ボール
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「これから朝の会を始めます。起立、おはようございます」
「おはようございます」
「着席……こんな感じでいいのか?」
「うん、大丈夫だよ」
花壇で日直の仕事を終えた俺は、結花にお願いされて朝の会を始めた。
そんな中俺はうすうす感じていたことをつぶやいた。
「……俺達以外に誰もいないが大丈夫か?」
「うん、そういうもんだし。続きやって」
結花はなにくわぬ顔でそう答えた。黒板の上に掛かっている時計をみると、針はに八時半を指してていた。
だが教室にも誰一人現れず、この学校、いやこの町全体に人がいないように感じる。
結花がそれについて何も話さないのが気になったが、とりあえず朝の会を進めることにした。
「出席を取ります。梶田結花」
「はい!」
「寺井昇……はい」
「以上二人出席です……え? このクラスって俺とお前しかいないんだっけ?」
「うん、そうだけど」
「……本当にここは学校なのか?」
「うん、ここはそういう場所だよ」
当然だというような顔で奴は答えた。
確かに手元にある出席簿には、俺と結花の名前しか書かれていない。
それを見た俺は、どうも煮えきらない事実に違和感を感じた。
そこで結花に少し悪いと思ったが、こう言った。
「でも……」
「うん?」
「二人だけだと、なんか寂しい気がするな」
「……」
奴が少しうつむいた。
実質、自分だけじゃ物足りないと言われたようなものだから、そりゃ落ち込むだろう。
ちと言い過ぎたと俺は反省した。
「……私は寂しくないよ」
「ん」
「だって、昇がいるから」
顔を上げた結花は、俺の目を見てハッキリとそう言い切った。
そしてそのまま席を立ち、目の前にきて俺の両手をそっと掴んだ。
「ど、どうした」
「どう、昇」
「?」
「分かる?」
奴の落ち着いた目が、俺の瞳をしっかりと見ている。
おもわず逸らしたくなったが、奴の問いにとりあえず答えることにした。
「……そうだな。お前の手、あったかいな」
「そう、あったかいでしょ」
「ああ」
「だから私は、二人で充分。昇がいるだけで充分」
「……そうか」
ちょっと俺を買い被りすぎていないかと思いながらも、結花にそういわれて顔が熱くなった。
なぜだろう。
そう思っているうちに、朝の会を終える鐘の音が聞こえた。
「……じゃあ、朝の会は終わり。一時間目の体育の時間をやりに体育館へ行こう」
そう言った結花は、両手で掴んでいた俺の手を軽く引き寄せ、体育館へ連れていこうとする。
俺は何も言わずに、その手に掴まれたまま教室を出ていくことにした。
結花は一体何者なのか、ここは一体何処なのか。
それを知るために、しばらく奴の言うとおりに授業を受けて行くことを決めた。
結花のまっすぐな思いに少し変な違和感を覚えながら。
「昇、行くよ
「おう、ナイストス!」
そして体育館へとやってきた俺達は、結花の希望でバレーボールで遊んでいた。
奴は、経験者ではないといっていたが、なかなか手慣れた手つきでパスをうまく返してきた。
早速俺は、結花に質問していくことにする。
「なあ」
「何?」
「スポーツ、好きなのか?」
「ん、まあそこそこね」
「部活とかやっていたのか」
「別に」
「じゃあ小さい頃になんかやってたりしたのか?」
「……どうしたの? いきなり」
そう言った結花がトスをやめて、落ちてきたボールを胸に押しつけるように抱き抱えた。不審そうな目で俺を見てくる。
「なんつーか、まだ意識がハッキリしてないんだ。だから、身近な人の話を思い出したいと思ってな」
「……うん」
「だからまず、目の前にいて信用できるお前の話を聞こうと思ったんだ」
「……お前じゃないでしょ。結、花」
奴は機嫌を損ねたようで、横を向いて顔を逸らした。
しょうがないやつだと思い、俺は真面目な顔にして、誠心誠意込めてこう言った。
「俺は、結花のことが知りたいんだ」
「……ホントに?」
「ああ、頼む」
「じゃあ……一つお願い聞いてくれる?」
結花が上目遣いでのぞき込むように言ってくる。
「……分かった」
「うん、それじゃあ……」
そう言った奴はあっという間に明るい顔になった。
そこまでしてやってもらいたいことは何なのだろうかと、俺は疑問に思いながらも、お願いを実行することにした。
「……実はダンクシュートしてみたかったんだよね」
「小学生用のゴールでやれば……」
「今、ここでやりたいの!」
肩車している俺の上で結花に駄々をこねられた。
はしゃいでいる結花の姿も悪くないなと思ったが、なりげに奴は重く動かれるだけで結構腰にきた。
正直キツかった。
「……さ、ゴールの前まで行って」
「痛ててて、足で首を絞めるな」
「今、私のこと重いって思ったでしょ」
鋭い奴だ。
「思ってないよ」
「……ホント?」
「ホントホント」
「……まあ、そう言うことにしておいてあげる」
俺の上で奴は、体勢を整えボールを構え直す。
制服姿のままなので、首に掛かるスカートの生地がやたらと擦れて、くすぐったかった。
そして、ゴールの前に着き
「はい、ダンク!」
「……これでいいのか?」
「うん」
そういった奴は、ゴールを通って跳ねるボールを拾うため、軽快に俺の肩から降りた。
そしてボールを捕まえ、俺に背を向ける。
「じゃ、私のことを教えてあげる」
「……ああ」
とうとう、教えてくれるのか。
待っていたと言わんばかりに、俺は身構えた。
「私の名前は梶田結花。性別は女性。好きな食べ物はリンゴで嫌いな食べ物はキムチ。座右の銘は有言実行で、スリーサイズは上から順に」
「まてまてまて、言わなくていい。分かったから」
「え、言わなくても分かるの?」
「そう言う意味じゃない」
思わず俺はすぐに言い返した。
結花がくすくすと笑う様を見て、一杯食わされたと思った。
「じゃあ、こんなものでいい?」
振り向いた奴は、どこか落ち着いた表情になっていた。
それを見た俺は、、一つだけ聞きたいことを思い出し聞いてみることにした。
「俺から一つ質問、ここはどこだ」
「日本の神奈川県川崎市にある澄川高校だよ」
「ホントか?」
「うん」
「じゃあ、何で高校なのに俺ら以外誰もいないんだ?」
「……まだ気にしているの? それはここはそう言う場所だからだよ」
そう言われて俺は、聞き飽きた言葉に思わず苛立ってしまった。
「そう言う場所って何だよ! もっと具体的に教えてくれよ!!」
結花はまた俺に背を向け、何も言わずにボールを倉庫に戻しに行く。
その後ろ姿を俺は追いかけた。そして結花の前に行って、頼んだ。
「頼むから教えてくれ」
「……」
口を閉じたあいつに向かって、頭を下げてさらに頼み込んだ
「頼む!」
「……しょうがないな……」。
俺の頭上で結花がそう呟やいた。やった、と俺は思わず喜んだ。
「……ッ」
だが、突然頭に痛みが走った。何か堅いもので叩かれたみたいに痛い。
上を見て、何が起こったのか確認しようとした。
「……ッッ」
再び同じところに衝撃を受け、俺は激しい痛みの中力が抜け、その場にひざまづいた。
「ごめん……あと少しなんだ……」
そんな中、そう言った結花の声がかすかに聞こえた。




