いて勝ち誇った顔で見下しながらそう言った


クラス全体の目が僕を見ていた


二対の三十人もの多種多様な視線はそれぞれ怒り、侮蔑、冷笑を浮かべており、子供ならではの残酷かつ容赦ない視線を僕に突き刺し責めていた


更に控えめながらもゴミか汚物を見るかのような、自分の教え子には決して向けるべきではない視線で僕を眺めつつ先生が冷たい怒りを抑えつつ、呻くように告げた


「信二くんのお母さんを呼んで一緒にお話をしないとね」


母さんにこの事を知られると思った僕は、次の瞬間に目の前が真っ黒になったように感じた


遅くなった帰りの後僕は家で母さんに滅茶苦茶に殴られた


今度は顔面だろうが腹だろうか後頭部だろうが理不尽な罵声とセットでボコボコに殴られた


哲也は塾に行っており、不在らしかった


僕は辛かった


母親に暴力を振るわれるのは多少慣れていた


だが、本当に堪えたのは友人だと思っていた三人に裏切られた事だった


翌日、学校へ行き彼らを問いただそうとしたが、彼らに何を言っても冷たい笑いを返してくるばかりで僕がかける言葉は全て無視された


そこで僕は全てを悟った、解ってしまった


彼らは、僕をそそのかして給食費を盗ませる為だけにしばらく友達のフリをしていただけなのだという事実を


僕は悲しかった。午後の授業内容なんて少しも頭に入らなかった


そして、帰りのスーパーでなけなしのお金を出してカッターナイフを買った


自宅、夜にて僕は銀色に光る刃をナイフより引き出す


出来れば包丁が良かったのだが、台所では何時も母さんがお酒を飲んでいるので持ち出すことは叶わなかった


刃が小さいとはいえ手首を切ればたくさん血が流れて僕の命は確実に失われるだろう


そしてナイフの刃先を手首の頸動脈付近に当て皮膚に少しずつ突き刺す


皮が切れて傷から血の玉が滲み出る


僕は怖くなった


この赤い血が全てなくなったら僕は死ぬんだろうかと


辛い事への逃避だと今まで甘く考えて考えていた『死』が


肉体の死滅による自己の消滅という虚無的で恐ろしい『現実』へとすり替わっていく


僕が死んだらあの三人組は一体何を思うだろうか?


いや、なんとも思わないだろう。

僕の事なんか忘れて今まで通りに日常を送るのだ


刃の冷たい感触が恐ろしく感じる


忘れ去られる


永遠に


それは肉体の死よりも恐ろしい


僕の存在そのものが死ぬのだ


誰も僕のことをすぐにでも忘れるのだ


クラスメートも


先生も


哲也も


そして、母さんも


誰も僕の事を気にもかけないというのは最初から無かった事にされるのと同じ


虚無への回帰


闇への帰還


それは何よりにも勝る恐怖だった


“死にたくない”


そう痛切に思い、僕は鈍く光る刃を引っ込めた。
















哲也はこの事を知らないし知る由もない


勿論、僕の苦労なんて理解しようともしないし、出来ないだろう


自分は成功しているから


自分の携帯にはたくさんのアドレスが載っているから


自分には大学生なのにもかかわらず週末に高い車で一緒にドライブする友人がいるから


自分にはどんな時も支えてくれる彼女がいるから


自分は母さんが応援してくれてるから


決まって不定期に架かって来る電話には決まって僕個人にとってはどうでも言いような自分への幸福事ばかり話す哲也を僕は憎たらしく思っていた


こいつは僕に自慢したいだけなのではないだろうか?


何度もそう考えた


しかしまともに僕と話してくれる相手は哲也だけだったので無闇に突き放す事もしたくなかった


そして先程かかって来た電話は


「兄さん、俺の就職が決まったんだ。鈴木商事っていう貿易関係の大企業だから待遇は結構いいんだ。

今夜、兄さんのアパート近くに住んでる友達の家に遊びに来てるからうまいとこに食べに行こうよ。俺が奢るからさ」


僕がバイトをクビになったその日に哲也の就職先が決まったのは運命の皮肉と言うか、居るか居ないか判らない神様とやらの嫌がらせな気がした


哲也に奢らされるのはあまりいい気はしなかったが、仕事がない僕にとって生活費はなるべく節約したい


それに最近のフリーター生活のため料理店という大層な場所にもしばらく縁がなかったので、しょうがなくご馳走して戴く事にした


約束の時刻に合わせる為に、中身を片付けてない箪笥のぼろ服の中からそこそこまともな物を掴みだして着替え、外に出た


僕はその時、尾行してくる人影に気付かなかった


そして、そいつが僕の人生を大きく狂わせることも現時点では全く分かることすらも出来なかった


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