七話
すみません。更新が遅れてしまいました
僕が仕事に入った時でもカウンターで山城一行は他の面々達といつものようにおしゃべりし、いつものように僕に仕事を押し付けてきた
返却されてきたビデオを棚に戻しているのを見るとカウンターから山城がにやついてこちらを盗み見てくる。
その顔に浮かぶのは相変わらず僕に対しての侮蔑と嘲笑
できれば睨みつけてやりたかったが、あいつが店長に変な陰口を吹き込むと最終的に僕が困ることになるので無視するしかなかった
そんな事情で自分に文句を言って来ない理由を恐らく山城はよくわかっているのだろう
後ろからいつの間にか近づいていた山城は僕の傍らに置いてあったビデオの入ったプラスチック製の篭を軽く蹴飛ばした
それで中に収まっていたビデオがぶちまけられる
「お。悪い悪い」
自分のせいで床に散らばったビデオを拾おうともせずへらへらと締まりの無い顔笑いながら満足気にカウンターに戻る山城
僕は無言のままで床に散らばったビデオを篭に入れ直し仕事に戻る
昔から変わらない
そう。僕はいつも虐げられる側だ
虐げるのは友情などの薄っぺらい人間関係で結びついた他人だけでは無い
僕を産んだ実の肉親からも、そういう連中からされるのと同様に何故だか毛嫌いされていた
『母さん、、、』
『また学校で何かあったの?お前の担任の先生は何もないから大丈夫だっていってたでしょう?それよりわたしは塾に哲也を連れて行かないといけないの。だから後にしてくれる?』
『母さん。この前は何か合ったら母さんに相談しろって言ってたじゃ』
そこで母さんの表情が一変した
鬱陶しいそうな顔から鬼のような顔に
『うるさい!厄介事ばかり持ってくるお前の事なんか知らない!どうせまた哲也を羨ましがって私の気を引こうとして嘘をついているんでしょう!』
『ちがうよ母さん、、学校で畑山が僕のランドセルや教科書を全部捨てたんだ。それだけじゃない上履きや体操服も』
『ねぇ、信ちゃん。そんな事が起こる背景にはあなたに一番原因があるってことがわかるの?』
急に母さんは笑顔になった。
ただし僕は知っている
それは決して母親特有の子供に向ける慈愛の笑顔なんかじゃない
その証拠に口だけを弧状に無理やりを曲げて歪んで作った笑顔は目だけは恐ろしい輝き爛々を放ち僕に対して憎悪を向けており、全く笑ってなどいなかった
『それはお前が悪いからだよ信二!』
母さんの拳が僕の頬を打ち、乾いた音が響く
『お前がッ!あの人の血を受け継ぎながらッ!そんな醜い容姿で、馬鹿で、母さんの考えて居ることもわからない愚か者だからよッ!
哲也を見なさい!容姿端麗、成績優秀、将来有望、人には優しいし人望もある!お前と違ってたくさんの友達からも好かれているわ。』
『かあさん、おねがいだから、ぼくと哲也と比べないで、、』
僕は懇願した。しかし
『うるさい!あの人の血を継いだのに、なんでお前はこうなんだ!このブタ、クズ、ゴミ、死ね!お前なんて死んでしまえ!』
再び鬼相を見せた母は立ち上がって僕のお腹を何度も踏みつける
決して顔は殴らない。傷ができた場合露出するからだ
だから服に隠れているところだけに暴力を振るう
痛い、痛いよ、誰か止めて………
『お母さん。はやく塾にいこうよ。友達が待ってるからさ』
そこに哲也が来て言った
そして母は僕に一発蹴りを入れると僕の弟である哲也に向き直る。
その顔は僕に向けていたのとは別種の笑顔
僕が母に求めてやまなかった本物の愛情が籠もった笑顔が哲也に向けられていた
『ごめんなさいね哲也。あなたのお兄さんがまたわがまま言ってきてね、母さんちょっと叱ってたのよ』
『じゃあ今から塾に行くんだよね』
『そうよ。すぐに私が送っていってあげるからね。哲也は支度終わったでしょう?なら、すぐに行けるわ』
『早く行こうよ。おかあさん』
『はいはい。わかりましたからね』
そういって母さんは再び微笑む
それは元々美人なだけに誰もが見惚れるきれいな笑顔だった
そして僕には向けられず弟に注がれた愛情の証
『それじゃあ、母さんは車を出すから哲也はそこで待ってて。すぐ終わるからね』
『うん』
哲也の返事を聞き母さんが玄関から出る
母の姿が消えたその時、哲也がこちらに顔を向けた
その表情は嘲笑でも憎しみの表情でもない
ーーーーお兄ちゃんかわいそう
弟に向けられたのは僕への憐れみの表情だった
その言葉の裏には
“お母さんにいじめられてるのが僕じゃなくてよかった ”
そんなニュアンスが含まれていたであろう事を僕は子供特有の直感力で感じ取ってしまった
それを脳内で認識し確認してしまった瞬間
気付けば、僕は哲也を床に押し倒し首を締めていた
『…お兄ちゃん、いた、いよ。やめ…て………』
哲也苦しそうに喘ぎながら僕に頼む
僕はそれを無視した
弟の懇願を蹴り、僕は手に込めた力を増していく
心の奥底で良心が悲鳴を挙げたがそれを黙殺し哲也を窒息死させんと馬乗りになって締めた
お前なんて死んでしまえ
死ね
死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
『ッ!信二っ!』
突然よこから飛んで来た拳に意識を刈り取られかれる
が、それは自分の髪の毛を鷲掴みにされることによって止められた
『お前…信二…。私の哲也を、よくも……よくもオオオッッ!』
再び振るわれる暴力
母さんの拳は腹ではなく顔面に直撃。
『お前が、お前なんかがッ、私の哲ちゃんに触れるなぁぁッ! 』
三撃目
唇が切れる
四撃目
舌を噛んだ
五撃目は眼球に当たり、激しい痛みで再び意識を失いそうになる
だが、続く六撃目で意識を手放す機会は阻止された
後はひたすら拳のラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
僕はなすがままにの母さんに暴力を振るわれていた
『止めてよおかあさん!お兄ちゃんが死んじゃう!』
哲也のその声を最後に
僕の意識は途切れた
今更なんの拍子でよりによってあの出来事を思い出したのかはわからない
もしかしたら藤谷を殺した時のストレスが昔のトラウマを蘇らせたのかもしれない
おまけにあの後から勤務中にも関わらずに僕の意識は昔の回想に引き込まれ仕事は疎かになり、挙げ句の果てには注意不足から洋画コーナーの棚をビデオ共々盛大に倒してしまい、キレた店長直々にクビを言い渡されてしまった
その様子をあの山城や上田がカウンターで覗き見ながら笑いを堪えて背中を震わせていたのを思い出す
「馬鹿な連中め、僕が居なくなってもお前らの仕事が増えるだけだ。ざまあみろ」
誰も聞いてはくれないだろう負け惜しみの独り言は
虚しく美しい夕日の景色の赤い大気の中に溶け込んでいった




