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True Mind  作者: 青山洋
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ボール


-4-



「これから朝の会を始めます。起立、おはようございます」

「おはようございます」

「着席……こんな感じでいいのか?」

「うん、大丈夫だよ」

 花壇で日直の仕事を終えた俺は、結花にお願いされて朝の会を始めた。

 そんな中俺はうすうす感じていたことをつぶやいた。

「……俺達以外に誰もいないが大丈夫か?」

「うん、そういうもんだし。続きやって」

 結花はなにくわぬ顔でそう答えた。黒板の上に掛かっている時計をみると、針はに八時半を指してていた。

 だが教室にも誰一人現れず、この学校、いやこの町全体に人がいないように感じる。

 結花がそれについて何も話さないのが気になったが、とりあえず朝の会を進めることにした。

「出席を取ります。梶田結花」

「はい!」

「寺井昇……はい」

「以上二人出席です……え? このクラスって俺とお前しかいないんだっけ?」

「うん、そうだけど」

「……本当にここは学校なのか?」

「うん、ここはそういう場所だよ」

 当然だというような顔で奴は答えた。

 確かに手元にある出席簿には、俺と結花の名前しか書かれていない。

 それを見た俺は、どうも煮えきらない事実に違和感を感じた。

 そこで結花に少し悪いと思ったが、こう言った。

「でも……」

「うん?」

「二人だけだと、なんか寂しい気がするな」

「……」

 奴が少しうつむいた。

 実質、自分だけじゃ物足りないと言われたようなものだから、そりゃ落ち込むだろう。

 ちと言い過ぎたと俺は反省した。 

「……私は寂しくないよ」

「ん」

「だって、昇がいるから」

 顔を上げた結花は、俺の目を見てハッキリとそう言い切った。

 そしてそのまま席を立ち、目の前にきて俺の両手をそっと掴んだ。

「ど、どうした」

「どう、昇」

「?」

「分かる?」

 奴の落ち着いた目が、俺の瞳をしっかりと見ている。

 おもわず逸らしたくなったが、奴の問いにとりあえず答えることにした。

「……そうだな。お前の手、あったかいな」

「そう、あったかいでしょ」

「ああ」

「だから私は、二人で充分。昇がいるだけで充分」

「……そうか」

 ちょっと俺を買い被りすぎていないかと思いながらも、結花にそういわれて顔が熱くなった。

 なぜだろう。

 そう思っているうちに、朝の会を終える鐘の音が聞こえた。

「……じゃあ、朝の会は終わり。一時間目の体育の時間をやりに体育館へ行こう」

 そう言った結花は、両手で掴んでいた俺の手を軽く引き寄せ、体育館へ連れていこうとする。

 俺は何も言わずに、その手に掴まれたまま教室を出ていくことにした。

 結花は一体何者なのか、ここは一体何処なのか。

 それを知るために、しばらく奴の言うとおりに授業を受けて行くことを決めた。

 結花のまっすぐな思いに少し変な違和感を覚えながら。



「昇、行くよ

「おう、ナイストス!」

 そして体育館へとやってきた俺達は、結花の希望でバレーボールで遊んでいた。

奴は、経験者ではないといっていたが、なかなか手慣れた手つきでパスをうまく返してきた。

 早速俺は、結花に質問していくことにする。

「なあ」

「何?」

「スポーツ、好きなのか?」

「ん、まあそこそこね」

「部活とかやっていたのか」

「別に」

「じゃあ小さい頃になんかやってたりしたのか?」

「……どうしたの? いきなり」

 そう言った結花がトスをやめて、落ちてきたボールを胸に押しつけるように抱き抱えた。不審そうな目で俺を見てくる。

「なんつーか、まだ意識がハッキリしてないんだ。だから、身近な人の話を思い出したいと思ってな」

「……うん」

「だからまず、目の前にいて信用できるお前の話を聞こうと思ったんだ」

「……お前じゃないでしょ。結、花」

 奴は機嫌を損ねたようで、横を向いて顔を逸らした。

 しょうがないやつだと思い、俺は真面目な顔にして、誠心誠意込めてこう言った。

「俺は、結花のことが知りたいんだ」

「……ホントに?」

「ああ、頼む」 

「じゃあ……一つお願い聞いてくれる?」

 結花が上目遣いでのぞき込むように言ってくる。

「……分かった」

「うん、それじゃあ……」

 そう言った奴はあっという間に明るい顔になった。

 そこまでしてやってもらいたいことは何なのだろうかと、俺は疑問に思いながらも、お願いを実行することにした。



「……実はダンクシュートしてみたかったんだよね」

「小学生用のゴールでやれば……」

「今、ここでやりたいの!」

 肩車している俺の上で結花に駄々をこねられた。

 はしゃいでいる結花の姿も悪くないなと思ったが、なりげに奴は重く動かれるだけで結構腰にきた。

 正直キツかった。

「……さ、ゴールの前まで行って」

「痛ててて、足で首を絞めるな」

「今、私のこと重いって思ったでしょ」

 鋭い奴だ。

「思ってないよ」

「……ホント?」

「ホントホント」

「……まあ、そう言うことにしておいてあげる」

 俺の上で奴は、体勢を整えボールを構え直す。

 制服姿のままなので、首に掛かるスカートの生地がやたらと擦れて、くすぐったかった。

 そして、ゴールの前に着き


「はい、ダンク!」

「……これでいいのか?」

「うん」

 そういった奴は、ゴールを通って跳ねるボールを拾うため、軽快に俺の肩から降りた。

 そしてボールを捕まえ、俺に背を向ける。

「じゃ、私のことを教えてあげる」

「……ああ」

 とうとう、教えてくれるのか。

 待っていたと言わんばかりに、俺は身構えた。

「私の名前は梶田結花。性別は女性。好きな食べ物はリンゴで嫌いな食べ物はキムチ。座右の銘は有言実行で、スリーサイズは上から順に」

「まてまてまて、言わなくていい。分かったから」

「え、言わなくても分かるの?」

「そう言う意味じゃない」

 思わず俺はすぐに言い返した。

 結花がくすくすと笑う様を見て、一杯食わされたと思った。

「じゃあ、こんなものでいい?」

 振り向いた奴は、どこか落ち着いた表情になっていた。

 それを見た俺は、、一つだけ聞きたいことを思い出し聞いてみることにした。

「俺から一つ質問、ここはどこだ」

「日本の神奈川県川崎市にある澄川高校だよ」

「ホントか?」

「うん」

「じゃあ、何で高校なのに俺ら以外誰もいないんだ?」

「……まだ気にしているの? それはここはそう言う場所だからだよ」

 そう言われて俺は、聞き飽きた言葉に思わず苛立ってしまった。


「そう言う場所って何だよ! もっと具体的に教えてくれよ!!」

 結花はまた俺に背を向け、何も言わずにボールを倉庫に戻しに行く。

 その後ろ姿を俺は追いかけた。そして結花の前に行って、頼んだ。

「頼むから教えてくれ」

「……」

 口を閉じたあいつに向かって、頭を下げてさらに頼み込んだ

「頼む!」

「……しょうがないな……」。

 俺の頭上で結花がそう呟やいた。やった、と俺は思わず喜んだ。


「……ッ」

 だが、突然頭に痛みが走った。何か堅いもので叩かれたみたいに痛い。

 上を見て、何が起こったのか確認しようとした。

「……ッッ」

 再び同じところに衝撃を受け、俺は激しい痛みの中力が抜け、その場にひざまづいた。


「ごめん……あと少しなんだ……」

 そんな中、そう言った結花の声がかすかに聞こえた。



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