六話
遅くなりましたが六話目です。
今度から執筆速度を上げたいと思いますので、感想、評価、応援等もよろしくお願いします(ぺこり
幸い悪夢を見ることは無く充分な睡眠は取ることは出来た
しかし、目覚めた僕を迎えたのは朝日の柔らかな陽光の下でさえずる小鳥の声とバイトの始業時間をとっくに超えた時刻を指し示しているブラックカラーの安っぽい目覚まし時計だ
僕は気だるげに床から身を起こす
藤谷を殺した事で発生した精神的ストレスに比べれば遅刻程度の出来事は悩むほどでもない
人間的にクズとは言え人を殺して一晩経ったにもかかわらずそんな事を思考できた僕自身の冷静さに驚く
実際藤谷は殺されても仕方ない程迷惑極まりない奴ではあったし、僕が殺さなくてもいずれは誰かの恨みを買って似たような悲惨な結末になるのは目に見えているだろうから仕方がないのかもしれない
問題は僕の人間としての罪悪感云々よりも僕の犯罪が露見しない事だった
行方が知れなくなった藤谷が警察に捜索される
もし仮に僕がバイトを休めば藤谷の失踪が何らかの事件に繋がると警察が判断した場合、マンション住人全員が容疑者にリストアップされるのは当然の流れだろう
その時、間違いなく先に疑われるのは隣人で藤谷に恨みを持っていた僕だ
最近の警察の取り調べは凄まじい
一度目を着けられたら最後だ。悪質なストーカー紛いの尾行と用意周到な聞き込みで必ず事件につながる何らかの手がかりを掴むだろう
それでも犯人が捕まらなければ容疑者を捕まえて人権を無視した強引かつ執拗な尋問と、ヤクザ顔負けの暴力を用いてでもも無実な奴を半ば脅迫的に罪を被せて犯人に仕立て上げられてしまう
実のところ犯人である僕が言うのも何なんだが、そんな脅迫紛いの捜査を受けた場合は口下手で要領が悪い僕ではどうすることも出来ない
最悪の場合は尋問に引っかかって藤谷の死体に関することをうっかり喋ってしまうかもしれない
そうなれば最悪だ
警察は僕をターゲットにし、動向を徹底的に調べあげ、いずれは証拠を掴む
自体捜査で冷蔵庫で眠っている藤谷が発見されればもう言い逃れは出来ないだろう
残りの人生を臭い豚箱の飯を食って過ごしてしまう羽目になる
それは想像しただけでもゾッと背筋が凍る未来図だった
これまでロクに人生を楽しめず、藤谷という死んで当然のダメ人間を消しただけで税金を貪り食っているだけの公僕によって犯罪者の烙印を押され数十年間も自由を拘束される
昨夜の死体処理に伴う疲労が取れていないのはネックだったが死体を完全に処理するまでは疑惑の目が向けられないように普通に生活を送るしかない
とりあえずはバイトに行くか、
僕はため息をつきながら玄関へと重い足を向けた
「お前さぁ…遅刻してんじゃねぇよ。昨日もギリギリ間に合ったじゃねぇか」
そんな僕を待っていたのは虫の居所が悪いらしく、冷たく眼差しを向けてくる店長だった
僕は店長の気にさわらない程度の声量で弁解する
「すみません。昨日寝るのが遅くなって」
「趣味に没頭するのも良いけどさぁ、みんなに迷惑かけるくらいならやめてくんないかな?」
店長は僕の言葉を遮って放った一言は
“どうせろくでもない事でもして睡眠時間が取れなかったんだろう?”
そんな店長の本音が見え隠れしているようだった
「それは、、、」
僕は口を濁らせる
『逆恨みの末に殺人を犯した後、死体の始末をしていました』なんてとてもではないが言えるはずもない
たどたどしい返答を続ける僕を見て店長は鼻を鳴らして不快そうに吐き捨てた
「口答えするくらいなら真面目に仕事やれよ。山城や上田から聞いた話だと、お前昨日は居眠りしてサボってたみたいじゃないか」
反論したかったのだけれど
昨日は仕事中に寝不足で意識が何回かブラックアウトしたのも事実だ
山城達はそれをスパイして店長に報告したのだろう
多分、自分達に都合の良いように多少の脚色を加えた後で
仮に店長何かを言い返したとしても、いまや僕の事を一方的に敵視している山城や上田と仲良くやっているこいつには何を言っても無駄だろう
それどころか僕がお気に入りの山城や上田を感情のままに叩いているとしか思わないだろうから
店長はだるそうな仕草でカウンターに体を寄りかからせ胸ポケットに入っているであろうタバコの箱を人差し指でなぞりながら言った
「あー、もういいよ。お前の言い分はさ聞きたくないからさやる気ないからもう明日から来なくていいよ。ウチには山城達が頑張ってるからさ、首になりたくないんなら真面目に働きなよ。」
こいつは山城達三人が自分達の仕事を僕に押し付けて楽をしている事を知らないのだろうか?
いや、知らないだろう
店長の仕事は一日中休憩所に居座ってタバコをふかしながら売上高の計算やいかがわしい雑誌を眺めていること、そして山城達と喋ったりするくらいなものだろう
肝心な仕事はバイトに任せ、自分は楽をしているのだ
そしてその割を喰うのはいつも僕だった
残業代が出ない長時間労働や、店の後片付けをさせられるのもいつも僕の役割だった
こいつは何を言っても無駄だ
だから僕は無言だった
こういう時はひたすら従順な態度を続け相手の怒りが治まるのを待つのが最適だそれに店長には僕が何を言っても信じないし聞かないだろう
「反省してるんならさっさと持ち場に着けよ、お前には今日から今まで山城達に任せてたゴミ当番もさせるからな。サボるんじゃねぇぞ!」
僕に対して不快感を隠すつもりすら全く見せないで、店長が怒鳴った後、胸ポケットタバコを取り出しながら休憩所へと入っていく
その不機嫌な後ろ姿を眺めながら僕は
“こいつもムカつくから藤谷みたいに殺してしまおうか?”
ポケットの中に入っている果物ナイフを弄びながら
当然のようにそんな事を考えていた




